側に居たくて
「…にしても、とりあえずラブホだけでも泊まれる所あって良かったな」
「そう、だね」
仕事で地方に来たのはいいが、会社で決めてあるホテルが何がどうしてか予約はなってなく、しかも大型イベントで平日でも泊まる部屋がない。
帰るだけだが、接待で時間的に新幹線もなかった。
悩んだ挙句、どうせ自腹で泊まるならラブホにしようと言った和矢。
それにしぶしぶ賛同した知季。
なぜしぶしぶなのかと、知季は高校時代和矢に告白した。
その時、和矢の返事はやめろだった。
それから、友達で居たはずが関係を崩し、一緒にも居なくなった。
が…高校卒業して別々の会社、の筈がどうやらグループ会社で移動になり、一年前和矢と知季は同じ営業部へ。
お互い高校時代より見た目も変わってるが先に気づいたのは知季だった。
だが、名前も名乗って居るのに全く気が付かない和矢に知季は落込み、結局そのまま先に営業部に居た和矢と一緒に動いてる。
多少手慣れた感じにラブホの部屋を一通り見ると浴室へ。
それを見た知季はソファに座り込む。
「なんで」
小さくつぶやきながらスーツのネクタイを外した。
再会して嬉しかった。
ずっと忘れずに居たのに、和矢は全く覚えてない。
「大丈夫か?」
心配そうに知季の側に来た和矢。
「…大丈夫」
「少し飲まされ過ぎたろ」
「平気、強いし」
今、お湯出してるから先に入れと知季の隣に座る和矢にうつむく。
…辛すぎる
好きな人がこんな近くに居るのに何も出来ないなんて。
うっかりすると泣きたくなりそうなのを我慢して。
「………和矢」
「ん?」
少しの時間静かになった後、口を開いたのは和矢だった。
「…お前、今名前で呼んだろ」
「当たり前だろ」
「意味がわからねぇよ」
会社で会ってからずっと苗字で呼んでた知季。
もちろん先に和矢が居た事もあるが。
「やっぱり酔ってんだろ、知季」
「うるさい!」
肩に手をかけた和矢に知季は払って顔を上げた。
「…まだ、わかんないのかよ!」
「はあ?…つか、なんで泣いて」
「お前が悪いんだろ!俺はな!ずっとずっとお前の事忘れなかったんだよ!お前がやめろって言われても!」
「なに…………」
本当にわからない顔をした知季にもう何もかも止められない。
「まだ、わからないのかよ…」
「……やめろ、って言ったよな」
「お前が言っただろ!ずっと友達で居たのに、それからお前避けるし…」
遠くからずっと見てるしかなかった。
それが辛くて辛くて、家に帰ると泣いてた日もあった。
「……知季」
徐々に思い出してきた顔の和矢。
「同じクラスの知季……?か?」
「今更!」
もう嫌になってきて、知季はジャケットを脱ぎ捨て洗面所に向かった。
ここまで言ってしまったと多少の後悔に、ワイシャツやら全て脱いで浴室に入る。
「…もうダメだ」
また、避けられたら…
そう思うと怖くなってくる。
「これ、出張土産」
「ありがとう、和矢」
オフィスで皆に出張土産を渡す和矢を知季は黙ったまま。
結局あれから案の定、和矢は口を開かなくなった。
仕事の話以外は。
隣同士の新幹線で、知季は万が一と持ってきたイヤホンをつけ、着くまで寝たフリを。
「…知季」
「なんですか」
皆に渡し終わった出張土産。
何しに来たんだろうと思った矢先、知季は手を掴まえられひるがえされた。
掌が上の状態に何がなんだかと思って居ると和矢はポケットから小さな音を立てたキーホルダーがのる。
「…悪かった」
「…は?」
「気づかなくて…本当に悪かった」
掌に置かれた物を見ると、小さな鈴がついたキー
「高校時代、思い出した…知季にやめろと酷い事言ってごめんな…」
あの頃、共学で女子にもモテて居た和矢。
当時付き合っていた女子がたまたま視界に入っていて、知らなかった知季についやめろと言ったと。
ラブホでの件も、思い出そうとしてた挙句、知季の会話は仕事しか入ってこなかった。
「…俺の事は」
「それ、俺の部屋のキー…多分許してくれないかもしれないが、気が向いた時にでも俺の部屋にいつでも来ていい」
「じゃあ…」
「俺は知季の気持ちを気づいてやれなかった、あの頃そういう…のは、全くわからなくて、ただ知季が居ないだけで、なにか足りないと気づいた……そういう事、か?」
「…そう、だよ!」
知季の返事に、和矢はホッとした顔を見せる。
掌にのる和矢の部屋のキーを見て、知季は嬉しそうな顔を。
「でも、和矢の部屋知らない」
「あ…」
失敗したと頭かく和矢。
知季は小さく笑うと
「今日、早速行っていい?」
「あぁ、来い」
ずっと願っていた和矢の側。
辛く寒かった恋はやっと日が入ってきた。
End
本当に久々の短編です。
そして若干文章足りない気がするのはすみません。
どうしても短編書きたくて、色々つっこむと長編になりそうだったので。
読んでくださった方ありがとう御座いました。
また次作にて。