#6
「そういえば、君。学校で見ない顔だよね」
「最近、転校してきたばかりなんです」
「そっかぁ! 僕は、2年生の明明星 メオ。苗字長くて嫌いだから、メオって呼んでいいよ」
「花ノ宮 ハルです。よろしくお願いします」
彼の怒りを買わないためにも、深々とお辞儀をする。流石に、一個人の名前を知っているとは思えないので、躊躇うことなく名前を伝えた。
しかし、予想外の事が起きた。いや、フラグを回収した。
「花ノ宮? もしかして、僕ん家にした借金返してる人?」
「なっ」
目をまん丸にして、私を指さすメオさん。
何故それを……と口に出しそうになったが、なんとか耐えた。墓穴を掘るところだったかもしれない。いや、もう墓穴を掘るとかではない、彼には何もかもバレバレなのだ。
メオさんにぐっと距離を詰められ、彼との間は1歩分しかなくなった。目と目が合い、彼の光のない目が私の腹底まで覗いているようで、目を逸らしたくなる。
フレンドリーに話しかけてくるメオさんだが、何処か深い闇を感じざるを得ない声。私は、警戒心を一層強くした。
「僕はイケメンだから記憶力が良いんだ。債務者の名簿なんて、1回読んだだけで覚えちゃってさ」
「(イケメンは関係ない……。)」
「10年前、ハルのママとパパは”どうしようもない妹”の借金を肩代わりして、僕の父親と契約したんだ。覚えてない?ハルもその場に居たはずだけど」
「い、いえ」
随分前の話だからか、それとも何も分からずその場に居たからなのか、記憶にはない。
しかし、何故彼は私が居たことを知っているんだろうか。私としては、彼の苗字は知っていたが、顔や名前は知らなかったのだ。
「昔から父親の仕事現場に居させられていたんだ。可哀想な大人しかいない事務所で暇してたら、ある日小さい女の子を連れた夫婦が来た」
「……。」
「キラキラした目の善人家族が来て、みんな驚いてたよ。父親も警告をしたさ、やめた方がいいって。でも、ハルのパパとママは契約した。可哀想に」
そう言うと、彼は1歩分あった距離を更に詰めて私を抱きしめた。忘れかけていた人の温かみに、反応が出来ない。
「でも、契約したからにはちゃんと返してね。逃げたら、蟹工船で強制労働だから。それとも、さっきのお馬鹿達みたいに、犯した映像を売られたい?」
「絶対に返済します!失礼します!」
耳元で物騒な事を言われ、硬直していた体をなんとか動かして彼を振り払い、その場から逃走した。
恐ろしい人と関わってしまったな。彼とあまり会わないようにしよう。