表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第13章 -只、人で在れ-】
598/705

β-1 ゼルペスへ


 エルフの森を出てすぐにパルティータが派遣してくれた獣人の足を借り、半日ほど掛かりはしたものの無事に王国へと国境を越える。ここからは帝国側の獣人の力を借りることはできない。だから徒歩で新王国を目指すため、方角と方針を立てている最中にレジーナが王国側のエルフに通達してくれていたおかげで、馬を得ることができた。

「これだと明日の朝には新王国の領土を踏んでいるんじゃないかな」

 クラリエが馬を走らせながら言う。アベリアに手綱を任せ、彼女の後ろで地図を眺めながらアレウスは小さく肯く。

「そう上手く行くんなら俺だって苦労していないね」

 冷ややかにエレオンは言う。

「どこかしらの魔法使いには捕捉される。新王国には確かに俺の顔を見せれば簡単に抜けられるが、王国の領土内ではあんまり気を抜かないことだ。だが、帝国から出るのがあっと言う間だったって意見には肯いておこうか」

 それもこれもエルフの森を経由したためだ。獣人には決して立ち入らせない森の中を、レジーナの協力によって通行可能とした。森を進めば最短距離、そしてなにより草原や荒野を駆けるよりは王国の兵士に見つかり辛い。通る道は常にエルフの監視下にあったが、そこに文句の一つも零すことなく獣人はアレウスたちを運び届けてくれた。この移動速度は恐らく王国にとっては想定外であり、王国の魔法使いでも捕捉できたとしてもどこの勢力かを判断するには時間がかかるだろう。


 そもそも、勢力として数えることさえしないはずだ。少人数であり、戦場に向かっているわけではない。国内で活動している冒険者かどうかを照らし合わせている間にアレウスたちは新王国の領内へと足を踏み入れることができるはずだ。


「『賢者』のエルフたちは今、どの辺りを通っているんだろう。俺たちと同じように森から最短距離を通ったんだろうか」

「最短距離は俺の娘と言い張っているあの巫女が占拠していたじゃないか。つまりはあの森の通路は全て『賢者』の手中にはない道だったはずだ。だから、通るとするなら堂々と王国の領内だ。なぜなら、王国にとってはエルフの進撃は都合が良い」

 ヴェインの呟きをエレオンが拾う。エルフの動きに乗じてマクシミリアンが兵を動かした。だから新王国は二つの勢力と戦わなければならない状況に陥った。兵力を二つの勢力とぶつけるためにはどうしても分散させなければならない。どちらかに偏ればどちらかが押され、平均してしまえば兵力差で圧倒される。新王国にもリッチモンドとマーガレットの兄妹以外にも実力者はいるのだろうが、一騎当千の働きをしても、現状のエルフと王国の物量を打ち破れるものではない。


「ここから新王国が王国に潰されずに済む方法はただ一つ」

「イプロシア・ナーツェを止めて、種を植え付けられているエルフたちの洗脳を解く」

 アレウスの言葉の続きをアベリアが代わりに答える。彼女とは幾度となくこういったやり取りをしているが、いつも互いの言いたいことが外れることはない。目標も向いている先も、そのどれもがアレウスとアベリアは一致している。だからこそ、これまでもそしてこの先も頼り、信じることができる。

「エルフたちはイプロシアの手の内から解放さえされれば意識を失ってしばらくはなんにもできないはずだ。その倒れているエルフたちを根こそぎ始末するかどうかは姫さんに任せちまってもいいんだろうが、そこに至るまでの過程を任せ切ることはできないだろうさ」

 なんとかその状況になった場合、アレウスは王女に止めるよう進言するだろう。そもそも進言が許されるのかどうかが不安で仕方がないのだが、クールクース・ワナギルカンという王女が女王となったとき、今後の歴史上においてエルフを虐殺した残忍な王女として記録されるかどうかが決まる。

 実のところ、どうだっていい。王女のことなどどうでもいい。アレウスは王女と会話を交わしたこともほとんどない。知己の間柄では決してない。正直なところ、生きようが死のうがどうでもいい。だが、王女の生き死にをどうでも良くないと言う人のためだけにここまで来ている。リスティのためだけに、引くに引けないところまで来てしまった。自身がどんなに王女のことを放っておけと言ったって、きっとリスティは、そしてエルヴァは聞く耳を持ってはくれないのだ。

 自分が信頼している人物が、その人物が大切だと思っている人のために命を懸けると決めてしまった。その命懸けの行いにおいて本当に命を失わないようにするだけだ。

 それでも、アレウスは王女とリスティの命を天秤には掛けられない。どちらかを取捨選択しなければならない究極の状況に陥ることなど考えたくもないが、もしそうなったとしてもどちらもを救う手立てに全力を賭すだろう。それはきっとエルヴァも同じに違いない。

「ある意味で、『教会の祝福』を受けていたのは正解だったかもな」

「死ぬ気で戦っちゃ駄目」

 アベリアに釘を刺される。

「もう少し強めに言ってやってくれないか、アベリアさん? アレウスは相当に強く、耳にタコができるほどに言い続けないと平気で命を投げ出すだろうから」

「だねぇ。あたしよりアレウス君の方がずっとずっと危ない」

 どうしてそこまで言われなければならないのか。

「日頃の行いだな。俺と違って、大切にされているからこその念の押しようだ。俺にゃどうすることもできないな」

 呆れるようにエレオンが言い、一際強く手綱を操って馬を前へと走らせた。


「いい加減に乗馬はできるようにならないと」

「別にならなくてもいいけど」

「アベリアが困るだろ」

「困らないけど」

「……あのな、アベリア? 僕にも男気というものがあってさ」

 女性が手綱を持ち、男が女性に背を預ける。この構図はどこにも男らしさがない。

「まぁアレウス君とアベリアちゃんはその感じが落ち着くんじゃない?」

「絶対に馬に乗れるようになってやる」

「ああ、だったら俺が馬の乗り方を……いやいや、アベリアさん? どうして睨むんだい? そうも睨まれたら俺はアレウスに乗馬を教えることができなくなってしまうよ」

 大事な機会を逃された気がする。しかし、アベリアを怒らせると馬から落とされそうな気もする。いや、さすがにそれはないだろう。ないはずだとアレウスは自身に言い聞かせる。


 アベリアはきっと、アレウスの体温を感じていたいのだろう。夜の営み以外でここまで密着できる機会はほとんどない。夜のそれは秘密であるべきことで、このように公然とくっ付いていられることが、たとえこの先にどのような苦境が待ち受けているのだとしても嬉しいのだ。好意は無碍にできず、心の高揚を抑えることもできず、アレウスは一人で馬の乗り方を学ぶべきか学ばざるべきか、悩まされた。


 数度の休息ののち、夕日が沈む頃には見張りを代わる代わる行いながらの睡眠を取り、未明から明け方にかけて馬を走らせた。闇夜を利用しての移動は魔物との遭遇も頭に入れてのものとなるが、夜目の利く利かないを問わず発見されにくい。暗闇に馬の駆ける音がしても誰も怖くて近付けない。夜というのはそもそも、自身に敵意や害意が向けられていないのなら一切を無視するのが最も安全な過ごし方となる。自身の敷いた境界線や過ごしている空間以上を跨がないように注意を払うのみだ。どこの誰とも知らない者に境界線を越えられたとき、初めてそこで対立を視野に入れる。これは人間同士におけるもので、魔物や命を刈り取らんとする獣であったならまた対処は異なる。なんにせよ、深夜や未明にうろつく集団に自身から首を突っ込むと死期を早めるというのは旅においての常識である。

 その常識を利用しての移動は功を奏し、明け方には新王国の国境沿いに出ることができた。元々、森における移動で可能な限り王国領土の中でも新王国に近いところを渡っていたこともあって、警戒していた割にすんなりとクールクースが統治する景色を見るに至った。途中でエレオンが方向転換し、山を登らされた理由はこの一望できる景色にあったのだろう。ならば、それをそう口にしてもらいたかった。裏切られることも視野に入れて、要注意深く先導する彼の馬を睨んでいた時間があまりにも勿体無い。その時間、他に考えることも色々出来たというのに。


「ここからゼルペスに着くまで、どれくらいだい?」

「昼前までには着ける。この馬たちは戦場には出せないほどに疲れ切ってしまうが、馬刺しにされないだけまだマシだ」

 アレウスが地図や馬の疲労度から時間を導き出して答えようとしたがそれよりも早くエレオンが答えた。

「見れば分かるがここから山……いや、ほぼ崖を下って行くんだ。斜面はキツくて、気を抜けば簡単に落馬するぞ。まぁ、それだけならまだいい方さ。問題は落馬で怯え混乱した馬がそのまま一緒に崖を転げ落ちることだ。大体、崖で落馬したら命はないが、辛うじて生きていても上から馬に押し潰されては死ぬだけだ」

「新王国は攻め辛い場所を王都にしているものと思っていたが」

「アレウリス、盆地は分かるか?」

「周囲を丘や山に囲まれているところ」

 素直にアレウスはそう答える。

「ゼルペスはまさにその盆地を拠点としている。とはいえ南部は山や崖ではなく丘と呼べるほどで、さほどに険しくはない。南下すれば港町もある。北側は難攻不落、南部は貿易の拠点。回り込もうにもそれを考慮して見張り台を建ててある。決して王都ほどに目立ちはしないが、知将にとってこれほど守りやすい土地もないだろうさ」

「でも、僕たちみたいに山を登って、こんな風に崖を下る手もある」

「だが山を慎重に下れば射掛けられる。急いで下れば落馬の危険性がある。何人が無事に下まで降り切る? そして降り切ったところで、どれほどの抵抗ができると思う? あとは、軽く山を登れたのは俺がいたからだ」

「要するにエレオンの顔が見えたから山を見張っていた人たちが通してくれたと」

「そういうことだ」

 どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。エレオンの言葉の一つ一つをまともに受け取ってはならない。この感じはカプリースとよく似ている。


 自分自身に使命を刻んだ者は、どうしてこうもなにも語ろうとしてはくれないのだろうか。カプリースはクニアが563番目のテッド・ミラーの魔の手から逃れられ、更には改めてクニアが国を作ると決断したことで随分と丸くなってくれたが、エレオンはずっとこのままだろう。

 このまま、彼は死地へと向かうのだろう。己の復讐を果たすために。


「こんな急な斜面の降り方、知らない」

「俺もだ」

「良いか? 俺の降り方を真似しろ。小難しいことはしない。どんな馬でも、どんな乗り手でも降りられるようにする。そこを一つも間違えるな。一つ間違えると立往生だ」

「なにか一言怖いこと言わないと気が済まないの? 降りるならさっさとしてよねぇ」

 クラリエが愚痴を零す。エレオンはなにも言わずに手綱を巧みに操り、馬を崖から降ろしていく。乗り手の怯えは馬に伝わり、乗り手の自身も馬に伝わる。なにより馬そのものが危険はないと思う場所をエレオンは選ばせている。クラリエ、ヴェインが続き、そしてアベリアも馬を降ろしていく。崖は見下ろせば眩暈を覚えるほどの高所である。乗り手のアベリアが考えないようにしていてもアレウスが考えてしまえば馬は惑う。だからアレウスもあまり下は見ないように努める。

「楽々ではないけど、馬が割と安心してる」

「言っただろ。どんな馬でも乗り手でも降りられるようにする、と。だが、こんなことを軍隊がやっていたら滑稽だ」

 軍馬がこんなにも慎重に崖を降りていたら射掛けてくれと言っているようなものだ。エレオンの降り方は安全ではあるが時間が掛かる。真っ直ぐ降るのではなく崖と斜面に可能な限り沿っている。まずこんな崖を真っ直ぐに降りる方法は魔法を使う以外にないだろう。しかし戦場には冒険者はいない。もし魔法を使うとすれば、エルフの軍勢ということになる。


 盆地が攻めにくいとしても、エルフにとってそれは関係ない。そこだけは記憶に留めておく。


 全員の馬が崖を降り切り、特にヴェインが安堵の息をつく。

「まだ信じられないよ。あんな高さから俺たちが降りてきたなんて」

 そう言って彼は崖を見上げた。

「息をついている暇はない。さっさと行くとしよう。こういうことは速さが重要だ」

 エレオンはやや疲れている馬に無理をさせ、ゼルペスに向けて歩ませる。アベリアは馬に「ごめんね、もう少しだけ頑張って」と言ってから手綱を()る。


「警備の連中と話を付けた。姫さんに挨拶に行けるらしい。馬はもう休ませてやらなきゃならないが」

 兵士と話を終えたエレオンが状況を伝えている間に城門が開く。

「そんな簡単に王女との謁見ができるものか?」

 アレウスは心底、エレオンの言葉を怪しむ。あまりにも都合が良すぎる展開だ。怪しむ以外の道理はない。


 城門を潜ったところでアレウスたちは馬を兵士たちに預け、ゼルペスの街中に入る。


 ゼルペスは辺鄙なところに街としてあるが、異界に呑まれる前のシンギングリンよりも活気に満ちている。人々の行き交いが盛んで、王国と戦っているとはとてもではないが思えない。


 そこでアレウスは首を横に振る。ボルガネムでもそうだった。どんな国も、戦争していても人々の日常を損なわないようにしている。戦争なんてしていない風に、しているのかと惑わせるほどに。騎士や兵士、軍隊がどう考えているかは分からないが、人々は日常を求めている。だからこそ、ゼルペスという街は日常感が強く溢れ出ている。危険が迫っているからこそ日常を送ることで忘れたいのだ。目を背け、事実から思考を遠ざける。そうしないと、気が狂ってしまうだろう。


「あ……」

 見てはいけないものを見たような。そんな反応をアレウスが示したことに相手が不満を感じたらしく、明らかなイライラを滲ませながらアレウスへと寄ってくる。

「今、面倒臭いのがいたって思ったでしょ? ねぇ、そうでしょ? 絶対そうでしょ? 間違いなくそうでしょ?!」

「そんなことは思ったこともありませんよ、アンジェラさん」

「嘘! あーあーあー! こういう人間がいるから私たち神の御使いの存在が否定されて困っちゃうのよね!」

 純白の翼をパタパタと緩く羽ばたかせながら、文句を大声で述べられる。

「さっき城門の兵士に融通を利かせたのは私なのに! それもエレオンがいたからだけど、あなたがいるとは思わなかった」

「アレウス、知り合いかい?」

「私の知らない間に、女性の知り合い……?」

 ヴェインは純粋な疑問、アベリアは不快感を露わにした質問である。

「いや、えっと、どう説明しようかな」

「あら、あらあらあらあら! あなた、とっても素敵!」

 しどろもどろになっているアレウスを突き飛ばし、アンジェラがヴェインに近付いてその風貌を眺める。

「素晴らしいわ! あなたみたいな敬虔な僧侶がいてくれるおかげで私たち神の御使いは現存できるの! ああ、なんて素晴らしい! こんなにも良い子がこの世界にはまだいたのね!」

「あ、いや、それ以上近付かないでもらえますか?」

 ヴェインは明らかな拒絶の反応を示して、後退する。それを見て、アレウスは驚く。


 あのヴェインが、女性の押しに対してドン引きしている。基本的に女性に言い寄ることはせず、言い寄られてもやんわりと断る男が一切の理由も、嘘の言い訳もせずに拒んでいるのだ。


「珍しがっていないでどうにかしてくれないかい?」

「どうにかって言われてもねぇ……その反応はなかなか新鮮でこっちは楽しいし」

 概ねクラリエに同意であることはアベリアがなにも言わないことからも分かる。彼女の場合は、アレウスがまた女性に言い寄ったのではないかという疑惑は杞憂であったことに安堵しているからなのだが。

「やっぱり世の中には神様を心の底から信仰している人間がいてくれる。嫌なことも沢山あるけれど、こんな喜ばしいこともあるなんて!」

「俺はこの通り、信仰を捧げている者ですので新手の宗教には入れなくてですね」

「これは別に入信を求めているわけじゃないわ! あなたという存在に! 私はとても喜ばしい感情を抱いているのよ! あなたとは連日連夜に渡って神の素晴らしさを語らい合いたいわ!」

「助けて……」

 見知らぬ土地で、見知らぬ女性に、突然の感激。ヴェインは早々に根を上げた。さすがにこれ以上、新鮮な反応を楽しんでいる場合ではないためクラリエとアベリアが彼に詰め寄るアンジェラを後ろから引っ張って動きを抑止する。

「敬虔な信徒を見つけて興奮しているところ悪いけど、こっちにそんな余裕はない」

 アレウスの言葉を聞いて、アンジェラは大きく息を吸い、そして吐いた。

「エルフと王国の侵攻がもう間もなく始まる。あなたはそこからリスティとエルヴァージュ・セルストーを連れ出したい。そうでしょ?」

「はい」

「でも、それはさせない。そうしたらクルスは独りぼっちになってしまう。クルスを独りぼっちにさせると言うのなら、私はあなたを……あなたたちをここで殺してでも追い返す」

 発せられる殺気にアベリアとクラリエが離れ、アレウスとヴェインが臨戦態勢に移る。


「そうやってなにもかも正直であることがこの場において正しいこととはとてもじゃないけど思えないな。テキトーに嘘の理由を用意しておけば、こいつらはそれを本気にして仕方なく戦場に赴くように仕向けることだってできるだろうに

 エレオンがアンジェラの態度に辟易するかのように溜め息をつく。

「特にそいつらは王国と新王国、その両方の冒険者じゃない。帝国出身であることがバレない限りは名前も経歴も見つけられない。異界獣を討伐したアレウリス・ノールードとその仲間が新王国にいるなんて、そんなことはマクシミリアンも考慮しない。それにこいつらは死んでも甦るからな」

「私もそれは考えた。でも、この神への厚い信仰心を持つ僧侶を前にして、私は私自身が得するための嘘をつくことができなくなってしまった。信徒に残念がられることだけは避けなきゃならない」

 もう既にヴェインはアンジェラを怖がっているのだが、そういったことは言わない。以前のように癇癪を起こされたらたまらない。

「それに私はこんなところにわざわざ足を運んできた彼らに嘘をつきたくもなかった。たとえ、その理由がクルスと共に戦う決意を固めたリスティやエルヴァージュ・セルストーを連れ帰ることなのだとしても」

「……はっ、そうやって正義っぽいこと言ったって、戦場じゃ正しさはどこにもありはしないさ。王国と争い続けて気付いているのに、ずっと目を背ける。そんなだから姫さんは一度、王国の手に捕まったんだ」

「分かっているわよ、それくらい。でも、」

「『でも』とか『だって』とか、そんなのは聞き飽きたね。それを沢山使う奴ほど早死にする。俺は、あんたの口からその言葉をこれ以上、聞きたくないね」

 エレオンはアンジェラがヴェインと出会った興奮を完全に消し去るほどに落ち込ませてから、そそくさと歩き出す。

「俺が都合を付けなくても、その『天使』がいるなら姫さんには会えるだろう。俺は先に話を済ませて、自分のやるべきことに向けて準備させてもらうぜ?」

 なにかを言ったところで引き止められない。そう思い、アレウスたちはエレオンを見送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ