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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第9章 -キングス・ファング-】
463/705

*キングス・ファング編 設定*

作者による物語設定です。『キングス・ファング編』の内容が過分に含まれるため、ここから最初に読むのはお控えください。



















*カッサシオン・ファング

 ファングは王の子孫であることを指す。そのため、王を目指す子供は『ファング』とは名乗らず、母親の姓を用いる。又は気に入った相手にだけ母親の姓を名乗る。


・人物像

 ディヴェルティメント・ヴォルフ(以後、キングス・ファングと表記)の長男。先代の王であるキングス・シュランゲの娘の一人がハーレムに加わり、孕んだ子供。聰明で博識であり、獣剣技の腕前も持ち合わせた獣人。蛇の獣人は爬虫類の両腕と両腕を持つため、魔物のスネイクマンと誤解されがちで、現にアレウスもカッサシオンの存在を知るまでは自身の『蛇の眼』がスネイクマンから手に入れたものだと思っていた。

 基本的に常識人で、良識も持っており、それでいて家族思い。人のぬくもりを知っている。温厚ではあるが、同胞を傷付けられれば容赦ない粛清を行う一面も持ち合わせている。


・出生

 前述したようにキングス・シュランゲの娘を母に持つ。祖父に負けず劣らずの剣の腕前を持っていたが、どれもが我流であるため大成することはなかった。ただし『蛇王刃』は習得している。ハーレムで最初に産まれたこともあって、かなり甘やかされて育てられていたがキングス・ファングの教育は「力なき者は死あるのみ」という精神があったため、常に生傷が絶えない戦闘訓練を受け続けていた。


・死亡

 キングス・ファングに命じられて『勇者顕現計画』のための建造物の調査に出る。しかし、その頂上でなにが起こったのか不明だが、獣人部隊は壊滅した。クラリエと『影踏』はその惨憺たる光景の目撃者。遺言としてクラリエは『シオンと名乗ってくれ』と言われ、それを偽名として活動を続けた。死因は失血死。手遅れの状態で治療の余地なしであった。その片腕は切断されており、のちにノックスが自らの武器とするために回収している。


・王の試練?

 キングス・ファングがカッサシオンに与えた試練であると言っているが、実際のところは不明。ただし、キングス・ファングは『掘り進める者』――リオンを全ての獣人の始祖であると思っているため、実の息子を捧げたとしている。



*ノクターン・ファング

 気に入った相手には『カッツェ』の姓を明かす。愛称は『ノックス』。


・人物像

 自由な気風持ち。既存の考え方に囚われないが、獣人としての誇りは学んでおり、同胞が傷付けられれば激昂する。考え方が自由過ぎてキングス・ファングの娘であることが枷になっている面があり、本人は自覚していないが常々に責任の取り方を思考の中に置いている。


・頭の良さ

 双子の妹であるセレナの方が地頭が良いと自称するが、セレナも姉の方が頭が良いと謙遜する。実際は両者ともに戦闘に対する思考力は同等で、判断力はノックスが勝るものの、迷いが生じるような場面ではセレナの状況打開力としての思考が上回る。

 しかしながら、『魔の叡智』に触れつつもそのほとんどの使い方を理解していないため、アレウスたちよりはなにも考えていない場面は多い。


・口の悪さ

 キングス・ファングの娘でありながら気品はなく、乱暴な物言いをよくする。これは『女』であることで自身の選択肢を狭められたくないという精神の表れで、戦闘技術を学んだのも全ては男に勝るため。獣人は爪を用いた打撃格闘術を常用するが、ノックスは望んで短剣術を学習した。その師は父親。だが、父親とは技の使い方に違いがあるため、その全てを身に付けられず、『狼王刃』を形にすることはできなかった。だが、アレウスと同時に技を放つことでの『合剣』による再現を可能としている。


・『不退の月輪』その1

 ノックスとセレナに分け与えられた『継承者』のアーティファクト。ロジックに保持しているだけ、また『継承者』及び『超越者』と認められている限り、ノックスの身体能力を底上げしている。『魔の叡智』についても与えているのだが、ノックスは知らず、知らない内に肉体強化として用いている。セレナの調子が悪いときは力の負担を強める調整を行うことで、『不退の月輪』が持つ力の暴走を阻止している。


・アレウスへの裏切り

 そもそもはアレウスがノックスとだけの秘密をカーネリアンに明かしてしまったところから始まっているが、それ以外は完全に“ロジックに寄生する者”に操られたことによる暴走である。本人の意思は逆側にあり、アレウスの言い分を素直に聞き入ってはいたが、それらの意思は全て跳ね除けられていた。


・『継承者』として 『超越者』として

 ノックスとセレナは『継承者』と『超越者』の両方を併せ持つ。互いに立場を入れ替えることで臨機応変に継続的な戦闘を行うことが可能。しかし、二人の繋がりを断つようなことがあれば(リゾラの空間魔法のような方法で)、循環が不可能となる。


・呪術

 ノックスは肉体強化を自然と行っているが、意識的に行うものとして呪術を習得している。クラリエのような特定の対象に影響を及ぼすものではなく、媒介を自身の血を混ぜ合わせることで短期間ながらの召喚を行える。しかし、現状は『蛇骨』のみで、これはカッサシオンの骨で作った短剣を媒介にしている。


・骨の短剣

 いわゆる曰く付きの武器。長男であるカッサシオン・ファングの腕から作り上げた逸品。決して折れず、刃こぼれしない。アレウスの持つ短剣と同様に情念が込められているがために形を保ち続ける。切れ味はそこそこながら、刃の部分がギザギザに荒れており、掠めただけで切り裂くというよりも皮膚が削り取られる。しっかりと狙いすませば綺麗に断ち切ることも可能。刺突の面では通常の短剣にやや劣る。


・一途な恋心

 獣人は最も魔物に近しいミーディアムであるため、その特性が強い。ハーフエルフやハーフガルーダのようなミーディアムよりも圧倒的に恋に落ちやすいため、群れの外に『女』なら滅多に出てはならないとされる。これは他の種族との恋に落ちないようにする術なのだが、ノックスもセレナも姫という立場上、戦いの最前線に出ざるを得ないことも多かった。

 そもそも、本人が束縛を嫌うため、いずれは恋に落ちる運命だったとも言える。

 アレウスと遭遇して割とすぐであり、終末個体のピジョンにアレウスと共闘し、『合剣』を放った瞬間から好意的な感情を抱いていた。


・責任

 今回の群れでの争乱は全てが“ロジックに寄生する者”によって仕組まれた者とも言えるのだが、父親であるキングス・ファングの自らの権威を知らしめるための暴走行為も含まれている。父親が死んですぐに、父親が築いたハーレムの女たちを始末し、今回のほぼ全ての責任を背負う形で群れから脱退した。脱退で済んだのはディヴェルティメントの娘であるから。ほぼ追放や放逐に近いが、セレナとパルティータがいる限りは群れに顔を見せることぐらいは許されている。ただし、身の安全までは保障されていない。


・母親の遺骨探し

 “ロジックに寄生する者”がノックスを操るようになってから、真っ先に行ったのは遺骨の捜査である。そのために何度も群れが墓場としている谷底に行き、そこで『不退の月輪』が“ロジックに寄生する者”をノックスの中から追い払うためにけしかけたランページビーストとの戦闘を繰り返す。以後、完全に“ロジックに寄生する者”を攻撃対象とし、『不退の月輪』は暴走にも似た速度で『呪い』という名の魔力を溜め込み、そのたびにランページビーストを生み出し続けていた。

 遺骨に拘っていたのは、それがノックスのロジックにおける弱点だと分かっていたため。ノックスのロジックはたった一人にしか開くことのできない特別なロジックであることを寄生してすぐに学び、ならばそのたった一人とは誰なのかとロジックを辿った結果、『母親』であったことを突き止めた。

 遺骨を用いたスクロール、もしくは遺骨を手にしての『開け』の号令は、ロジックを開かれかねない。その弱点を断つためにノックスを奔走させたが、そもそも母親の遺体は墓場にはなく、異界に堕ちており、奇しくもアレウスの『右腕』として世界へと戻っていた。そんな都合の良い話があるものかと高を括っていた“ロジックに寄生する者”は結果的に、アレウスの『右腕』によってその正体を暴かれ、リゾラによって拘束されることとなった。


*セレナーデ・ファング

 母親の姓は『カッツェ』


・人物像

 あまり話したがらず、常に謙遜的。あらゆる戦闘技術が高みにあり、打撃格闘術は他の追随を許さない。キングス・ファングですらその戦闘能力を強く評価していた。

 話したがらないが、心理的に信じられる相手とは気軽に話す。アベリアとは会った当初は敵同士と思って対立していたが、落とし穴に落ちたあとは食料や水を分け与えてもらったこともあり打ち解ける。終末個体のピジョンを倒し切れずにアベリアが死んでしまったあと、『教会の祝福』で甦ったかどうかを確認するためにわざわざシンギングリン近郊まで足を運んだことさえある。信じる相手への情が深い。


・ハゥフルの国での一件

 上に記したようにアベリアが甦ったかどうかを確かめるため群れの目を盗んで抜け出し、シンギングリン近郊まで訪れたところをエルヴァに捕捉される。しかしエルヴァには見過ごしてもらい、アベリアの気配を感知できるところまで来て一安心し、あとは群れに帰るだけというタイミングで奴隷商人の繋がりを持っていた『鬼哭』に捕まり、船を利用して遠方に送られ、奴隷として売られるところだった。抵抗できないように特殊な道具で捕まっており、心を折るために食事を極限まで与えられることがなかった。それでも彼女は意思を曲げることなく、姉が救出に来ることを信じて待ち続けた。その際、姉がアレウスを連れ立っていたため、セレナはこの時点でノックスがアレウスに好意を持っていることを把握する。

 しかし、ハゥフルの国で暗躍していた“ロジックに寄生する者”の意識が、彼女のロジックに忍び込む。


・『不退の月輪』その2

 セレナの用いる『闇』を渡る力は『不退の月輪』から与えられた力で、ノックスと違って本人は自覚して用いている。また肉体強化が施されていることもノックスと違って自覚しており、打撃格闘術を用いるときには常々に意識して『魔の叡智』を解放している。

 『闇』を渡れるのは平行に制限、かつ壁を擦り抜けるような渡り方はできない。また、使用回数が決まっており、それ以上は渡れない。回数を回復するには一夜を過ごさなければならない。ただし、これらは通常のセレナの話。ロジックに寄生されて以後は『不退の月輪』が内部にいる寄生者を排除するために莫大な魔力という名の『呪い』をセレナに与えていたため、キングス・ファングとの激闘までにおける『闇』を渡る回数は無限回にまで至っていた。


・双子

 獣人たちが産むのは基本的に一人だけ。その後、ハーレムの中であればもう一人と妊娠することはあるものの、双子は獣人たちにおいて凶兆の証となる。カッサシオンは自らの父親にどちらかの命を絶つことを要求していたが父親はこれを拒否。凶兆の存在をそのまま育てることは群れの不和を生み出すと思いつつも、彼は産み落とされた二つの命を監視する。しかし、監視している内に情が移り、少しずつ生きるための術を叩き込み、獣人としての立ち回りの基礎を彼女たちに授けた。

 『不退の月輪』は彼女たちにとっては双子であるがゆえに制御可能なアーティファクトで、どちらか片方が死ぬようなことがあれば不安定なものとなる。キングス・ファングとの決戦において命懸けでチャンスを作り出そうとしたセレナの判断は正しくはあったが、場合によってはその後の被害は更に広がるところであった。


・『蛇の眼』

 決戦後、アレウスが持っていたはずのアーティファクトが彼女のロジックに移った。持つべき者の手に移っただけのことで、アレウスはさほど気にしていない。セレナは欠損した片目を『蛇の眼』で補うことができ、またアベリアの情に打たれたリゾラが仕方なくも回復魔法を唱えてくれたことで奇跡的に生還。とはいえ、しばらくは戦うことができない虚弱体質になってしまっている。


・『混沌』

 ノックスとセレナが『継承者』と『超越者』の役割を繰り返し与え続けることで起こす循環が、強烈な魔力の高まりへと変貌し空間を捻じ曲げる。捻じ曲げられた地点に発生した力場はあらゆるものを吸い込み、捩じりながら潰す。これを阻止するには発生の瞬間を抑え込むか、そもそも詠唱を阻止する以外にない。


*『呪い』とは?


・双子そのものが『呪い』と獣人たちは言う。キングス・ファングの群れには古より続く『呪い』があるとも。『呪い』の力がノックスとセレナを、そしてキングス・ファングを狂わせたかのようにも見える。

 しかし実際は『不退の月輪』は自らが選んだ双子の獣人のロジックに潜む寄生者を排除するために暴走していた。であればそれは『呪い』とは言い切れない。

 彼女たちを『呪い』そのものとするのは、その出生にある。『カッツェ』は猫の一族であるが、ノックスは『獣王刃』に母親の姿を見た。この世界に『獅子』の概念は存在せず、なのに母親の“本性化”した姿に似ているとするならば、彼女たちは『獅子の一族』である可能性が高い。獣人たちにとって始祖たる者の姿に近しい姿を持つ。それこそが、彼女たちを『呪い』そのものとキングス・ファングが評した理由なのではないだろうか。



*『不退の月輪』


・アーティファクト

 異界から獣人たちが持ち帰ってから墓場に安置されていた。しばらくは何事もなかったが、双子の姫君の誕生に伴い、彼女たちを力を与えるべき存在と認める。以降はその力の均衡を彼女たちが絶妙な加減で行い続けるため暴走もなく、静かなものであった。そもそも『不退の月輪』自体がなにかを起こそうという意識を持っているものではないため、単純に選んだ双子の姫君がたまたま『魔の叡智』が乏しい獣人だったことが暴走を意識される要因として挙げられる。


・能力

 『闇属性』。主に力場を生じさせ、対象に過負荷を与える。また魔力を与えることで屍をランページ化させることが可能。この能力の一部はノックスの『蛇骨』のような一時的な召喚に影響を与えている。

 キングス・ファングの介入により『超越者』に固定化されたことで、寄生者を取り除かれたノックスとセレナに多大な支援を行うが、それまでの間に貸し与えられた力はあまりにも膨大で、キングス・ファングに魔力の鎧を与えることとなってしまった。

 争乱ののち、墓場より消失。二人のアーティファクトとしてロジックに自然と収納された。


*パルティータ・ファング

 又の名を『パルティータ・ヴォルフ』


・人物像

 丁寧な物腰ながらに、少しばかり野心が見える青年。父親の傍にずっと居続けたことで群れの歪みを先んじて目撃し続けてきた。戦闘能力は総じて高いが、極端に高いわけではなく、セレナのような極め切った打撃格闘術の前では劣る。だが、タフネス――生まれもっての打たれ強さは誰よりも高く、持久力においても右に出る者はいない。


・末弟

 キングス。・ファングのハーレムで最後に産まれた子供。それも近親相姦によって産まれている。誕生の際、キングス・ファングの妹は死亡。キングス・ファングのハーレムはこれ以降、子供を設けることはなくなった。

 数多くいる兄や姉を知っているが、王となるための道から逸れた者、外された者も多く見届けている。そしてキングス・ファングが最終的に自らの息子や娘と決めたのはカッサシオン、ノクターン、セレナーデ、パルティータの四人となった。


・政争

 パルティータは争いを好まない。そのため、次代の王の擁立という形で互いに互いが認め合い、誰もが賛成する形で新たな王を決めようと思っていた。その際にノックスとセレナは次代の王になりたがっていないことを知り、なのに次代の王にと擁立しようとする者がいたために自らが声高に次代の王になると宣伝することで彼女たちへの視線を逸らそうとした。


・姉思い

 異性としての好意ではなく、姉弟としての好意はある。だからこそ次代の王を決める争いに彼女たちを巻き込みたくはなかった。そうなると、そもそも擁立できないような形で群れに納得してもらう方法を模索。群れでパルティータはノックスから『アレウリス・ノールード』というヒューマンのことを、セレナからは『アベリア・アナリーゼ』のことを話され、少なくとも片方は異性で、好意を持っているに違いないと判断し、シンギングリン近郊の仮拠点まで遣いを出して彼らを呼び寄せた。その中に種族的に相性の悪いカーネリアンがいることは少々想定外だったが、持ち前の思慮深さでなにもかもを容認し、アレウスに『子作りをしてもらいたい』というとんでもないことを言い出すことになった。


・王を継ぐ者として

 パルティータは群れを継ぐことを決意こそしているが、自身には務まり切らないとも思っている。しかしながら、時代は彼を待ってはくれない。不釣り合いであっても纏め上げる存在がいなければならない。多くの犠牲が出た瞬間だからこそ、王として君臨してもすぐに誰かにこの座をもぎ取られるだろうとも考える。

 それらを呑み込んだ上で、群れを統治することを決めた。


*キングス・シュランゲ


・前代の王

 獣人の戦い方に疑問を感じ、武器を持った戦いをただひたすらに極め続け、王の座をもぎ取った者。ディヴェルティメントがくだすまでは最強の獣人とまで言われていた。尚、彼の進言によってエルフの森への侵攻を行っている。


・エーデルシュタイン家との繋がり?

 彼が持つ剣技のほとんどは獣剣技の中でも我流の物となっており、彼の用いる名称と他の獣人が用いる名称とでは技の形は大きく異なる。それは忌み嫌うガルダとの鍛錬によって手に入れた技である。それがエーデルシュタインを名乗っていた。

 しかし、カーネリアンが知る限りではエーデルシュタイン家が戯れに獣人に秘剣を授けたなどという資料はない。エーデルシュタイン家を騙る何者か、或いはエーデルシュタイン家から絶縁された者がせめてもの復讐とばかりに秘剣を授けたのではないかという予測が立つ。しかしそれらは予測であり確証ではない。


 『本性化』は元々、半身半蛇。しかし、己の戦い方に合わないということで『本性化』そのものを変えるまでに至っている。


*キングス・チュルヴォ


・女王

 チュルヴォは女性ながらに王の座に君臨した者。その異例を認めたのはキングス・ティーガーである。当初はどんな獣人にも敵わないほどに非力であり、持っているものと言えば異性を魅了する特異体質のみ。しかしながら、そんな搦め手で勝つことをチュルヴォは望んでおらず、自らの手での成り上がりを望み続けた。鍛錬は苛烈なもので、命を落としかけることも多くあったという。


・エルフとの遭遇

 チュルヴォの体術と魔法が完成したのはエルフと出会ったことがキッカケである。死にかけだったチュルヴォの面倒を見るだけに留まらず、様々な知恵を授けてくれた。その日々をチュルヴォは忌まわしき日々とすら思っていたのだが、あるとき、そのエルフは彼女の前から姿を消した。その瞬間に彼女は自身が抱いていたのは嫌悪感などではなく猛烈なまでの恋心であったことを知り、涙を流した。

 ランページ化して甦った彼女と戦ったのは、そのエルフと縁深いクラリエであった。


 彼女の代でエルフの森への侵攻は一度、白紙となっている。


 『本性化』すれば十重に二十重に魔力を纏い、角が生えて草食動物の両脚、顔には血で模様を描く。元々の幻影を置いての戦い方に加えて、独特な歩法を補佐するように魔力が高まる。


*キングス・ティーガー


・獣の王

 ティーガーは獣人らしく、持ち合わせた爪と牙での戦いで王の座を掴み取った。まさに獣のように激しく凛々しく、そして凶暴であったという。王になってからも粗暴さは抜け切らなかったが、慣習や決め付けに囚われることのない徹底的な強さを追い求めていた。チュルヴォという女の獣人の決闘を許したのも、自身を上回る実力を持っているのなら男も女子供も関係なく、王であるべきだという考えがあったため。


・王を継ぐ者

 ティーガーは王に絶対の忠誠を誓う。それが己をくだしたチュルヴォであり、女であっても変わらない。己が負けたのであれば、次代の王は確実に己よりも強い者であるためだ。彼は己よりも強い王には決して逆らわない。それはチュルヴォがシュランゲの戦いに割り込もうとしなかったこととも重なる面がある。


 『本性化』すれば牙と爪が更に鋭くなり、四足歩行となる。肉体も大きくなり、加速力の上昇に伴った脚力による俊足を実現する。



*ディヴェルティメント・ヴォルフ


・人物像

 現代の王である『キングス・ファング』。野心家で他種族を嫌い、方便よりも実力を重視する。クラリエとは王になる前に面識がある。

 王とは孤独であり、全ての獣人よりも強い者でなければならないという思想を形にした存在。現状、彼を越えるキングス・ファングは存在しない。


・エルフの森侵攻

 シュランゲが王であった頃、ディヴェルティメントはエルフの森へと侵攻することを進言している。これは『不退の月輪』を異界より見つけ出したことで群れ全体にその加護があると信じて疑わなかったため。また、外部からの情報を密かに手に入れ、エルフの森内部での混乱に乗じることとなる。このエルフの森への侵攻の成功が結果的に彼の実力での支配という思想を高める結果となる。


・キングス・ファング

 王となったディヴェルティメントは群れを圧倒的な力で纏め上げ、全ての群れの中で最強と呼ばれるまでに高め上げた。ハーレムを築いてからは、子供がいずれは自身の命を取りに来るだろうと考え、更にはそれを逆に待ち遠しく思うだけでなく、命を取れるようにと戦闘訓練と教育を促した。子供への愛情がないのではなく、子供であるからこそ愛情以外の全てを注ぎ込んだ。パルティータはその歪みに一早く気付いていたが、父親に進言できるほどの力はなく、言われるがままの日々であった。だが、キングス・ファングはパルティータを自身と同じ『狼の一族』であったため、特に可愛がっていた。


・老い

 闘争がディヴェルティメントにとっての全てである。その実力が常に高みにあることこそが彼の望みである。しかし、歳月が過ぎれば過ぎるほどに成熟した彼の力は衰えていく。最盛期を終えれば、更に老いが待っている。ディヴェルティメントは、力が衰えていく自分自身を認めることができなかった。老いは焦りとなり、彼の心を次第に蝕んでいく。


・力に溺れる

 『不退の月輪』の魔力はディヴェルティメントを補強する。そのためには『超越者』として力を貸し与えられなければならない。早期に自身の双子の娘が『不退の月輪』に選ばれていることを知った彼は、なんとしてでもその力の一端を手に入れようと画策する。しかしながら己が動いてどうこうできるものではなかったため、であれば他に『不退の月輪』と同様の力はないものかと捜索を開始する。カッサシオンに試練とばかりに『勇者顕現計画』の建造物へと向かわせたのも、『不退の月輪』と等しいアーティファクトを探させるためである。結果的にそれは自身の息子を『掘り進める者』へと捧げる形へとなってしまったが、後悔はしていない。

 捨てられた異界でアレウスと対峙している経験がある。そのときは『本性化』しており、魔狼にも等しい姿であったためアレウスたちは魔物と勘違いした。尚、捨てられた異界にいたのも、アーティファクトの捜索が主であった。


・異界信仰

 ディヴェルティメントは『掘り進める者』――リオンを獣人たちの始祖と捉え、熱狂的なまでの信仰心を抱いている。だからこそ息子の死が『掘り進める者』に関する者であった場合は、逆に捧げものをしたと考える。始祖だから全てが許されるという考え方は破綻しており、彼の中にある弱さの一端である。


・最期

 強さに拘り続けた理由は、時流によるもの。即ち、闘争を全てとしていたディヴェルティメントにとって闘争の時代である今こそが輝ける場所であるはずだった。しかしながら自らの老いと衰えが、時流にそぐわない。次第にそれは今、実力を持つ者たちに対する強い嫉妬心となり、どうしてそれだけの実力を持ちながら闘争に身を投じないのかという苛立ちにもなっていた。

 双子の姫君が“ロジックに寄生する者”によって操られていることは知っていた。自身にもその魔手が伸びていたのも知っていた。しかしながら彼はそれら全てを容認し、魔手に操られることなく追い出し、不可能と思われた『不退の月輪』の『超越者』にもなることができた。力を追い求め、力に溺れ、力を全てとした者にとって、再び最盛期にも近しい力を発揮できる状況が作り上げられた。だからこその、侵略である。もはや群れの王などという思考ではない、世界の支配者となるべく動き出した彼は止まらない。

 そのディヴェルティメントの前に立ち塞がったのは、自身が鍛え上げた息子と娘たちだった。だが、個々の力に固執していたディヴェルティメントにとって、結束した力で挑む息子たちを許すことは到底できない。ましてやヒューマンまで混ざっていることは認めることすらできない。

 だからこそ、王を望むのであれば己を倒せと。彼らの王への挑戦を認めることにした。個々の力こそが絶対であり、結束力など無駄であることを知らしめるために。


 だが、彼の命を取ったのは息子や娘たちが託したヒューマンの短剣だった。息子と娘たちが全てを懸けたのが歯牙にもかけないヒューマンで、尚且つその者の手によって殺されることに彼は絶望し、群れが弱くなる未来を嘆きながら絶命した。


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