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最強の竜騎士団長は、すべてが妹♡至上主義!  作者: 黒いたち
第二章 臣下とは王のために存在する
19/33

猫も食わない

「……しかし」

「行きなさい。……は、私が……」

「……ろしくおねがいしま……」


 人の話し声に、ギルバートの意識が浮上する。

 カーテンの開閉音、人が動く気配、消毒薬の匂い――。

 眉間(みけん)に力をいれて、まぶたを持ちあげる。


「気付かれましたか」


 ギルバートをのぞきこみ、安堵の息を吐くのはゼノだ。

 聞こえていた声が彼と結びつかず、あれは夢だったのかとぼんやり考える。


 気を抜くとまた眠りそうになり、ギルバートはまばたきを繰りかえす。

 視界が明瞭(めいりょう)になるにつれ、頭がはっきりとしてきた。

 カーテンで仕切られたベッドに寝ており、医務室(いむしつ)かと身を起こす。


「――ッ!」


 右腕(みぎうで)に激痛がはしり、しばらく耐えるあいだに、ひきつるような違和感に変わる。

 目のまえにかかげた腕には、縫合(ほうごう)されたおおきな傷があった。


「だいじょうぶですか?」


 適当に返事をし、自身の格好をみおろす。

 戦闘でボロボロになったはずだが、着ているのは清潔な騎士服だ。

 (うで)の傷を(おもんばか)ってか、半そでの夏服だったが、紺色のそれはサイズがおおきいような気がした。

 胸元から包帯が見えており、処置後に着替えさせられたのかとぼんやり思う。

 

「薬です。飲めますか?」


 ゼノが、水がはいったグラスとともに、ちいさな銀のトレイをさしだす。

 上にのった錠剤(じょうざい)の量に、ギルバートはゆるく眉をよせた。


「……多い」


 だした声が、ひどくかすれている。

 ゼノは記憶をたどるように天井を見やって、ギルバートに視線をもどす。


鎮痛剤(ちんつうざい)抗生物質(こうせいぶっしつ)()気止(けど)め、造血剤(ぞうけつざい)に栄養剤です」


 ギルバートは、右手をのばしかけて痛みに動きを止め、左手でうけとりなおす。

 億劫(おっくう)に感じながら錠剤を口に入れ、水で流しこんだ。


「エリオット副団長は、ベルを竜舎(りゅうしゃ)に戻しにいきました」


 ベルとは、エリオットの竜の名だ。

 ギルバートは首をかしげる。

 聞こえていたのは、たしかにエリオットの声だった。

 夢でないなら、もうひとりの聞き覚えがある声の持ち主は――。


「おきたのか、ギルバート」

「……父上」


 カーテンをひらいて現れたのは、ブレイデン公爵家当主、ディビット・ブレイデンだった。




宰相(さいしょう)が知らせてくれた。定期総会で登城していたのが幸いだったな」

「そうですか。わざわざご足労(そくろう)いただき、ありがとうございました。お帰りはあちらです」


 ギルバートの慇懃無礼(いんぎんぶれい)な態度に、ゼノは固まる。

 国内三大公爵家の筆頭(ひっとう)、ブレイデン公爵家の親子仲が悪いとか知りたくな――いや、俺はなにもきいていない。

 おもわずカーテンのすみにこっそり寄って、気配を消してたたずむ。

 エリオットに頼まれていなかったら、秒で逃げだしているところだ。


 ゼノが医務室をおとずれたのは、さきほどのこと。

 魔力切れの症状もおさまり、レスターとともに帰還すると、中庭で丸まっているベルを見つけた。

 寒さに弱い竜のこと、外気温が下がるなかに放置してはおけないと手綱(たづな)を引くが、彼女はてこでも動かなかった。

 仲良しのこむぎで先導を試みるが、(ひたい)をくっつけ合うあいさつはするものの、それだけだった。

 レスターの指示で、エリオットを呼びに来たが――席を外すあいだ、ブレイデン(きょう)を頼むと(たく)されてしまった。

 荷が重い!! と叫ばなかった自分を褒めてやりたい。


 レスターは、本調子でないゼノにかわって、ゼノの竜(こむぎ)の世話を引き受けてくれた。

 だからあと半刻ほどは、彼の援護(えんご)は望めない。

 敵が多いギルバートのこと、誰かが付き添う必要性は理解している。

 ギルバート団長を見守るかんたんなおしごとだろ、とレスターに茶化されてやってきたが、まさかこんな状況にほうりこまれるとは、だれが予測できただろうか。


 そんなゼノの心情とは裏腹(うらはら)に、ディビットは悠然(ゆうぜん)とギルバートを見据(みす)えて、ゆったりと口をひらく。


「聞きたいことがある。この腕輪(うでわ)に見覚えは?」


 ディビットが、金の腕輪をかかげる。

 鎮座する大粒の希少宝石(パライバ・トルマリン)が、照明を反射して(あお)くまたたいた。


「それは……人に貸したものですが、なぜ父上が」

「うちの庭師見習いだと名乗る子供が持っていた。赤髪の少年で、名前はアルデ。彼の身元に間違いはないか?」

「急に転移室に現れたのなら、相違ありません」

「ふむ。転移術士からの話と一致するな。ではうちに連れ帰り、ロベルトに聞いてみるとしよう」


 ディビットはサイドテーブルに腕輪を置いた。


「馬車で来ている。おまえも乗っていきなさい」

「けっこうです。母上によろしくお伝えください」


 固辞したうえに、さっさと出ていけと言わんばかりのギルバートにも、ディビットはどこ吹く風だ。


「クリスティーナに伝えることは、もうひとつありそうだ」


 やわらかく微笑むディビットの瞳が、スッと細まった。


「ギルバート。――なぜ右耳にピアスをしている」

「通信術具です」

「そういうことではない」

「質問の意図が不明瞭です」


 (うと)ましそうなギルバートに、ディビットは直球に問う。


「おまえは同性愛者なのかと聞いている」

「…………は?」


 ぽかんとしたギルバートが、たっぷりと間をあけて、一文字だけを口にする。

 言葉をなくし、ディビットの真意を探るように、彼の顔をつぶさに観察する。

 たいした収穫も無く、ギルバートの首が横にかたむいたところで、ディビットがつづけた。


「右耳にひとつだけピアスをつけるのは、同性愛者であることを公言(こうげん)するという意味だ」


 ギルバートは、皆が右耳右耳とうるさかったわけを、ようやく理解する。

 無意識にピアスにふれて目を伏せ、しばらくしてから目線を上げる。

 そして、おおきくうなずいた。


「左耳にも開けます」

「なぜそうなる!?」

「過去には戻れません。てきとうに穴を増やすほうが現実的です」


 こんどはディビットが言葉をうしなう番だった。

 首を左右に振って、それでも否定を口にしないのは、他の策が思いつかないからか、ギルバートの頑固さを知りつくしているからか。


「話は終わりましたね。これ以上のご心配は不要です。どうぞお帰りください」


 追い打ちのようにギルバートが告げるが、ディビットはすでに落ち着きをとりもどしていた。

 切り替えの早さは、さすが公爵家当主といったところか。


「エリオットが戻るまで、おまえを見ていると約束した」

「もう目覚めました。付き添いでしたら、彼がいます」


 いきなり振られ、ゼノは変な声が出そうになるのをなんとかこらえる。


――やめて団長。俺をまきこまないで。


 こめかみに汗がつたうのを感じながら、完全に気配を消せなかった(おのれ)の未熟さを恨む。

 ディビットが、ゆったりと首をかしげた。


「君は?」

「はっ……はじめまして。竜騎士団二年目の、ゼノ・クサナギと申します」

「そうか。息子がいつも世話になっているね」

「いえ、こちらこそ……」


 話してみると、ディビットはおだやかな人柄に思える。

 礼儀(れいぎ)(うと)い自覚があるゼノが、ひそかにホッとしたところで、するどい声音が割りいってきた。


僭越(せんえつ)ながら申しあげます。公爵家のご当主がいらっしゃると、周囲はよけいな気を(つか)うはめになります。早々にご退室ください」

「ははは、私に気をつかう必要はないよ、ゼノくん」

「は、はあ……」


 いたたまれない空気のなか、ゼノはなんとか返事をする。

 冷や汗を流しながら、動くこともできずに考える。

――団長のお父さんは、本気でわかっていない? それともわざと? 後者ならこわすぎるんだけど、いったい何が目的で――。


「しかし、エリオットも立派(りっぱ)になったものだ」


 あごを触りながら、ディビットがうなずく。

 ゼノは直立したまま、耳だけをかたむける。


「ローガン侯爵家(こうしゃくけ)の次男か。――彼なら、アンジェリカの婿(むこ)にふさわしいかもしれんな」

「――は?」


 すさまじいほどの怒りが、その一文字にこめられている。

 無関係のゼノが、おもわず背筋をふるわせるほどだ。


「ギルバートの補佐(ほさ)としても優秀――ならば、ブレイデン公爵家も安泰(あんたい)だ」


 周囲を(かえり)みることもなく、ディビットがひとり(えつ)(はい)る。

 おそるおそるギルバートを見たゼノは、瞬時に後悔した。

 彼の顔が、おそろしすぎる。

 目も口も憤怒(ふんぬ)にゆがみ、瞳孔(どうこう)がひらききっている。


「――すべてまるく収まるな。どうだ、ギルバート。エリオットを、アンジェリカの婚約者(フィアンセ)に――」

「――ふざけるな!!」


 ギルバートはこぶしをサイドテーブルにたたきつける。

 シンと静まる空間で、はねた腕輪(うでわ)だけが、みみざわりな音を立てた。


「なぜ貴様が勝手に決める? 何の権限(けんげん)があってのことだ」

「……おまえの口のききかたは、前当主にそっくりだ」

御爺様(おじいさま)はすばらしい方だった。アンジェリカのしあわせはアンジェリカが決める。――貴様とは大違いだな」

「親だぞ、私は」

「ああ、そうだ。アンジェリカより先に死ぬことが確定している存在だ」


 ディビットが苦笑する。

 ベッドの上で半身を起こしているギルバートを――その服からのぞく包帯を目で辿(たど)り、あまりの多さに首を振る。


「おまえはそうではないと、言い切れるのか」

「アンジェリカがしあわせに天寿(てんじゅ)をまっとうするまで、俺は死なん」

「根拠のない自信は、ただの(おご)りだ」

「稀代の魔人を知らないとみえる。イブリースに宣言すれば延命ぐらい――」


 パンッ、と乾いた音が響いた。


「――やめなさい、ギルバート。それだけは」


 ゼノから見てもわかるほど、ディビットの手がふるえている。 

 頬をたたかれたギルバートが、ベッドをとびおりディビットの胸倉をつかんだ。


「貴様の指図は受けん! えらそうに口出しをするな!」

「――自分の命をなんだと思っている。私はおまえの親でもあるんだ」

「それがなんだ! 俺のすべては、アンジェリカのためにある!」  


 おろおろとふたりを見比(みくら)べるゼノの耳に、ブチリと引きちぎれるような音が届く。

 ギルバートの利き腕がみるみる赤く染まり、縫合した傷が裂けたことを知る。


「団長! ベッドにお戻りください!」


 ようやく我に返ったゼノが、ギルバートを押さえにかかる。

 彼をなんとかディビットからひきはがすが、ギルバートの興奮はおさまらない。

 血だらけの腕で、ディビットにつかみかかろうともがく。


「アンジェリカは俺が守る! この命に代えても!!」


 そのとき、いきおいよくカーテンがひきあけられた。


「――なにをしているのですか!?」


 はげしい一喝に、皆の意識が向かう。

 エリオットがすぐさまギルバートとの距離をつめた。  

 

「また傷が……! おとなしくなさい!」


 有無を言わさずギルバートの体を持ちあげて、ベッドに押さえつける。

 あばれるギルバートの足が、エリオットの腹を蹴りつけた。


「エリオット! 貴様、いい気になるなよ!」

「なにがあったんですか?」


 エリオットは、ギルバートを取り押さえながら、ディビットに問う。


「君の話だ、エリオット」


 不可解な顔をするエリオットに、ディビットが苦笑顔を向ける。


「アンジェリカの、婿候補(むここうほ)に――」

「ふざけるな! ぜったいに許さん!!」


 ギルバートのわめく声を聞きながら、エリオットは特大のため息をついた。


「ギルバート団長」


 憎悪をあらわにした碧眼(へきがん)が、返事のようにエリオットをにらむ。


「俺がその話をお受けすることはありません」

「――貴様! アンジェリカのなにが不満だ、言ってみろ! 殺してやる!!」


 その瞬間、エリオットがものすごくめんどくさそうな顔をしたのを、全員が目撃した。


「……俺の独断で決めることではありません。貴方の決定に従うと約束します。それでこの話は終わりです」

 

「ただいまー。ギルくん、いいこにしてたー?」


 のんきな声とともに、ブラットリーがあらわれた。

 黒い医療カバン片手に、ベッドを見やり首をかしげる。


「ギルくんを手籠(てご)めにしてるの?」


 質問されたゼノは、即座(そくざ)に首を横に振って否定(ひてい)する。


「――終わるはずねぇだろ! あいつがアンジェリカの敵であることは明白だ! 排除しないかぎり、なんどでもアンジェリカを利用する!」


 ギルバートが声をあらげ、身をよじってディビットをにらみつける。

 きょとんとしたブラットリーが、ディビットをみとめて破顔(はがん)した。


「ギルくんのパパだ。また()めてるの?」 

「ブラットリー副所長。これはお見苦しいところを」


 ディビットの挨拶(あいさつ)に、ブラットリーはクスクス笑いながら医療カバンを広げた。


「ぼくの地元に、『おやこげんかは猫も食わない』って言葉があるよ」

「マクスウェル伯爵領で? どのような意味でしょう」

「何でも食う海街の猫でさえ見向きをしない――よほどまずいものか、誰も相手にしないもの。ギルくんの怪我がなければ、後者だけどにゃー」

「いやはや、お恥ずかしいかぎりです」


 ふたりの会話はおだやかだ。

 暴れるギルバートと、おさえつけるエリオットが見えていないようだが、そうではないことぐらい、ゼノにもわかる。

 これだけ図太くないと貴族は(つと)まらないのか、と学習するとともに、自分の存在が場違(ばちが)(はなは)だしい気がして、それでも退室の許可が出ていない現実に途方に暮れる。

 なぜだか猛烈に、こむぎに抱きつきたい気分だった。

 

 ブラットリーが医療器具をならべる。

 薬瓶のラベルを確認し、注射器を手に取った。


「ギールーくん。鎮静剤(ちんせいざい)、打つよー」

「やめろ! 俺にさわるな!!」


 ギルバートが渾身の力で身をよじる。

 拘束を振りきった腕が(くう)をはらい、ブラットリーがひょいと針を遠ざける。

 ゼノはあわてて加勢に入り、血だらけの右腕をおさえつけた。


「うわあああああ!!」


 激情に駆られ、ギルバートが絶叫する。


「あはは、()きのいい魔人だねぇ」


 ブラットリーは鼻歌でも歌いだしそうなようすで、ゼノがおさえるギルバートの右腕に、注射針を差しこんだ。





 だんだんと、ギルバートの動きがにぶくなっていく。 

 抵抗が弱まり、まどろむように(まぶた)がゆれる。

 エリオットは、ギルバートの拘束を解いて、ディビットに向きあった。


「ギルバートは、俺が責任をもって見ます。ゼノ、ブレイデン卿を下までお送りしろ」

「は、はい!」


 これ以上、この親子を一緒にしておくわけにはいかない。

 ゼノに異論は無かったが、当のディビットがエリオットを見据(みす)えて動かない。


「エリオット。私はブレイデン公爵家当主として、君の本心を聞くまでは帰れない」


 ギルバートがうめいて、体を起こそうと身じろぐ。

 ブラットリーが笑いながら、ギルバートの右腕――裂けた傷をつかむ。

 苦痛の声とともに、ギルバートがベッドに逆戻りするのを、ブラットリーはにこにこと見つめた。


「あーあ。せっかく綺麗に縫合できたのに。ぼくが過労で倒れたら、ギルくんに添い寝してもらおっと」


 ギルバートがなにかをつぶやいて、目を閉じる。

 罵倒(ばとう)(たぐい)だと思われたが、誰の耳にも聞き取れなかった。


「うん、眠ったね。いまなら再縫合しても良いかな」


 エリオットは背後にちらりと目線をやって、ディビットに向きなおる。


「ギルバートの怪我が心配です。それ以上のことは、今は考えられません」

「では、息子の怪我が完治すれば、答えを聞かせてもらえるのかな」


 口先だけでごまかされない相手だとは知っている。

 しかし、重傷のギルバートよりも、アンジェリカの将来を(うれ)う発言が解せない。

 記憶のかぎりでは、彼はギルバートのことを一層気にかけていたというのに。


 ギルバートが口出しできない状況――それでも、ギルバートが同席している場で、言質(げんち)をとってしまおうというのか。

 おりしも、この場には王族と一般人がひとりずつ。

 それは公式の立会人としての最低条件であり――エリオットの返答しだいでは、この会話が、ディビットによって公式の発言とされる可能性が高い。

 法的効力を持ってしまえば、撤回するのは容易ではなく――エリオットがアンジェリカの婚約者(フィアンセ)として、正式に認められてしまう。


 ――なぜ。

 このような場所で、まるで思いつきのように決めることではないはずだ。

 国内三大公爵家の筆頭、ブレイデン公爵家の当主ともあろう御方が、なにをそんなに焦ることがある。


 ――定期総会。


 そこで、何かがあったと仮定すれば、それはギルバートにとっても悪いこと――まさか、アンジェリカの婚約者を、国が斡旋するということは――。


 エリオットの脳裏に浮かんだのは、現国王の(まご)――御年十四になられる、ナサニエル殿下だ。

 皇太子の長子であり、王位継承権は第二位。

 十五歳である公爵家令嬢のアンジェリカは、身分も年齢もつりあいがとれる。

 もしそれが締結されれば、ギルバートは未来の王妃の兄――国に一生、飼い殺しにされてしまう。


 エリオットは、おもわずディビットを見つめる。

 ディビットは、エリオットの仮説を肯定(こうてい)するようにうなずいた。


「私は、子供たち(・・)の自由としあわせを願っている」

「……わかっています」

「高貴なるお方は、気が短い。建国記念祭は再来月にせまっている」

「国の慶事とするつもりですか」

「……君の勘の良さには目を見張るものがある。こちらの申し出を正式に受けてほしいぐらいだ」

 

 エリオットは答えない。

 そんな戯言(ざれごと)を聞いている場合ではない、と身のうちに湧きあがる怒りを、なんとか自制する。

 ディビットはこちらの――ギルバートの味方だ。

 ならば、協力を――国内三大公爵家筆頭の力を、存分にふるっていただこう。


 エリオットは顔をあげ、ディビットをまっすぐに見つめた。

 

「――考える時間をください」

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