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第3話


「ただいま」


 俺は自分の家の扉をゆっくりと開け、中を覗き込む。

 入り口付近にいた村人は、俺の姿を確認してから、今までミアを見ていた医者を呼び出した。

 医者と村人は俺を見て、目線で物事を伝えてくれた。


『どうだ?』

『一度も動かない』

『他に特徴は?』

『あり。会えば分かる』

『傷は……』

『命に関わるものではない。後も残らない。だが、精神的な負担はある』

『分かった。感謝する』


 彼らは、一度だけ頷き、そっと出て行った。


「……ミア」


 俺が部屋の中に足音を立てずに入り、名前を呼ぶと、彼女が顔をのろのろとあげる。

 彼女の銀色の髪は傷んでいた。顔をあげると、さらりと髪が揺れるが、そこに前のような美しさは感じない。

 それよりも、もっと衝撃的だったのが、金色の瞳だった。

 優しさを詰め込んだ金色の瞳だった。

 それが、何もない。感情が何も見えない。優しさどころか生命力だって感じない。

 俺が彼女の名を呼ぶと、ふわっと口角が上がった筈なのに、上がることはない。微笑みを浮かべることがない。


 そっと、彼女に手を伸ばす。

 頭に手を伸ばし、身体に手を回す。

 彼女を抱きしめても、彼女は何も反応しない。ただ、暖かいから、生きているということだけは分かる。


「ミア、ミア。ごめんな、気付いてやれなくてごめん。もっと早く、もっと、はやく」

「……申し訳、ございません」

「ミア?」

「申し訳、ございません」


 ミアの口からは、「申し訳ございません」しか紡がれない。

 前は屈託のない、幸せそうな笑みを浮かべて、他愛のない話をしてくれる明るい子だったのに、変わり果ててしまった彼女の姿に、涙が溢れる。

 王都で何があったのか俺には分からない。

 それでも、こんなに壊れてしまう程、辛いことがあったのは確かだった。

 彼女の安全のため、俺は村を出て行ったのに、全く安全じゃなかった。全く守れていなかった。

 自身が不甲斐ないし、今まで呑気に過ごしていたことを申し訳なく思ってしまう。


「謝らないでくれ。頼むから、謝らずに、笑ってくれ」

「申し訳、ございません」 

「ごめん、ごめんな。本当にごめん。ミアを守るって言ったのに、約束を守れなくてごめんな」


 ぎゅっと抱きしめて、その細さにもっと涙が出る。

 どれだけ苦しんだんだろう。

 どれだけ助けを求められたのだろう。

 それなのに、俺は助けにいけなかった。

 助けることが出来なかった。


「ごめん、ごめん」


 謝っても何にもならない。

 でも、謝らなくても何にもならない。


「俺を許さなくてもいい。だから、だから、もう、苦しまないで」


 何で俺は、無理にでも助けに行かなかった。

 何のための恐怖で、何のための異名なのか。全く使いこなせていない。

 ああ、壊したい。あいつらを、全てを壊して壊して壊して壊して、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。


「ごめんな、ゆっくりしよう。もう、辛いことなんてない。だから、謝らないで」


 ここには、あの王子も王妃も、国王もいない。夢なんて見なくてもいい。夢なんていらないと思う人が多いから、だから、ゆっくりしてほしい。


「しばらく、のんびりしような、ミア」


 夢を見なくても、怒る人なんていないから、せめて心を落ち着かせて過ごしてほしい。

 それだけが、俺の願いだった。


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