#06:【元ギルドマスター】エヴァン、今更嘆く後悔
「エヴァンさん?勤務中に気を緩めてはいけませんよ?」
「はっ、はい!申し訳御座いませんでした!!」
私はエヴァン、エヴァン=カスタード、元は父アスラ=カスタード伯爵の娘で父の跡を継いでギルドマスターになった・・・のだが
「なぁ、あの人どっかで見た事ねぇか?」
「あれっ、お前しらねぇの?元ギルマスだよ、此処より数キロ離れた所にある【革命】ってギルドの」
「あぁ~。前任のギルマスがまたギルドマスターとして戻って来たってのは聞いたけど・・・まじで?」
私が元ギルド職員のセヴンをクビにしてしまった所為で彼との繋がりがある太いパイプ(※要は名を轟かせるほどの有名人)を怒らせてしまった。
しかもその人脈の中で父が入って居るとは露知らず。
そして今は屋敷は追い出される代わりにメイド長のリリアンさんに厳しい指導の元、一睡も許されないブラック並の仕事を夜が明けるまでにやらされた。
それも一週間の間。
そして今は―――
「銀貨23枚になります~」
「う~い、銀貨23枚っと・・・んじゃあなーまた尻触らせてくれよ~若けぇねーちゃん」
「ご来店有り難うございました~」
未だに給料が少ないが客からのセクハラを耐えながらの酒場にて仕事を始めている。
酒場は酒場でもリリアンさんの古いツテで紹介して貰い今もなお男のセクハラに耐えながら働いている。
酒場の食器類やコップの類などを壊してしまえば罰金及び給料から天引きor無一文でクビ、そして客からの文句も言われれば結局クビ。
どちらにせよ危ない一本綱渡りである。
「ほれほれ~良いケツしてんじゃねぇか」
「おっ、お客様お止めくださいっ」
酒場のマスターのデイスさんはリリアンさん同様厳しい為か、客からのセクハラには一切助けてはくれない。寧ろ私自身がボロボロになるまで扱き使っている。
そしてやっとの事で客が居なくなり―――
「アタシは帰るけど―――店、汚したらわかるね?」
「はっ、はい!急いで片づけますっ!!!」
デイスさんに一泊お願いしようとしたら代わりに知り合いに体を差し出す事を条件に突き付けられた事があり断念した事がある。
なので毎回薄い壁しかない小汚い宿に寝泊まりしている。
たったの銀貨10枚とこれでも安いと思う程のボロ宿で誰も利用する人は居ない。
「・・・(あぁ~もう隣からギシギシと煩いっ!ここをどこだと思ってんのよっ!!)」
自分が利用しているボロ宿は壁が薄い所為で隣で泊まっている男女のカップルが安眠を妨げている事がある。
壁が脆い為強く叩けないし壁壊したら賠償金請求されるから毎度目尻に隈が出る。
翌朝、いつもの酒場にて―――
「―――え?領主様が?」
「えぇ、そーよー。まぁ縁切りされた挙句爵位を所持していないアンタは知らんけどアンタの親父さんより2つ上の公爵よ~」
公爵ともなれば王族が唯一信頼している貴族界のトップ。そんな人が何故この酒場に・・?
すると酒場の扉の鈴が扉を開くと同時に優しく鳴りだし
「いらっしゃい。うちは基本的に夜営業なんだけどねぇ~」
「やぁ、遊びに来たヨ~弟と弟の従者と一緒にね~」
「ディーン様、公務中ですので朝からの飲酒はお控えください」
「んだよケチだな~」
見た感じ私より2つか3つ上の好青年の様な容姿でいかにも強そうなオーラを放っている。
そしてもう一人はその領主の付き人だろうか、銀髪でイケメンでどんな女性でも恋に落ちそうな顔立ちやガタイの良い体をしている。
「お水どうぞ」
「ありがとね~」
「申し訳無いデイス殿。軽い食事を済ませたらさっさと職務に戻らせますので」
「アンタも随分とガーディ様に苦労してるのねぇ~ルーク君。いっその事、ガーディ様の所は辞めてウチで客引きしてかない?」
ガーディ様と呼ばれているその人はデイスさんに笑いながら諫める。
ルークと呼ばれたその男性も苦笑いする。
するとまた扉が開き―――意外な客が訪れた。
「兄さん、ルークさんが困ってるじゃないか・・・俺が御飯作りに行くってのにいきなり外食するなんて・・・あれ?ギルマス、何故こちらに」
「んな・・・なななんでセヴンがここに・・・!?」
何と後から入って来たのは―――私がギルドから追い出した元職員のセヴン=シンズだった。
それから程なくして―――
「~~~~っはっはっはっ。そんなことがあったのか!俺の知らん間に!!」
「兄さん・・・、笑い事じゃ無いって」
セヴンがそう呆れながら言う。
年回りは2つか3つだけ離れているらしく元冒険者として世間から色んな活躍の場を聞いて居る。
無論国王から【若き勇者の再来】なんて言われているらしい。
「あー、面白かった。そうだ!おいルーク!ここは俺がツケ払いしとくからお前この子、持ち帰れよ」
※この作品以外にも2作品(曜日毎に)投稿しています。良ければぜひご愛読くださいませ。
・「オメガ~追放者の絶対支配~」
・「シヴァ~精霊達に愛された精霊魔導皇~」