#59:元野盗達の嗜み①
「リーダー!仕事終わったんならご飯にしよー!」
「オッケー!全員集合!」
私はとある身嗜みの良いご貴族にメイドとして働かせて貰った。
前職は踊り子だったがちょっとした理由で今は御主人様達に仕えるメイドになった。
「しっかしまぁ・・・商業国の件でまた不在かぁ」
「ご主人様は継ぎ接ぎをした違法魔物・・・キメラを倒したって事で国ごとに重い腰を上げたらしいわよ」
実は昨日からご主人様達に依頼があり、長期出張をする事になったそう。
私達は特に不満を言う訳も無く、御主人様からは増設された部屋を使わせてくれたお陰で荷物も増えて生活が次々と整った。
「なぁ、リーダー」
「どうしたの?フレア」
考え事をしていたフレアが真っ先に私に声を掛けた。
彼女は元々別の国から来た料理人で偶然私の住んで居た海上公共国にて不景気が祟り、私の様に野盗生活をしていた。
「その継ぎ接ぎの魔物ってあたしの故郷だとよく目撃されてたらしいんだよ」
「あら、そうなの?」
フレアがそう話すと他の二人も食い付く。
「そう言えばフレアはミシッドガル卿渓国出身なのよね?」
「そーそー、今じゃ既に住んでる人も居ないただの渓谷なんだよね~」
フレアはそうアクラに言う。
アクラは元から私と同じ海上公共国出身で昔はイケメンの旦那さんが居たんだけど・・・例のあの魔物の襲撃の所為で豊かな幸せもご主人も無くして私と同じ野盗になった。
彼女はお色気満載だからコロッと騙される男性は数知れず。
「そー言えば、あの大国どうしてるかなぁ~・・・」
そう言うのは獣人族の特徴である獣耳を持つボルカ。
彼女は獣人大国出身で昔の違法魔獣指定のキメラ討伐に貢献した国でもある。
「そう言えば・・・あの国は噂程度だけどかなり通行規制が厳しくなったって言うのを聞いたわ」
「そーなの?アクラ姉さん」
私を含むこの四人で仕事を失った事で野盗をやらざるを得ない事になった。
だけど・・・セヴン様やシアン様が居たからこそ私達はお二人に貢献すると誓った仲でもある。
「じっちゃんに会いたいなぁ~」
「今の貴方を耳にしたら殴り込みに来るんじゃないかしら?」
「いやいや、じっちゃんはこー見えてあたしには甘えん坊だから逆にめんどくさいんだよ~」
ボルカはそう言って胸ポケットにしまっていたご老人との写真が写っていた。
写真やカメラと言われるものは初めて帝国で導入され、行商人に無償で数万台程提供された貴重な魔導具の一種。
今ではマニアとやらが国内で一人か二人いる程度になる。
「んっ・・・誰か来たのかしら?ホラ、三人共」
ドアのノックの音を聞いた私はその場で休んでいる三人を起し、私は玄関に向かった。
「どちら様でしょうか―――あっ、アラン様」
「やっ、調子はどうだい?帝国産の義足は」
今まで私は共国産の義足で生活していたけど・・・一度ご主人様が元メンバー達をご自宅に招き入れた際に私がメンテナンスをしていた所で声を掛けて貰っていた。
そして今は帝国産の義足に替えている。
「そう言えばアラン様は他の方々と調査の筈ではございませんか?」
「おう、もう既に終わってな。丁度アイツへの報告を兼ねて来たんだけど・・・アイツはまだか」
私は頷く。
私はエルフの里でとれる紅茶を淹れてアラン様に出した。
ついでにフレアは紅茶に合う茶菓子を提供した。
「おっ?俺の故郷の――――」
「えぇ、エーテル紅茶の茶葉を行商から買い取ったので淹れてみました。味はどうですか?」
ゆっくりと味わうアラン様に私はそう聞くと――――
「あぁ、懐かしい味だ。良く再現出来たね?この茶葉は紅茶にするまでの行程が難しいて言われているのに」
「実は踊り子をやっている時に元同業のエルフの子に教わったんです」
その使途が居れる紅茶の味は紛れもないエルフどくどくの引き立つ味だった。
私は今に至るまであの時の彼女の淹れる紅茶の味が未だに再現出来ていない。
「・・・・成程ね、因みにその女性の名前は?」
「リディーナ・ベルンガルさんです」
「リディーナッ?!」
私がその女性の名前を出すと、アラン様はいきなり立ち上がる。
「・・・・あー、すまない」
アラン様はそう言って再び座り直す。
私以外の三人も気になったらしく、聴いてみる事にした。
「リディーナ・ベルンガルは・・・実は俺の元恋人なんだ」
「元・・・?」
衝撃的な事実を聞いた私は興味を持った。
「彼女は・・・言わば里長の娘でな、俺と恋人になっていた時期があったんだ」
「過去形と言う事は・・・」
アラン様は頷く。
「エルフは代々色濃ゆい血統を望んでいるんだ。里長様はそんな俺と彼女を無理矢理別れさせ、強欲な男と無理矢理結婚させる様に仕向けたんだ」
リディーナさんはその事に気付き、エルフの象徴とされる一族のペンタントを引き千切ってその場で捨てて里から出て行ったらしい。
その事を聞いたアラン様はエルフの里を半壊にまで滅ぼしかけたと言う。
「結局、里長の謝罪を受けてその男との結婚も白紙になった・・・だが彼女は決して戻ってこなかったんだ」
「そうなんですか」
アラン様はそう言って暖かいエーテル紅茶を飲み干して見つめる。
他二作品もございます。
良ければぜひご愛読くださいませ。
・「オメガ~追放者の絶対支配~」
・「シヴァ~精霊達に愛された精霊魔導皇~」




