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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第9章 -キングス・ファング-】
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バートハミド


 故郷を失うことがどれほどの悲しみであるのか、アレウスは正直なところよく分かっていない。故郷で平穏に、当たり前に幸福に暮らすことを奪われたことで生じた信じられないほどの憎しみの感情であれば分かるのだが。

 自分自身が産まれ育ったところ。それがどこなのか、まだ分からない。記憶にある情景も薄れつつある。それでどうやって故郷を見つけ出すことができるのか。ルーファスやアニマートが語った話だけが僅かばかりの手掛かりだった。だがそれも、今では手が届かない。


 だからといって、諦めたわけではない。自らの故郷を見つけ出せるのなら見つけ出す。優先するべき順番が異なるだけで、胸の中で燻っている想いは忘れていない。


「バートハミドがもうすぐ見えてきますわ。できるだけ早く問題を解決したいところですわね」

「え……?」

 幻聴だろうか。それほどまでに自分自身が疲れているとは、とアレウスは溜め息をつく。

「荷馬車に忍び込むのも簡単ではないでしてよ」

「は?」

 どうやら幻聴ではないらしい。なにせつい先ほどまで姿が見えなかったクルタニカが馬車の中にいる。幻覚まで見えているのかと恐ろしくなったが、それほどまでに自分が疲れていないとは思っているし、むしろ幻聴や幻覚が全て現実のものと考えた方がこの場合はすんなりと腑に落ちる。

「なんで、クルタニカさんが」

「ちゃん様でしてよ」

「そうじゃなくて」

「あと敬語は禁止でしてよ!」

 会話が噛み合わないので、現実ではなく幻覚や幻聴の可能性が再度、急浮上する。

「荷馬車はちゃんと確認するのが賢明でしてよ。でないとわたくしのように忍び込むことができてしまいましてよ」

「……あの、シンギングリンの……浄化作業は?」

「アベリアに任せましたわ。本人にもそう伝えていましてよ」

 絶対に嘘である。それならアベリアはアレウスに言ってきている。

「ガラハが別の馬車に乗ったのを見計らって……ですか」

 仮拠点から北へ向かうのはアレウスとガラハだけに限らない。なので幾つかの馬車が列を成してキャラバンとなっているのだが、先ほどの休憩時間の最中にアレウスとガラハは別々の馬車に乗ることになった。キャラバンにおいて、馬を扱ってくれる馭者の選択に文句は言えない。アレウスとガラハを分けたのはバランスの兼ね合いだ。前列と後列で冒険者を分けさせることで、前後で魔物の襲撃が遭った際に即座に対応できるからだ。


 そうなると当然、知らない人との馬車の中では相席となるため、ずっと瞼を閉じて馬車に揺られながら、若干ながら眠気を感じ始めていた頃にクルタニカの声が聞こえたからこそ、脳がハッキリとクルタニカがいることを認識するのに時間を要した。


「大体、アレウスはわたくしの気配を感知できていたんじゃないんでして?」

「魔物の気配を追う方に重きを置いていて、クルタニカの気配までは気にしていなかった」

 とアレウスは言い訳をするが、ただ気を抜いていただけだ。連合の収容施設から脱出してからリブラの討伐に至るまで、全くと言っていいほどに気を抜けるタイミングはなく、だからこそ北へ向かう馬車の中では気を抜き切った。それでも最低限――魔物の気配にだけは気付けるようにはしていたのだが、考えてみればクルタニカは『冷獄の氷』と呼ばれる特別な魔力の気配を持っている。気付けて当然のものに気付けていないのは、気を抜き過ぎているともいえる。

「疲れがピークに達していたせいじゃありませんか?」

「そうだと思う。馬車に揺られている間、ほぼ寝ていたも同然だったし」

 ガラハと再会の喜びと、これまでの経緯や友人としての語らいを放棄して、とにかく脳が休めと言うのでそれに従った。ガラハはアレウスに疲労が溜まっていることを察してくれていたようで、あまり話を長引かせることも無理に起こすこともなく放置しておいてくれていた。それはきっとクルタニカも同様で、しかしながら到着が近付いているということで多少の混乱を招いてでもアレウスを起こさざるを得なかったのだろう。

「シンギングリンの北部にあるバートハミドという街を知っていまして?」

「知らない。行ったこともないし」

 シンギングリン近郊の依頼はよく受けており、魔物退治にも出ていたが、思い返してみれば帝都――北部へ向かう街道を使う馬車には乗ったことはなかった。

「実力のある冒険者たちが集まることによって繁栄したシンギングリンと異なって、バートハミドは分かりやすいくらいの階級至上主義ですわ」

「また何々(なになに)至上主義か」

 家督、血統、貴族、階級。この世界はあまりにも『至上主義』とするものが多すぎる。それぐらい地位や名誉に価値がある証拠だが、同時にそれらのせいで貧富の差は縮まらないし埋められない。

「ひょっとしたらアベリアのこともあって、リスティはバートハミドへの依頼は全て断っていたのかもしれませんわね」

「階級ってことは、奴隷も含まれるってことか」

「でしてよ。そこへ行けばアベリアは――今のアベリアならともかく、以前のアベリアなら耐えられやしなかったと思いましてよ」

 クルタニカが相席する他の人の顔を見て、声量を下げる。自身があまりにも大きな声で話していることにようやく気付いたらしい。

「あなたいなかった一年間も、アベリアがバートハミドに赴くようなことは一切なかったはずでしてよ」

「そんなところに村から離れた余所者(よそもの)が来たら、そりゃもう大変だろうな」

「大変どころか排斥されるのが目に見えていましてよ。ヴェインの村からも遠いはずですし、一体どのような理由があってバートハミドが彼らを受け入れたのか……ひょっとしたら、雑用係にでもするために受け入れたのかもしれませんわ」

「奴隷扱いはしないが、雑用程度の扱いか」

「連合に比べたらマシですわね。連合は本当の本当に自作自演で村を焼いて、逃げ延びた人を受け入れると言って受け入れた先で奴隷として競売所で売るんですから」

 マシというだけであって、まともではない。

「シンギングリンが近くにあって、なんでそうなるんだか」

「むしろ近くにあるからこそ、でしてよ。シンギングリンは貴族領を設けることで、『この街は貴族も受け入れますよ』という雰囲気を作っていました。実情は、貴族たちにとっては少々、住みにくい街だったはずですわ。あまり自らの力で街を操れるわけではなかったですから。そうなると、自然とシンギングリンに住んでいた貴族は心の底からノブレス・オブリージュの精神を抱いていたはず」

「自分の財力、権力を振るうことのできない貴族はシンギングリンを離れ、近場の街を自分たちの支配できる場所に変えたってことですか?」

「帝都に近付けば近付くほど帝国軍の介入や調査は入りますから、言ってしまえば、帝都で力を持ち切れなかった貴族がその鬱憤を晴らせる街。そういった受け皿が、バートハミド以外にも幾つかありますわ。それでも帝都から一番離れた遠いところを選ばないのは、自分たちが暮らす上で不便を感じたくないからですわね」

 だからと言って、貴族に自由にさせすぎたら帝国に反旗を翻しかねないのではないだろうか。その辺りは国政に関わる。どこに進言しても通らないことを疑問に抱いたところで仕方がないが、

「田舎暮らしは貴族には耐えられない、か」

「でしてよ」

 それにしてもクルタニカとの距離が近い。馬車は狭いため隙間を詰めるのは当たり前なのだが、ここまで近づく必要があるのかとアレウスは思う。それはもう互いの体の右側と左側が密着するほどである。さすがにこれは意図的に距離を詰めている。

「ちょっと近い」

「嫌でして?」

「嫌ではないけど」

「なんならもっと密着することもできましてよ?」

 スッと手がアレウスの太ももに触れる。

「なん、」

「大声を出すのは駄目でしてよ」

 だからと言って過剰な触れ合いも御法度だろう。アレウスはクルタニカの手を払おうとする。その払おうとした手をクルタニカが握り締めてくる。

「では、これで我慢しますわ」

 我慢しているのはアレウスの方だ。ここまで積極的になられたら頭がどうにかなってしまう。


 ただでさえ、ただでさえ一週間前に恥部を見られている。思い出したくもないのに思い出し、三人とは五日間、ほぼ口を利かないという最終手段を取っていた。それでも依頼は別だ。私情で依頼を断れるほどアレウスは偉くない。そしてリスティが極めて緊急性が高いと言うから、最終手段を解除した。

 アベリアとリスティには割と効果があったようだが、クルタニカにはどうやら通用していないらしい。


「まぁまぁ、そう困ることでもありませんでしてよ? アベリアの恋路を邪魔するほどわたくしは悪女じゃありませんもの」

 だったらなぜアレウスをからかうのか。なにかクルタニカの怪しい策略が見え隠れしている気がしてならない。

「それにアレウスはわたくしのことが嫌いでして?」

「答え方に困る言い方はやめてほしい」

 アレウスが「嫌い」と言うことができないと分かっているから聞いている。


 こんな金髪金眼の容姿端麗な人を、力強く「嫌いだ」と言える男はきっといない。


 クルタニカからの到底、遊び心とは思えないアプローチを一つ一つ丁寧に裏を読みつつ返していると馬車が停止する。馭者がバートハミドに着いたことを告げ、降りる人を促す。アレウスたちは馬車から降りて、馭者にそれぞれが代金を支払う。一括で払ってしまうと馭者間での手取りが偏ってしまうため、これがキャラバンではない単独の馬車であったならその限りではないのだが、受け取る側もその支払い以外を受け付けてはくれない。

「ガラハはクルタニカがいることに気付いていたのか?」

「なにか別に用事があると言っていたから気にはしていなかった」

「ああ……そう言われたら納得してしまうな」

「……まさかオレたちに付いてくると?」

「そのために忍び込んだって言っていた」

「……それはさすがに、神官であるなら叱られなければならないのではないか?」

 さすがのガラハでさえクルタニカの行いは咎められるべきだと思ったらしい。

「多分だけど帰ったら怒られるだろうな」


「なぁにをヒソヒソと話しているんでして? 行きますわよ!」


 クルタニカが呼んでいる。かなり機嫌が良い。依頼を遊びに行くことと勘違いでもしていそうだ。しかし、あれでも『上級』の冒険者だ。さすがにそんな気持ちで忍び込んではないだろう。いないと思いたい。

 久方振りに休めていたはずなのに、アレウスはもう頭が痛くなってきた。今更、ここから無理やり帰したってただ彼女が怒られるだけになってしまう。だったら怒られることは確定としても、怒られる度合いを軽減させるためにこの依頼に同行させ、仕事をさせた方がいい。

「なんで僕が僕よりランクが上の冒険者の今後を心配しなきゃならないんだ……」

 どう考えても逆なのだが、クルタニカはちゃんと身の振り方を考えているんだろうか。

「ミーディアムは恋をすると馬鹿になるらしいが、そのせいじゃないか?」

「馬鹿になるんじゃなく『恋は盲目』って言葉通りになるだけだろ」

「彼女が誰に恋をしているかについては気にしないんだな」

 ガラハに意味深に言われるも、しかしながらその意味をしっかりと理解しているアレウスはやはり頭を抱えるしかない。


 なにをどうしたって、現実が極端に良い方向に流れることはない。あまり不安なことばかりに悩むよりも流れに身を任せた方が楽に乗り切れるかもしれない。そう思い、アレウスは深呼吸をしてからガラハと共にクルタニカのあとを追った。


 バートハミドはシンギングリンよりも街としては小さいが、その栄えぶりはシンギングリンに劣らない。街門を抜けてからアレウスは街並みを見て、まず第一印象としてそう思った。

 あくまで第一印象である。その好感を持てる街並みも、歩いている内に段々と不愉快なものばかりが目に留まるようになっていく。活気のある街のその片隅で、人が雑に扱われている。蹴り飛ばされ、殴られ、髪を引っ張られ、苦しんでいる。街を歩く人々はまるでそんな人たちが見えていないかのように、景色の一部として当たり前とでも言いたげなほどに自然に、誰も気にも留めずに歩いている。


「決して助けようなどと考えてはいけませんわよ」

「奴隷は、『所有物』だからな……」

「そう。『物』の使い方に文句を言ったり、『物』の所有者を傷付ける行いはこの街では正義ではないんでしてよ……ええ、或いは悪になってしまう」

「これで連合よりマシだと?」

「連合ではこれに加えて女奴隷が玩具にされていましてよ。あるいは男奴隷も、加虐のための玩具になっているかもしれませんわ。バートハミドではまだ死なない程度であっても、連合は死なせるまで。そして死んでも、誰も見向きもしない」

 間違っているが、正せるだけの力が無い。見過ごすことしかできない虚しさは、やりきれない気持ちと合わさって、ただただ義憤を募らせるだけになる。

「やっていられないな。同胞を牢屋にぶち込んだ輩とやっていることがなんにも変わらない。あれは『異端審問会』のせいだったが、これは人の業としか説明できそうにないな」

「嫌なことを思い出させてしまって悪い」

「関わっていないことに申し訳なさを抱くな。あんな連中とアレウスが違うことぐらいは知っている」

 それでもガラハの不機嫌さは伝わってくる。すぐにヴェインとエイミーを見つけ、こんな街からはさっさと立ち去るのが吉だ。


「さぁ、今日は娼館向けの競売を始めます。経営者の方々はお持ちの番号札を確認の上、前列の方へと並んでください」


 聞きたくもない声が聞こえてくる。

「無視ですわ。下手をしたらわたくし、手を出してしまいましてよ」

 その言葉にアレウスは同意し、三人はさっさと競売が行われている道を通り抜け、ギルドに入る。普段ならリスティが『門』を利用してどのギルドでも対応できるよう待機してくれているが、彼女は仮拠点から離れられない上にシンギングリンには留まり続けることができない。なので彼女から受け取っている手紙をギルド関係者に渡し、ヴェインの住所を手に入れる

「くれぐれもお気を付けください」

「……なにに?」

「私たちはこの職に就いているからこそ、一定の地位に立ち、安全を約束されている身。ですが、この街ではその安全が約束されている方々の割合は七割。三割は約束されていないのです」

「その約三割は奴隷か?」

 ガラハの質問にギルド関係者は首を横に振る。

「奴隷の割合は二割、残りの一割は奴隷以上ではあっても一般市民以下の扱いを受けている身。いわゆる余所者。バートハミドでは貴族を絶対とし、そこに同等、あるいはやや下に富豪が位置し、中流階級の商人や労働者たち、その下に一般市民。そしてその下に余所者。最後に浮浪、奴隷といった具合です」

「他の街でもよくある階級の分け方でしてよ。特段、ここが特別そのような階級を分けているわけではありませんわ」

「労働者が商人と同等?」

 アレウスは疑問を持つ。

「仕事を斡旋するのがどうしても貴族や富豪たちになる関係上、労働して賃金を稼げる方たちは商人と同列となります。一般市民とは、その労働者たちの配偶者たちです。斡旋する仕事は様々ですが、彼らは気に入られさえすれば危険な仕事には就きません。ええ、この街には危険な仕事を請け負う奴隷がいるので……」

「機嫌を損ねる、あるいは気に入られなかったらその奴隷と同列の浮浪扱いですか?」

「滅多にないですよ。ここの者たちはみんな権力者に媚びるので……」


「ヴェインは媚びなかったみたいですわね」

 アレウスが受け取った書類をクルタニカが先に読みつつ言う。

「どうにも無茶な条件を突き付けられ、断ったみたいでしてよ」

 リスティの言っていたエイミーに関わる話を持ち掛けられたに違いない。そんなもの、ヴェインが肯くわけがない。

「今、彼は治安の悪い区域での警備員をやっているようです」

「治安の悪い?」

「貴族に不満を持つ者たちが退去を命じられ、資産を奪われ、居場所を失った先の溜まり場です。警備員を置いていないとなにをするか分からないために、貴族に気に入られなかった者が就く仕事です」

 ギルド関係者が説明する。

「不思議な話だな。警備をすることは名誉ある職だというのに、ここではそれが逆転するのか」

 ガラハは山の守り人としての経験から、憤りを見せている。

「仕方がありません。いつ何時、不満を持つ者たちの反逆に遭い、命を落とすか分からないのです」


「ねぇ、冒険者ギルドの皆さん? これでよろしいと思っているんでして?」

 クルタニカは煽るように周囲へと声を掛ける。

「なにもかもが貴族の思い通りに動き、貴族のご機嫌を窺い、富と権力のみで全てを封鎖する。貴族がやることは全て目を瞑り、貴族の決定が街の決定。人の扱いすら受けていない者たちからの、救いを求める眼差しも、その手も掴むこともできないまま、ただ見捨てて、依頼を粛々とこなし、冒険者だから、担当者だから、ギルド関係者だから、自分には不幸が降りかからないから……そうやって、心を腐らせていくんでして?」

 クルタニカは軽蔑の眼差しを向ける。

「呆れますわね。あなた方たち、まとめて全員、廃業なさってはいかがでして? なんで人を助ける仕事をしている者が、人が助けを求めているのに手を差し伸べないんですの? 貴族ごときにあなた方の生き様を決められてよろしいんでして? ああ、気分が悪くて吐いてしまいそうでしてよ。あなた方とわたくしたちが、同列という扱いだなんて、死んでもお断りですわ」

 彼女の胸倉を不意に掴みに来た冒険者を、軽くかわして杖で背中を叩いてうつ伏せに倒し、その背中を踏み付ける。

「鍛錬が足りないんじゃないんでして? わたくし、これでも神官でしてよ? なのに避けられて踏み付けられて……でも、込み上げてくる怒りがあるだけ、あなたにはまだ可能性がありますわね。他の皆さんは、だぁーれも! わたくしの声に怒りに震え、机を叩き、怒号を挙げようという気もないんですから」

 まさに煽るだけ煽って、クルタニカがアレウスとガラハに目配せをしてギルドを出ることを伝えてくる。

「それでは皆さん、御免あそばせ。まぁ、もう二度と来ることはありませんわ」


「煽りすぎだ」

 アレウスはギルドを出てからクルタニカに言う。彼女の悪癖である目立ちたがり屋な一面が、そして神官としての当然の正義感が合わさってしまった。

「あなたが言いたいことを代弁してあげただけですわ」

「責任を押し付けるな」

「いいえ、押し付けませんわ。ちゃんと言ったことの責任は背負うつもりでしてよ」

「根底から物事を変えるのは難しいぞ」

 ガラハもクルタニカに忠告する。

「きっと変えることはできないんでしてよ。それぐらい、ここには階級至上主義が浸透していましてよ。だから、一石を投じたいんですの。こんな、ひどいことしかできない貴族たちを震撼させ、僅かでも悔い改めさせることができるような一石を」

「思い付く前にヴェインとエイミーを連れて僕はリスティのところへ帰るよ」

「こーんな華奢な女性を置き去りにして帰るだなんて、アレウスは人でなしですわね」

「商人の情報網は広いし、それが奴隷商人にもなると手を出せないってリスティは言っていたけどな」

「問題ありませんわ。奴隷商人をどうこうするのではなく、貴族の腐り切った思考を正すだけでしてよ」


 それはどうやっても商人の耳にも入るだろう、と。アレウスは呆れつつも、あの場でなにも言うことのできなかった自分自身を省みる。

 彼女の自信が、正しさを説ける強さが羨ましい。ただその一言に尽きる。

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