2.貴族というものは
民達から『英雄』と称えられるリアム王だが、一部の貴族からは『残虐王』と呼ばれ恐れられていた。
そう呼ばれるのは、前国王派の人間に対する冷酷な裁きが要因の一つといえる。
前国王は生前、数人存在した妻以外にも多数の美女を侍らせ、耳障りの良い言葉を並べる従者を傍に置き、自身の都合の良いように動く貴族達を懇意にしていた。
王から可愛がられ、贅沢三昧の日々を送っていたその者達を、リアム王は一人残らず皆殺しにしたのだ。
そして、前国王が身勝手に築いた貴族との関係を白紙に戻した若き王は、己の理想とする国造りを始めようとしていた。
やはり国王の住まう宮殿は、庶民感覚の強いエマの想像を遥かに超えていた。
城門を通され馬車で10分ほど進んだ先には、見上げる事すら困難な巨大な棟がそびえ立ち、さらに同等な大きさの棟が中心の棟を囲む様に建っている。
厳重な警備の中、通された宮殿は、城塞を彷彿とさせる重々しい外観とは異なり、煌びやかで華々しい印象だった。
扉や天井、柱の一本に至るまで細やかな装飾が施され、その絢爛な室内に見劣りしない一級の調度品が上品に飾られている。
中々お目に掛かれない品々に目を奪われながら案内されるまま宮殿を通り抜けると、そこには色鮮やかな花々が咲き誇る庭園があった。
庭園には一定の間隔を空けて丸テーブルがいくつか配置されており、そのテーブルの上には芸術品の様に美しく飾られた飲み物や軽食が用意されていた。
会場内には各領地から招待された令嬢達が戸惑った表情を浮かべ、所在なげに佇んでいる。
(100人位かな?いや、しかし領地を持つ貴族の数にしては少ないような)
やる事もないのでに人間観察に徹していると、庭園の奥の方が騒めき始めた。
「あの方が国王様よ、なんて麗しい・・・」
「まぁ、本当にお若い、とっても素敵な方だわ」
「後ろの方は王妃様かしら?」
色めき立つ方向に視線を移すと、そこには太陽の様に輝く金髪の美丈夫と、絹の様に艶やかな白髪を靡かせた、とんでもない美人の姿が見えた。
「皆、よく集まってくれた。私はこの国の新たなる王、リアム・ローゼンタールだ。彼女は私の妻、オリビア・ローゼンタールだ」
まさに王に相応しい堂々とした立ち居振る舞い、そして神々しい程の気高さに令嬢達が甘い息を漏らす。夫であるリアム王に紹介されたオリビア妃は美しい礼を皆に向け、さらに令嬢の頬を熱くする。
「我らがジェルタ王国は、長く続いた愚王の悪政を正し、貧困で苦しむ民を救い出してきた。私はこの国に暮らす全ての民が豊かで安定した日々を送る事を願い、我が命を懸けて必ず実現させていく。民を思う領主のご息女には領地と新たなるこの国王との懸け橋となり、我が夢の実現のために尽力してくれる事を期待している。さて、今日はご足労頂いたご令嬢達へささやかだが歓迎の場を設けた。ゆっくりと堪能してくれ」
リアム王は短い挨拶を終えると、オリビア妃を引き連れ庭園を後にした。
残された令嬢達は周りの様子を伺いながらも恐る恐る飲み物や食べ物に手を付けていった。
「まぁ、ルツアーナからいらっしゃいましたの?私、貴方の町のドレスが大好きですのよ、素晴らしい技術をお持ちですね」
「いえいえ、クラウディンなんて大都市に比べたら、我が家の領地などまだまだ・・・」
徐々に雰囲気に慣れてき令嬢達は、情報収集のための談笑を始めた。楽しそうに見えるが腹の探り合いだ。どこの領地を治めているのか、その領地の知名度は高いのか、王族や貴族が足を運ぶ程の魅力はあるのか、それが彼女達のステータスであり武器だ。それを知る事で立ち位置を確かめ、誰と付き合い誰を蔑ろに出来るかが決まる。
「あら、貴方はどちらの領地からいらしたのですか?」
領地を出てから粗末な食事しか口にしておらず、用意された素晴らしい料理に舌鼓を打っていた時に声が掛けられた。
「我が家はカールソン領を治めております」
「カールソン・・・・・」
先程まで賑やかだった場が静まり、令嬢達が一様に口を開いたまま固まる。
(なんだ?)
その光景を不思議に思いながら令嬢の回答を待つ。
「っぷ、、、くくく、、、あの片田舎のカールソンですか・・・それは道中大変でしたでしょう?」
「通りで不相応な服装をしていると思いましたわ、あなた本当に国王様から招待されましたの?」
そう、ここはステータスが重視される女の園。
エマにとっては不利な戦場だった。