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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第9章 -キングス・ファング-】
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ノックスは

「くだらないことに首を突っ込むことになろうとはな」

 仲間と合流後、クラリエの話を聞いたカーネリアンが悪態をつく。

「これでは次代の王のためにと擁立してきた者たちも浮かばれない。それどころか次代の王候補が首を揃えてキングス・ファングに戦うことになる。歯向かわず従ったとしても命があるかどうかも怪しい。ならばキングス・ファングがやろうとしていることは次代の王候補を一網打尽にすることだ」

「自身が絶対の王として君臨し続けることが狙いか? そんなに獣人の王に権力が集中すると思うか?」

 アレウスはカーネリアンの言葉に疑問を呈する。

「権力にしがみ付いているのではなく、より強い獣人の群れを作り、世界の覇者となる。獣人が牛耳る世界を作る。“今”のキングス・ファングは自分こそがそれに相応しい器であると考えているのだろうな。いや、おられるのだろうと言った方がいいか?」

 パルティータの顔色を窺うようにカーネリアンはアレウスの疑問に返答する。

「そのために“呪い”すらも利用する。私としては、力が衰え始めたこと自体にもなにかしらの意味があるのではと思わざるを得ないな」


「それは私も賛成。半年前に、そんなあからさまな力の衰えが起こるのは釈然としない。大体、王でありながら力の衰えを感じたのなら、大人しく退くべきだと思うけどね。或いは衰えても尚、王に固執するのなら力比べをするべき。自分よりも強い者が次の王になる。それは獣人がこれまで続けてきたならわしでしょう?」

 リゾラは辺りを見回しながらカーネリアンに同調する。

「王はそんな卑怯者だったわけじゃないでしょう? 受けろと言われれば力比べを受けていたはず。それがどういうわけか半年間、だんまりを続けた。それどころか、数週間に渡って遠征と言い張って行方をくらまし、姿を現したと思ったら『死体の雑兵』を揃えて、“呪い”も従えた。まるで、今の群れにいる獣人は死体にすら劣る精力としか考えていないみたい」


「……父上が、オレたちに襲い掛かる確証はまだありません」

「そりゃないけど、あった場合、あなたは死ぬわよ?」

 パルティータの淡い願望をリゾラはバッサリと切り捨てる。

「“呪い”を従え、頼った時点でキングス・ファングはもう『死体の雑兵』しか見ていない。多分だけど死なない尖兵が欲しい。だから予め死んでいる尖兵を用いる。どこかの国が冒険者を戦争に登用するのだって死んでも生き返る兵士が便利だから。テッド・ミラーと呼ばれる奴隷商人がいつまでもいなくならないのも、殺しても殺しても虫のように湧いて出てくるから。『不死人』が暴れ出したのも、死んだって冒険者とは別の理屈で生き返ってくるから。この世界って真っ当に、たった一回切りの人生を全うしようとしている人には物凄く冷たくて嫌になるわ」

 リゾラは足元を見て、水溜まりの水をパシャリと蹴った。

「多分だけど群れを全部、『死体の雑兵』に変えるつもりね。そうすれば、他の群れにだって決して負けない。そして他の群れの獣人と王を殺し、『死体の雑兵』に変える」


「それじゃ全人類がゾンビになってしまうじゃないか!」

 ヴェインは声を荒げる。リゾラの理論はなにも獣人の中には留まらないのだ。死なずの尖兵を引き連れて、まず全ての獣人の群れを蹂躙し、次にエルフの森を侵略する。そこから全土を侵略し尽くす。その果てに見えているのは、ありとあらゆる種族で成り立った『死体の雑兵』である。

「本気でそんな神に背くような行いを、一国の王にも等しい獣人の王がやると言うのかい?」

「あくまで可能性の話。物事ってそんな上手く転がることがないから、きっとどこかで止まる。止まるけど、その止まるまでの間に起こる被害は計り知れない。止まる要因がどんなものか、具体的に言ってしまえば……ゾンビよりも上の『不死人』がきっと黙ってはいないだろうし、場合によってはヒューマンたちは一時休戦して獣人を絶滅させるために力を合わせるかもしれない」

「つまり、オレたちに残されている道は“呪い”を従えた父上を殺すか、父上に殺され死体として従うか。更にはここで止めなければ、あらゆる人種に被害が及ぶ。及ぶだけならまだよくとも、獣人は改めて危険だと判断され、今度は一人残らず殺される。こんなのは、あまりにも理不尽だ。オレたちには父上を殺す以外の選択肢がないじゃないですか……」

「だからさぁ、そんな風に……なに?」

 リゾラがあまりにもパルティータを詰めるので、アレウスは思わず体を二人の間に入れて、止めてしまった。


「言い方を考えてほしい」

「だってありのままの事実を話さないと」

「事実は事実でも、彼には折り合いをつける時間が必要だ」

「そんな時間は、」

「時間がない中でも、折り合いはつけられる。僕たちはそうやって前に進むしかできないんだから」

「……ウザいなぁ。優しくして、その見返りになにを求めているの?」

「求めてない」

「絶対に嘘。あなたの優しさには見返りが欲しいって魂胆があって気持ちが悪い。これ以上、私を想い出に縛り付けないでよ」

 余計なことを付け加えたと、言ってからリゾラは気付いたらしく服装を正すような素振りを見せながら感情的になった自身を鎮めている。

「折り合いをつけたところで、結論は変わらないわ。私たちは嫌がったってキングス・ファングと戦う道しかないの。まぁでも、私はともかくとして……ここにいる人たちは誰一人としてキングス・ファングには敵わないでしょうけど」


「言ってくれるな」

「温厚なドワーフには荷が重いんじゃない?」

「それはやってみないと分からないだろう」


「そのヒューマンが仰っていることはあながち間違ってはいません。父上はキングス・ファングの歴史の中でも一番長く群れの王として君臨し続けています。もう一つの大勢力であるウリル・マルグですら父上を王の中の王と呼んでいるほどです。その証拠に、ウリル・マルグは父上がキングス・ファングと呼ばれてから過去一度も勢力争いを行ってきていません。父上以前には、それこそ数えられないほどの小競り合いがあったと窺っています」

「つまり、キングス・ファングは全ての獣人が怖れる獣人。そんな獣人が“呪い”――というか『不退の月輪』から貸し与えられた力を持ち合わせているんなら、もうヒューマンどころか全ての種族が太刀打ちできないってわけ。数百数千の規模で全ての種族が当たれるなら別だろうけど」

「太刀打ちはできなくても、搦め手はあるよね」

 リゾラはクラリエの方を向く。

「言ってみて?」

「『不退の月輪』から貸し与えられた力――キングス・ファングはアレウス君と同じく『超越者』。それでも力の差は歴然としていて、あたしたちが全力で全員が一斉に掛かったところで、赤子の手を捻るようなもの。だったら、『不退の月輪』を叩けばいい」

「確かに双子の姫君を殺せば、『不退の月輪』はキングス・ファングに力を貸せなくなると思うわ。だって、あくまで貸し与えられた力側だもの。継承者は“呪い”そのものである双子の姫君のきっとどちらか、或いはその両方。でも、あなたたちに殺せるの? お友達ごっこよろしくお仲間ごっこをしていたあなたたちが双子の姫君を殺せるの?」

「殺せない」

 クラリエは首を横に振る。呆れた様子を見せるリゾラに、それでもクラリエは自信ありげな表情を崩さない。

「あんなに姉思いで妹思いの姉妹を殺すなんてあたしたちにはできない。でもね、別に殺さずに済む方法はあるよね?」

「……ロジック」

 諭されるように言われ、半ば苛立ってはいたがリゾラは答えを呟く。

「双子の姫君のロジックに干渉することができれば、『不退の月輪』とキングス・ファングの繋がりを断てる。でも継承者って部分を断つのは無理だと思うけど」

「それだけじゃないでしょ? あなたは、あなた自身がやろうとしていることを隠している。あたしたちができないからって、きっとあなたはあたしたちを遠ざけて自分だけで双子の姫君を殺す方向でやろうとしていることがあるはず」

「……長く生き続けると、下手な芝居も見抜かれてしまうのかな」

 リゾラは観念したように溜め息をつく。


「ロジックに寄生することでしか生きることができない輩のことは知っている?」

「あたしも長生きだから、噂でしか聞いた程度しか知らないけど。テッド・ミラーのことよね? それと、ヘイロン・カスピアーナ」

 二人目の名前を出されるとは思わなかったのかリゾラは目を見開いた。

「あなたがここに来るまでの間に話題を出したからじゃなくて、あたしはあたしでシンギングリンのヘイロンとは全く違うヘイロンについて調べたんだ。だって、シンギングリンのヘイロンの死に様がどうしても受け入れられなかったから。そうしたら、別の方面の情報が入ってくるようになった。それが、あなたが言ったロジックに寄生することでしか生きられない輩」

「同姓同名云々のくだりは、私を油断させるためだったってわけね」

 二人のやり取りを蚊帳の外でアレウスは聞く。もはや聞くことしかできない。それぐらい、一年間をひたすらに研鑽することしかできない環境に置かれていたアレウスには知識がないのだ。


「私が思うに、双子の姫君はどこかでロジックの寄生虫と接触している。直接的にではなく間接的に、ね。どこでかは知らないしどちらが、かも分からない。でもどちらかが感染病のようにロジックに寄生されて、それが姉か妹に更に寄生、そして最後にキングス・ファングが寄生された。私の見立てではこんな感じ。だからロジックに干渉するのが有効なのは、そうすることで寄生虫をあぶり出すことができるから」

「その寄生虫とは目に見えるものか?」

 カーネリアンの質問にリゾラは首を横に振る。

「いいえ、ガルダでも、ましてやどんな種族にも肉眼で捉えるのは不可能よ。魔力や気力や呪力、それどころか霊的な存在でもない。ロジックというのが魔力で開くものでも、ロジック自体は魔力の塊ではないから、寄生虫はロジックと同じ性質でできていると私は思ってる」

「だからロジックに干渉――開けば、寄生虫の存在も露わになるということか」

「露わになっても見えはしないわ。見えるのは多分、私だけ」

「その根拠は?」

「私はそのために必要な力を最近、習得した。いえ、手に入れた。見せろと言われてもとっておきだから見せないし、晒さない」

「だから、あたしは二人を殺さずになんとかできるんじゃないかと思うんだよね。アレウス君がロジックを開いて、リゾラちゃんが寄生虫を逃がさずに仕留められれば、キングス・ファングは『不退の月輪』の力を失い、そこを叩けば僅かな勝機があるんじゃないかな。なんならロジックも開いて、そこに寄生している存在も仕留められれば、キングス・ファングを止めることができるよ」


「…………難しいな」

「あなたにとってはまたとない話だと思うけど? お気に入りの女の子を二人、殺さずに済むんだから」

「その言い方はよしてくれ。僕が懸念していることは、カーネリアンも知っていることだ」

 知っているからこそ、あえてこの話が結論に至るまで彼女は黙っていたのだ。

「セレナはそれで助かる。でも、ノックスは……」

「片方を救えてもう片方を救えないなんて、そんなことはないはずだよ、アレウス。今までだって、そうしてきたじゃないか」

 ヴェインに励まされても、この懸念は拭えない。


「ノックスのロジックは開けないんだよ」

 それまで意気揚々としていたクラリエが目を真ん丸と見開き、口を押さえて驚く。

「過去に一度、挑戦したことがあった。でも僕のロジックと同じで、特定の一人以外では開かないんだ」

 リゾラを見る。

「その寄生虫は、巻物による書き込む力でも現れるか?」

「……ロジックを開かない限りは、現れることはないでしょうね」

「だったら、ノックスのロジックが開けないのなら……『不退の月輪』の継承者が双子ではなく、ただノックス一人であったなら……セレナを救えても、止められないんだ……」

「確率は二分の一……いいえ、姉の方、妹の方、その両方で三分の一かしら。両方だった場合は、片方を抑え込めたら継承者も『選定者』も力は弱まると思うから」

 苦しそうに言ったアレウスに非情にリゾラは言う。

「悪くない賭けだと思うけど? やるだけやって、駄目だったら殺す。それでいいじゃない」

 体は勝手に動き、リゾラの服の胸元を掴んで無理やり引き寄せ、睨む。

「女の子の服を、それも胸元を引っ張るのは感心しない」

「黙れ!」

「大声で従わせようとするのは、事実からの逃避行動。そこの獣人よりも、あなたの方が折り合いをつける時間が必要なんじゃない?」

 引っ張った力を徐々に弱め、アレウスの手を払って離れ、リゾラは胸元を正す。


「やらないよりはやった方がいい」

 深く息を吐きつつ、ガラハはアレウスの肩を叩く。

「お前はそうやってきたはずだ。無理だからと諦めるのではなく、挑戦はしてみるべきだ。その先に無念が待っていようとも、可能性はあるんだから」

「俺は最後まで諦めたくないよ」

「……やるだけやってみる、か」


「はぁ~……だからそういうノリが嫌い。仲間内で助け合う感じが心底、肌に合わない。けど、協力関係を結ぶって決めたのは私の方。協力者の側で決定権を持っているのが、あなた。だったら、あなたの言うことに従う。さすがに死ねって言われたら逆に死んでもらうけど」

「くだらないことに首を突っ込んでしまったのは事実だが、見放しはしない。一助にはなってやろう」

 険しい表情をしているリゾラと、その逆で段々と穏和な表情へとなっていったカーネリアンがそれぞれ言って、アレウスもまた心の中で決断をくだした。

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