どちらが異端であるのか
♭
「私が抱いた怖れのせいであなたに苦痛を与えてしまい申し訳ありません。あなたへの贖罪のためにどうかこのままボルガネムに留まり続けてはくださいませんか?」
「色々考えはしたんですけど、私はやっぱり聖女様を完全には許し切れていなくて。私自身の『不死人』としての能力も消え去っているわけじゃなくて……聖女様へ不満を抱いたときに、テッド・ミラーみたいにロジックを乗っ取りにいかないとは限らなくって」
「それでも、」
「私はそうなったときの私自身が一番怖いから。だから、私は聖女様から離れたところにいるのがいいんじゃないかと思います」
「……テュシア」
「問題ありません。死んだときには聖女様の『養眼』の力で花園で復活できます。そのとき、この体を捨てることになってしまうのかどうかまでは分かりませんけど」
テュシアは胸元に手を当てる。
「私には、私の贖罪も残っているんです。私はニィナに頼まれはしましたけど、死に行く体とロジックを自分の物として扱ってしまっている。人の生き様を奪っておいて、唐突に自分自身の生き方に戻るのは卑怯だと思うんです」
「そうすることで助かった方々がいらっしゃるのなら、あなたの能力は正しいことに使われたのではないですか?」
「だとしても、このまま留まり続けるのは甘えです。沢山の人を殺して、沢山の命を脅かした。その責任はニィナではなくこの私自身にあるからこそボルガネムにはいられません。帝国に居場所があるかどうかも、分かってはいないのですが」
「王国は……研究のために強い恨みが?」
「そりゃありますけど、怖くて近寄れないというのが本音です。身を寄せるなら帝国。これはあの日、星を射抜いてから決めたことなんです。私はニィナとして生きて、ニィナを知っている人々が天寿を全うして、誰もニィナのことを知らなくなったとき、この地に戻ろうと思います」
聖女は俯きながら苦笑する。
「では、そのときまで聖都が滅ばないようにしなければなりませんね」
「はい……どのような場所でも、ここは私の生まれ故郷。そして帝国も、ニィナである私にとっての生まれ故郷。そのどちらも失うのは、嫌です」
「あなたは私の恐怖心で手放した。ですから、無理やりあなたを従わせることはできませんね……好きに生きてください、テュシア。いいえ、ニィナリィ・テイルズワースと呼んだ方がよろしいのでしょうか」
「どちらでも」
「では、ニィナリィ・テュシア・テイルズワースと呼びましょう。ミドルネームとして使えば、あなたとその体の持ち主、その両方を呼ぶことができます」
「……はい、ありがとうございます。でも、案外すぐに死んで戻ってくるかもしれません。私を帝国が受け入れてくれることなんて、ほぼ無いと思っているので」
「それでも行くのですか?」
「そこがニィナの故郷ですから」
「……あなたは強くなりました。いいえ、元から強かったのかもしれません。その成長を見逃してしまったことにただ後悔し続けます」
テュシアは花園を去っていく。
「あの日、あのときの決断が、回り回って自分自身への罰として返ってきた。そのように思うしか、なさそうですね」
「罰だろうがなんだろうが、俺様たちは聖女様の決断に乗るだけだ。いつだって、どんなときだってそうしてきた。否定も肯定もしねぇ。ただ聖女様の意思が、俺様たちの意思だ」
「我らに命令を。負けろと言うのであれば負けましょう」
「……いいえ、足掻きましょう。テュシアが帰るべき故郷だけは――この地だけは、なんとしてでも守り抜くために。それに、率先して始めた戦争ですよ? なにを被害者ぶる理由がありましょう。私たちが始めたのであれば、永遠に加害者。弱気にならず、戦い続けた果てで、この身が終わるかそれとも終わらずに済むか。天運に従いましょう」
「へっ……だったら、また前線に出るとしよう。リリスには反省も込めて、しばらくは聖女様を見てもらわなきゃな」
「我らは何度でも復活する。何度でも戦い、何度でも破れ、そして勝つとしよう」
*
「お待たせしました」
「いや、待ってないよ」
アレウスはアイシャに椅子を引き、座るように促す。
「……なんですか? 優しくされても嫌いなものは嫌いなんですが」
「はっ! 部屋に二人切り?! 一体なにをされるんですか、私は!」
「僕をなんだと思っているんだ」
「神に背く行いをした罪人。私個人の意見ですけど」
アイシャとこの話をするのはあまりにも面倒臭い。一度付いてしまった印象を振り払うのは難しいのだから気にしていたって仕方がないが、ここまで露骨に嫌われていることにアレウスは溜め息をつく。どんな風なやり取りでも彼女は拒否反応を示すのだから、もう雑談や世間話をすることは諦める。
「『異端審問会』のことなんだけど」
「私と二人切りで話をすることですか?」
「みんなに聞かせられる話かどうかが分からないからな」
アレウスは対面の椅子に腰掛けて腕を組む。
「『異端審問会』に捕まったのはいつだ? いつから行動を共にしていた?」
「……『聖痕』が出てから、帝都のギルドに移送される予定でした。そのときに襲撃されて、私は馬車ごとさらわれました。護衛に当たっていたルーファスさんたちがどうなったのかは、私は馬車の中で震えているだけで……見ていません」
「……そうか」
ルーファスは帝都に向かう依頼を受けてから姿を消した。いつ帰ってくるのだろうと思っていたが、そのときにはもう『異端審問会』の手に掛けられていたということだ。
平和ボケしていたわけではない。アレウスも冒険者として必死に生きていた。それでも、もっと早くに最悪の事態に気付くことはできたはずだ。にも関わらずいつか帰ってくるという暢気な希望を抱いていたのはルーファスのパーティが負けるわけがないと信じ切っていたからだ。そして、負けても死なずに冒険者なのだから甦るだろうと決め付けていたからだ。
「『異端審問会』には『教会の祝福』を破る力があるんだな?」
「分かりません」
「分からない?」
「さっきも言いましたが、私は見ていないんです。全部を知るために外を覗こうとしたら、意識が落ちたので……でもその言い方ですと、やっぱりルーファスさんたちは」
「……いや、アニマートさんと『影踏』だけは甦っていた」
「本当ですか?!」
「どっちも、亡くなったけれど……アニマートさんについては昨日ようやく亡くなったと分かった」
リゾラはシンギングリンの異界で彼女に会って『蜜眼』を奪った。そのときに殺している。これは互いにあやまちを身に刻んだ日に聞かされている。
そもそもアニマートが甦ってシンギングリンにいたこと自体をアレウスは知らなかった。それほどまでに秘匿され続けていたのは、手練れの冒険者が『異端審問会』に敗れたという事実が公になることを避けたから。
或いは悲惨な結末だったか。そっち方面であることをアレウスは考えたくない。
「『影踏』さんも……?」
「あのあと、エルフの暴動があっただろ? その発端となったのがイプロシア・ナーツェの復活だった。『影踏』はなんとしてでもイプロシアを止めようとして、犠牲になった」
「止めることは、できなかった?」
世界情勢を考えながらアイシャは恐る恐る口にする。アレウスは肯くことしかできず、彼女は項垂れた。
「私は、『異端審問会』で様々な魔法の勉強をさせられていました。洗脳教育……はされなかったんですけど、それは私をさらった人たちがあの集団の中である程度の自由を与えられていたからだと思います。恐らく、集団のトップにすら私自身のことは秘匿したままだったんじゃないでしょうか」
「自由を与えられている……か」
「それと、『不死人』も私を確保しようと襲ってきていたんです。『異端審問会』が現れたのはエルヴァージュさんが『不死人』を追い払ったあとです。なんか、変な空間に入れられてエルヴァージュさんはそのまま飛ばされてしまったみたいで……あの方も、亡くなったのですか?」
「いや、エルヴァは無事だ。多分だけどそのときに連合の方へと飛ばされてしまって、収容施設に入れられたんだろう」
そう言うとアイシャは僅かだがホッとしている。しかしホッとできるような状況にないことを再認識して、背筋を伸ばした。
「もう脱出している。今は帝国のお姫様の警護をしている。なにかと怪しい経歴ばかりの男だけど、信頼はできる」
「そう……ですか」
それでもアイシャは背筋を伸ばし、緊張を崩さない。
「あの……ルーファスさんが亡くなっているのは確定している、んですか?」
「あの人が持っていたアーティファクトが残滓として蠢いて、僕の前に立ちはだかった」
「ルーファスさん、アニマートさん、『影踏』さん…………あれ? デルハルトさんは?」
人数を確認するように名前を呼んでからアイシャはあともう一人いることに気付く。
「デルハルトさんも、やはり?」
そういえば、『礼賛』のデルハルトについてアレウスはなにも知らない。
「僕は生死を知らされていない。でも、状況的に生き残っていることは考えにくいんじゃないか?」
「ですよね。あんまり希望を抱いても仕方がありませんよね」
こんな状況に陥っていても未だシンギングリンに姿を現わしていないのだ。デルハルトについてアレウスは深くを知らないが、『影踏』のように目立たない生き方や戦い方をするというよりはもっと目立ち、注目を浴びることで魔物たちを引き受ける盾役だったと考えると、『衰弱』状態の期間を終えたあともずっとなりを潜めることは考えにくい。あの目立ち方が偏り過ぎているクルタニカに付いて行くことのできた唯一の男ではあるものの、だからこそ姿を見せないことがあり得ない。
「あの方たちがいらっしゃらないとなると、一体これからどうすれば……」
「迷うことも困ることもない」
「ですが、」
「アイシャ? もう過ぎたことで、終わってしまったことなんだ。ルーファスさんたちの無念や想いを僕たちは背負わなきゃならない。先達の知恵が、力が、経験として積み重ねられて次の世代へと繋がっていくんだ。だからもう、僕たちの世代なんだ」
「私たちの……」
「こんなことを熱く語っても、君に僕の言葉は届かないだろうけど」
そのようにアレウスが言うとアイシャは首を横に振る。
「あなたの生き方は私にとって受け入れがたいものであっても、冒険者としての生き方は間違ってはいません。だから、あなたがそう仰るのであれば、もう世代交代が行われた。私はそれを自覚し、あとに続く者たちのために道を示す側へと意識を変えなければなりません」
「それで、これからどうする? 君は『異端審問会』に戻るのか?」
「戻れるのなら戻りたいところですが……ああ、言葉の綾になりますね。戻りたくはないのですが戻ってなにか情報を掴めるのならそうしたいという意味で言いました。恐らく、私は追放されたのではないかと」
「追放? なんでわざわざ聖女見習いを追放する?」
「『魔眼収集家』と呼ばれる方が、私に発現するであろう『魔眼』について星詠みを行い、さほどに興味を抱くものではなかったからという説明を受けています」
「でも追放までするか?」
「私は怯えに怯えて、従順でしたから。反逆の意思がないから、連れ歩いていても足手纏いになると判断されたのかもしれません。人形のように従っていましたからね。それもこれも、歯向かったら殺されるという恐怖からであって本心では……なかったのではないかと、思っているのですが」
そう呟いてからアイシャはアレウスを見る。
「教えてもらったことに、一部であれ共感を覚えてしまいました。『異端審問会』では神の教えを説いています。それも、私たちのような神官や僧侶が説く教えよりもずっと、ずっとずっと神に近いような……そんな風に思えてしまうほどに、彼らの信仰は厚い」
「だろうな」
いつまで経ってもアイシャが視線を外さないのでアレウスから視線を外す。そのように強い眼差しで見つめられ続けることも、見つめ合い続けることも慣れていない。なにより嫌われている相手の視線はどれもこれもが睨まれているような、或いは過去の罪を覗かれているような感覚があり、今現在も悪いことをしているのではと怯えてしまいそうになるほどだ。
「でないと僕は異端審問で異界に堕とされていない。神の信仰がなきゃあんなことが許されるわけがない」
『異端審問会』という名ではあるものの、それは神に反する異端者たちの集まりというわけではない。むしろ神に厚い信仰心を抱く者たちの集団だ。身勝手に拡大解釈した神の教えを説いている者たちに鉄槌を下すために集った者たちとも言える。だからこそ、冒険者として登録されている神官にも『異端審問会』に所属する者が現れてしまうのだ。
「あいつらはロジックへの干渉能力を神から与えられたものとしている。だから自分自身の正義に背かない限りはどのようなことをしても許されると。それが神の意思なんだと信じて疑わない。場所によっては滅茶苦茶をやっている。ガラハもその被害者の一人だ」
港町に『異端審問会』所属の神官が現れさえしなければ、ガラハは冒険者にならないまま港町でヒューマンと酒を酌み交わして生きていただろう。
「神が許すわけもないのに、神がお与えになった力という前提があるせいで人々を自在に操ってもいいという考えを抱いてしまうのでしょうか。そこに私は全く共感できませんでしたが」
自分は違う。そのようにアイシャは言うが、実際のところはどうなのか。教えを説いてもらい、一部に共感を得てしまっているのなら、段々とそれが毒のように精神を蝕み、やがて『異端審問会』と同様の考え方を持つようになるのではないか。
一度知ってしまうと戻れない。その気付きが、その共感が命取りとなることは多々ある。
「『異端審問会』が拠点としている場所は? 奴らは一体どこにいる?」
本題に入る。アレウスが一番聞きたかったことだ。これさえ分かれば、あとはギルドと協力して他の国を焚き付ければ『異端審問会』を追い詰めることができる。
「分かりません」
「分からない……? どうして?」
「私は、『異端審問会』に所属している人たちとは切り離されていたと言いますか。えっと、ギルドと冒険者でたとえます。『異端審問会』がギルドだとするならば、私たちのいた人たちはパーティ。つまり、大きな集団の中の一集団です」
「なるほど……そうか、そうだな。確かにそうした方が足取りを掴めなくなる」
港町では神官が『魔眼収集家』に殺され、霊媒師はルーファスとガラハが行った尋問中に死んでいる。その二人はロジックに干渉が施されていたというよりは監視役によって始末された。
群れの中から精鋭だけの群れを作る。或いは役割分担のために群れを分ける。拠点のことは決して明かさないように誓わせ、あとは自由にさせる。自由にさせて、拠点を暴かれそうになれば始末する。頭のキレる人物が集団を統率していればどこが忠誠心が高く、どこが危うい動きをしているかを理解し、どのように措置を取るかまで自由自在だ。
統率する者が強ければ、戦況すら自在に変化させられるのは第一王子のマクシミリアンの『指揮』でも分かることだ。あの『指揮』で王国は撤退こそしたがエルミュイーダを討ち取るに至ったのだから。
「君が追放されたのは一集団による判断か」
「はい」
「なら、その集団はどこに?」
「王国のお城です」
思わず椅子から立ち上がり、大きな音を立ててしまった。驚きと動揺。そのどちらも隠し切れずにアレウスは困惑する。
「『異端審問会』が王国の城を根城にしている……? そんなこと、そんなことをされたら城下町は……」
「私はほとんど外に出ることがなくて、その、どうなるんですか?」
「僕の故郷の二の舞だよ。異端審問を行って、人々に罪を着せて異界に堕とす。どうしてそんなことをするのかまでは知らないけどね」
異界に堕としていることにも理由があるはず。しかしその理由は分からない。
「……あの人たちは異界のことを幽世と呼んでいました。そしてこの世界を現世と」
「僕もその手の言葉は耳にしている」
クリュプトンも言っていたはずだ。
「異界を幽世、世界を現世。それじゃまるで、死んだ者の行く先が異界みたいじゃないか」
そう言ってから、アレウスは更に動悸が激しくなる。
「まさか……『御霊送り』って」
『御霊送り』はエルフが最初に始めた。ヒューマンたちはそれを真似ただけ。その結果、『御霊送り』の形は真の『御霊送り』ではなくなったと、そんな話もあった。
「……………………いや、違う。落ち着け、そんなことはない」
考えすぎだ。復讐心がなんでもかんでも関連付けようとしている。冷静さを取り戻せば、関連性が薄いことぐらい分かるはずだ。
「大丈夫ですか?」
さすがのアイシャもアレウスの狼狽ぶりを心配する。
「ああ、気にしないでくれ。妄想が先を行きすぎた」
考えていたことは一旦、措く。
「城の場所は分かるか?」
「はい。地図を見せてもらえばすぐにでも。ただ、」
「ただ?」
「アレウスさんを誘導しているような気がしてなりません。私がニィナさんと接触して、そこには必ずあなたがいるだろうと踏んで……そして私の口からお城の場所が分かる。そうすると、アレウスさんはすぐにでもそこに向かおうとするじゃありませんか?」
「そう……だな」
「待ち受けているみたいな気がしてなりません。そして、私も私自身のロジックが心配で仕方がありません。あなたをお城まで導く役目をロジックに書き込まれているのではと。ですので……私のロジックを開いてはくれませんか?」
「僕は駄目だ、アベリアに開いてもらおう」
「なぜ?」
「それすらも向こうが読んでいたら、君のロジックを見た瞬間、僕を追い詰めるようななにかが起こるのかもしれない」
「念には念を、ですか。そうですね、私もアレウスさんに見られるよりはアベリアさんに見られた方が安心します」
ここで彼女のアレウスへ対する極端な苦手意識が戻ってくる。
だが、そういった態度を見せられることで現実離れしていた話から意識を戻してくることができた。
「君は『継承者』になって、ニィナも『超越者』になった」
「それが、その、少し違うんです。あのとき確かにニィナさんは『超越者』になっていたんですけど、私が貸し与えた力が戻ってきてしまったみたいで。だから、もうニィナさんは『超越者』じゃありません」
「そんなことあるんだな」
「やっぱり……もう亡くなっている人のロジックに背負ってもらおうとしたのが、駄目だったのかも、ですね」
そこまで言ってアイシャが再び俯く。
「私が知っているニィナさんは、もうニィナさんじゃなくって……でも、私が知っているのは、ニィナさんじゃないニィナさんで……じゃぁ私が絶対に助けたいと思っていたニィナさんって、どっちのニィナさんだったんだろうって」
「ニィナの名前が出過ぎて混乱する」
ややこしさの極致みたいなことを言われてしまい、アレウスが正直に言うとアイシャは頬を膨らませて抗議してくる。
「僕たちは仲間のためにこんな遠くまで来たんだ。どんな彼女でも、彼女は彼女だ」
「たとえ仲良くなったのが、偽者だったとしても?」
「そもそも偽者だなんて思ったこともない。テュシアはニィナでニィナはテュシア。それでいいじゃないか。本人がそれを自覚し、自戒し、答えを導き出せているんなら僕はもうなにも言わないよ」
「……そう、ですよね。私たちにとってニィナさんだろうとテュシアさんだろうと構わない。私たちが一緒に過ごした彼女との日々や想いではは本物なんですから」
「ああ」
「私、ニィナさんと一緒にシンギングリンに戻ります。でも、こんな私たちをギルドも街もすぐには受け入れてはくれないでしょうから……しばらくは軟禁でしょうか。神官から屍霊術師って点もかなり危険視されそうですし」
「ニィナがやったことを考えるとな」
彼女には皇女暗殺を狙った疑いがある。リスティならいくらでも揉み消せるが、エルヴァがきっとそれを許さないだろう。護衛役としての立場から見逃すことができないからだ。軟禁では済まず、極刑すら免れることができない。
「彼女がやったことじゃないって感じで話を運べたらいいんだけど」
「証拠が無ければ、」
「矢を回収されている」
「あ、そう……なんですか」
他にもニィナには余罪があるだろう。アベリアが説得している最中に彼女の話を一部聞いている。それがボルガネムで行った殺人であるのなら帝国では不問だが、帝国で行った殺人であったならやはり罪に問われる。
「……殺人を犯した人を守りたいと思うのは、歪んだ思想なんでしょうか」
「仲間だから、だろうな。仲間だからこそ、そんなことをするはずがない、って思ってしまうんだ。だって僕たちはニィナと一緒に過ごして、彼女の良いところも悪いところも全て見てきたつもりでいるからさ」
なのに本質には一度も触れられなかった。テュシアであったことにすら気付かなかった。
「犯罪者を庇おうとする心も罪、守ろうとするのも罪。友達や親友の立場であれば当たり前に感じてしまうことが、こんなにも神にとって好ましくないものであるなんて」
「だからこそ第三者に委ねるしかない。ニィナも覚悟を決めていると思うよ」
「私情を挟んでしまう以上、致し方ありませんね。でも、どのようなことになっても私は彼女の親友であり続けようと思います」
「そうだな、それがいい」
ところで、とアイシャが切り出してくる。
「アベリアさんには言ったんですか?」
「なにを?」
「昨日、他の人の匂いを付けて帰ってきていたじゃないですか。アベリアさん、なにか言いませんでした?」
「……なにも?」
「えーどうしてだろ。私なら絶対に怒るし許しませんけど」
「え、バレてたのか……?」
「バレバレでしたけど。なんで誰も怒らないんだろうなと。もしかして不思議がっていたの私だけなんですか? え、え……? つまり、皆さんもう爛れた関係?」
「爛れたとか言うな」
「ふしだらな」
「どっちも駄目だ」
「淫らな」
「酷くなったな」
「いや、あなたに言われる筋合いはなくないですか? 酷いのはあなたなんですから」
「…………そうですね」
敬語でアレウスは反省の弁を述べるのだった。




