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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第2章 -大灯台とドワーフ-】
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女性との縁が多い?

 馬車に揺られて半日ほど経って休憩が入る。

 昼食は馬車の中で軽く済ませてしまったが、夕食ばかりはそうも言ってはいられない。荷物の中から食料を運び、近くの小川から水を汲み、薪を集めて火を起こす。それらを十数人の冒険者で手分けして行い、調理は馭者たちに任せた。その間は魔物が寄り付いていないかのための警戒が続く。


「アレウス」

 聞き慣れた声がしたのでアレウスが顔を上げる。

「ニィナ? お前も参加していたのか?」

「上からのお達しだから、仕方無くって担当者に言われたの。こっちはまだ神官も見つけられていないって言うのにさぁ」

「初級にも僅かだが依頼が行くってリスティさんが言っていたな……」

「なんでも中級に近い初級が候補なんだってさ。跳ね除けることも出来たけど、話を聞いたら断れなくなっちゃった」


 ニィナは近場の木に登り、夕暮れの草原、その彼方を視線を向けている。


「そんな簡単になんでもかんでも受けるもんでもないと思うけど?」

「まぁでも、中級に上がったらまたこの手の話が飛んで来て、次はほぼ強制参加になったらって考えたら、早い内に終わらせてしまっておいた方が良いんじゃないかって。一度受けたら、二度目は断れるようになるらしいし」

「言われてみれば……良い判断かも知れない」

 嫌なことは先に済ませてしまう。そういう精神で参加するのはどうなのだろうかと疑問にも思うが、それでも断り続けることで担当者を困らせるような冒険者でないだけマシとも言える。

「でしょ? で、私はまだ一人だから一時的にパーティに入れてくれない? 馬車はもう入るところが決まっちゃったから一緒じゃないけど、やっぱり一人で壊滅した村を歩くのは怖いから」

「異界絡みじゃないからな。射手が居るのはありがたいし断る理由も無い」

「ありがと」

「新しく僧侶のヴェイナードが入った。愛称はヴェインだ」

「了解。あとそいつ、軟派な奴じゃないわよね?」

「出身の村に婚約者が居る。かなり肝の据わった女性だった。あれは遊ぼうにも遊べないだろう」

「なら安心できるわね」

「あとで紹介するよ」

「お願いするわ」


 ニィナと同じ方向を見ていても仕方が無いので、アレウスは彼女の死角となる方角を見つめる。日も沈み、夜の(とばり)が落ちる。


「そこのお二人……なんだ、下賤な輩ではないですの? 食事の支度が済みましてよ。焚き火に集合して下さいな」

 クルタニカに言われ、ニィナが木から降りて先に行く。アレウスも軽く背伸びをしてから踵を返した。


「下賤な輩は意外と女性との縁が多いんですのね」


「なんだその……なんですか、その言い方は」

「恵まれ過ぎですわ。少しは自重してはいかがでして?」

「自重もなにも、僕にそんな気は全く無いですから」

「ふぅん、女性に言い寄られて鼻の下を伸ばす殿方と自分は違うと仰りたいんですのね? 本当にそうなのか、疑問ですわね」

「なんでそう疑われなきゃならないんですか」

「それは勿論、非常に興味があるからですわ。アベリア・アナリーゼに場合によっては報告しなければなりませんもの」

「それだけは絶対にやめて下さい」

 クルタニカは大げさに物事を話しそうである。それでアベリアに勘違いさせたら、どのような魔法がアレウスに襲い掛かるか分かったものではない。


 彼女のゲスな勘繰りに溜め息をつきつつ、二人してキャラバンのキャンプに戻り、アベリアたちと合流後、顔見知りで輪を作って夕食を摂る。その食事中にニィナとヴェインの自己紹介も済ませてしまう。

「あたしも混ざっていーかな?」

 自身に配膳された皿を持って、黒衣の女性が訊ねて来た。断ってもおかしいので、アレウスはアベリアの方に身を寄せて、彼女を招き入れる。

「下賤な輩はやっぱり女性との縁が多いように感じますわね」

「だから勘弁して下さい」

 アレウスは項垂(うなだ)れつつ、料理を胃に放り込む。

「それより、隊列について助言をお願いします。猟兵が前衛、僧侶が中衛兼前衛、後衛に術士と射手。この感じで問題ありませんか?」

「縦に隊列を組むのならばそれでよろしいですわ。けれど、わたくしは団子状に動くのが得策と思いますわね」

「何故です?」

「ダンジョンは行く先がハッキリしておりますわね? ですが、この世界に行く先は無限にあるんですのよ? 東西南北、どこへ向かおうか。どこから襲われるか。それを気にして一々、縦の隊列を維持し続けるのは至難ですわ。そうなるぐらいなら、縦一列ではなく二列にしてしまいなさい。一列よりも纏まりが出来て、あらゆる方向からとは言い切れませんものの対応が早くなりましてよ」

「……一理あります」

「それに、襲撃された際はキャラバンに乗っている冒険者との協力隊形――アライアンスが重要となりますわ。自身のパーティを守るために隊列を重視し過ぎて、他のパーティを守れないことがあってはリーダーの資質を問われてしまいましてよ。重々に承知することですわ」

「分かりました、気を付けます」


「気を付けるだけでどうにかなるわけではなくってよ。ちゃんと考えて……」

 そこでクルタニカは黒衣の女性を見つめて、すぐになにかを理解してから小さな溜め息をついた。この二人はもしかすると、ここで初めて会った仲では無いのかも知れない。

「……まぁ、下賤な輩を含めて、あなた方とはなにかと縁があるみたいですわ……だから、ちょっとぐらいならわたくしがカバーさせて頂きますわ。それと、あなた」


「はーい」


「今はなんと名乗っておられるのです?」

「シオンでーす」

「あまり無鉄砲な行動はお控えするのですのよ? 一体全体、どうしてこんなことに興味を抱いたのか全くわたくしには分からないんですが、それがあなたがお決めになられたことならば文句は言いませんわ。ただ、死ぬのだけは勘弁願いましてよ。それはあなただけでなく、この場に居る全ての冒険者に言えることですわ」

 クルタニカにしては随分と困ったような表情を浮かべてはいたが、食事の進み具合は順調のようで、アベリアと同じタイミングでお代わりをしていた。その後もあまり踏み込まない程度の話題を出し、軽く笑い、軽く盛り上がりつつ、夕食の時間は終わった。


 食事の後片付けを終わらせたのち、馭者は早くに眠りに就き、夜の番は馬車ごとに決められた。アレウスたちは二番目となり、それまでは仮眠を取り、冒険者が起こしに来てからはアベリアに薪をくべてもらうこととし、アレウスたちはランタンを片手に分かれて見張りを行った。ニィナは馬車が違うので三人での見張りとなる。アレウスが率先して二方向の見張りを担い、時にヴェインに肩代わりしてもらって時は過ぎた。


 新調し直した、安物だが頑丈な懐中時計で時刻を確かめ、また魔物の気配は無かったために三番目の馬車に入って冒険者たちを起こし火の番を繋ぐ。


「明日も、こうだといーよねー」

「明日は早朝に出発して、昼の前には生き残った村人が隠れ潜んでいるところに着きます。そこから先は覚悟しなきゃならないでしょう」

「そだねー……旅行気分もここまでかー」

「早く寝てしまいましょう。眠れなかったら眠れなかった分、疲労に出ます」

「……君は、なーんにも聞かないんだねー。偽名であることもさー、あたしが黒衣を纏っていることとかもさー。なーんにも疑わない」

「疑ってはいますよ。でも、誰にだって隠し事はありますから。それはあなたが言ったことじゃないんですか? だったら、僕たちは互いに踏み込まない。どちらかが、なにか重大な秘密を明かすその時まで。まぁ、今回限りかも知れませんからその機会は永遠に訪れないかも知れませんが」

「……ホント、面白いヒューマン。それじゃ、お休みー」

 シオンは早足で馬車の中へと入って行った。


「あの人」

「ああ、ヒューマンじゃないだろうな。目元以外は帽子と布で隠してしまっているし、それ以外は分からないけど」

「良い人だとは思う」

「珍しく警戒が薄めだな」

「なんだろう……物凄く、精霊に愛されている感じ……ただ、あの人自身はそれに全く気付けていない……気付けないように、なっているのかも」

「邪推はあまりするな。さっきそういう話をした」

「分かった。ヴェインは用を足したら戻って来るって」

「じゃ、アベリアは先に馬車に。僕は待っているよ」

「うん。お休み」

「お休み」


 その後、用を足したヴェインと再会し、二人で静かに馬車に忍び込む。異性二人が寝静まっているところに入るのは、どうにも背徳感があったのだがヴェインは紳士的に椅子に座り、瞼を閉じる。その瞼の裏にはエイミーが居るに違いない。アレウスは煩悩のようなものを感じつつも、やはり「なにか違う気がする」と心の中で呟いて、一切二人に手を出そうという気にはならずに同じように椅子に座って、眠りに落ちて行った。

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