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10.1904年 日露戦争

 両国の関係において正式に宣戦布告が為され日露戦争は始まった。各国の政府は露西亜が勝つだろうと判断し、せいぜいある程度は日本が善戦するだろうとしか思われず、茶や酒の席でのちょっとした談話にしかならなかった。


 そんな中でも契約に奔走したアラン伯爵とレヴィア伯が多額の出資をしたことでエドワード7世は日本が勝つ可能性を感じていた。

 もし勝つことがあれば極東の雄として認め、露西亜の極東進出を抑える存在となりえる。皇族を呼び話し合いの席を設けるのも良いだろうと、エドワード7世は考えていた。

 例え王族同士が友好的であったとしても、国家運営者として大英帝国と露西亜帝国はもはや相容れなくなっていた。個人として遠縁であり親戚であり友人だとしても、執政者としてはもはや敵国なのだから。


「やはり、止められぬ」


 宣戦布告に対し大英帝国の議会は外交で止めるのは不可能だと判断し、武力衝突を避け軍を派遣する予定はない。そして今回の議会の決定に関して、国王として差戻による再考を求めるのは適切ではない事も理解している。


「レヴィア伯には、言えぬか」


 化け物であるレヴィア伯なら止められるだろう。しかし先代女王ヴィクトリアは、レヴィア伯は化け物であり積極的に関わるモノではないと伝え警告した。


『レヴィア伯は魔剣ティルヴィング。 3度はどのような願いも叶えるけれど、それはきっと英国に害をもたらす。 決して心から頼ってはならない』


 その発言さえも、静かにHITAKAMIが策を弄した事。超小型機を送りこみ、寝所で眠っている所を夢に干渉、何度も女王の両親などを映し出しては心を許さず重用せず距離を取る様に進言、そしてそれは成功し首相や子にも必要以上の接触や利用は避けるよう伝えていた。

 エドワード7世も一貫して敵に回らぬよう貴族として領地を許可し保障はすれど、植民地紛争や小さな軍事的衝突にレヴィア伯を利用しようとはしなかった。

 余りにも重用すれば危険、しかし手元から離せば必ず害となる。だからこそ 魔剣ティルヴィング と言った言葉を理解していた。




 ロンドン港近郊

 屋敷の二階にある仮初の執務室で情報を整理しつつ、貴族に出される議題の書類を確認していた。


「戦況は日本が優勢であると言うことは英国も確認済みと」


 観戦武官から伝わってくる情報は各貴族に書面として回されている。打ち上げた偵察衛星と探査機によって得られている情報と合わせても間違いない。


「独逸から次の輸入について問い合わせが来ております。 こちらの書面に詳細が記載しておりますのでご確認を」


 各地から傭兵として雇った女性5人のうち1人は補佐官として訓練中、眠っている最中に施した睡眠学習はあくまで言語で伝えられる情報のみ、しかし会話に関しては4か国語までマスターし、2カ国の風習や風土なども覚えていた。偶然とはいえ言語や風習などに適性が高く、教育担当者がかなり驚いているほどであった。


「この書面を議会に送りなさい」


 次の議会への議題を書面に纏め他の作業に戻る。

 出資している企業からの配当、依頼されている品物の出荷、船のチャーター依頼への返信、普段から纏められているとはいえ数は多い。

 当初から監視を兼ねて一人役人が派遣されてきていたが、業務過多であったことから少しずつ人数が増えてはいた。しかし正式に給料を増やし追加で人を雇う事で遅延なく作業を行えるまでになったが、その分アラン伯爵や王室から監視が多く送りこまれている。もちろん当然の事であるので職務さえすれば何ら問題はない、断れば何かを企んでいるのではないかと疑われてしまうことにも繋がる。


「少し出資量を増やさなくてはならないか」


 あくまで貴族の行っている商業活動として動かしている金額は少ないが、収支割合に置いて圧倒的に支出が少なく、収入が多岐にわたるために累積して多くなり消費できているとは言えない。残高を見ても余り宜しいとはいえないものの、第一次大戦が始まれば1億ポンド程度軽く飛ぶために多く余っているともいえないが。


「いくつか出資に向いた企業をこちらに」


 元より監視をしていると言っても国家や貴族に仕える以上優秀な人員、国益を兼ねた企業などが記載された書面が用意されていた。


「ご苦労」


 工廠に関わる企業が多く、大英帝国としても非常事態に備え始めたと考えられる。もちろん貴族として必要であるならば出資や投資をするものであると以前に話し、いくつか工廠に貴族として寄贈する額、そして軍への寄贈額を明記し屋敷にある金庫から出金するよう命ずる。

 続いて自ら立ち上げざるえなかった企業の収支報告に目を通す。


 農畜産物研究企業 エザフォス

 様々な天然肥料を製造販売し、農業指導を有料で行っている。当初は出資を受け入れた農家と牧場にのみ指導をしていたのだが、農作物の収穫量や品質の良さから出資を受け入れた人達に対して、当初拒否した農家などがしつこく育て方を聞いたり肥料の販売を迫る事から企業を立ち上げ保護と対応をしている。


「内部留保向け利益の2割を研究開発費に追加で回すように。 短期的成果よりもしっかりと長期的目標に向けた研究費に予算が使われているか確認を行うよう通達を。 あとは任せます」


 用件が片付き、身だしなみを整えたのち面会の約束をしていたゴア家の屋敷へと赴く。

 ゴア家の御夫人との茶会、女性同士の繋がりと言うのは侮れない。男では知りえる事の出来ない情報網があり、そこから秘密裏に人を動かす事も出来る。いつの時代も女性を軽んじて地獄を見るのは男、夫の手綱を握るのも妻の手腕だが妻の暴走をさせぬ程度に接するのも夫の力である。


「それではお約束通りお渡し願います」


「確かに。 当方もお約束の品を」


 夫人同士の繋がりの中でレヴィア伯に関わる噂話を集めてもらっていた。どんな些細な事や下らない事でも構わず、それに伴う苦労の対価として手に入りにくいと言われている缶詰一式を約束通り大量に贈呈した。

 旅行に赴くときや夫や息子の軍事行動中に缶詰のケーキ類は好評で供給が追い付いていない。英国の企業に配慮し意図して多くは供給せずに、まだまだ味と保存期間は追いついていないが少しずつ菓子類の缶詰類も増え始めている。

 何よりも提供した缶詰を解析した複数の企業が発展させ多くの保存用缶詰の質は向上、その缶詰に入れる菓子類はイギリス料理人ではなく雇われたフランス人パティシエ作なのは察しではあったが。


「伯の出資している農家達、中々面白いことを始めているようですね」


 夫人は口元を隠しながらレヴィア伯の表情を窺う。レヴィア伯は農家に多額の出資をし、そして出資をする以上口出しは多くしている。

 農家の人達が体を壊しては問題だとして、栄養バランスを考えた美味い野菜料理を多数考案した者には報酬を出すとし、二か月に一度各農村などから腕に自信がある者が集まり競い合っている。上位の料理は家庭料理という範疇においてレシピを公開し、積極的に料理を広めるように勧めていた。

 もちろん貴族や上流階級のモノ達が食べるフランス系料理に比べては随分と見た目などは貧相ではあるが、近隣諸国から食事の味が良くないと言われるような代物ではなくなっていた。その真意を探るつもりであった。


「過去も、今も、そして先も、我々が食べる物である以上、良い料理は良い食材によって健康で健やかな農民が作ることこそ相応しいでしょう。 食べ物に困り不健康な者が作っていては、貴族として恥ずかしい限り」


 貴族としてはかなり変わり者であると夫人はレヴィア伯を評価していたがその事を伝えるなどはしない。

 女性であっても貴族家当主であり、利害関係であって友人ではない上に失礼であり、何よりもホワイトブロンド以外はイングランド人と非常に酷似しているものの近年英国に帰属した新興貴族であるからだ。考え方や行動が異なるのも仕方ない事。

 そしてこの場は女性同士の茶会であり貴族家当主としてレヴィア伯は訪れていない、最初のやり取りについても貴族の女性としての評判を知りたいレヴィア伯に、行動する以上の対価をきっちりと約束した上で行った行為なのだから。




 定期貴族会議

 日露戦争の情報は随時上がり、議題として戦況詳報が揚げられていた。


「それでは、長くはもたぬと?」

「我々は同盟として動けばよい。 どちらに傾いても利になる」

「それよりも植民地監督府から進言がある。 そちらの議題を優先すべきこと」


 変わらぬ会議では状況と共に予算配分や植民地運営に議題を傾ける。観戦武官から送られてくる情報は戦局と共に、外交官からさらなる戦時国債を日本が発行したなどもはやそれぞれの分野担当が動く事、重要議題として扱われず、個々の貴族が購入するかどうかの範疇であった。

 事実日本が優れていると言う訳ではなく、露西亜陸軍及び海軍の戦略・戦術的失敗の繰り返しによる。もちろん当時の日本が持っていた死を恐れぬ突撃戦法や最新戦術を学んだ日本側が運よく効果的に運用出来ていると言うのも影響している。

 何よりもその判断要員の一つとして日本の戦費は重くのしかかり、外部からどう見積もっても大幅に赤字であり追加の戦時国債として約4200万ポンドを発行、このまま戦況が推移すれば戦中で合計8200から9000万ポンドに達すると予測されている。

 比較的優勢に戦況は推移している事から国債の買い手は多く、のちにイギリスからも多くの貴族が購入、そしてアメリカからも国債の買い手が付いていた。




 レヴィア伯領地 HITAKAMI

 戦争になれば何かしら干渉あると予測し、HITAKAMIは各地の探査機の情報を集約した結果ははっきりしたものだった。

 各国の首相や皇帝には影響は見られず、静かに議員や貴族にそれとなく誘導するような者達が見つかった。それも議決で過半数に達するような数ではなく、少数でそれとなく誘導する流れにしつつも、一部が止めるような発言をして逆に煽ることで促すなど世界各国に根付いているのが分かる。

 ただしその世界各国とは列強や歴史に大きく影響を与えた事件に関わる国家ばかりであり、根は広くちょっとした変化など柔軟に受け止め歴史を“地球と近似したモノ”に進められるようにされていた。


《これはやっかい。 しかし甘い》


 歴史に存在しないレヴィア伯として大英帝国と関係を持っているが干渉はない。つまり大英帝国が無くとも酷似した歴史に動かせると自負し、そして些細な差異として放置されている。

 しかし些細な事象こそ気にしなければ、戦場では何が起きるかわからない、今現在相手は油断している。


《さて、私なら一人ずつ片付けるが、ドレッドならどうするか》


 これがもし、HITAKAMIの友人であるアレギウス帝国戦艦ドレッドノートの基幹システムならば、愚かだと吐き捨て躊躇なく排除に移る事だろうと考えていた。帝国は苛烈にして清廉、その主義に基づき裏切りや暗躍する敵を容赦する事はない。

 とはいえそれに近い行動をとるならば、サポート脳やAIの判断にもかけ何が最適か思慮する。


【誰かがやったと意図して分かる様に行う暗殺、意味がないようで標的に対してお前達を見ている・知っているという意思表示を示し、明確な敵意と宣戦布告をドレッドノートの基幹システムは好んで行った。】

【どのような手段を講じてでも叩き潰すという単純明確な敵意と宣戦布告、相手は降伏か死だけが提示され戦艦ドレッドノートは自らの艦長と共に勝利し続けた。】

【同種は不可能。 我らに現勢力の後ろ盾はない】

【暗殺のみ賛同】

【柔なし。 情報収集が必要成り】

【複数、疑いと不和を撒く必要を思慮】


《ドレッドのやり方にも従い堂々と敵対者がやったと分かるように暗殺していく。 ただしレヴィア伯との繋がりは明確に隠し、同胞内に疑いをかける、か》


 自らならばする方策は単純に決まるが、所詮他者であるため同じ考えは不可能とはいえ、視点を変える努力ということは役に立つ。

 方針に従い、互いを疑うように暗殺の準備を進める。

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