表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の竜騎士団長は、すべてが妹♡至上主義!  作者: 黒いたち
第一章 兄とは妹を守るために存在する
2/33

俺と妹を引き離そうとは、万死に値する!

 晴天にめぐまれた朝は、希望に満ちていた。


 色づいた満開の並木道は、舞い散る花びらを、ふわりふわりと優しく風にのせていく。

 ぬけるような青空の下、真新しい制服の群れが、錫色(すずいろ)の門をめざして歩く。


 そのなかに、同じ制服を着た少女と、背の高い礼装の青年がいた。


 見送りだろうか。

 整った顔立ちの二人に、生徒からはチラチラと視線が送られる。


 石畳(いしだたみ)のわずかな段差に、青年が手を差しのべる。

 少女が白い手を重ねる光景は、まるで一枚の絵画のようだ。 


 姫と騎士のような情景に、周囲から感嘆のため息がもれる。


 門に着いた少女が、足を止めた。

 宝石のような碧眼(へきがん)で、青年を仰ぎ見る。


「お兄様、ここまでで結構です。ありがとうございました」


 期待を裏切らない澄み切った声は、耳に心地良い。

 兄と呼ばれた青年――ギルバートは、騎士団の人間が二度見するような、やわらかい表情を浮かべた。


「会場まで送ろう、アンジェリカ。式典を後方で見学しているから、なにかあればすぐに来るんだ。いいね?」


 アンジェリカが、小首をかしげる。

 入学する国立魔術学院は、生徒の自立心を(はぐく)一環(いっかん)として、保護者の立ち入りは原則許可されていない。

 入学式も、保護者は出席できないと聞いて、父がヤケ酒をあおっていたのは、先月のことだ。

 めずらしく兄がディナーに間に合った日だから、知らないはずはない、と思うが。


 アンジェリカの疑問を体現するかのように、守衛(しゅえい)が近づいてきた。


 年の頃は五十ほど。

 厚みのある体格の男だ。


 彼は、これまでにさまざまな人間を見てきた。

 その経験から、自分は守衛のプロだという自負があった。


 人好きのする笑顔をうかべ、おだやかに口をひらく。

 

「保護者の方ですか?」


 まずは一声かけ、相手の出方をうかがう。

 あとは、頭に入った膨大(ぼうだい)な対人データから、最適なものを選びとるだけだ。

 長年、無数の苦情に対応しながら、会得(えとく)した技だ。

 

 青年は、二十の始めといったところ。

 恐るべき相手ではない、と慢心した彼の眼前に、一枚の上質な紙がつきつけられた。


 でかでかと押された朱印は、一目で高貴な印影だとわかる。

 朱印の文字を読んだ守衛は、視線が流れるように定まらず、何度も何度も確認する。


「先月、ぐうぜんにも玉璽(ぎょくじ)のある通行手形を下賜(かし)された。これがあれば、国内で入れない場所は無い」


 追い打ちのような青年のセリフに、守衛の顔が、青を通り越して白になる。

 彼の矜持(きょうじ)が音を立てて砕け、やけくそのように頭を下げて、声を張り上げた。


「失礼いたしました! どうぞ、お通りください!!」 


 守衛は緊張がピークに達し、耳鳴りがした。

 まるで、遠くから怒声が追いかけてくるようだ。

 周囲が大きくざわめいて、やっとそれが現実の音だと気付く。


 じょじょに近づいてくる複数の野太い声は、口々におなじ単語を()えるように叫んでいる。


「上だ!」


 誰かが空をゆびさす。

 つられて、空を見あげた。


 巨大(きょだい)な影が、次々と通過した。

 学び舎ギリギリの高さで旋回(せんかい)する姿に大きな歓声があがり、講堂からも、やじうまが身を乗りだす。


 その数、三騎。


 鳥よりもはるかに大きい、天駆ける(りゅう)の上から叫ばれる言葉が、人名だと理解できる距離までせまった瞬間であった。


 吹きすさぶ風から守るように、ギルバートがアンジェリカの盾になる。

 猛禽類(もうきんるい)のようなするどい目つきで、頭上をにらんだ。


「俺と妹を引き離そうとは、万死に(あたい)する!」


 流れるように抜刀(ばっとう)する青年を見て、守衛は思った。


 なにこの危険人物。

 玉璽手形なんか、ぜったい持たせちゃいけない人種でしょ。

 国王様は、(おど)されでもしたの?




 ちなみに、大正解である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ