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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第12章 -君が君である限り-】
524/705

それはそれとして


 『御霊送り』を終えて一夜明け、皇女はラタトスクから避難していた人々を帰らせると共に復興の支援を行うことを村長と約束し、また数十人規模の軍人を夜警として派遣し、それらの部隊の食糧は帝都から用意するという異例の決断までくだした。異界獣の討伐も終わり、もはやただの寒村を帝国がそこまで丁重に扱う理由はない。

 だが、ラタトスクの被害は甚大で、村民に死人は出ずとも多くの死者が出た。どれだけ箝口令を敷いてもリオン討伐の噂は彼方まで届き、寒村について調べる者も出る。いずれラタトスクは“異界獣の討伐の末に多数の死人が出た村”と呼ばれるだろう。生じる風評被害は想像を超える。村中で自給自足ができているのならともかく経済を支えていた旅人や商人たちによる売買が減っていけばラタトスクは緩やかに廃村への道を進むこととなる。皇女は恐らく、村の延命を望んだのだ。


 当初の目的が果たされたことで、皇女がかねてから求めていた『天秤の意匠が彫られた剣』はリスティによって(たてまつ)られた。こればかりはアライアンスに皇女の名が記されている以上、駄々をこねることは許されなかった。そもそも出し渋れば反逆罪である。だからリスティも交渉を粘らなかった。アライアンスによって集められた冒険者を守ってくれたことも踏まえれば、皇女とはせめて良好な関係でいたい。そんな胸中がアレウスには見て取れた。


 エルヴァやレストアールが皇女の連れて引き上げたのち、冒険者たちによって戦利品の回収が始まった。


 戦いの果てに残されたのは魔物の死体とその魔力の残滓だけではない。ゴブリンやコボルトといった魔物たちもおり、彼らが身に付けていた装飾品類などは消えてなくなることはないため売買の対象となる。リオンの尖兵であったガルムやハウンドといった獣型の魔物も自らの体に勲章を身に付けていることがある。これらは異界で魔物によって狩られた人々が身に付けていた物がほとんどで、誰も買い取ってはくれないことが多くギルド預かりとなる場合がほとんどだ。だが、ゴブリンのような二足歩行の魔物たちとの縄張り争いの果てに勝ち取った物であったなら、やはり売買の対象となる。


 アライアンスの場合、こういった戦利品は全て一ヶ所に集められ、それぞれのギルドに均等に分配される。

 その場でシンギングリンギルドは戦利品の数を可能な限り絞り、参加した冒険者たちに満足できる報酬を与えられる範囲に留め、『大爪』を求めた。長い長い話し合いが続いたが、最終的に他のギルドマスターを黙らせる要因となったのは、異界獣討伐の立役者がシンギングリンギルド所属であったことだ。


 こうしてリオンの『大爪』はシンギングリンギルドが手に入れ、ラタトスクから引き上げる際にはアレウスのパーティが乗る馬車が預り、無事にシンギングリン到着後はリスティたち担当者の手によってギルド跡地の保管庫へと(おさ)められた。


 冒険者一行(いっこう)が帰還する際には、さながら凱旋から帰ったかのような人だかりができ、多くの人々が祭りのように大きく騒ぎ回った。事前に予期していた通り、討伐の(しら)せはすぐさま人々によって広められたらしい。アレウスにとっては嫌なことではないが喜ばしいことでもない。だが、彼らにとっては一つの異界が終わりを告げたことは、世界の脅威が一つ減ったことを意味し、たとえ国同士で争っている最中であっても祭事にも等しい喜ばしい出来事のようだった。


 帰還からおよそ二日後、ようやく祭りの高揚感は鎮まった。その間にリスティはシンギングリン近郊に設けた拠点へと一旦戻り、アレウスもパーティに休息期間を設けることにした。

「やっと一息つけたって感じだよ」

 休息の仕方は人それぞれだ。ジュリアンがエイラの顔を見に行ったり、ガラハがクルタニカとカーネリアンを連れてドワーフの里へ向かったりなど、特にどこかに居続けろという指示は出していない。なのでヴェインがアレウスが一年ほど前にパーティが集える場所として購入した家に留まることもまた自由である。

「この家に俺がいる風景っていうのもなんだか不思議な感じがするかい?」

「まぁ、ちゃんと使おうとしたところで駄目になってしまったからな」

「駄目にはなっていないさ。これから使えばいい」

「そうは言っても現状、僕とアベリアとリスティさんの部屋以外は埃だらけで蜘蛛の巣が張っているような状態だぞ。ロビーやキッチン周りは掃除し直したけど」

「まぁ、不便は便利の手前であるし、便利であった状態が不便に戻ったのならまた便利にするだけさ。俺は奉仕には慣れている。掃除の手間も楽しいものさ」

「僕は楽しいと思ったことはないけどな」

 来客用にアベリアが買っていた茶菓子を出してしまったが、怒られないだろうかとアレウスは少し思う。自分で食べるように用意していたとは考えにくいが、もしもの場合もあるのでヴェインとの話が一息ついたら買い出しに出た方がいいだろう。シンギングリンにも人が戻りつつあり、商業にも復興の兆しが見える。なによりこの茶菓子はアベリアがシンギングリンで買ったものだ。そう珍しい物でもないので、買うのは難しくないはずだ。

「恋の相談事はないのかい?」

「僕が相談しに行くときだけであって、そんな興味津々で訊ねられてもな」

 その手の相談はいつもヴェインと二人切りであるときに限られる。今回もアベリアが教会の方に出てはいるものの、彼に相談したいほどの悩みは今のところない。

「顔に余裕が見られるということは、それなりの進展があったんだな」

「余裕を見せたことなんてないけど」

「いやいや、女を知った顔になっている」

 良かった良かったとヴェインは言いつつ紅茶を一口飲む。

「俺も昨日は大変だったんだ。エイミーが、」

「別に猥談がしたいわけじゃないからな?」

「互いの男女関係は明らかにしていた方が仲良くなれるものだと思うけどな、俺は」

「他人に自分の好きな人の痴態を話したいとは僕は思わない」

「語るに落ちたな。なるほど、そこまで進んだのか」

 罠を張っていたわけではないクセにハメてやったと自信満々な顔をしながらヴェインは紅茶をもう一口と飲むが、気管支に入ったらしく激しくむせる。

「変なことを言うからだ」

 一通り咳を出し切って、ぜぇぜぇと呼吸をしているヴェインをぞんざいな物でも扱うかのような視線を向けながらアレウスは言う。

「まぁ言われてみれば俺もエイミーの夜の顔を君に詳しく話したいとは思わないか」

 反省したらしくアレウスの言葉に合わせてくる。もしも気管支に入っていなければ、ヴェインはこのまま猥談を続けていたのだろうか。

「僧侶がそんなに煩悩に溢れていていいのか?」

「冒険者としての僧侶なら、煩悩に溢れていたって神への信仰心を捨ててさえいなければ問題ないんだ。ただ、本当の意味での僧侶となりたいのなら俗世から解脱しなければならないし悟りも拓く必要がある。だから俺はそっちの意味でなら修行者(しゅぎょうしゃ)の道半ばだよ」

「だから煩悩に溢れていてもいいと?」

「男である以上、逃れられないだろ? そもそも猥談ギリギリの恋愛相談なんて高僧はしないよ」

「……確かに」

 肯いてしまったが、本物の僧侶とあったときにヴェインと同じような接し方をしたらそれはそれは神の怒りに触れるに違いない。ヴェインがこんなことを言っても許されているのは高僧(こうそう)から教えを賜っていないからだろう。なのに『祓魔』の力は持っているのだからややこしい。カタラクシオ家が僧侶の素質を持っていたから、こういう型破りな僧侶が出てくるのだ。だが破戒僧と呼ぶほどに神の教えに背いているわけではない。

 彼は全身全霊で神を信仰している。そこだけはアレウスも力強く言い切ることができる。

「そういや茶菓子がまだ残っているようだけど、それはアベリアさんに?」

「いや、今日はエレスィも来る予定だから一応用意しておかないといけないと思って。口には合わないだろうけど」

 なんにでも蜂蜜を掛けたがるエルフにヒューマンの紅茶と茶菓子では甘さが足りないだろう。それでも礼儀としておもてなしの用意はしておかなければならない。

「あー、例の『竜眼』の?」

「あんまり公にはしたくないみたいだから話を聞く人数も絞りたいらしい。クラリエにはもう話しているだろうから、あとは僕くらいなんだけど、時間に余裕があるなら残っていてほしい」

「そんなことを言うなんて珍しいな」

「ヴェインは聞き上手で話し上手だからな。いてくれるだけで僕の負担が減る」

「君が言葉足らずなところをいつも手助けしていたからね」

 それだけでガラハやクラリエが容易に心を開くとは思えない。

「分け隔てなく話せる人が傍にいると楽なんだ」

「いや、それは俺の方だ。君が種族問わずにイヤミを言われても差別的に相手を侮辱することなく話すから俺もそうやって話せる。アレウスが話している相手は話が通じる相手。アレウスが攻撃的に、そして武器を構えている相手は言葉の通じない敵として考えられる。要するに、アレウスが落ち着いて話しているんなら取り敢えず、悪い奴ではないんだろうなと思うようにしている」

「前にも似たようなことを聞いたけど、本当にそう思ってやっているのか?」

 なにか変なことでも? と言いたげな視線を向けられる。

 ヴェインは人が良すぎるとエイミーは言っていた。その根底にあるのが、あまねく誰もが善人であるという思考からの始まりだ。そこの基準が曖昧なときに僕を使っている。ただ、使ってはいるがそれは信頼の上で成立していることで、信頼していない相手を基準として使おうなどとは彼ですら思わないだろう。

「本当に紙一重な生き方をしているんだな」

「いやいや、アレウスに比べたら紙一重でもなんでもないよ。俺からしてみれば、アレウスのコミュニケーションの取り方は綱渡りや曲芸の域さ。真似しようたってできやしない」

「知っている人が傍にいないとロクに喋ることもできないけどな」

「ああ、だから持ちつ持たれつってやつさ。俺やアレウスだけじゃなく、上手い具合に足りないところを補っている。人間ってそういうものなんだよ。二人で楽をするんじゃなく、一人じゃ無理だから二人で支え合う。これは卑怯とか姑息じゃない。だって一人が無理をして倒れそうなとき、助けたい支えたいと思うのは人間の本能じゃないか」

「感服するよ、心底」

「俺はアベリアさんを捕まえ切った君の心に敬服するよ。『御霊送り』のときも男連中はクルタニカさんとアベリアさんの話で持ち切りだったよ。いや、クルタニカさんは賭博していた男たちが『なんであんな綺麗な神官が賭場なんかに?』と不思議がっていたのがほとんどだったけど、なんにしても選ばれた男としてはアベリアさんの話が出るたびに気分の良いものだったんじゃないかい?」

「……まぁ、僕は独占欲が強いからそういう話を聞くと、ちょっと気分が良いけど……いやでも、なんでその話に戻すんだ……?」

 別に他の男に見せつけたいからアベリアと愛し合っているわけではない。彼女の見た目や身体的特徴から惚れたのではない。好きを自覚したあとのことだ。その自覚後に改めて彼女を眺めると、信じられないほどの美少女じゃないかと天を仰いでそのまま引っ繰り返りそうになっただけだ。

「その方が面白いから」

 彼は彼でエイミーという気丈で清廉な女性と婚約している。アレウスからしてみれば――いや、その話は過去に聞いている。二度目になったら胸焼けがするほどの惚気話を聞かされそうだ。もしかするとヴェインはそれが狙いなのかもしれない。聞きたい素振りを見せつつその実、自身の惚気話を聞かせたい。たまに街中で見かける厄介な絡み方をする酔っ払いに近い。いつもなら付き合うが、今日は勘弁してもらいたい。なぜならアレウスはきっとこのあと、ジュリアンからエイラとの仲睦まじい話を聞かされるに違いないからだ。自身の頭では一日に二つの惚気話は処理し切れない。エレスィの話が間に入るなら尚更、脳は処理することを諦めるだろう。


「結局、思っていた以上に時間が掛かってしまいましたが」

 どこからともなくエレスィの声がして、玄関の扉が開く。

「ヒューマンの文化に触れるのもなかなかに悪くはない機会でした」

 気配を消していたわけでもなんでもなく、『森の声』経由でアレウスの耳がエレスィの声を拾っていただけのようだ。エレスィは扉を開いた張本人で、そのすぐ近くに『竜眼』の少女がこちらを向いて立っている。

「気が急いていたのも、少しだけ落ち着きましたし」

「ようやく事情が話せるから気も楽になるだろ?」

 アレウスはエレスィと少女を迎え入れ、ヴェインと同じテーブルを囲うように椅子に座らせる。

「いえ、本来ならもっと早くに話は済ませたくはありましたよ? タイミングが合わなかっただけで」

「エレスィはそういうところがあるからねぇ」

 クラリエが暢気な声と共に現れる。

「この家、魔法陣を新しくした?」

「『気配消し』と『感知』辺りは無効化しているし、『聞き耳』も立てられないようにしたはずだ」

 なので今回のクラリエの登場は景色から現れるようにではなく、二人が家に訪れるのと合わせて玄関から入ってきた。

「アレウスたちの話が気軽に聞けると思ったのになぁ」

「そういうことをしそうだから魔法陣は早めに新しいものにしてもらったんだよ」

 共同生活を再び送ることになるのなら、プライバシーの侵害は気軽に行えないようにしなければならない。クラリエの『気配消し』はあまりにも技能のレベルが高すぎるため無効化できるか不安だったが、この言い方なら上手く機能しているようだ。

「それで? その子の名前は?」

 エレスィは少女に名前を伝えることを促す。

「フェルマータ……です」

「家名は?」

「分からない、分かりません」

「俺もフェルマータとしか教えてもらっていません。ロジックを開いてみますか?」

「いや、わざわざ開いてまで知りたいことじゃない。名前があればともかく不便ではないし」

 ガラハにだって家名はない。ドワーフにはそういった文化がないためだ。彼女はひょっとしたらどこの国にも属していないヒューマンの少数民族で、ドワーフのように家名を持たないのかもしれない。

「ロジックをいきなり開いて怖がられるのもちょっと」

「アレウスにしては優しいじゃないか。子供でも疑うときは疑うべきだって考えじゃなかったのかい?」

「エレスィのことを信じている。一年以上前のエルフの森、そしてリオンの異界。その二回で信頼に足る人物だと判断した」

「ありがとうございます……なんだか不思議な気持ちですね。俺たちエルフはあんまり他の種族に褒められてもなんとも思わないんですが、アレウスさんに言われるのは格別の情が湧きます」

「死線を共に潜り抜けたからこそだ。ここから裏切ることがあるのなら、僕も相応の態度を取るよ」

「この場にいるクラリエ様と、森で待つイェネオスに誓って裏切ろうなどと考えていません」

 その二人の名を口にするのならエレスィにも相応の感情が乗っていることが分かる。

「それで、リオンの異界からその子を助け出した理由は?」

「聖女絡みです。エルフの巫女様が『魔眼』持ちであることは知っていますよね?」

「星辰で彼女――フェルマータがリオンの異界に堕ちていることに気付いたんだろう? それも聖女だからか?」

「恐らくは……そして、聖女の持つ『魔眼』の力に他ならないかと。俺にフェルマータを助け出してほしかったのは、他の聖女との力関係で弱い立場になりたくないからだと思います」

「弱い立場?」


「『魔眼』にも強弱があるんじゃないかい? 得意分野が異なるというか。だからエレスィが言いたいのは、エルフの巫女様が持っている『魔眼』は戦いにおいて有効なのではなく、補助的――サポート向きなんじゃないのかな」

「よく分かりましたね」

 エレスィはヴェインの推理に驚く。

「巫女様は星辰を詠むことと、『魔眼』で多くの脅威を事前に察知することはできるのですが、目の前の敵にはそれらの力を発揮したところで無力にも近いのです。そうならないために常に星辰を詠み続けているわけですが、どうやら行く先は明るくはないようで」

「それでフェルマータを欲した?」

「欲したというより確保したかったんだと思う。巫女様はそんな性格の悪い人じゃないし、人当たりも良いよ? あたしにアレウスの居場所を教えてくれたのも巫女様って言ったでしょ?」

 クラリエがアレウスの強めの質問をやんわりと否定する。

「他の聖女に確保されたら、どんな風に利用されるかも分からない。だったら手元に置いておいた方がいい。そういう考えだよ……多分……あ、御免ね。多分って付け足したのは、人の心の奥底はいくら信じていても全て覗き見ることは不可能なんだって……知っているから」

 その経験談にはアレウスも同意するように肯く。どれだけ良い人だと思っていても、ビスターのような裏切りは起きる。だからこそ、心の置き場所は常に気を付けなければならない。

「フェルマータさんはその眼でなにが見えるんだい? いや、なにか見えたりするのかい?」

 ヴェインは紳士的に少女へ問う。

「分からない、です」

「変なものが見えるとかは?」

「変……? なにが変で、なにが変じゃないのか、分からないです」

 少女は常に『魔眼』が発動している状態にある。魔力や気力を奪うようなものでも、なにか行動を縛られるようなものでもない。そうなるともっと別の力となるわけだが、正直なところアレウスの手元には『魔眼』の情報は少ない。知っている『蜜眼』についても魔力を吸い取り、『蜜』のように魔物を誘き寄せる能力であったということぐらいだ。それ以外の『魔眼』はエレスィから聞いた程度で、それ以上はない。

「常に発動しているんなら、産まれながらなのか、ある時からなのか。なんにせよ、常に見えていたり感じ取ったりしている物のなにが変で、なにが変じゃないかの判断は付かないかもな」

 この子にはあってあるべき常識が足りない。悪意ある非常識ではなく、これこそ無垢だと言うべきほどに真っ白なのだ。少女だとしてもこのぐらいの年齢で得るべき識字能力を持ち合わせておらず、言葉も自分の中で処理できる言葉以外を理解し切れない。


 たとえば物心付く前の子供に外界から完全にシャットアウトした状態で“羽虫”を“妖精”と教え込んだら、誰かに訂正されるまで“妖精”と呼び続ける。それがその子にとっての常識となる。だから、アレウスたちにとって変な物でも、彼女にとっては常日頃に見えているから変ではなくなっている可能性がある。そしてそれは彼女にしか見えない物だった場合、他者が訂正できるものではない。

 そう、他者が訂正することができない。ここが厄介だ。彼女が見えている物の正体を思考と言葉で理解しない限り、永遠に分からないままなのだ。


「勉強させなければならないよねぇ。でもエルフの森でヒューマンに色々と教え込ませるのはちょっと」

「俺もそこは気掛かりです。エルフの教育は長いですからね。ヒューマンの寿命には合っていないかと」

「だからって僕は無理だからな。僕やアベリアは常識がない方だ」

「俺はまだ子供の面倒を見られるほどの人間性を獲得していないよ。こういうのは経験者じゃないと」

 そこでアレウスとヴェインが同時に「あっ」と心当たりに行き着く。


「戻りましたー。いや、戻ったとはいえ師匠のところに行くので挨拶程度、に……なんですか?」

 丁度良いところにジュリアンが顔を見せにきたのでアレウスとヴェインが彼を見る。

「いや、でもエイラの家に俺は強くは言えないよ。エイミーを雇ってくれているし、お願いできる立場にない」

「僕だってこの家を買うときに良くしてもらった。また面倒事を、と言われたくはない」

 なので、ジュリアンの存在はとてもありがたい。


「なんか、嫌な予感がするんですけど」

「まぁまぁ、取って喰おうってわけじゃないんだから、まずは話だけでも聞いてくれ」

「いつもより優しくないですか? 優しいアレウスさんとか気持ち悪いんですけど」

 散々なことを言っているが、受け入れよう。それよりも今後の話が重要なのだから。

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