おぼろげながらも道は残されている
「あの巨人は観測している限りだと徐々に縮んでいるようです」
アライアンスを組んだ冒険者たちと王国を除いた各国の代表も交えた大会議にてリスティが地図に視線を落としながら説明する。その間、ギルド関係者や兵站を担当している調理人たちが手掛けた料理が続々とテーブルへと運ばれていく。時刻は正午をとっくに通り過ぎ、夕暮れにも至ろうという時期。軍も冒険者も昼食を摂っていない。そして食事できるタイミングは話し合いをしているこの時間しかない。
「恐らく異界が崩壊した際に生じた膨大な魔力を飲み込んで肥大化。そののち、それらを自身の魔力として吸収処理していく内に縮んでいるのだろうと」
リスティは全員が料理を胃袋に詰め込んでいく中、報告を続ける。
「ならばあれはヴァルゴか? それとも、魔王か?」
誰もが知りたい事実を知るためにクニアが問う。
「斥候からの連絡ですと巨人の傍には女性と青い鎧を纏った人型の魔物がいるようです。その斥候は、私たちに連絡してすぐに殺されてしまいましたが……」
悔しそうに、そして苦しそうに報告するニンファンベラにクニアは「雑に聞いてしまったことを詫びよう」と謝罪する。
「ニンファンベラの到着が遅れています。シンギングリンでなにかあったのではないかと……いいえ、そのように思うことは、躊躇いや迷いを生じさせてしまいますね。むしろ私たちの進行が速いせいでもありますし」
シンギングリンはアルフレッドとパルティータに任せてニンファンベラはギルドでの対処が一段落したら王国に『門』を使って移動し、早期にアライアンスを指揮する予定だった。しかしながら、まだニンファンベラはこちらに到着しておらず、逆にアレウスたちが想定よりも早くに王都と王城を包み込んでいた異界を壊すことに成功したことで予定が加速した。そのせいで情報伝達の部分には遅れが生じており、ややままならない。リスティも戦場から帰ってきたばかりで多くを知っているわけではない。ヴェインもアレウスに任された副リーダーとしてサポートしていたが、本業ではないことには首を突っ込めなかった。
『パルティータについてですが、ゼルペスに来ております』
「どういうことですか?」
『責めないであげてください。パルティータはキングス・ファングとしてゼルペス防衛に現れ、あたしと共に城のみならず街を守ってくださっています。不殺を誓っており、『異端審問会』の構成員と思しき人物は全てあたしたちが確保、及び牢獄に留置しております。今、丁度一段落したところでしょうか。とにかく、パルティータがいなければゼルペスが陥落していたかもしれないことだけは伝えておきます。だからこそ彼の決断をとやかく言うのであれば、あたしは獣人の王を擁護するのみです』
リスティがオルコスからの念話を聞いてやや天を仰いだ。想定外のことをされると全ての予定に支障が出る。ニンファンベラが王国に渡ってこないのは恐らく、その部分が大きい。
「ユークレースを送り込んだ時点でゼルペスが落ちかけていたのなら、パルティータの判断は正しい。有言実行もしているみたいだし、文句の一つも出てはこないよ。逆にパルティータにそういった質問や提案をしてもらえなかったことは反省すべき点だ」
『さすがアレウス様。あたしが見込んだ殿方です』
本心で言っていないだろうなとアレウスは思いつつ、彼女の褒め言葉を受け取っておく。
「ゼルペスは防衛成功。帝都ラヴァ、聖都ボルガネムもプレシオンとクレセールによって守られていて、ファスティトカロンも『水瓶』を奪われはしたけれども、海底街に被害無し」
アレウスは状況を整理する。
「申し訳ないが、ハゥフルの同胞たちはこのままファスティトカロンと共に下がらせようと思っておる」
「『水瓶』だけを奪われたからまだこうして話を聞いていられるが、もしあのときファスティトカロンが海底街ごと討たれていれば正気ではいられなかった」
「魔王の一部だけを狙ったのは、わらわたちをすぐに屠ることなど造作もないからかのう? 随分と驕っておるようじゃが、魔王として再誕するのであればその驕りも理解はできる」
カプリースもクニアも集中力を欠いている。ここに留まらず、すぐにでもファスティトカロンのところに戻りたいのが心情であるのだろう。
「実際、勝ち目あるの?」
リゾラは面倒臭そうに口に野菜炒めを入れながら訊ねてくる。
「アレウスは勝つ気でいるんだろうけど、どこにその勝算があるのか私たちは分からないから気持ちが一つに固まってない気がする。ハゥフルたちが帰りたいって言うのも勝ちの目が薄いからだろうし」
「違うと言いたいところじゃがその通りじゃ。勝てる気もするが、勝てる気もせん。そのどっちに気持ちを向けるべきかで悩んでおる」
「カーネリアンもそこのところを空で話し合っている最中でしてよ。答えが出るかどうか、わたくしたちの話し合いもきっと空からガルダたちは監視しているはずですわ」
「戦うしかねぇよ」
ノックスが食べるのを中断し、懐から木製のスプーンを取り出して見つめながら呟く。
「でなきゃ、なんのために犠牲になったのか分かんねぇだろ。戦って勝つ。それ以外になにかあるってのか?」
狼のセレナもノックスに同意するように吠えている。
「っつーか、ドワーフたちはどこでなにをしているんだ? 王都周辺にも現れなかったみてぇだし」
「『嵐人』があたしたち側に付くとは言ってくれていたんだけどねぇ」
やや苛立っている様子のノックスをクラリエが宥める。
「約束を反故にするわけないし、信じるしかないよ」
「……そうだな、信じるしかない。ちょっと雰囲気を悪くしちまった。すまない」
謝罪し、ノックスは気持ちを落ち着かせるかのように大きく深呼吸した。
「恐怖の時代の魔王には勝てる気はしないけど、また誕生しようとしている魔王については実はそんなに怯える必要はないと思っている」
アレウスはコップに注がれた水を飲み干してからみんなに聞こえる声量でハッキリと言う。
「あの魔王は僕たちでも勝てる」
「どうしてそう言い切れる? 俺たちにも分かりやすく言ってくれ」
エルヴァがアレウスに突っかかるが、それはこの場全体の意見であることを示すようにアレウスに全員の視線が向く。
「あれが魔王の一部から成り立っている。魔王は自分自身が復活するために十二の断片となって幽世にそれらを潜めさせた」
「それが異界獣となって、異界という名の巣を作って人間たちを襲うようになった。で? この話のどこに勝算がある?」
「魔王にとって未来での復活は計算の内だったが、十二の断片が自我を持ったことは計算外だった可能性が高い」
「自我……自我か。なるほどな」
エルヴァは理解し始めたようだが、多くを話さないため結局はアレウスが話を続けることになる。
「十二の断片が一つに集まって魔王となる。でもそれらに自我があったのなら、全部で十三の自我が一つの体に集まることになる」
「……ドラゴニアでさえ、自己意識以外の自我が内部にある状態を煩わしく感じていました」
クルスがアレウスの言葉の真意を知って、補足するように語る。
「つまり、肉体を動かすための統制が取れないということですね?」
「ああ。いや、ええと、はい」
王女に敬語を使っていないことを今、気付いてアレウスは咳払いをして誤魔化す。
「統制が取れない上に、そもそもバラバラになった力が一つに集まり直して元の状態になるという考えは物凄く短絡的なように思います。この世界の道理はそんなに簡単なものじゃない。もっと複雑で、もっと分かりにくい。バラバラになったのなら集まり終えたのち、魔王として猛威を振るうためにはもっと時間を要すると僕は思っています。だからこそ、今の状態で魔王のように暴れるというのなら少なくとも過去の魔王よりも弱い。徐々に巨人から縮んでいるのは不要な力を排除して必要な力を集約させるためのはず。そして収縮して集約が完了するとヴァルゴは考えているのかもしれませんが、恐らくはそうはなり得ません」
「同意できる内容です。『不死人』も誕生した際にすぐにその力を振るえるわけではありません。魔王ともなれば分裂した力、そしてそこに宿った自己を纏めるのにより時間を掛けるはず」
アレグリアがアレウスの論理に賛同する。
「現に『水瓶』は一度、ハゥフルの手で討伐されたのち再誕しています。でも、やはり自我を持っているかのように行動を起こした。討伐されても異界獣の自我は消えることなく残り続けているのでは?」
「連合の聖女様の意見はもっともだと思います。ですが、それがもしも外れていたなら?」
レジーナは危険性を説く。
「私たちは可能性に全てを懸ける。ですがその可能性が外れていた場合、全てが覆ってしまいます。それはつまり、世界の崩壊。神を殺す復讐の達成。この世の終わりを意味しています」
「俺もやや否定的です。レジーナ様の言うように可能性に懸けるにはあまりにも物事が大きい。アレウスさんを信じていないわけではありませんが、これまでのアレウスさんの言葉にはどれにも強い道理、理由がありました。可能性だけであなたは物事を動かそうとはしなかったはず」
「エレスィの言う通り」
アレウスは自論に対し否定的な意見を言われたことを受け入れる。むしろ全員に賛成されたくはなかった。そうなると可能性のままで物事を動かさなければならなかったからだ。
「求められるのは確定――或いは八割から九割の確証。それを得る方法は青騎士にあります」
「青騎士……『絶滅』を象徴する騎士か」
ガラハはスティンガーに蜂蜜を与えながら呟く。
「つまりオレたちは青騎士を倒すために奔走すればいいのか?」
「いや、みんなには魔王討伐のために先に動いていてもらいたい」
一日という猶予。それをヴァルゴが与えてきたのは精神の未熟さと化け物であることの証明。悠然と、余裕を持っていることが化け物をより化け物らしくさせるとでも考えている。どうすればあのような異常な精神状態でいられるのか全く分からないが、それほどまでに転生する前の人生で絶望することでもあったのではないか。
そのようにも思うのだが、やはりこれも想像でしかない。
「青騎士の炎は、ただの炎じゃない」
リゾラが呟く。
「あれは病気を与えてくる炎。周囲を焼いて、燃えカスや灰を吸い込むことで私たちは病気になる。疫病や疾病を押し付けてくる。耐性がなければ大勢で挑めば挑むほど大損害を引き起こす。だから少数精鋭が求められるけど……?」
「青騎士を倒すことでヴァルゴや魔王の動きが変わりますか?」
イェネオスは首を傾げる。
「ちょっと私にはそこのところは分かりかねます」
「私も」
「私もです。むしろ被害が出てしまうのならヴァルゴや魔王を倒す方に集中するべきなのでは? 青騎士以上にヴァルゴも魔王も人間を『絶滅』に至らしめると思うのですが」
ニィナとアイシャもイェネオスの意見に同意する。
「青騎士の媒介となった存在への干渉」
オラセオがボソリと呟く。
「いや、すまない。ただアレウス君の言いたいことはそこにあるのかなと」
「リグと同じ、ってこと?」
「青騎士の媒介はシロノア。シロノアはヴァルゴを人と勘違いして、魔王復活、冒険者の殲滅を掲げて暗躍していた。だからこそ僕が倒さなきゃならない相手で倒したんだけど、そのシロノアならヴァルゴしか知り得ないことも知っているはずだ」
「だったらあたしたちが行って確かめるってこと?」
「そうじゃない。そうじゃないよ」
クラリエにリゾラが優しく諭すように言いつつ首を横に振る。
「多分だけど私と行くんでしょ?」
「ああ」
リゾラの問い掛けにアレウスは肯く。
「僕とリゾラと、アンソニーに来てもらう」
「私ですかぁ?」
「青騎士は放っておいたら周囲一帯に流行り病をもたらす。早期に倒すしかない。ただ倒す前に僕とリゾラでシロノアの記憶を辿る。五分だ。五分経ったあとに、アンソニーに死の魔法を使ってもらう」
「え、でも私の死の魔法は」
「周囲にも影響を及ぼす。鐘の音が聞こえる範囲には入らないようにしてもらう」
「でも私たちは聞いちゃうけど」
「死の魔法は上書きできない」
そこまで言ってリゾラが「あーなるほど」と納得する。
「私の出番ですか?」
アレグリアも理解したらしくアレウスに訊ねてくる。
「聖女たちの死の魔法の中で、アレグリア様の魔法がその状況であったなら一番影響を最小限に抑えられると思いますので」
「ふふっ、一度お二人に掛けた死の魔法を再度、ですか。それも今度はその効果を逆手に取る……面白くあります」
「……でも、青騎士からなにも情報を得られない可能性の方が高い。つまりなにもない状況で魔王と対峙することになるかもしれない。それでも戦う気があるのなら、どうか……最後の戦いに参戦してくれると、ありがたいのですが」
段々と自信が無くなってくる。どれもこれも想定、可能性、あるいは想像で妄想。こんなおぼろげな作戦を更に詰めていかなければならない。
「不安そうな顔をしないで」
アベリアがアレウスの肩に手を置く。
「みんな、気持ちは一緒だから」
「アベリアさんに先を越されてしまったね」
ヴェインが明るく声を発する。
「そもそも戦う気がないならここにはいない。戦う気があるからここにいる。でも、どう動いたらいいかの指標がない。だから君の意見が欲しかった。君のやりたいことが纏まれば俺たちは俺たちの出来ることをやるだけ。これまでも、そしてこれからも。そうだろ?」
その強い自信がアレウスを後押ししてくれる。
足りないものは仲間が補ってくれる。その意味をアレウスは改めて知り、そして感謝する。自分にはこんなにも沢山の人がいる。誰もが味方ではないし、誰もが友達でもない。けれど人と人との繋がりは確かにあって、目指す方向が同じだからこそ集うことができる。
平和を、と。
正義を、と。
この世界のために、と。
その願いがアレウスを強くする。
『そうじゃない』
赤い淑女の声が頭の中で響く。
『お前を強くしているのは願いや祈り、願望や希望じゃない。我と同じでもっと禍々しく、人間が自然と目を背けるものだ。もう一人の自分自身とやらにそれを教えてもらうがいい』
決して答えは示さず、赤い淑女の声は聞こえなくなった。
魔王とヴァルゴの注意を惹きつつ、アレウスとリゾラは青騎士と戦う。簡単なようで難しく、且つ得られるものがあるかどうかも分からない手探りの中で集った者たちと共に話し合いを重ねていく。ああでもない、こうでもない。リスクが大きい、リターンが少ない。そういった内容を思い思いに語り、なにが最善でなにが最良か。最悪の事態は一体どんな状況か。話せば話すほど不安は大きくなり、恐怖が支配していく。
でも、それでも前進をやめない。一人一人の小さな前進、小さな勇気。それらは些細であっても集えば集うほど大きな一歩、大きな勇気へと変わるのだ。
「リゾラ、ちょっと二人切りで話がしたいんだけど」
大体の作戦が纏まって、ニンファンベラたちの到着を待つだけとなってアレウスはリゾラに声を掛けて二人で大会議を抜け出す。
「なに? 死にに行くようなものだから最後に想い出でも欲しいとか?」
「そんなんじゃない」
「……そう、でも私に出来ることってそれぐらいだけど? 足の裏から頭の先、隅々まで全部見た上で私になにか言いたいことでも?」
「離れないでほしいんだ」
「それはアベリアに言ってあげて。私には勿体ない言葉だから」
「そうじゃない。全部が終わったら、リゾラは僕の前からいなくなるつもりだろ」
「……なんで分かっちゃうかな」
呟き、リゾラはアレウスから視線を逸らす。
「私は一杯悪いことをしたからね。アレウスの傍にはいられないんだよ。ボルガネムでも言ったでしょ? 私は、贖罪をしなきゃならない」
「でもそれは離れなくても出来ることだ」
「じゃぁアレウスは私のしてきたこと、私の過去、私のこの体。どれもこれも受け入れられるの?」
「できないと思う」
「そうでしょ? だったら、」
「でも、離れてほしくない」
「子供みたいな……」
アレウスの言葉にリゾラは大きな溜め息をつく。
「あなたの幸せの中に私がいたら迷惑になる。私はあなたを幸せにすることはできない」
「でも僕は君を幸せにしたいと思っている」
「できるの?」
「分からない。でも、僕は君を一人にしたくはないし、離れてほしくもないし……他の誰かと恋に落ちてもほしくない」
「私以上に重いこと言うじゃない。アレウスは――私の知る白野はそんな重い男じゃなかったと思うけど」
そう言って立ち去ろうとするリゾラの手をアレウスは掴む。
「嫌なんだよ。君を追い掛けるのも、追い越すのも。今、丁度一緒に歩いて帰れるところに立っているんだ」
「私はとっくの昔に追い越されたと思っていたんだけど」
「追い越したら君は追い掛けてこないじゃないか」
芯を突かれたようにリゾラは目を見開き、そしてやや体を震わせる。
「私が幸せになることは、きっと神様が許してくれないから」
「だったら君が幸せだと思うようになれば、君は神に許されたってことになる」
「物は言いようだね。でも、あなたが私を言い負かしたことはこれまで一度だってない。私の信念をあなたが変えることはできない」
「だったら! だったら君は、僕のことが嫌いなのか? アベリアのことが、嫌いなのか?」
「…………嫌いなわけ、ないでしょ。こんな私をアベリアは許してくれて、私もアベリアを許して。あなたとまたこの世界で再会することができて、奇跡みたいだって思えた。でも同時に、自分がこの世界で受けた苦しみや辛いことを省みると、どう足掻いたってあなたを不幸にすることが分かるから、」
「不幸になるかどうかなんて一緒にいなきゃ分からないだろ」
「それは、そうだけど」
「約束してほしい。僕たちが青騎士を倒して、ヴァルゴを追い詰めて、魔王を倒したら」
「倒したら?」
「もう僕の傍からいなくならないでくれ。遠くでなにかやることがあってもちゃんと、僕の傍に帰ってきてほしい」
「……ふぅん、アベリアにも言ってなさそうなことを言っちゃうんだ? アベリアを説得できるの?」
「する」
「……………………強欲。要はあなたは産まれ直す前の世界で好きだった私と、産まれ直した世界で好きになったアベリアの両方を抱えておきたいってことでしょ? しかも、他の女の子にも似たようなことを言っている」
呆れるように再び溜め息をつく。
「この世界があなたをそんな風に変えちゃったのなら、悪影響としか言いようがない。だけど、嫌いじゃない。嫌いになれるわけがない。アレウリス・ノ―ルード? 魔王を倒したあと――いいえ、そのあとのアベリアたちとの生活が落ち着いたあと、私をもう一度見つけて? もし見つけることができたなら、私はあなたの物になる」
「傍に、いてはくれない、か」
「ちゃんと見つけてくれたら諦めるわ。あなたと一生を過ごすことを誓う。こんな口約束じゃなく、仰々しく正式な縁結びをしてあげるわ。私、そういうの大嫌いなんだけどあなたのためにやってあげる」
「……分かった」
これ以上の落としどころをアレウスは見つけられない。そして提案を跳ね除けてしまったら、彼女はもうこれ以上の譲歩をすることなくアレウスの前から消えてしまうだろう。
「未練がましいわね」
「未練というか」
「というか?」
「幸せになってほしいんだよ、リゾラには」
「あなたといれば私が幸せになるって考え方はちょっと自意識過剰じゃない?」
「合っていると思うけど」
「……そうよ。あなたと一緒になるとか私にとっては幸せに決まってる。だから、その幸せはもっともっと先へと延ばすの。魔王を倒した程度で私を抱き締められると思わないで。そんな甘くて尻軽な女じゃないから」
「どう考えても重い女だけど」
「分からないかなぁ、私の皮肉が」
やや冷ための笑みを浮かべたのち、リゾラはジッと巨人の方を見る。
「全部全部、あなたに掛かってる。私たちはあなたに命を懸ける。だからこそ最初の肝心要は成功させるわ。私は絶対に、あなたを他のみんなに繋げていく。だから、死なないで」
「多分、アベリアにも同じことを言われるんだろうな」
「アベリアだけじゃなくてあなたのことを好きな女の子は全員言うんじゃない?」




