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最強の竜騎士団長は、すべてが妹♡至上主義!  作者: 黒いたち
第二章 臣下とは王のために存在する
14/33

医務室ではお静かに

 王城と騎士団本部は、隣接している。


 境目(さかいめ)に白亜のアーチがあるだけで、天井も床もつながっている。

 アーチの前後でがらりと雰囲気が変わるため、用途が違う建物であることは一目瞭然だ。

 王城は豪奢な壁紙がふんだんに使われているが、騎士団本部に入ると、とたんに地味になる。

 

 調度品のひとつも置いていない簡素な廊下を、ギルバートは早足で歩く。


 今日中に殲滅(せんめつ)すべき魔獣の特徴と、竜騎士団員の顔と能力を思い浮かべる。

 

 どうしても牛型魔獣ヘビーモスに対抗できる編成が思いつかず、自分ひとりで倒すのが、一番かんたんで確実な方法だとの結論に達する。


 狼型魔獣ダイアウルフの群れは、エリオットに丸投げしよう。

 そう決めたと同時に自分の執務室に着いて、ギルバートは扉を開けた。


「ギルくん、おかえりー!」


 あたりまえのように待ち伏せをしていたブラットリーが、明るく手を振る。

 彼が陣取るソファの周囲は、よくわからない部品や工具でいっぱいだ。


 室内の惨状(さんじょう)に、ギルバートの頬がひきつる。


「おまえ……ちゃんと片付けろよ」


 まったく悪びれたところのないブラットリーが、ソファに乗っていた機材を払いおとす。

 耳障りな音に、ギルバートはおもわず眉をしかめる。


 ブラットリーはソファの空いた部分を強調するように、ポンポンとたたく。

 報告の手間が省けたと思うことにして、ギルバートはおとなしくソファに腰を下ろす。


帰還(きかん)腕輪(うでわ)、どうだった!?」 


 ブラットリーの赤眼が、よごれたレンズ越しでも分かるぐらいに輝いている。

 ちゃんと見えているのか、と何度目かの疑問とともに、こいつ俺のことを売ったんだよな、とぼんやり思う。

 ブラットリーの態度に、罪悪感のかけらも見当たらないため、ギルバートは考えるのをやめた。

 

 事実、彼の研究は役に立っている。

 帰還の腕輪に目線を落とし、ちいさく息を吐く。


「そうだな。すごく楽だった」

「くわしく!」


 ブラットリーはさらに身を乗りだす。


「魔力はほぼ要らないな」

「発動時の重力(じゅうりょく)は? 転移魔術とどう違う?」


 ギルバートの返答にかぶせるように、ブラットリーが質問をたたみかける。

 三人掛けのソファが、ものすごくせまく感じる。


「重力? 気にしたことがない」

主観(しゅかん)でいいから!」

「大差ないだろ。――もう自分で試せよ」


 ギルバートは、帰還の腕輪を、手首から抜きとろうとする。

 つなぎ目がない腕輪は、手をすぼめても、骨にひっかかってうまく抜けない。


「どうやって抜くんだ、これ」

「回しながら、すこしずつ押し上げていけば抜けるよ。……たぶん」


 ギルバートが腕輪と格闘しているのを見ながら、ブラットリーは語尾にちいさなつぶやきを付け足す。

 腕輪には、ギルバートの手首に合わせて収縮し、その直径で固定する術式が組んである。

 これで落とすことはない、と満足していたが、正直外すときのことを考えていなかった。


「あのねギルくん。借りたところで、転移魔術が使えない人間に、違いはわからないから」


 だからひとまず、外すのはあきらめてください。

 そんな本音をこっそり混ぜて、ブラットリーはわらう。


 一方のギルバートは、ブラットリーの正論に、(きょ)()かれたようにまたたいた。


「……そう、だな」


 では自分が使うしかないのか。

 そう思いながら、腕輪から指を離す。

 希少宝石(パライバ・トルマリン)が光をはじくのを、ぼんやりとながめた。


 実をいうと、ソファに座ったあたりから、ものすごい疲労感がおそってきて、あたまが回っていない。

 しかし考えることは山積みだ。


――王命発動前だが、すぐにエリオットに討伐隊の編成をさせよう。俺がヘビーモスを倒すあいだに、ダイアウルフぐらい殲滅できるだろ。イブリースは呼ばずに済むならそのほうが……。

 

「ギルくん?」


 名前を呼ばれ、ハッと顔をあげる。

 ブラットリーがいるのを忘れていた。


「だいじょうぶ? 疲れてる?」


 二択ならイエスだが、そうも言っていられない事情がある。


「わるいがおまえと話しているひまはない。エリオットを知らないか?」

「ええー。ぼくといるのに、他の男の名前を出すのぉ?」

「おまえ、年中ふざけてるな」


 ギルバートが、あきれ顔でブラットリーを見やる。


「ひどいなぁ。ぼくはいつだって真剣なのに。いまもほら、ご所望(しょもう)通信術具(つうしんじゅつぐ)が完成しました! じゃーん!」


 ブラットリーが、一対(いっつい)のスタッドピアスをかかげる。

 虹をとじこめた水晶ーーアイリスクオーツには、複雑な術式が組み込まれている。


「ほんとうか!? おまえ、すごいな!」 

「でしょー? ふたりがひとつずつ耳につけて、魔力を流すとどんなに遠くにいても会話ができるよ」

「魔力を流すだけでいいのか?」

「うん! 試作品だから、一対しかないけど。リオくんと繋がれば、とりあえずは事足りるんでしょ?」

「そうだな。いやまて、これピアスか?」


 ギルバートの耳に、ピアスホールは開いていない。

 彼の困惑に、ブラットリーは心得たようにうなずく。


「だからいまから医務室(いむしつ)に行って、ピアスホールを開けようね」

「……いまから?」

「だいじょうぶ。ギルくんの主治医であるぼくがぁ、責任をもってやりとげてあげるから」


 ブラットリーが立ち上がり、ギルバートに手を差し出す。

 その手をつかみ、ギルバートはうすく笑った。


「では患者を売る、ご立派な主治医様におまかせしようか」 


 考えるのはやめたが、許すとは言っていない。

 そんな意を込めて、つかんだ手に強い力を込める。


 ブラットリーは、痛がるどころかおもしろそうに目を細めた。


「その研究費は、回り回ってギルくんのためになるんだよ」


 そう言って、ギルバートを引き上げる。

 立ち上がった彼にむかい、やはりひとかけらの罪悪感も見せないまま、無邪気ともいえる笑顔をみせた。 






 医務室(いむしつ)は、騎士団本部の二階にある。

 ギルバートの執務室からは、徒歩五分。

 南の階段を下りて、長い回廊をすすんだ先にある。


 医者が常駐しており、24時間体勢でなにかとケガの多い騎士団員のフォローにあたっている。


 趣味が高じて医師免許を取得したブラットリーも、医者のはしくれだ。

 医務室に入ると、勝手知ったるといったかんじで、薬棚を勝手にあさる。


「ギルくん、そこに座って」

「ああ」


 ブラットリーが準備したのは、ガンタイプのピアッサーだ。

 引き金をひくと、バネの力で針が飛びだし、穴が開くという単純な造りだ。


 ギルバートの右耳を検分し、開ける場所を決める。


 丹念(たんねん)に消毒する間も、ギルバートはされるがままだった。


 消毒液の独特な香りが鼻をつく。

 ピアッサーで彼の耳たぶを(はさ)み、ねらいをつけた。


「いくよ」


 バチン!!!


「うおっ!!?」

「あははは! ギルくん、すごい反応!!」


 いきおいあまってイスから落ちたギルバートが、右耳を押さえたまま放心する。

 信じられないことが起こったような顔で、ブラットリーを見上げた。


「……予想の百倍、うるさかった」

「耳元だからねぇ。はい、手ぇどけてー」


 ブラットリーは患部を再度消毒し、通信術具を穴に差し込みキャッチで止めた。


「わー、似合うー!」


 ギルバートの右耳に、アイリスクオーツの虹色が映える。

 耳の後ろ、ピアスキャッチからは、長さの違う三連のチェーンが垂れている。

 繊細なチェーンの、地金は白い。


 鏡ごしではうまく把握できずに、ギルバートはブラットリーに問う。


「これ、白銀じゃないだろうな」

「だいじょうぶ、白金(プラチナ)だから」


 ギルバートが動くたび、チェーンが揺れてきらめく。

 ブラットリーは、それに見惚(みほ)れてため息をついた。


「想像どおりだぁ。すごくきれいだし、かわいい」

「かわっ……!?」


 ギルバートが、なんともいえない複雑そうな顔をした。

 邪魔そうにチェーンを指ではじく。


「このかざり、必要か?」

「うん。アンテナの役割を果たしているから」


――嘘だけど。


 そう胸中でつぶやき、ブラットリーはにっこりとわらう。


「……そうか」


 あっさり信じるギルバートに、心からの笑顔がこぼれた。


「じゃあ、あとはリオくんに――」

「ギルバート団長。ここでしたか」


 医務室の扉が開いて、話題のエリオットがあらわれた。

 タイミングの良さに、ギルバートとブラットリーは目を見合わせて、ニヤリとわらう。


「いらっしゃい、リオくーん! とっても会いたかったぁ」

「よお、エリオット。おまえちょっとここに座れ」


 ギルバートが立ち上がり、直前まで座っていたイスを指定する。


「なにを企んでいるんですか」


 不審げなエリオットにかまわず、ブラットリーが腕をひっぱる。

 ギルバートは背後にまわり、エリオットの背中をイスの方へと押した。

 嫌な予感しかないエリオットが、足に力を入れる。


「あれ、ぜんっぜん、うごかない」

「おまえ、体幹(たいかん)すごいな!?」


 めずらしく結託(けったく)しているふたりを見て、エリオットは確信する。

 これはぜったいに、(ろく)なことにならない。


「詳細の説明を」


 説明を求めるが、ふたりはまったく聞き耳をもたない。


「いいから、おすわりだ!」

「座ったらぁ、手はお(ひざ)!」


 彼らがとてもおもしろがっていることだけはわかった。


「……お断りします」

「おいおい、団長命令だぞ」


 その(うわ)ついた声音に、エリオットは違和感を感じて振りかえる。

 視線でギルバートの異変を探ると、きょとんとする彼の右耳に、見慣れない飾りがあることに気付いた。

 しかもそこからうっすらと血がにじんでいる。


「なんですかこれは!」

「いって!」


 おもわず両手で彼の顔をはさみ、右耳が見えるように首を固定する。

 

「ピアス……開けたんですか!?」

「おい、はなせ!」


 ギルバートは抗議するように、エリオットをたたく。

 手を離したエリオットは、ブラットリーに鋭い視線をむけた。


「ブラットリー副所長」

「え、なに?」

「ブレイデン(きょう)に、許可は」


 低い声で問うと、ブラットリーとギルバートがそろって首をかしげた。

 エリオットが、額にこぶしをあててうなる。


「なんとお詫びすれば……っ!」


 ギルバートは、ふしぎそうにエリオットの顔をのぞきこむ。


「エリオット? 何の話だ?」

「貴方はブレイデン公爵家の嫡男ですよ! もっと自覚をもちなさい!」

「自覚? してるしてる」

「しかも……よりによって右耳……なぜ……」

「なぜって……これ、通信術具だぞ?」


 右耳をさして、ギルバートが告げる。


「俺とおまえで、一対(いっつい)。だからおとなしく耳を差し出せ」


 つきつけられた指を手でどけて、エリオットはため息をつく。

 ギルバートの右耳をにらみながら、しばし考える。


 通信術具がどれぐらいの精度かは知らないが、職務(しょくむ)一環(いっかん)としてならば、まだ言い訳が立つかもしれない。

 しかもさきほど、魔獣討伐の王命が、竜騎士団に下った。

 自分とギルバートは、いつも別部隊になるため、通信術具が役に立つ可能性もある。

 ブラットリーはこう見えて、高い技術力を(ほこ)る。

 いちど試してみるのも、ひとつの手か。


 そう結論づけて、あきらめてイスに座る。

 ブラットリーがピアッサー片手に、エリオットの左耳を検分しはじめた。


「リオくんは、左耳ね」

「……やっぱり。わかってやりましたね、ブラットリー副所長」

「ええー? なんのことぉ?」


 とぼけながら、エリオットの左耳を消毒する。

 ピアッサーで、耳たぶを挟みねらいをつけた。


「じゃ、いくよ」


 バチン!!!


「!!?」


 予想の百倍は大きな音に、エリオットは目を見開いて肩を揺らす。

 彼のめったに見ない挙動に、ギルバートとブラットリーは、腹をかかえて爆笑した。






「おまえのせいで、追い出されたじゃねーか」

「ええ? 共犯だよぉ」


 他の医者からうるさいと叱られ、三人仲良く医務室から追い出された。

  

 ギルバートは、無言でとなりを歩く、エリオットを見上げる。

 彼の左耳には、自分と同じ通信術具の、アイリスクオーツのピアスがはまっている。

 しかし彼のキャッチは、目立たないほど小さい。


「なぜエリオットのは、アンテナが無い」

「どちらか片方で、だいじょうぶだから」


――嘘だけど。


 そう胸中でつぶやき、ブラットリーはにっこりとわらう。

 その笑顔をうさんくさげに見やるギルバートが、不意に足を止めた。


 ちょうど回廊が二手に分かれた場所で、左に行けば、ギルバートの執務室(しつむしつ)にたどりつく。


「ブラットリー。執務室のガラクタを、撤去しておけ」

「ガラクタじゃなくてぇ、希少金属(レアメタル)だよ」

「どちらでもかまわん。俺が帰るまで残っていたら、全部捨てるからな」


 ギルバートは身をひるがえし、右の通路に足をむける。


 帰還の腕輪が澄んだ音をたて、右耳の飾りとともにきらめいた。

 蜂蜜色の髪のあいだから、白金のチェーンがゆれる。

 窓からの陽射しをうける背中は、しなやかで神々しい。


 ブラットリーはそのうつくしい生き物に、目を奪われて立ち尽くす。

 彼をいろどる術具は、すべて自分が作ったものだ。

 あらためて自覚すると、体の芯からふるえるような歓喜がわきあがってきた。

 

 悪寒にも似たゾクゾクとした感触に、鳥肌が立つ。

 血が沸騰(ふっとう)するように体中が熱く、脳みそが溶けてしまいそうだ。


 ギルバートの背中と、それを追うエリオットが見えなくなっても、ブラットリーはその場を動けなかった。

 ひとり通路に立ち尽くしたまま、恍惚(こうこつ)とした表情で、熱っぽいため息を吐きだした。

 





「ギルバート団長、どちらへ?」


 執務室とは逆方向にむかう彼に、エリオットが問う。


「クソ術士のところだ。王命の遂行(すいこう)には、転移室の優先使用がみとめられている。先に行って、ヘビーモスだけでも倒してくる」

「おひとりで、ですか?」

「帰還の腕輪がある。いつでもここに帰ってこられる術具だ」


 腕輪のはまった右手を軽くかかげて、ギルバートはつづける。


「王命より、自分の命の方が大事に決まっている。あぶなくなったら、すぐに逃げ帰ってやるから安心しろ」

「だからといって、単身討伐を選ぶ理由にはなりません」

「ひとりのほうが都合がいい。知っているだろ。おまえは竜騎士団員から討伐隊を結成し、ダイアウルフの殲滅(せんめつ)にあたれ」


 話は終わりだとばかりに、足早に去ろうとするギルバートの、腕をつかんで引き留めた。


「貴方はさきほど、単身討伐から帰還されたばかりです。せめて、すこしなりとも休憩を」

「必要ない」


 断言し、わずらわしげに腕をふりはらう。

 

「昼食もとっておられないのでは」

「一食ぐらい、抜いても死なん」


 歩く速度を上げるギルバートに、エリオットはあきれながら着いていく。


「またそのようなことを。騎士は体が資本です」

「帰ったら食べる」

「食べてから、討伐に行かれてはどうですか?」


 エリオットの言葉を、ギルバートは鼻でわらう。


「今日中に殲滅しろと厳命された。気になって、食事が喉を通らない」


 のらりくらりと(かわ)される。

 すでに転移室は、目と鼻の先。

 ギルバートは、こうと決めたら曲げない頑固さがある。


 エリオットはあきらめて、ギルバートを見送ることにした。

 

「くれぐれも、ご無理なさいませんよう」

「エリオット」


 めずらしく彼が振りかえる。

 その右耳にゆれる飾りに、一瞬気をとられ、彼の顔に視線を戻す。

 エリオットの視線をうけて、ギルバートが不敵に笑う。


「あとで連絡する」


 右耳の飾りを見せつけるように、彼が顔をかたむける。

 そうして転移室へと入っていった。

  

 ギルバートの言動を思い返し、エリオットがおおきなため息をつく。

 あれでは、あたらしいおもちゃを与えられた子供だ。


 そのうえ彼は、疲労で判断力が落ちていることに、気づいていない。

 指摘して意固地(いこじ)になられるくらいなら――泳がせておいて、通信術具の精度に賭けたほうが、勝算が高い。

 早急に合流できれば、彼への危険は格段に軽減される。


 ギルバートに単身討伐をさせる気がさらさらないエリオットは、すぐさま(きびす)を返し、竜舎(りゅうしゃ)へと向かった。

 

 


 

 

 自然ゆたかな国立公園は、希少な動植物の楽園だ。

 みはらしのいい原っぱと、林と山がある。

 けしきを楽しみながら、野生動物を観察できるので、観光客にも人気だ。


 やわらかい下草をふみしめ、アルデはあたりを見渡す。

 立入禁止令が出されているので、人の気配はない。


 しろい(みき)がならぶ林は、木漏れ日であふれている。

 鳥がさえずり、ここちよい風がアルデの頬をなでる。


 薬草は、湿りけをおびた地面に生える。

 アルデは大木(たいぼく)根元(ねもと)を中心に探索する。

 

 下ばかり見ていたので、気づくのが遅れた。

 なにかの臭気を感じ、顔をあげたアルデが見たのは、巨大な牙で土を掘りかえす、牛のような魔獣だった。


 大木の幹に手をつけたまま、アルデの足は凍りつく。

 ヒッと息をのむと、悲鳴は音にならず、空気だけが(のど)をこすった。


 下手に動けば、気づかれるほどの距離しかなかった。

 アルデはガクガクとふるえる足で、ゆっくりと後退をこころみる。

 こちらを向くな、とただひたすらに願いながら。


 鼻息あらく、首をふった魔獣が顔をあげる――アルデの願いもむなしく、目が合ってしまった。

 歪んだ牙がのぞく口で、魔獣が(わら)ったようにアルデには見えた。


 地響きのような野太い咆哮(ほうこう)が、あたりに響きわたる。


 逃げだすこともできないまま、アルデは衝撃に備えて身を固くした。

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