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最強の竜騎士団長は、すべてが妹♡至上主義!  作者: 黒いたち
第二章 臣下とは王のために存在する
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交渉ゲーム

「どういうことか、説明しろ!」

「――そのまえに」


 ブラットリーはしゃがみこむ。

 黒い触手でぐるぐる巻きになったギルバートに、いつもどおりの笑顔で告げる。


「呼ばれると困るから、預かっておくね」 


 冷たい指がギルバートの右耳に触れる。

 ギルバートは勢いよく顔をそむけ、すぐに通信術具(つうしんじゅつぐ)に魔力を流す。

 

「――!?」


 声を出すより早く、触手(しょくしゅ)に首を絞められる。

 頸動脈(けいどうみゃく)を圧迫され、ハクハクと口がうごく。


 ブラットリーが通信術具を取るのがわかったが、なにもできない。

 彼は見せつけるように、ギルバートの目の前でピアスを揺らす。

 ぼやける視界に、白金(プラチナ)のチェーンが煌めいた。


「ギルくん、引っかかりすぎ。魔力を流したら触手が活発になるって、すこし考えればわかるでしょ?」


 視界が白く、音が遠い。

 ふざけるなと怒鳴りたかったが、酸欠で意識が落ちた。



 



 見覚えのない石の天井(てんじょう)に、ギルバートはいぶかしげにまたたく。


「ギルくん、おはよー。七分十六秒、気をうしなっていたよ」


 のぞきこんでくるブラットリーに、ギルバートはハッと息をのんだ。


 起き上がろうとして、ガシャンと腕がひっぱられる。

 のけぞるように確認すると、白い手枷(てかせ)をされていた。

 手首に(はま)る輪は(くさり)でつながれ、頭上で拘束されている。

 ひっぱってみるが、みみざわりな金属音がするだけで、外れそうにない。

 足首にも金属の感触がして、ためしに上げてみるが、すぐに鎖に動きを制限される。

 手首に力を込めて魔力濃度を高めるが、ヒビのひとつも入らない。それでこれが白銀であることがわかった。

 

 白銀は魔力を相殺(そうさい)する。

 ためしにかんたんな術式を構築(こうちく)するが、発動するまえに分解(ぶんかい)した。


 白銀よりも魔力伝導率(まりょくでんどうりつ)の高い媒体(ばいたい)があれば、発動までこぎつけられるが――たとえば、魔術剣(まじゅつけん)のような。


 ギルバートは石壁にかかったままの魔術剣を見やる。

 刃は折れているが、(つか)は無傷にみえる。

 あれがあれば脱出できる。だが、どうやって――?


 これといった案がおもいつかず、脱力して息をはく。

 木の寝台は固くて(ほこり)っぽい。お世辞にも快適とは言えなかった。


無駄(むだ)なあがきは終わった?」


 のぞきこんでくるブラットリーの顔が腹立たしい。


「……悪趣味が過ぎる。何が目的だ」


 ギルバートはおもいきりブラットリーをにらむ。

 彼は目をほそめ、ギルバートに手をのばす。

 

「――人体実験」


 するりと(ほほ)をなでられる。

 首を振ってはらうと、ブラットリーが笑って、ギルバートの右耳を強くひっぱった。


「――ッ!」 

「ギルくんが遅いから、素材(・・)の質がわるくなっちゃった。責任とって、協力してね」

「ことわる!」


 ブラットリーは両手でギルバートの顔をはさみ、ゆっくりと顔をちかづける。

 

「いつ見ても希少宝石(パライバ・トルマリン)のような魅力的な瞳だねぇ」

「離せ! ――俺を解放しろ!」

「おびえなくても、えぐらないよぉ」


 ひとのはなしを聞かないブラットリーは、パッと手を離してにやりと笑う。

 上機嫌に鼻歌を奏でながら、床に鎮座する大掛かりな装置にちかづいた。

 装置はひとの腰ほどの高さ、ひとかかえ以上あるおおきな台形をしている。

 しゃがみこむブラットリーの影が、表面の金属に映る。

 赤枠の操作盤(そうさばん)にはさまざまなスイッチがならび、ブラットリーは演奏するように五指でたたいていく。


 ギルバートはおおきく息をつく。

 ――おちつけ。考えろ。情報をあつめ、活路を見出(みいだ)せ。

 

「……人体実験とは、何をするつもりだ」


 注意深くブラットリーを観察しながら、ギルバートは質問する。

 ブラットリーは装置から目と手を離さずに口をひらく。


魔人(まじん)生成(せいせい)。――石壁の彼は志願者だ」

「――は!?」

「なんかギルくんに勝ちたいから、魔人になりたいんだって」

「そうではない。魔人の生成とは何だ!」

「ちょっとまってね~。……これでよしっと」


 中央のパネルに「0」と表示され、ブラットリーが立ちあがる。

 操作盤の左からコードを引きだし、プラグを指でぬぐうと、ギルバートの方へとあるいてきた。

 ずるずると伸びるコードは、ほそいヘビのように床をのたうつ。


「動物実験のつぎは、人体実験。研究の基本だよ?」

「……誰の依頼だ」

「あ、そこ気づいちゃう? やっぱりギルくんは油断ならないなぁ」

「国の上層部か、親善国――大穴狙いで帝国だ」


 ブラットリーは楽しげに笑い、ギルバートの横で立ち止まる。 


「守秘義務をやぶると、お金もらえなくなっちゃうんだよね」

「知ったところで誰にも言わないと約束する」

「言わないけど、書面にまとめて提出するんでしょ? そしたらぼく、研究できなくなるから、いくらギルくんのおねだりでも聞いてあげられないなぁ」

「――では、取引だ」


 ブラットリーはぴくりと反応する。


「へぇ? どんな?」

「――(かね)だ。実験を廃止(はいし)し、契約書を開示(かいじ)しろ。そこに記載(きさい)されている金額――契約不履行による違約金(いやくきん)と、成功報酬の倍額をおまえにやろう」

「魅力的なおさそいだけど、それはできないなぁ」

「なぜだ。研究費のためなら、患者まで売るくせに」

「研究費は二の次、ぼくの目的は研究だ。――魔人を生成するような」

「では情報を開示した量に応じて、俺の魔力を提供しよう」


 ブラットリーは小首をかしげた。


「どうしてそこまでするの? ――自分より優秀な魔人があらわれるのがこわい?」


 ブラットリーは、聞いておいてつまらなそうな顔をする。

 手にもったコードを揺らし、ギルバートに懐疑的なまなざしを向ける。

 ギルバートはその視線をまっすぐに受けとめ、きっぱりと告げる。


「そんなもの、アンジェリカのために決まっているだろう」




 ギルバートは語る。


 魔人という人間兵器が量産されれば、紛争は悪化、本格的な戦争にでもなれば、ギルバートは激戦区に送られ、終結するまで帰れない――つまりアンジェリカと過ごす時間が激減(げきげん)してしまう。


 そのうえ戦火が王都におよばないともかぎらず、万が一にもアンジェリカを危険にさらすわけにはいかない。

 そうでなくても清らかな心を持つアンジェリカのこと、最前線で戦うギルバートの身を案じるのはもちろん、戦いで傷ついた他人のために心を痛めて、ふさぎ込んでしまうかもしれない。


「だからさっさと実験を廃止し、俺を解放しろ。せっかくの休日、アンジェリカとのディナーにまにあわなかったらどうする!」

「それでこそ、ギルくんだね!」

「めちゃくちゃ楽しそうじゃねーか! 遊びじゃねぇんだぞこっちは!」

「じゃあ、こういうのは?」


 ブラットリーは目をかがやかせる。


「この装置の数値が100になるまでのあいだ、ギルくんの交渉につきあってあげる。だからがんばって、ぼくが快諾(かいだく)するような条件を提示してね」


 それを一蹴しかけ、ギルバートは思い出す。


 交渉(こうしょう)は持ちかける方が有利――勝つのはルールを作った方だ。それは先週、嫌というほど思い知った。エリオットとの遊び(・・)での黒星――単なる負けのままにしておくのは性に合わない。


「――いいだろう。ただし」


 ギルバートはもったいぶって言葉を切る。

 ブラットリーがふしぎそうに見てくるのを、不敵な笑みで(むか)()つ。


「俺の質問には嘘偽(うそいつわ)りなく答えると約束しろ」

「だから、守秘義務をやぶるわけにはいかないんだってばぁ」

「そこはおまえの答え方しだいだ。――拒否(きょひ)するならイブリースを召喚し、いますぐすべてを破壊する」


 ブラットリーはわらう。

 

「召喚? ――白銀の(かせ)をつけたまま?」

「やってみればわかる」

「そうだけど、触手(しょくしゅ)の魔術陣のことも忘れていない? 目視(もくし)できるほど魔力が噴き出すんだから、召喚前に窒息死(ちっそくし)だよ」

「知らないのか? 召喚は魔術のくくりではない。見せてやろう――」


 はったりを口にして、ギルバートは目を伏せる。

 召喚の原理など知らないし、触手の魔術陣が反応しない保証はない。

 しかし噴きだすほどの魔力なら、白銀(はくぎん)が相殺する速度を上回(うわまわ)るはず。

 イブリースが来ればもうけもの、たとえ触手が発動しても死ぬまえにブラットリーが止めるだろう――いまだ実験は始まってすらなく、せっかくの上質な素材(・・)をムダにするわけがないのだから。


 ギルバートから黒い(もや)がたつ。

 さらに魔力を練ろうとしたところで、トンッと腹に手をおかれた。


「――わかった。嘘は言わない」

「……最初の質問だ。あの男は誰だ」

「ちょっとギルくん、なんで召喚やめないの?」

「おまえが答えるの先か、イブリースが来るのが先か――」

「強情なんだから! ――あれは第二騎士団のダグ・ストーン。転移室でギルくんにひどいめに遭わされたらしいよ」

「……なるほど」


 ギルバートはようやく魔力を止める。 

 ひとまず『こちらの質問にブラットリーが答える』という()()みに成功した。

 あとは情報を集めて、最適な交渉を持ちかける。

 直球で聞いたところで(かわ)されるのがオチ、ならばブラットリーが話したくなるような質問をして、彼の口の滑りをよくするほうが得策か。


「――実験の概要(がいよう)を説明しろ」

「装置を始動させてからね」


 ギルバートは胸中で舌打ちする。

 こちらのペースに乗らない相手だとはわかっていたが、魔力をとられる激痛のなか、頭を働かせなくてはならないとは。


 ブラットリーはギルバートの左手をおさえ、コードのプラグをちかづける。

 プラグが緑色のなぞの物質に変化し、ギルバートの左手にからみつく。直後カチカチに固くなり、ギルバートの左手とコードがつながった。

 その感触は執務室で魔力を抜かれたときと同じで――つぎに来る痛みを思い出し、ギルバートの体が勝手に固くなる。


「じゃ、痛いけど、がんばってね」


 ブラットリーはパチンと指を鳴らす。

 鎮座するおおがかりな装置が、ブィンと(うな)って始動した。

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