4.美しい騎士
少々トラブルには巻き込まれたが、そのお陰でエマに近付く者はおらず、悠々自適に食事をとる事が出来た。
田舎出身で接点を持ってもメリットがない事、王の御厚意で開かれた宴でトラブルを起こしたに事より、話し掛けるメリットなし!とレッテルが張られたのだ。
(ふむ、やはりこのパンに挟まれたシャキシャキレタスはカールソンの作物だな、こっちの今にもはち切れそうなトマトもそうだ・・・それから・・・・っう、ちょっと食べすぎたかな)
食材を吟味する事に夢中になり腹の調子を崩してしまったようだ。仕方がないのでお手洗いの場所を訪ねようとするが、令嬢たちはエマを警戒しているため距離を取られ視線も合わせてもらえない。
(なんで?なんで誰とも目が合わない)
そうとは知らず話し掛けられそうな人間を探すが、令嬢以外となると騎士に頼る事となる。しかし、いくら男社会で生きて来たとはいえ、社交の場で男性に手洗い場を聞く事はさすがに避けたかった。
(あ!!女性だ!!)
助けを求めて辺りを見渡していると、会場の端に騎士の鎧を身に纏ったこれまた驚く程美人の女騎士がいた。
(この人しかいない!!)
尿を我慢している事を周囲に気付かれない様に女騎士に近付き、そして思わず息を吞んだ。距離を縮めるとさらに輝きを増すその美しさに圧倒されたのだ。白い肌、長いまつ毛、淡い水色の髪を横で縛り肩に垂らしている。背は少々高いが、王妃様と並んで歩いても引けを取らない程の美貌を持っていた。
「あの、すみません。お手洗いの場所を教えて頂けませんか?」
周りを気にしながら小声で声を掛けたところ、急な質問に少し驚いた顔をされたが、直ぐに優しく微笑みを返してくれた。
「あちらの白いアーチを通り抜けてから、左へと曲がった場所に御座います」
「・・・!!??・・・は、はひ・・・・っごほん・・・はい、ありがとうございます」
いつも冷静沈着なエマには珍しく、声が上擦る程焦り、そして徐々に全身が羞恥の熱を帯び始めた。
(・・・・・女騎士・・・じゃない・・・・男だった!!)
そう、女だと思い話し掛けた麗しの騎士は、男だったのだ。