リグ
城門をアレウスたちが通過したことはすぐさま新王国軍から冒険者に伝わり、更に周囲で戦っている多くの他種族の仲間たちの耳にも伝わった。
「完全に出遅れてしまったな」
しかし全ての冒険者が決戦に時間通りに到着したわけではなく、各々が抱えている依頼や問題、その他の“異界に堕ちた王国”を攻めるという大義名分を得るために東奔西走していた者たちもいた。
オラセオのパーティもその内の一つだ。魔法使いと戦士の説得は難しく、パーティに組み込むことはできなかった。冒険者が城攻めをするなどパザルネモレの再現に近しい。そこで苦々しい経験をしたことから二人は忌避したのだ。しかしながら王都が見えないところでの魔物退治には全力を尽くすという確約は得た。その後の出発であったためにオラセオはマルギットとリグの三人でアレウスたちが異界の王都へと入った直後の参戦となった。
「今からでも間に合うでしょ。ウチたちに出来ることをしよ」
「それにしたって俺はタイミングが悪すぎるな」
「シンギングリンのこと?」
マルギットはオラセオが言わずともつい先日のシンギングリン訪問のことを思い出す。
「あれは仕方ないよ。ウチたちが寄って、別の街に向かった直後のことだし」
オラセオたちは依頼を終えたのち、少しばかりの余裕があったためにアレウスとの再会を楽しみにしつつシンギングリンを再び訪れた。しかしながら丁度、彼らは出払っていて仕方なく自身が生活拠点であり活動拠点としている街へと帰ることにしたのだが、その次の日にシンギングリンでカプリコンが現れたという。その異界獣は無事に討伐され、街もまた無傷であったらしいのだが、自分たちがもしその場に居合わせることができたならと思わずにはいられない。
活躍したかったわけではない。そして自分たちの力を過大評価しているわけでもない。被害は最小限に喰い止められたらしいが、オラセオたちがいたならその被害は僅かに、本当に僅かに減らせたのではないだろうか。そう思えば思うほどにタイミングの悪さが露わになってしまう。もっと滞在すべきだったのでは、もう少しアレウスたちを待ってみてもよかったのでは。冒険者として街を守るタイミングを失ったことがなによりも悔しいのだ。
「リグ?」
「……なんだ?」
「そう言えばあのとき誰かと『接続』で連絡してなかった?」
「俺は射手だぞ。そんな魔法、使えるわけがないじゃないか」
マルギットの問い掛けにリグは軽い表情で、そして呆れながら答える。
「だが、最近少し独り言が増えている気がする」
オラセオの指摘はもっともでリグは言い淀む。マルギットも同意を示していることから、一人で考え込んでいるのではないかと心配されているようだ。
「ちょっと親に色々と言われていて」
「リグの両親が? ウチの前ではなんにも言ってなかったと思うけど」
こんな話にどうしてこうも彼女は突っかかるのか。リグはマルギットの訝しむ表情に対し苛立たずにはいられない。
「話せることや話せないことは誰にだってある。あまりリグをこのことで悩ませないようにしよう。俺だって都合が悪いときに話しかけられたら嫌な気持ちになってしまうからな」
その気配を察してかオラセオが間に割って入る。彼の言葉は心遣いに富んでいて、自然とマルギットとリグの間にあったわだかまりのようなものが解消される。
「変に攻撃的になってしまって悪かった」
「ウチも幼馴染みだからって踏み込み過ぎちゃったね。ごめん」
顔を合わせ、互いの謝罪を受け入れる形で険悪な雰囲気はスッと消える。
「まずは担当者さんたちと合流して、そこから戦力の足りていないところに行かない?」
「そうだな」
「ね、リグもそう思うでしょ?」
もはや決定事項のようにマルギットは訊ねてくる。そのように言われてはリグも肯くしかない。
「でもアレウス君たちとは魔物と戦う前に話をしておきたかったよね」
「そうだな、マルギットが無事に回復したところを見せておきたかった」
「そうそう、大変だったもん」
「……お前がそれを言うのか?」
唐突にリグがオラセオに冷たい言葉を投げかけ、そしてオラセオは自身に対して肌がヒリ付くほどの殺気が向けられていることに気付く。
「リグ?」
「お前が異界に堕ちなければマルギットは異界に救出に行かず、そしてお前の毒を肩代わりして死ぬこともなかった」
「落ち着いてよ、リグ。ウチは甦ってここにいるじゃない。だからなんにも問題ない。そうでしょ?」
「黙れ」
オラセオを庇おうとするマルギットを片腕で払い飛ばす。
「……リグ?」
払われたマルギットは自身にこれまで決してこのような暴力を振るってはこなかったリグに驚き、その場に倒れ込んだまま上半身を起こすことしかできない。
「どうしてオラセオなんだ?」
「なにが?」
マルギットにリグが近付く。
「どうしてそんなにもオラセオに拘る?」
「え、いや、だってパーティリーダーだし」
「それだけか?」
「それだけって?」
「……オラセオがパーティリーダーだったからお前に危険が及んだ。そういう風には考えないのか?」
「え、待って。リグはなにをそんなに怒ってんの?」
「お前はどうしてオラセオのせいで死んだのに、そんなに能天気でいられる?」
分からない、分からない、分からない。そう呟きながらリグは空を見上げる。
「落ち着くんだ、リグ。確かに俺はパーティリーダー失格かもしれない。だが、ここに来てからその話を出されては俺だけじゃなくマルギットも動けなくなってしまう」
オラセオの言葉を聞いてリグが頬をヒク付かせて、次第に苦笑する。
「ここにお前たちは来たんじゃない。俺がここまで来させたんだ」
「さっきからなに言ってんのよ!」
さすがにマルギットもリグの発言が冗談では済まなくなってきたため声を荒げる。しかしその声が、オラセオの姿が、マルギットの態度が。なにもかもがリグにとっては憎く、恨めしく、それでいて羨ましい。
自然と彼の腕は弓矢を抜いて、オラセオへと向けられる。
「ちょっと待て。待ってくれ。話をしよう」
「話はずっとしている」
「それでも俺には分からないんだ。どうしてリグが俺に矢を射掛けようとしているのかが」
「……そういうところだ。そういうところが気に喰わない」
「リグ?」
オラセオは決して剣も盾も構えず、リグの常軌を逸した行動に怒鳴ることもなく、落ち着くように名を呼び掛けてくる。
「そのなにも知らないフリをしているその顔が気に喰わない!」
「いや、だからフリじゃなくて本当になにも、なにも分からないんだ」
頼むから。そのように表情から読み取れてもリグはそれを全力で否定する。
「『異端審問会』じゃな?」
リグの真後ろに地面に垂れるほどに長髪を持った女性が立ち、彼の臭いを嗅ぎながら呟く。
「この者のロジックから臭う。『異端審問会』によって書き換えられておるのだろう」
振り返り、リグが躊躇わずに矢を放つ。女性は屈んでその一射を避けると続いて跳躍して宙で一回転してからオラセオの方へと降り立つ。
「そうか、『異端審問会』にシンギングリンの状況を伝えておったのはお主じゃな?」
不敵な笑みを浮かべて女性はリグの隠していた真実を露見させる。
「なるほどなるほど、『異端審問会』と接触した際にロジックを書き換えられて、気付けば構成員。あり得ない話ではない。あり得ない話ではないが……お主の書き換えられたテキストはほんの僅かに感じられる」
「うるさい」
「あとは貴様が持っている劣等感を刺激されて増大。知らない内に抑えられない衝動と激情へと変貌してしまった。ワラワにはそのようにしか感じ取れんなぁ」
「うるさいって言っているだろ!!」
「リグ……?」
「そんな目で俺を見るな!! なんで、なんでなんでなんで!! お前はいつもオラセオオラセオオラセオ! オラセオと俺で、なにが違うって言うんだ!?」
『言うなれば全てが違う。違うから、あなたをマルギットは受け入れられない』
リグの傍に亡霊のごとく現れた女性に長髪の女性が問答無用で爪を振るうが、霧のようにして掻き消える。
「幻影か。ワラワとしたことがついカッとなってしまったわ」
『さぁリグ。あなたが握るのはそんなちっぽけな弓矢じゃないわ。見せてやりなさい、あなたが手に入れた素晴らしき矢を』
「はい……」
リグは持っていた弓矢を放り投げる。丁寧に、そして大切に扱っていた武器であることは幼馴染みであるマルギットが一番よく分かっている。なのにそれを雑に捨てた彼の行動には言葉すら出てこない。
『オラセオを殺せば全てが得られる。だって比べる相手がいなくなるのだから』
「はい」
『あなたの好きにしていいわ。あなたが感じている不満を、鬱憤を好き勝手に放出しなさい』
「はい、アヴェマリア様」
幻影が完全に消えたのち、リグが握ろうとした弓矢を長髪の女性が彼の腕を爪で切断して止める。
「なにを見ておる!? さっさと止めよ! こやつが握ろうとしている物がなんなのか知らんのか!?」
オラセオとマルギットがすぐに動かないことに長髪の女性は苛立ち、命令を出すがやはり二人は動けない。
「くっ、事情を知ると知らんでは大違いじゃ。アレウスならばワラワが言わんでも動いておるというのに!」
そのように呟いた長髪の女性が僅かに二人へと意識が向いた刹那を狙ってリグはもう一方の腕で落としてしまった弓を強く握り込んだ。
『聞こえておるか、シンギングリンの担当者ども! こっちに冒険者たちを集中させよ! ああ? どこの誰かじゃと!? ワラワじゃ、リリスじゃ! さすがに白騎士をワラワ一人でどうこうは出来ん!』
『接続』の魔法で長髪の女性――リリスはこの場で叫ぶと同時に決戦の地に陣を張っているであろうシンギングリンの担当者に強く要求している。その間にリグの体はブクブクと膨れ上がり、オラセオとマルギットの目の前で肉の塊となって弾ける。
大量の血が辺りへと飛び散ったのち、リグであった肉片を踏み締めながら純白の兜と鎧に身を覆い、冠を被っている白騎士が――自らの鎧のどこにも血の一つも浴びないままに降臨していた。
「リ、グ……嘘、嘘よ。だって、リグは……」
『我は勝利の上に勝利を重ねる者』
握っている弓に矢がつがえられ、リリスにではなくマルギットへと向けられる。
「マズい」
「やめよ! 止めようとしてもその矢は全てを貫く!」
『我を喚んだ男が抱く未練を先んじて晴らす』
マルギットを庇うオラセオを庇いに行くリリス。その三人に矢が放たれる。
「騎士道精神の欠片もない不意打ちをする者を騎士と名乗らせたくはありませんね」
リリスの正面に灰の塊が生じ、言葉を発しながら刀を振るって矢を受け止めるのではなく受け流し、軌道を逸らして彼方へと弾く。
「『灰の眼』……オルコス・ワナギルカンか!」
『あたしは『不死人』など放っておきたいのですが、義妹ちゃんと様々な約束をしてしまった以上は全ての補助を行います』
降るのは灰の雨。続いてそれらは一塊となり、次から次へと灰で固められて作られた兵士と化す。
『ユークレースはあなた方の元に。他はレジーナを助けるためにキメラと尖兵を散らしなさい』
灰の軍勢がオルコスの指示を受けて動き出し、新王国軍へと加勢する。
「手を貸していただきますよ、『不死人』」
「そうは言うが灰でどこまでやれるんじゃ?」
「『不死人』の目は節穴ですか?」
灰の中から翼を広げ、やがて身に付着していた全ての灰を落としてユークレース・ワナギルカンそのものが現れる。そして灰の塊だった存在も徐々に形を変え、彼そっくりの機械人形となる。
「僕は戦場の駒でなければ力を発揮できませんから」
「……オルコスは死ぬ気か?」
ユークレースの位置を灰のユークレースと入れ替えた。そうなると灰のユークレースはオルコスの元では機能しなくなるため、彼女は『灰眼』で消し去る。
つまりゼルペスにいるのは今、オルコス・ワナギルカンただ一人。ここで灰ではなく本物がいる事実を明かしてしまえば、王国軍だけでなく『異端審問会』にそのことが知られてしまう。
「死なせません。もう誰も、義理ではあれ兄弟姉妹を喪いたくなんてありませんから」
リリスはユークレースの言葉を飲み込み、スゥ―っと息を吸いながら天を仰ぐ。
「……アレグリア様」
そして呟く。
「どうか、新王国に援軍を」
この声が届いている確証はない。なぜなら白騎士は二人だけでなくオルコスとマルギットすらも白い世界へと包み込んだ。この白い空間は本来の世界から隔絶されている。リリスの願いは本当に、只の願いで終わってしまっているかもしれない。
「呆けておらんで立て! 白騎士を討たねばあの者は戻りはしない」
「戻る……戻るのか?」
オラセオは問い掛ける。
「そうじゃ、戻る」
「……だったら、絶対に絶対に討つ」
マルギットが立ち上がり、杖を構える。
リリスは嘘ならば幾らでもついてきた。
だが、この一瞬についた嘘はどういうわけか凄まじいまでの罪悪感を抱かずにはいられなかった。しかし顔には出さず、表情にもせず、声すら震わせることなく言い切ったことでユークレースすらも騙せているらしい。あとは己自身の罪悪感からひたすら目を背け続けるだけでいい。
「参ります」
ユークレースの一言によってリリスは己自身の心の当惑からひとまず逃れ、白騎士を睨んだ。
そうして、
決戦の地より遥か南方の新王国のゼルペスにて、リリスの懸念は形となって顕現する。
即ち、ゼルペス近郊に潜んでいた『異端審問会』の構成員による侵略。異界となった王都が奪還されるよりも早くゼルペスを陥落することで新王国が王都を攻め落とす大義名分を失わせる。そしてクールクースとエルヴァージュの両者、更にはアンジェラという『天使』ですらも逆賊となる。
王都が奪還されるのが先か、ゼルペスが陥落するのが先か。決戦はなにも王都周辺に限られたことではない。帝都ラヴァ、聖都ボルガネムもまた『異端審問会』との戦いが始まっているに違いない。
しかしながら、ゼルペスは元は王国領。その牙はあまりにも近く、あまりにも素早い。盆地であり侵略経路はほぼ想定できていたというのに、ユークレースを戦場に送り届けて五分も経たない内に街の各地で火の手が上がる。
クルスからオルコスへの一時的な王女としての地位継承は『異端審問会』が取った『音痕』への対処だけでなくの侵入を事前に阻止することにも繋がる妙手だった。だが、即座に彼らは状況を理解し、自らが構成員ではないことを気取られないように既に立ち回っていたのだ。
「オルコス様! 街を捨てましょう! 攻城戦に持ち運べば我々にも勝機が!」
「なりません! 城だけを守れば済むわけではないのですから」
「しかし街の混乱は既に収拾がつかなくなりつつあります。誰が『異端審問会』で、誰がそうではないのか。私たちが見破る術はロジックを開く以外には」
「民草を守らず己の命だけを守ることなどあたしは認めません」
「……そうですか」
殺意が発露する。街の対処に追われ、意識を向けていたオルコスの反応は遅れる。
「ならば死んでください。死んで我らに城を明け渡してください」
凶刃がオルコスの胸を刺す――はずだった。
「オルコス・ワナギルカン王女で間違いありませんか?」
そう問い掛ける男の背中にはオルコスに刺さるはずだった短剣が突き立てられている。だが男はそれを意に介さず自身が守った対象が本当に守るべき対象であったのかどうかの確認を求めてきている。
「は、い」
「……では、ご安心ください」
凶刃を振るったオルコスの侍従のフリをした構成員が短剣から手を離して距離を置く。背中に刺さった短剣を引き抜き、男は足元に投げ捨てる。
「オレたちがこの街を守りましょう」
「あなた……背中、から、血が」
「こんな傷、なんともありません。オレはこの持ち前の忍耐力が武器ですから」
「それに……帝国の、獣人がどうして」
「ヒューマンの――いいえ、シンギングリンという街の人々が、そして街を束ねる者が仰るのです。『自分たちの街は自分たちで守る。あなたのその力は自分たちよりも苦しい思いをしている者を助けるために使われるべきだ』と。『ここにはまだ沢山の冒険者いる。守り通せないわけがない』と。姉上やアレウリスさんとの約束を破ることにはなりますが、確かにその言葉はオレたちに勇気を与えてくれました。そう、皆さんの出発に乗じてオレたちもまた王国へと渡るその勇気を。だからオレがいなくとも残した群れの獣人たちは『命を賭してあの街を守り通す』と、オレには『王国へ向かえ』と言ってくれたのです」
獣人とヒューマンの団結は互いの代表者無くしてあり得ない。だからこそアレウスもパルティータをシンギングリンに置くことを選んだ。しかし彼らはアレウスが思っている以上に固い絆で結ばれていた。それは獣人にとってもシンギングリンが特別な場所となっていることを意味する。
構成員は新たに短剣を取り出し男の突破を試みるが、眼前での咆哮を受けて戦意を喪失してその場に座り込む。
「国を越え、群れを越えて、オレたち獣人はあらゆる境界を越えてこの脅威に立ち向かいます。姉上もきっと先に出発したのは王国の獣人たちにそれを示すため。もう既に王国の獣人たちも姉上たちによって戦場で戦っていることでしょう」
オルコスが衛兵を呼び、構成員を捕縛する。そこで本物の侍従の居所を聞き出し、同じく衛兵に解放するように命じる。その間に男は廊下の窓から城の入り口に飛び降りる。
「我が名はパルティータ――いいや、キングス・ファング!! 帝国でその名を馳せる獣人の王である!! この城、この街を易々と落とせると思うな悪しき者ども! そして、このキングス・ファングの牙から貴様らは逃れられると思うな!」
「キングス・ファングだって?」「帝国側の獣人の王だ」「確か、最大勢力と噂の」「じゃぁ俺たちはキングス・ファングと共に戦えるのか?」
兵士たちの混乱はパルティータの声によって徐々に鎮まっていく。
「ふざけるな、誰が獣人に守られるものか!」
そう言って兵士の一人がパルティータへと向かう。
「死ね、獣人!!」
剣で胸を切り付けられるもパルティータは動かず、ただ兵士を見つめる。
「あなたはオレたちの敵か?」
そう問い掛ける。そして兵士の臭いを嗅ぐ。
「違う、あなたは真に国を想う戦士だ。『異端審問会』が放つ特有の臭いがしない」
「あ、当たり前だ。俺は……俺、俺は……そう、そうだ。俺は、オルコス様とクールクース様のために奮い立った者。そのお二人が、獣人の王をお認めになられたのであれば」
兵士は振り返り、剣を握り直す。
「俺はこの偉大なる獣人の王と共に戦う」
「オレと共に来てくれた者たちよ、聞いてくれ! この街を守らんとする者たちの兵の臭いを覚えろ! そして、その臭いと異なる者たちを嗅ぎ付けるんだ。その者たちは殺さず捕らえ、全て城へと連れて行け! オレたちは臭いで分かるが真にそれが正しい判断材料かまでは分からない。オルコス・ワナギルカンの裁定を求めるんだ。よって!」
パルティータが石畳を踏み鳴らす。
「一切合切の殺人を禁じる! オレもまた殺さずに捕らえてみせる!」
「あ、あははははは」
オルコスが逼迫した状況でありながら笑う。
「あたしよりもずっとずっと王らしいじゃないですか……いえ、あなたはキングス・ファング。獣人を束ねる王でしたね。ただあたしがあなたを過小評価していただけ。あなたと先ほど王として対面しなかったことを恥じます」
そう呟き、オルコスの元に駆け付けた騎士たちが自身の言葉を待っているため深呼吸をしてから語り出す。
「全軍、ゼルペス防衛のために獣人と協力して悪意を払いなさい! 構成員かどうかの判断はロジックを開かなければ難しく獣人も臭いで直感的に判断できるのみです! 間違って民草を殺めたとなればこのオルコス・ワナギルカンは首を吊って詫びる以外ありません。あなた方も決して民草を虐殺してはなりません。殺すような騎士を見かけたならその者を殺しなさい! ええ、分かっています。言っていることが現実を見ていない甘ったれであることぐらいは。ですが、獣人の王がそうすると決めたのならばあたしも王として同じ立場を表明しなければなりません。限界まで、どうかお願いします。大いなる栄光に満ちた新たなる王国を築くために……」
「「「「「「大いなる栄光に満ちた新たなる王国を築くために!!」」」」」
オルコスの言葉に騎士は誰一人として異を唱えず、そう力強く言葉を重ねて出撃した。




