結構毛だらけ、猫米粒だらけ
この世は野良で生きる者に手厳しい。
猫にしろ、犬にしろ。様々な事情があったとしても、同情の念で手を差し伸べることは美徳としない。
一時の無責任な愛着で可愛がることは誰でもできる。しかし一生向き合う覚悟を持って餌付けをする人間がどれ程いるのだろうか。
一度もでも「可哀想だから」と餌を与えれば、やがて野良は自分で狩りをしなくなる。公共の場に住み着き、新鮮な水やら餌やらを与える者を待つようになる。
猫にしろ、犬にしろ──人間にしろ、だ。
「それ、食べたら帰ってくれますか」
育ちが良いとはいえない、粗雑におむすびを貪る黒猫がりんと視線を向けた。
指先にくっついた米粒を赤舌で舐めとり「うまいっす」とちぐはぐな受け答えをしてみせた。
「そうですか。それは良かった。食べ終わったら食器を洗って、」
「おかわり」
「ありません。さぁ帰り、」
「もっと食いたいんですけど」
「いい加減にしなさい。私は君が家の前で泥酔していたから助けただけです。初対面の見知らぬ同士です。変に懐かないでいただけますか」
土の汚れが頬についたままの青年へ凍てついた声音を吹雪かせた。しかし痛くも痒くもないといった振る舞いで「それは感謝しかないっす」とだらしなく頭を掻いた。
“氷結の武藤”と大学院生たちがくだらないあだ名をつけた私の目を、逸らすことなく臆する様子も窺えない。
にゃーにゃーと餌をねだる野良猫のような、図太い神経の持ち主のようだ。
「第一たかがおむすびでしょう。それも出来合いで作った」
「“おむすびが、どうしておいしいのだか、知っていますか。あれはね、人間の指で握りしめて作るからですよ”」
ごろごろと甘えた鳴き声が美しい一節を読み上げる。
「だから先生のおむすび、うまかったっす」
「……先生?」
「武藤先生っすよね。俺、生徒の加藤です」
その顔は覚えてないっすね。猫の目がすっと細められた。
「また食いに来ます」
どうやらとんでもない野良猫に好かれたようだ。