雄鶏
クラリエとノックスによれば百合園にユニコーンの姿はなく、代わりに複数体のガルムが隠れ潜んでいるらしい。百合園で活動していたことで魔力を蓄えており、マーナガルム化している。場合によっては終末個体化も考えられるようだ。
「バジリスクは?」
「見える範囲ではマーナガルムだけだ。感知した数とは合ってねぇから他の魔物がいるのは確定だ」
アベリアの問い掛けにノックスが答える。
「地を這われては目視は困難でしてよ」
「でもバジリスクって普通の蛇よりずっとずっと大きいんじゃ? 百合の花が咲いているって言っても、隠れられるほどではないと思うけど」
「あたしもそう思ったんだけどねぇ……百合園があたしの想像と全然違った」
「わたくしも文献を見て知っている程度でしてよ。百合園で花の回収依頼は女性冒険者限定であったり、男性冒険者が護衛に付いても結局は百合園に入れるのは女性だけですから」
「ならあたしと一緒でクルタニカもビックリとすると思う」
実際に見て驚いてほしいからなのかクラリエは見てきた百合園の全容について伏せている。
「それもこれも前衛と後衛で男女が分かれやすいからです。前衛は男性、後衛は女性というイメージが私の中にもあって、前を張る女性像はクラリエさんやノックスさん、そしてカーネリアンさんに会わないと思い描けなかったので」
「筋力、体格、忍耐力。そういったものを加味するとどうしても前衛を男が担っちゃうよ。と言うか男が前に出たがりなんだよ。ヴェインやジュリアンみたいに後ろで構える男の方が少ない」
アイシャの推察にニィナが印象を述べる。
「そういう点では運が良いよねぇ、あたしたちは。パーティ編成をそこまで崩さずに百合園に入れるんだから。アレウス君とガラハがいないのは痛手だけど」
「二人がいないのは痛手というより致命的」
「そうだねぇ。まぁでもこういう編成の偏りも経験していた方が絶対に後悔することはないと思うよ」
アベリアの指摘にクラリエは素直に肯きつつも前向きな意見を出す。
野営地点から十五分ほどで百合園が見えてくる。しかしながらクラリエが言っていたようにそれはアベリアが想像していたような花の園ではなく――
「密林……?」
青々と茂る草木。五分経った時点でもう見えていたのだが、まさかあの景色のところが百合園ではないだろうと思い歩を進め、しかしながら二人の進む先が一直線であったため、とうとう受け入れざるを得なくなってしまった。
「名付け主をぶん殴りたくなるよな」
ノックスはアベリアが思ったことをそのまま言葉として表す。これは花園でも百合園でもない。寒冷期の景色に似合わない密林地帯だ。だったらこれはもっと別の名称で呼ぶべきではないのだろうか。
「百合園は侵入者を感知すると徐々に形を変化させると文献にはありましてよ。こんなに変わるとはわたくしも思いませんでしたが」
さすがのクルタニカも見えている密林に呆けている。
「だからバジリスクを目視できなかったんでして?」
「そういうワケ。しかも百合園って魔物でしょ? そこにハウンドたちまでいるってなるとかなり危険じゃない?」
「クルタニカは危険な依頼じゃないって言ってた」
「責任を押し付けるのはやめてください。でも、言ったのは事実ですわ。だから確認を取りますわ。この百合園の依頼を達成困難と判断して帰るか、それとも達成可能だと信じて進むか。こんなに変化するとはわたくしも思ってもみなかったことですから」
その問いに対して誰も首を縦には振らない。
「やる前から諦めたくはないんだよねぇ」
「困難かどうかは入ってみてからでも遅くないと思うわ。入ること自体が危険なのは分かっているけど」
クラリエとニィナの言葉に全員が肯いたのを見てクルタニカが呼吸を整える。
「では、心して臨みましてよ。さすがに見守り役は放り出しましてよ」
百合園がその言葉の意味のまま、花園のようなものであればクルタニカは事前に言っていたように見守り役として戦闘には参加するつもりはなかったのだが、まさかの密林であったために考えを改めたようだ。
「“灯りを”」
密林の傍で、まずは内部の様子を窺う。だが木々の枝葉が日光を遮っているため内部は薄暗く、足を踏み入れることさえ躊躇ってしまう。そこでアベリアは詠唱によって光球を起こし、鬱蒼とした密林の内部へと送り込んでまずは行く先を照らす。
「白、赤、青、黄の花って見分けが付くの?」
「レジーナの家に行ったとき、鈴の形をした花が光っていたの憶えてる? あんな感じで魔力を帯びた百合の花も光っているはず」
だが、記憶が確かなら薄ぼんやりとしか辺りを照らしはしていないはずだ。
「だったら“灯り”の魔法を唱えたのは早計過ぎたかな」
近場に光球があると花の光が目立たなくなってしまう。
「いいえ、花を探す苦労よりもわたくしたちの足元の方がずっとずっと危ないんでしてよ。アベリアの判断は適切ですわ」
やや湿っており、そしてぬかるんでいる。粘土層のように踏み込むとゆっくりと靴が沈んでいく。まだ足先が沈むだけだが、この先で膝まで沈むようなことがあれば『沼』の魔法のように脱出は難しくなる。これはいわゆる底無し沼――流砂の性質に似ている。
「あたしとニィナは上から行くねぇ」
その場合、全員が流砂に足を取られると誰も助からない。誰かは外側から引き上げる手段を持っていなければならない。クラリエとニィナが木々を辿れるのなら、そうしてもらった方が良い。
しかし、そこまで事態が大事になれば魔法での脱出もやむを得ないだろう。依頼の遂行よりも命の確保が重要なのだから。
「ま、滅多なことで危ないことにはならねぇよ」
ノックスは足元の感覚を確かめるようにして歩いている。
「分かるの?」
「沈み方でな。ヤバかったら足が沈み切る前にワタシが飛び退く」
やはりノックスが先頭で正解だ。彼女の野性の勘と足先にまで至る驚異的な感覚はアレウスのように罠を感知する技能にまで達しているだろう。流砂は罠ではないが、命の危機には変わりないためその技能も機能するはずだ。
「これ、暗すぎて私たちが目隠しするのはパーティに負担が掛かりませんか?」
「全滅するか全滅しないかの違いでしてよ。わたくしたちはぬかるみに足を取られるよりも全員が石化する事態を避けることが重要なんでしてよ」
アイシャはどうにも足元が覚束ないがクルタニカは目隠しをしていても安定して歩けている。野営でアベリアも目隠しの布を試しに付けさせてもらったが、生地が薄かったため視界が真っ暗になったりなにも見えないということはなく、なんだかんだで外の景色を薄暗く見ることぐらいはできた。だが、百合園の薄暗さを付け加えると、アイシャではほぼ視界不良に近いはずだ。
「私の手、取って?」
「良いんですか?」
「良いもなにも、危ないから」
アイシャが遠慮していたためアベリアが彼女の手を自分から取り、一緒に百合園を進む。魔物と戦う前に思わぬ苦労だ。
「そこを越えた先にある木の陰に隠れて。マーナガルムがいるから」
クラリエが上から小声で伝えてきたためアベリアたちはぬかるみを越えて、その泥を払う間もなく素早く木の陰に身を隠す。
「終末個体化前のガルムってあんな感じなんだ」
目は血走っており、表皮は黒く染まっている。体毛はほとんど黒毛に覆われているが、真っ白な体毛も混じって三日月を表現しているようだ。体のどこもひび割れが見え、体内に蓄積された魔力が赤い光を放出している。
唸り声は深く重い。狼と同等だったガルムよりも、もはや猛獣のそれである。なによりとても荒々しい。マーナガルムたちは群れを成してはいるものの、常に互いを威嚇し合っており同胞にすらいつでも飛びかかるような攻撃性を見せている。
「これだけ近付いているのに人の臭いに気付けていないの?」
「百合園にいるからですわ。周りを見れば一目瞭然ですが、百合の花に限らず様々な花が咲いていてその香りが嗅覚を麻痺させているんでしてよ」
「通りでさっきから気分が悪いわけだ。ワタシも鼻が馬鹿になっているから、嗅覚で魔物を感知することはできねぇぞ」
「それは感知の技能にどれくらい響く?」
マーナガルムの様子を窺いながらアベリアはノックスに訊ねる。
「そこまでじゃねぇ。ワタシたちは森でも活動できるように花の香りに耐性を付けている」
「耐性……耐性? え、待って。ねぇ、ノックス? あたしたちは大丈夫だけどみんなは」
クラリエが木から降りてまずアイシャの顔の前で手を振ってみる。
「マズいな。香りのせいで意識が朦朧としている。気付け薬を嗅がせて起こさないと」
「私にも頂戴。人より鼻が利くの」
ニィナも木から降りてくる。鼻と口を布切れで覆い凌いではいるが、クラリエはその様を見て迷わず小瓶を渡す。小瓶の封を解き、漂う香りを嗅いで彼女は大きく仰け反ったのち、頭を正面に戻して涙を流しながら小瓶を返した。香りはまだ漂っているためそれをそのままアイシャに嗅がせると、彼女もまた声を発することはしなかったが、鼻を摘まんで涙をポロポロと流す。
「アベリアは大丈夫でして?」
「今のところは大丈、」
『あなた、今日はアベリアの誕生日ですよ? 研究も今日一日ぐらいはお休みになってください』
とても懐かしい声がした。心の底から安心できるような温かな声だ。ずっとずっと聞いていたい声でもある。
「お母さ……?」
「なりませんわ! アベリア!」
ふわふわになった脳内に、唐突にクルタニカの大声が響く。
「そんな大声を出したらマーナガルムに気付かれ……え?」
木の陰に隠れていたはずなのに、マーナガルムの群れの正面に自ら姿を晒してしまっている。もはやクルタニカの大声どうこうではなく、魔物はこちらを視認し臨戦態勢を取っている。もし彼女が止めてくれていなければ自らマーナガルムに身を捧げていたかもしれない。
どうやらアベリアにとっては数秒の幻聴だったが、我に返ったときには十数秒が経過していたらしい。未だ頭の中が不安定であるアベリアに素早くクラリエが近付き、気付け薬を嗅がす。その機転のおかげで幻惑からは完全に逃れ出ることができた。
「アベリアちゃんが元に戻ったのは良かったけど、かなり危ないことになっちゃった」
しかし、二人してマーナガルムに捕捉されている。クラリエは一人でも逃げられるが、アベリアは『原初の劫火』無しではこの群れから下がり切ることはできない。だがただ突っ立っていてはマーナガルムの餌になるだけだ。刺激しないように背中は見せず、後退を行う。猛獣への対処と同様であるが、魔物は大声を発しての威嚇は逆に攻撃行為と捉えて襲い掛かる傾向がある。しかし、静かにしていたところでいずれマーナガルムは襲ってくるだろう。
つまりはタイミング。魔物が駆け出す瞬間、アベリアとクラリエも全速力で駆け出す。追い付かれる前にニィナの矢を頼り、ノックスの短剣と爪を頼る。それしかない。幸い、百合園は密林へと形を変えている。マーナガルムにとっても走りやすい環境ではなく、アベリアとクラリエを囲うために回り込むこともできない。
「あたしが走れって言ったら走ってね。もうノックスちゃんが飛び出す準備をしているし、ニィナちゃんが最初に飛びかかるマーナガルムを射抜く構えは取っているはずだから」
「うん」
冷静に、落ち着いて、呼吸を整えつつ、一歩ずつ後退する。
ゆったりとしていた時間が終わりを告げて、空気が割れるような咆哮をマーナガルムが上げながら一斉に二人へと駆け出す。
「走って」
瞬間、僅かにクラリエの指示が出遅れる。だがもはや四の五の言わず、全速力で走る。
「させないから!」
アベリアの背中を爪で切り裂こうと跳躍したマーナガルムの喉元にニィナの矢が突き立ち、地面に落ちる。振り返りもせずにアベリアは走って、クルタニカが手で誘っている木の陰へと滑り込む。同時にノックスが飛び出して、未だ向かってくる複数匹のマーナガルムを短剣と爪で切り払い、初手の猛攻を凌ぎ切る。
「ごめん!」
「わたくしも幻惑に掛かってしまっていましたわ。クラリエがわたくしを優先したからアベリアが前に出てしまったんですわ」
ノックスの正面にクルタニカが無詠唱で魔力の障壁を張る。喉を矢で貫かれても悠然とマーナガルムは立ち上がり、そしてノックスが切り払った複数匹もすぐさま起き上がって魔力の障壁へと構わず体当たりを行っている。
「マーナガルムがこれだけいると、無詠唱の障壁では抑え込めませんわ。壊される前にノックスは隠れるんでしてよ!」
「馬鹿言うな! こいつらはワタシを今は標的にしている。ワタシが隠れたら標的が散り散りになるだろうが!」
全てのマーナガルムはノックスを喰い殺そうと必死に障壁を壊そうとしている。そのためノックスが気配を消して、更には姿まで消すと自ずと標的は気配消しを行えないアベリアやクルタニカ、そしてアイシャとなる。標的が三人になれば守る対象がバラけてしまう。一丸とならなければマーナガルムの群れを仕留められない状況下で守備が乱れればそのまま崩壊に繋がる。
「こいつら、さっきから急所を射抜いているのに死なないんだけど!」
木の上でニィナが叫ぶ。
「蓄積した魔力がすぐに縫合されているんでしてよ。終末個体はひたすらに蓄積した魔力で自壊し続けますが、マーナガルムはまだそこに至っていません。よって、魔力による治癒が強く働く状況にあるんでしてよ」
魔力の障壁が砕け散るが、アイシャがクルタニカの代わりに二枚目の魔力の障壁を張ってマーナガルムの攻撃を阻止する。
「百合の花を探すどころの話じゃないですよ。一旦、出直した方がいいんじゃないでしょうか」
「でしてよ。香りによる幻惑対策を怠ったわたくしの責任ですわ。みんな速やかに百合園から離脱を、」
「待って……待って待って待って待って!! なんか来るんだけど!」
クラリエの悲鳴に合わせるように地鳴りが起こり、密林の木々を次々と押し倒して薙ぎ払いながら巨大な雄鶏が鳴き声を上げながらアベリアたちの前に現れ、マーナガルムをその足で蹴り殺す。全てのマーナガルムが一斉に巨大な雄鶏へと向かうが、やはり足で踏み潰され、嘴で四肢を貫かれ、更には尾から伸びた蛇の頭が噛み付いて殺していく。
「なんだあれは?!」
「あの蛇はバジリスクですか!?」
ノックスとアイシャが驚き、同時に震えている。
「バジリスクは巨大な蛇の魔物ですわ。だからあれは新種の魔物でしてよ!!」
「違う、待って。あれがバジリスク」
「なにを言っているんでして、アベリア!?」
「帝国で目撃されているバジリスクは蛇だけど、王国寄りで目撃されているバジリスクは巨大な雄鶏で尾が蛇なの。この前、新王国で古書店に寄ったときにアレウスが魔物の考察本を買って読んでた」
「意味分かんないんだけど! もしかして種別が違うのに国ごとで同じ名称を付けちゃったってこと?! それで王国寄りで出てくるバジリスクが帝国の、しかもこの百合園に現れたってこと!?」
ニィナが木々を押し倒されたのでたまらず地面に降りて、動揺から声を荒げる。
「うん、だからアレウスは雄鶏のバジリスクを別名で呼ぶって言ってた。それが、コカトリス」
「コカトリス……王国寄りではこれがバジリスクと呼ばれているんでして? なら、その性質は……」
「バジリスクとほとんど変わらない。蛇か雄鶏か。でも、多分だけど蛇を相手にするよりずっとずっとこの尾が蛇の雄鶏を相手にする方が大変だと思う」
「マ、ズい! 下がれ! アイシャも障壁を解いて下がれ!」
「はい!」
雄鶏――コカトリスの凶暴な足では魔力の障壁を足で破壊し、対面を諦めたノックスを嘴で狙う。彼女は紙一重でかわし、続いて尾の蛇の一撃すら避けてみせる。
「目を合わせては駄目!」
アイシャが叫ぶも、ノックスは獣人としての本能として正面に立つ魔物――強者の意図を汲み取るために目を合わせてしまう。途端、彼女の体がゆっくりと石へと変わっていく。
「あたしとクラリエが注意を引くから解呪をお願い!」
ニィナはコカトリスの目を狙おうとするが、それはつまり目を合わせる行為にも等しいことに寸前で気付いて中断し、すぐさま草むらへと飛び込む。クラリエはコカトリスの背後を突くも、尾の蛇に気付かれてその牙が彼女の右肩を掠める。
「わたくしが解呪、アイシャは解毒をクラリエに! 彼女はダークエルフだから魔力量は強めに!」
「はい!」
「“解呪せよ”!」
「“解毒”」
ノックスの石化が解け、クラリエの体を蝕む毒が払われる。すぐさま二人は飛び退き、コカトリスから離れて大きく迂回しながらアベリアたちの背後から合流する。
「ありがと。体質のせいで魔力を多く使わせちゃってごめんね」
「いえ」
「あれ、毒じゃなくて猛毒。それも数分で死ぬ系統の致死毒だよ。多分だけどコカトリスの呼気からも毒が吐かれてる」
「どいつもこいつも辺りに毒を撒き散らしすぎ」
ニィナはヴァルゴの異界を思い出しながら文句を言う。
「“毒に耐える力を”」
アイシャの魔力が全員に放出され、薄い膜を張る。
「これで毒の息対策はできます。でも、注入される毒への耐性はありません」
「なんか既視感を覚えるわ……ううん、なんでもない」
首を振り、ニィナは自身の嫌な記憶を振り払うように自身の頬を叩いた。
「蛇の尾もそうだけど、コカトリスの全ての攻撃に毒性があるかも。それでいて目を合わせると石化」
「そこはバジリスクと大差ないんでしてよ。まぁ、こうも早くに面倒な魔物と遭遇してしまったことは想定外となってしまいますが」
地鳴りは未だ続いている。
「これ、目の前の魔物が歩いているから地面が揺れているんじゃなくてもしかして百合園が蠢いてんのか?」
足元の不愉快さにノックスが見解を示す。
「アレウスがコカトリスは草食の可能性があるって」
「え、じゃぁなに? こいつは百合園に潜んでいたんじゃなくって百合園を食べにやってきたってわけ?」
ニィナが話している間にコカトリスが狂ったように首を縦に振って嘴で地面を叩き割りながら歩き回る。しかし、こちらを狙っての行動が未だハッキリとは見えていない。
「縄張りかもな。こいつは百合園に生えている草を喰いに来ていて、マーナガルムはこいつがいない間に縄張りに侵入していたんだ。ワタシたちはまだ縄張りを荒らした痕跡を残していないからわざわざ攻撃してこない」
「でも尾の蛇はあたしを視認していたし攻撃もしてきた。次にまたあたしがコカトリスの縄張りに入ったら多分だけど大暴れする」
ならばここで取るべき手段は一つしかない。
「コカトリスを刺激しないようにしつつ、百合の花を探そう。もしかすると縄張りの中にあるかもだけど」
アベリアの提案に誰も異を唱えない。全員の意見が一致している。
石化対策も猛毒対策もあるにはある。しかしながらコカトリスを倒すリスクはあまりにも大きい。可能ならば避け、不可避であるのなら倒すこと考えずに花だけを摘み取る。この百合園は草木が生い茂っていることでアベリアたちだけでなく魔物の視野や活動できる範囲も狭めている。逆手に取り、リスクを遠ざける。
「さすがにあれを連携の練習や特訓相手にするのは馬鹿しかいませんわ」
リスティの課題をクリアすることよりも生存重視。クルタニカの言葉の真意はすぐに全員へと伝わった。




