ヤツは、帰ってくる
それはかつての、ある朝の事だった。
顔を洗い、朝食を摂るべく開けた冷蔵庫の中に、俺はそいつを見つけた。
それは過日、鍋に使用した餅の残骸。
パッケージ袋はそのままだが、内容物は黄色く変色しつつある。
明らかに家人の不手際であろう。
俺は舌打ちをした。
本来なら分別しなければならないのだろう。
パッケージ袋は資源ゴミへ。
内容物は燃えるゴミへと。
だが俺は、気色悪いのでそいつを袋ごと捨てた。
………それが恐怖のはじまりだった。
次の日。
冷蔵庫の中にヤツはいた。
何故だ。俺は確かに捨てた筈だ。
それなのに、何故。
「…貴様、何故戻ってきた。」
家人は時々こういう余計な真似をする。
本人曰く、『間違ってゴミ箱に入ったのかと思って』。
そんなわけあるか。
釈然としないものを抱えながらも、俺は昨日と同じように、ヤツをゴミ箱に放り込んだ。
……筈だ。間違いなく。
それなのに何故。
けして爽やかではない寒い朝の、キッチンの台の上にヤツがいるのだ。
まるで俺を嘲笑うかのように。
…そうだ。
俺の甘さが今の事態を招いたのだ。
今度こそとどめを刺しておかなければ、ヤツはまた復活する。
終わりだ。
今度こそ。
俺はようやく心を決め、ゴミ箱の上で袋を逆さにして、触れぬように中身を振り出した。
…つか、中、見ろよ!!