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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第14章 前編 -国外し-】
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ものともせず

「聖者と呼ばれても実感は湧かないな。俺は俺だし、いつも通りで変わらない」

 でも、とヴェインは付け足す。

「こんな俺でも神に認められたことは嬉しい。けれど、これで神様からの試練が終わったわけじゃない。でも、なんで俺に蘇生魔法を唱えようと思ったんだい?」

「お父さんに言われていたんです。真っ直ぐで、決して憎まず決して妬まず、決して諦めない。そういう人を見つけたのなら、生きてほしいと願いなさいと」

「それはアレウスの方が相応しいと思うけど」

「復讐を求めている人には相応しくないので……まぁ、気にしないでください。私がヴェインさんに好意を寄せているだとかそういう話ではないので」

「そりゃそうだよ。アイシャさんはアレウスと相性が良いんだから」

 アイシャは思い切り咳き込む。

「こんなときに冗談は言わないでください」

「冗談ではないんだけど、アイシャさんの心を掻き乱している暇はないんだった」

 全能感は無いが、『悪魔』に対してのみ絶対的な優位性をヴェインは感じざるを得ない。それほどに祓魔の力が自身に満ち溢れている。だが、この場にいる全員に自身の祓魔の術を届かせることはやはり難しい。


 カプリースに言われていたことを思い出す。


「この周辺のはず……間に合ってくれるといいけど」

 そう言いながらヴェインは鉄棍で地面を打つ。

「“清めよ”」

 波紋のように祓除の魔法がヴェインを中心に広がっていき、やがて消える。


「危ないところじゃった!」

 空中に幾つもの水球が生じ、それらを経由してクニアがヴェインの前へと着地する。

「助かったぞ」

「感謝は後回しです、クニア様」

 カプリースがクニアと同じように水球を経由して現れる。水の羽衣を見てハゥフルの女王は察し、彼と数秒だけ手を繋ぐ。

「さぁ、参ろうか!」

 水のドレスを身に纏い、クニアはその場で回転を始める。その足元に水が渦巻き、竜巻のように大きく高くなりながら彼女を押し上げていく。

「『海より出でる悪魔(リコリス)』!」

「全ての呪詛を流し清めよ!」


 通常であればカプリースのアーティファクトは穢れた水流を起こし、辺り一帯を押し流す。しかしそこにクニアが練り上げた水の竜巻が混じることで『継承者』と『超越者』の力が混ざり、穢れを祓う波濤へと変わる。

 祓魔の波はヴェインたちをも覆い尽くすが不思議なことに体が押し流されることはない。呼吸も可能で、アイシャの体に纏わり付いていたカプリコンの呪詛だけが目に見えてはいても身体に影響を及ぼさない波濤に押し流されて、祓われている。それはその場だけに起こっていることではなく、カプリコンへと立ち向かいながらも呪詛によって身動きを取れなくなったありとあらゆる種族、そして仲間たちにも及んでいる。


「どうじゃ?」

 自らが起こす水の竜巻の上で成果について褒めてもらおうとカプリースへとクニアは問い掛ける。

「さすがです」

「じゃろ?」

 褒められて喜ぶクニアにカプリコンが拳を振りかぶる。


「振り撒いた呪詛を一瞬で取り除く存在を脅威と捉えて俺より先に、か」

 ヴェインはカプリコンの行動理由をアレウスのように呟く。

「でもそれはちょっと俺を低く見積もりすぎだよ」

 鉄棍が地面を打つ。

「“制約を与える(リストリクション)”」

「無茶です! 『鐘の音』でもほぼ止まらなかったカプリコンを拘束することはでき……な、い?」


 巨大な光の鎗が数本、天上と地上より突き出して、カプリコンの両腕を、体を、両足を貫き身動きを取れなくする。振りかぶった腕はそのまま止まり、クニアには届かない。


「維持……できてるんですか?!」

 カプリコンが全身の筋肉、そして力を高めているように見えるが光の鎗は一本も異界獣の身からは抜けず、そして外れない。むしろ無理に動こうとすると貫かれた部位から引き千切れるであろう兆候すら見えている。

「古き者を祓うは古き力。そんな風にシンギングリンの副神官も言っていなかったかい?」

「えと……ガルダと戦ったあと、クラリエさんから教えてもらっています」

 シンギングリンの副神官がどのようにして『悪魔』と化したカモミールを祓ったのか。そのことをアイシャはクラリエから聞かされている。だが副神官のように『悪魔』を祓えるようになるには途方もないほどの修練が必要になる。ヴェインはその途方もない部分を省略している。

「なんだかズルをしている気になってしまうな」

「神様が『悪魔』の権化を祓えとお命じになられているのです。何一つとして後ろめたく思うことはありません」

 自身の力が引き上げられていることをどうやらヴェインは疎ましく感じているらしい。アイシャからしてみれば喉から手が出るほどに欲しい力だが、恐らくは欲しいと思った時点で自身には一生手に入る力ではないのだろうと感じる。


 ガルダが、ハゥフルが、エルフが、そしてドワーフが堰を切ったようにカプリコンへと怒涛の反撃に出る。動けないままの異界獣は呪詛を振り撒いているが、カプリースのアーティファクトとクニアの舞がひたすらに纏わり付く呪詛を祓い流しているため、一切の効果が及ばない。


「まだ百人も石化させていないのに、使えないな」

「さっきは褒めていたのに。思い通りに行かないからって苛立ってどうするの?」

 思うように動けないカプリコンを見て、そう吐き捨てるルーエローズにリゾラが手に集めた魔力で作り出した大鎌を振り抜く。『滅眼』が大鎌を貫き、刃が消し飛ぶ。

「それは君の方だろ。この祓魔の力が充満している範囲で君が扱う全ての魔物は等しく清められてしまっているじゃないか」

「確かにこの範囲じゃ私は魔物を使役できそうにないけど」

 刃を再生させてリゾラはあくまでもルーエローズよりも格上であるという態度を崩さない。

「魔物を使えないからって私があなたに及ばないとは微塵も思わない」

「この、」


 罵詈雑言を浴びせようとしたところで、天上に開いたままだった“穴”から二筋の炎の輝きが吐き出されるように落下する。


「異界獣を二匹も喰ったカプリコンの異界だぞ!? 自ら堕ちて、こんな短期間に戻ってきたっていうのか!? それも、」

「それも『信心者』を殺して?」

「くっ!」

 先に言われてルーエローズは心底、忌々しそうにリゾラを睨む。しかし彼女はルーエローズとは目を合わせることなく、そして物陰に身を隠す。

「あぁあぁああ! あぁもう!! 鬱陶しい!!」

 ルーエローズは周辺を片っ端から『滅眼』で消し飛ばし始める。

「邪魔邪魔邪魔! なにもかもが邪魔! こんな薄っぺらい魔力で編み込まれた虚像の街なんて! ぼくの眼で全て消し飛ばしてやる!!」

 幻想のシンギングリンが崩壊を始める。


「おい、ワラワと貴様、そしてあの(わらべ)の魔力が不安定になっておる。『魔眼収集家』のせいでもう維持は出来んぞ」

 リリスがカプリコンから注意を逸らさないまま事実だけをカプリースに伝える。

「出来ないなら崩してしまっていい。もう騙す相手は騙し切った。こっちも虚像に回す魔力はない」

「ならばこのまま崩すぞ」

 そう言いながらリリスは『接続』の魔法を唱える。

『これより虚像を崩す。これらの街には質量がある。巻き込まれんようにせよ』

「そういうのは先に言ってよ!」

 リリスに向かう尖兵を三匹ほど矢で連続で射抜いて、崩壊する屋根の上からニィナが飛び降りる。

「元気にしておったか?」

「元気だと思う?」

 直前に足を引っ掛けてしまい、まともな着地ができそうになかったニィナだったがリリスが髪で拾い上げて優しく降ろす。

「言い返せるのであれば十分じゃな」

「なに? 聖女様から様子を見に行くようにでも言われたの?」

「言われておらん。じゃから先ほどのは、ワラワの個人的な質問じゃった。違う道を歩むことにはなったが、同じ『不死人』。少しは気にしても良かろう?」

「そりゃどうも」

 深く、そして長くは相手にしたくない。そんな意思を込めたニィナの返事にリリスが姑息に笑う。


 カプリコンが光の鎗から自らの四肢を引き千切るようにして逃れる。その負傷もすぐさま自らに流れる魔力で修復していくが、周囲に満ちた祓魔の波濤がその再生を遅らせる。


「攻めるならここ!」

 クラリエは黄色の『無衣』を発現させ、イェネオスもまた『黄衣』で拳を強く強く固め、今にも大暴れしそうなカプリコン目掛けてその場で拳を打つ。

 拳状の黄色い巨大な魔力の塊を顔面に受けてカプリコンは仰け反る。すぐに頭部を降ろそうとするが、そこをクラリエが同じように放った拳の魔力を受けて今度は大きく仰け反る。

「姉上!」

「突き崩す!」

 ノックスとセレナが互いの手を合わせる。

「「善悪の彼岸より語れ」」

 カプリコンの真後ろの空間が捻じれる。

「「“深淵(アビス)”」」

 生じた巨大な力場が空気すらも吸い込む。その力場にカプリコンは抗えずに背中から、そして仰向けに倒れる。


「我ら機械人形がなくとも胸に秘めたる想いは同じ! 進め!!」

 ガルダの秘剣が倒れたカプリコンに降り注ぐ。

「ヴィヴィアン!」

 ガラハは走りながらドラゴニュートの名を呼ぶ。

「あなたに炎を与える」

 本調子ではないがヴィヴィアンの手から放出された炎はガラハの三日月斧に宿り、中に込められている妖精の粉と反応してバチバチと炸裂を始める。

竜刃(りゅうじん)()

 倒れているカプリコンに三日月斧を振り下ろす。

「“地祇(ちぎ)の鳴動”!!」

 地面を裂き、穿ち、駆け抜ける発破の刃が異界獣に直撃して大きな大きな爆発を起こす。炎に身を焼かれながらもカプリコンは上体を起こしに掛かる。


「させない!」

「でしてよ!」

 異界から戻ってきたアベリアと補助に回り切っていたクルタニカが飛翔して正面に出る。

「“魔炎の弓箭”」

「“氷界の天体”」

 幾本もの炎の矢が起き上がりを阻み、巨大な氷塊が砕け散ることなくそのままカプリコンへと落とされることで再び仰向けに倒れる。


「ヴェイン!」

 炎を纏いながらヴェインの元にアレウスがやって来る。

「僕の技に魔法を合わせられるか?」

「何度も見ているんだ。出来ないわけがないよ」

「……なんか、雰囲気が僕より強そうだな」

「少なくとも『悪魔』を祓う上では俺は君に勝てそうだ」

 その返事にアレウスはニヤリと笑う。

「行くぞ」

「俺は詠唱がある。君が合わせてほしい」

「分かった。アイシャとニィナは周囲の尖兵の掃討を頼む!」

「はい!」

「人使いが荒いのよ!」

 アレウスが駆け出したのを見てヴェインが鉄棍で地面を叩く。道中、蝙蝠の翼を携えたカプリコンの尖兵が行く手を阻むがアイシャの魔力の塊とニィナの矢が射抜き、彼の加速を止めさせない。

「“祈りたまえ(べーテン)”」

 カプリコンが両手で頭を抑えてもがき苦しみ出す。

 アレウスは跳躍して、合間にリリスの腕を掴んでアレウスは更に高くへと跳ぶ。そしてその上で待っていたカーネリアンに腕を掴まれる。

「もっと高くだ!」

 手の感触など感じる暇もなく真上へと投げ飛ばされる。

「“父と子と、聖霊の御名(みな)によって”」

 ヴェインが十字架へと祓魔の力を込め、その片手で十字を切る。

「獣剣技、」

 アレウスが両手の短剣を逆手に握り、真下に見える異界獣へと身を丸めるように一回転しながら降り抜いた。

「“火天の牙・咬合”!」

 放たれた炎の飛刃はカプリコンへと迫る中で蛇を模し、大きく大きく顎を開く。

断罪せよ(ジャッジメント)

 ヴェインの祓魔の魔法がアレウスの獣剣技と重なる。


「「合祓(ごうばつ)聖十(グランド)字斬(クロス)!!」」

 気力と魔力を受け、白蛇となった獣剣技がカプリコンの腹部に()み尽き、そこを起点として十字の輝きが異界獣の肉体から噴き出す。

 落下の勢いを込めてトドメとばかりにアレウスが短剣を胸元へと突き立てる。

「“アーメン”」

 瞬間、カプリコンの肉体に十字の亀裂が奔り、激しく痙攣したのち端から塵へと化していく。


「異界獣もこれだけの『継承者』と『超越者』が揃っていては役に立たないか。そもそもシロノアの読みが外れたんなら仕方がない」

 舌打ちをしつつ、ルーエローズが片手に眼球を取り出す。

「ひとまず君の生死は未来のぼくに委ねるよ。さようなら、選ばれなかったリゾラベート・シンストウ」

「ええ、そっちも元気でね。選ばれなかったルーエローズ・ルーエ」

 眼球を握り潰し、生じた空間の境界に『魔眼収集家』は飛び込む。歪んだ境界の狭間はそのまま閉じて消えた。

「……今、会いに行くのは後回しでいいかな。アンソニーとフェルマータが先」

 遠くに見えるアレウスへの会いたい気持ちを抑え込み、リゾラはシンギングリンへと向かった。


 そんな彼女の存在を感知しつつも追い掛けず、アレウスは短剣を鞘に納めて未だ塵へと変わっている最中のカプリコンの体から降りる。

「まだ消えている途中だから油断は出来ない。誰か見張っていてくれると助かる」

「俺たちに任せてほしい」

「パルティータ? あぁ、そっか。来ていたのか」

「『異端審問会』のせいですよ。奴らが群れに来なければ俺もシンギングリンを保護すると言いながら制圧しようなんて考えませんでしたから」

「シロノアは僕の思った通りの手を取ったわけか。ともかく、よろしく頼む」

 パルティータと獣人たちがカプリコンの四方八方へと散って警戒に移る。

「カプリコンとの一戦で死者も出てしまった。でも、各々の種族の思惑がある中でカプリコンを前にしたとき、一つに纏まってくれて本当に良かった」

「なにを言っているんですか」

 溜め息交じりにイェネオスが言う。

「あなたの姿が見えたから、或いは私たちにとって大切な人の姿が見えたから纏まることができた。私たちは思った以上に、まだまだ自分たちの種族以外を知ることができていなかったみたいです」

「そうじゃな。手を取り合うことよりも争いをわらわは選んでしもうた。それもこれも、信じ切れていなかったからじゃ」

「事態が落ち着いたあと、交流会を開いてはいかがでしょうか? 各々の流儀があることは承知していますので、堅苦しくない形式を望みますが」

 セレナの提案に対して、全員がやや難色を示す。

「そうすぐに叶えることはできないだろう」

 最初にカーネリアンが発する。

「互いに互いの考え方があり、誇りや矜持がある。それらを歪めてまで交流会を開こうとしても誰も付いてはこない。一考はしよう。ただ、それよりももっと分かったことがある。私たちは価値観や観念が違っていても、一つの敵に対してなら纏まることができる」

 カプリコンの支配下から解放された機械人形たちが契約主のガルダの元へと帰り、エキナシアもカーネリアンの傍に寄り添う。

「現状、アレウリスがいる場合に限ってのように見えるがのう」

 リリスはなにもない空中でケラケラと笑いながら言う。

「連合の聖女様が『不死人』を遣わしてくれるとは思わなかったよ」

「シンギングリンはなにかと渦中に晒されることが多いんでのう。盗み聞きは常々に出来るようにしておった。まぁワラワがここに来たのは聖女様に願ってのことではあるが」

「そのことも織り込み済みだったんだよ、僕は。きっとカプリースやオルコス様、もしくはオルコスに頼んでレジーナさんも似たようにシンギングリンを見聞きできる状態にしていたと考えていた。でなきゃ虚像――幻想のシンギングリンで騙しに掛かろうなんて大掛かりなことさえ思い付かなかったんだから」

「さすがに僕はアレウスに手の内を晒し過ぎたな。『奇術師』と呼ばれた僕も種明かしをしたあとでは読まれやすい。まぁ、僕の水魔法を夢で構成して、それをジュリアンの糸で繋げさせるというのは僕ですら考えられない手法だった」

 お手上げだとカプリースは大きなリアクションを取る。

「承知の上で帝国へ向かい、即座に帝国から帰ってきたと。それも全て『異端審問会』を出し抜くためですか?」

 イェネオスの問いにアレウスは肯く。

「引き返すと決めたのは皇女様を禁足地に連れて行くときだった。あのとき、僕の思考はアルテンヒシェルを手助けする方に傾いた。でも、そうやっていつも僕は、僕たちは『異端審問会』に先手を打たれて苦しい思いをしてきた。だからこそ、心苦しい判断をすることで『異端審問会』に楔を打つ最初の一手――つまりは先手を取った。それこそ反撃の狼煙としての最初の一手を」

 だから『信心者』も『魔眼収集家』も出し抜き、一人は殺すまでに至り、そしてカプリコンまで討伐できた。

「この大人数だし、異界獣が見えたときも死者は出るだろうけど討伐できないとは思わなかった。だからって犠牲を軽く見ているわけじゃない。ちゃんと死体は回収して『御霊送り』もする。そこからは種族ごとの弔い方に任せることになるけれど」

 もしもここにアレウスが来ていなかったならば、死者数はもっと凄まじいことになっていただろう。

「重く捉えるな。他種族と争い合って死ななかった。守るために戦った。それは誇りを穢さずに済んだということだ」

 カーネリアンに言われて、アレウスは溜め込んでいた息を大きく吐いた。

「私も、ガラハの姿を見つけられたから止まることができた。ハゥフルとその女王様が水魔法で炎を防いでくれたからだけど」

「エルフの書庫ではよく話をした仲じゃ。正気ではないことは見て取れた。しかし、悪質な噂を流すものじゃな。わらわとて、カプリースが死んだと聞かされれば情緒を失い、自暴自棄になるじゃろう」

 ヴィヴィアンの所業をクニアは寛大な心で許す。

「今回のシロノアの狙いは僕たちの不和による同士討ちだった。それぐらい僕たちがシロノアにとって無視できない要素になってきたんだ。帝国の『魔物研究』も、連合には知られてしまっているはず」

「そこは聖女様の腕の見せどころじゃのう。悪いようにはならんよ。連合の領土に入ってさえいなければ……」

 リリスは言いながら遠くを見やる。

「しかし、もし入っていたならば……そして反撃の狼煙に使った代償は大きいぞ? 分かっておろう?」


 アルテンヒシェルの手助けに行かなかったのなら、彼は今頃、白騎士や皇帝の前に屈しているだろう。そのまま驀進(ばくしん)したならば、もはや皇帝は連合の領土に足を踏み入れているかもしれない。


「……あの、先ほどレジーナから連絡があったのですが」

 言い辛そうにイェネオスが切り出す。

「アルテンヒシェル様とオーネスト様が、白騎士と皇帝と相討ちになったと……これは、別の意味でマズいのでは……?」

 それを聞いてリリスがこれでもかと大笑いする。

「どうするんじゃ、アレウリス? ここでの発言、判断を見誤れば貴様は自らが救い出した皇女に処刑されるぞ? 追い返して死ぬのではなく相討ちとは! 『大いなる至高の冒険者』の称号も伊達ではなかったということじゃな」

 全員がアレウスの発言を待つ。


 長く悩み、アレウスはゆっくりと口を開いた。

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