表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第8章 -シンギングリン奪還-】
406/705

誰のために


 血の鍵を用いてどのようにして封じられた力を解放できるのか分からない。しかし、これさえ手にしていれば必ずロジックは開錠できる。それよりもまずはもう一つの鍵を回収するのが先決だった。幸い、気配はまだ追うことができ、界層を渡っている様子も見られなかった。むしろジェーンを倒したところから比較的近い場所にアイリーンは潜んでおり、その居場所を突き止めることも難しくなかった。


 ただ、逃げ足が驚くほどに速い。アレウスの身体能力は『オーガの右腕』を封じられて落ちてはいるが、その分はエルヴァの『指揮』がカバーしてくれているはずだ。それでも、姿は見えても決して追い付くことができない。

 待ち伏せもない。そもそもアレウスと向き合う意思を見せてこない。間合いを詰めようとしないのも逃げに徹しているからだ。


「そうやって時間を潰すのが狙いか」

 しかし、見える範囲で逃げ続けているのは疑問が残る。こんなことをせずにもっと遠くへ――それこそ界層を渡ってしまえばいい。なのにこの界層に留まり続け、尚且つアレウスとジェーンが戦ったところからそう遠くない場所に潜んでいたのは不可思議以外のなにものでもない。

 単にこの追いかけっこを楽しんでいるだけ。まさか、そんなことがあるだろうか。

「なんにしたって僕はお前が持つ鍵を奪わなきゃならない」

 遊んでいようとなかろうと、アレウスはアイリーンを倒す。そのことは決定している。だからアイリーンが逃げ続けるのならアレウスは追い続けるだけだ。だが、このやり取りは圧倒的に不利だ。彼女の体力は無尽蔵だが、自身には限界がある。つまり、このやり取りは虚無ではない。アイリーンにしてみればアレウスを弱らせるという利点がある。更に戦わないことでリスクを回避している。もし、ジェーンとの戦いを見ていたり感じ取ったりすることができていたのなら、敗北を考慮するのは当然だ。今、アレウスが追いかけているアイリーンがシンギングリンに残っているもう一人のアイリーンに力のほとんどを預けているとすれば、やはり戦いたくないのだろう。

 物質と同化した冒険者たちを掻き集め、総力戦でもってアレウスたちを仕留める。そのためには時間が必要となる。彼女たちの役目はアレウスをシンギングリンから遠ざけて、時間を稼ぐことなのだ。

 だが、それは恐怖の裏返しだ。それだけビスターはアレウスの力を怖れている。こちらからしてみれば、ビスターと戦えば確実とは言えないが負けるとしか思えないが、どういうわけかあの男は慎重策を取った。


 飛刃を放つ。アイリーンは振り返りもせずに避ける。飛距離と速度がやはり落ちている。封じられさえしていなければもっと速く、もっと強く撃ち放てていた。


「獣剣技を撃てないのは知っています」

 アイリーンは飛刃は見ることもなく避けたが、アレウスに話しかけるときには後ろを振り返る余裕を見せる。

「あれは『種火』と『オーガの右腕』があってこそ。少なくとも、獣剣技を放つためには『オーガの右腕』が必須のはず」

 そうなのかは知らないが、思い返してみれば獣剣技を初めて放ったのは獣人の姫君と共闘したピジョン戦だ。あのときはまだアベリアから貸し与えられた力を解放することもできていなかった。アイリーンの考察通り、アレウスにとっての獣剣技を放つ重要な要素になっているのは『オーガの右腕』と呼ばれるアーティファクトだ。

「いつまで追いかけっこをするつもりだ? まさかいつまでもこうやっているわけではないだろ」

「私はいつまでも逃げることができますよ」

 本気で言っているのかどうか。この距離では表情を読み取ることもできない。

「あなたの力はロジックに秘められている複数のアーティファクトから成っている。であれば、その中でも特に重要な物を封印してしまえば、あなたに私たちが劣ることはありません」

 足に疲労が溜まる。足を止めれば恐らくはアイリーンも止まる。別に彼女は姿が見えなくなるところまで逃げなくていいのだ。こうしてアレウスをずっと見張れる位置を取り続ける。アレウスが走り出せば走り出し、止まれば止まる。たとえ距離を詰めるような要因があったとしても、彼女は回避に専念するはずだ。そうすればアレウスの方にだけ疲労が溜まり続ける。持久戦ではない。これは一方的な消耗戦だ。

「イプロシア・ナーツェによって一部のエルフが暴徒化して、連合の『不死人』も侵入した。でも、アイリーンやジェーン、それにギルド長やシンギングリンの冒険者が対抗すれば守り切ることができたんじゃないのか。なにより、どうしてお前たちは『リブラの眷属』でありながら、人間の手助けをしていた?」

「それが我らが主の願いだったから」

 この言い方だとアイリーンたちはリブラのために動いていたのではなくビスターのために動いていたと捉えることができる。

「リブラの監視は強い。反逆を起こせば命はない。我らが主もそれを知っていたからこそ、リブラの監視下の中で生き続けることを強要された」

「どこから監視されていたと言うんだ」

 ビスターの部屋に限らず、ギルドの一部の部屋は魔法陣によって外部からの盗聴や透視を不可能としていた。

「私たちの中から、リブラはずっと我らが主を監視し続けていた」

「中……?」

「私たちは産まれたときから死んでいる。だからリブラにとっての目であり、耳である」

「だから双子なのか」

 目も耳も二つで一つ。アイリーンが目を担当するならジェーンは耳を担当する。もしかしたら逆かもしれない。交差している場合もある。


 だが、リブラは『双子座』の力を最大限に活用した。


「そもそも、どうしてギルド長が『図り知る者』に目を付けられた? どうしてリブラと契約をしなければならなかった?! 異界獣と契約だなんて前代未聞だ。あり得る話とも思えない」

「『天秤座』は、帝国が管理下に置けていると思い込んでいた唯一の異界獣」

「管理?」

「異界獣の中でも、『物質』という性質がリブラには重かった。異界の中でも物体と同化させなければ魔物を使役することも難しい。ゴーレムは決まった行動しか取ろうとはしない。それもこれも『初人の土塊』が異界から失われたせい」

 アイリーンはやはり立ち止まらない。しかし攻撃の意思が全く見られない以上は追い掛けながらの会話はアレウスにとって有益な情報を得るための時間となる。


 というよりも、彼女は意図的にアレウスに情報を提供しているようにも見える。


「『初人の土塊』が異界から持ち出されることがなければ、リブラも強気に出ることができていた。あれは“生命を与える力”。ゴーレムやスライムのように核がなければ動けない魔物ではなく、核を持たない物質の性質を持った魔物を生み出せるほどの力だった。それこそ魔物を生産する土壌そのものだった。それだけでなく異界のあらゆる土壌を肥沃にする力も持っていた。その『初人の土塊』を保有する異界が襲われ、奪われたのはもうずっとずっと昔のこと」

 土から成る作物や果実はまさに生命を与えられているに等しい。だが、アイリーンの言っていることはどれもこれも妄想話にも聞こえてしまう。アレウスにはそれらの知識が乏しく、なにより異界を憎んでいるからだ。

 以前にも考えたことだが、なにかを奪われているから奪い返すために戦っているだけ、というのは通らない論理だ。

「『原初の劫火』と同様に、か」

「あなたたち冒険者は炎を、土壌を、水源を、神樹を、鉱物を奪った」

「嘘をつくな。僕の堕ちた異界では坑道を掘って、鉱石の採掘を行っていた」

「異界から概念的に奪ったのではない。魔物から奪ったのだ。おかげで魔物は魔法の火を怖がり、鉱石の加工を忘れ、木々を乱雑に扱い、水源を穢し、土壌を腐らせることしかできなくなった。これでは異界はどれだけ魔物が増えても、ただただ汚染され続けるだけ。だから人を堕とす。堕とさなければ異界は残せない。異界獣は異界を作り続けなければ、いずれ全てが腐敗に満ちてしまう」

「人間を、魂の虜囚を食糧にしながらついでに汚れてしまった巣穴の掃除どころか後始末をさせているだけじゃないか」

「それのなにが悪い? 元々は私たちから奪ったせいだ」

 アイリーンは自身の語っていることを信じており、アレウスはそれを信じていない。だから話は平行線のままだ。

「五大精霊も奪われて、果てには五大精霊から派生した精霊まで人間の手に落ちている。私たちが確認した限りでは『冷獄の氷』、『魔の轟雷』のまだ二つ。しかし、いずれは異界へと返されなければならない」

 逃げるアイリーンが足を止めた。罠と考え、アレウスは距離を開けたまま同じく足を止める。

「『異端』のアリス。私たちの元へと来ないか? 私たちの元へ来て、全ての奪われたものを奪い返す。それはきっと、あなたの復讐を果たす道となる」

「御免だ。どんな事実があろうとなかろうと、僕は絶対に異界と異界獣の味方にはならないし、言うことも信じない」

 即答し、語気を強める。

「絶対にだ」


「……ここまで言っても、従えられない。『異端審問会』もその力を狙っていると言っても?」

「だったら異界と『異端審問会』を壊す」

「一時的に協力し合うことだってできるのでは?」

「いつか破綻する協力のどこに意味がある?」

 アレウスは壊すと決めている。そこの道理はどれだけ歳月を経ても変わらない。禍根がある限り、アレウスは絶対に譲らない。

「帝国が『勇者顕現計画』だけでなく『聖女』すらも人工的に作り出そうとしていると知った上で、あの世界の帝国に従うと?」

「非道な行いは戦乱が渦巻いている以上はどこの国だってやっている」

「目を背けると?」

「僕のやるべき方向性じゃないんだよ」

 なんでただの冒険者が帝国のやっていることを止められると思っているんだ。為政者を止めるのは止めることのできる地位に就いている者だけだ。

「僕はただひたすらに異界を壊して、異界獣を倒して、世界から魔物という概念を消し去る。『異端審問会』の復讐は必ずこの過程の中で起こすと決めているけど、それ以外のことに巻き込まれるのだけは可能な限り避けたい」

「自ら首を突っ込むこともあるというのに?」

「可能な限り避けたいのに、首を突っ込んだ先で巻き込まれてしまうんだよ。厄介な話だ。僕は、僕が信じたい者しか信じないようにしているのに……信じている人には他にも信じている人がいて、どんどんと守らなきゃいけない人が増えてしまう」

「そこに私たちは?」

「含まれない。シンギングリンを異界に堕とした以上、含まれるわけがない」


「我らが主だって、堕としたくて堕としたわけじゃない。だって我らが主は、エルフの暴徒化を喰い止めようとしたところを『不死人』の奇襲に遭って、応援を待つ前より先に首を刎ねられてしまった」

「……それは真実か?」

「私たちが見たことは絶対の真実」

「だったら、余計に信用できない」

 アレウスは短剣を抜く。

「『不死人』は言っていた。一撃を振るったとき、ギルド長が自ら首を差し出してきた、と。死の一撃であれば、避けるのが当たり前なのにどうして首を差し出した?」

「私たちの証言よりも『不死人』の言うことを信じると?」

「ギルド長と戦った相手の言うことなら、絶対的な信頼性を持っている」

 あの『不死人』は一年も夢の中でアレウスの面倒を見てくれた。いずれ殺さなければならない相手だが、その日々が別の意味での信頼性を持っている。


 アイリーンは沈黙する。


 そして、深い溜め息をついた。


「可憐に頼み込んでみても、首を縦に振ることはない。分かってはいたけれど、やはりどうにもならない」

「戦う気になったのか?」

「女に甘いと聞いていた。種族を越えて女を(たぶら)かすとも。この体で手籠めにすることはできそうにないし、悲痛さと可憐さだけで説き伏せることしかできそうになかった」

 彼女はアレウスを見ていない。空を見ている。

「ジェーンが二人とも死んだ。リブラの耳がこれで使い物にならなくなったから、あとは目で見ているだけ。こうして対峙していても言葉のやり取りは聞こえていないだろうから、ただ見ているだけなら言い争っているようにも見える。逃げ続けていたのも、時間稼ぎをしていると、受け取ってもらえる」

 なにをそんなに空を気にするのかとアイリーンから目を離さないギリギリの角度で遠くの空を見ると、日が急速に落ち始めている。

「あとは、どんな流れであなたに殺されたらいいのかを考えたけれど、さすがにリブラが上回ってしまった」

「っ!」

 アレウスは眩暈を覚えるほどの眠気に襲われ、膝を折る。

「これは……この異界に来て、すぐに感じた……睡魔」

 気を抜いて長時間、眠り込んでしまったときのそれに近い。いや、それよりも強い。


「この異界の主はリブラ。朝、昼、夜を決めるのもリブラ。そして、リブラが支配する以上は、リブラが夜と決めたのなら夜になり、眠る時間だと決めたら眠る時間になる。堕ちてすぐにはあまり通じなかったみたいだけど、一日も経てばその支配からは逃れられない」

 アイリーンが歩を進めてくる。その音だけが聞こえ、アレウスはもうほぼ瞼を閉じ切ってしまっている。

「これでなにもかも終わり」


『“総員に告げる。依然、警戒を続けよ。気を抜くことは死を意味すると知れ”』


 急速に覚醒を促され、アレウスは短剣を握り直す。首を折るための手刀を今まさに振り下ろさんとするアイリーンと目が合う。

 音はなく、思考も入る余地もなく、思惑が交じり合うこともなく、殺意の込められた互いの一撃が飛ぶ。


 手刀は首に至るまでに、アレウスの短剣はアイリーンを股下から胸元まで鋭く切り裂いた。


「『原初の劫火』に限らず、『指揮』も危惧していた……もう一人のアイリーンが偶然見つけて、抑えていたはず……なのに……」

 血を流しながら、アイリーンがゆっくりとアレウスの真横に倒れる。

「それが、抑え切れていないということは……ああ、もう一人の私も…………こんなに、も、強力な、技能だ、なんて」

 流れ出る血が鍵の形を成し、アレウスはそれを血溜まりの中から拾い上げる。

「……これ、どうやって使えばいい?」

 きっと教えてはくれない。その場合、アベリアたちと合流してから使い方を探らなければならない。

「自分に、刺して、錠前を開くときのように(ひね)る、だけ」

 しかし、裏腹にアイリーンはアレウスに使い方を教えてくれる。

「……本当の本当に、戦いたくなかっただけなんじゃないのか……?」


 逃げ続けるだけだった。足を止めたあとも言葉を交わすだけだった。時間を稼ぐための手段として会話を選ぶのはどう考えてもおかしい。そうなると、アレウスが切ったアイリーンはただ単純に、戦いたくなかっただけなのではという可能性が出てくる。


「私の主は、シンギングリンのギルド長……人間の、未来を見据えるなら……あなたを殺すのは……勿体ない。それ、に」

 血の気が引いていくアイリーンは、さながら眠りに落ちる前のときのようにボソボソと言葉を落としていく。

「あなたは……優しい人、だ……か……ら……」

 事切れた。果たしてこれで死んだのだろうか。ジェーンも倒れてからピクリとも動かなくなったため死んだと判断したが、『双子座』の力がまだ残っているのならまた復活しそうだ。

 アレウスは一本目の血の鍵を手の平に突き刺す。痛みはなく、まるで肉の中に呑み込まれるのが当たり前かのように自然と先端が沈んだ。そのまま捻る。錠前が外れるような感覚は一切なかったが、自身の肉体にあった疲労感がスッと薄れていく。試しに右腕で短剣を振ってみたが、その速度は先ほど飛刃を放った剣戟よりも速い。『オーガの右腕』の封印は解けたらしい。続けざまに二本目の血の鍵も腕に刺し、捻る。これで貸し与えられた力の封印――錠前が外れたはずだ。

 着火の感覚――『種火』から全身に炎を行き渡らせる魔力の流れを取り戻す。


「アレウス!」

 程なくして、アイリーンの死体をどのように扱おうか迷っているところで炎の魔力に包まれたアベリアがやって来る。

「間に合っ……てない?」

「一人でもどうにかなったよ……いや、実際には一人ではどうにもできていなかったんだけど」

 エルヴァの『指揮』によってアレウスはジェーンとの戦闘に打ち勝ち、リブラの睡魔を打ち破った。これは一人でやり遂げたとは言い難い。

「眠気が来なかったか?」

「うん、でもエルヴァさんの声が頭に響いて、一気に覚めた」

「……僕たちに『指揮』は効いたけど、もしかしたらジュリアンやエイラには効果が及ばないかもしれない。神を信じている人ほど効果が薄いらしいから」

「じゃぁ、急いでシンギングリンに戻らないと。ジュリアンが言った通りに逃げているか分からないから」

「エルヴァのところには?」

「いなかった。エイラは逃がしたって言っていたけど。だから早く」

「……いや、もうシンギングリンには戻らなくていい」

 アレウスはアベリアを引き止め、手を握る。

「エルヴァさんが、アレウスには作戦があるって言ってたけど」

「ああ」

 そのためには彼女の協力が不可欠だ。

「この異界のロジックを開く。リオンの異界で無自覚の内にやったことを、今度は自覚して開いて、書き換えるんだ」

「あのときは、リオンの異界のことをなにも知らなかったけど、アレウスも私も世界の理不尽さを知っていて、たまたまあの異界のロジックと重なった……けど、この異界は」

「大丈夫。僕はこの異界のことを沢山知ることができた」

 求めていた情報と、知ることのできた情報。分からなかった法則も、リブラのことも、そしてシンギングリンで起こっていたこともなにもかも。


 掌握し切れてはいないが、掌握しつつある。


「だから、できるはずなんだ。君となら」

 アベリアにそう告げると、彼女は手を握り返してくる。

「うん、やろう」


 岩塊をさながら卵の殻のように砕き、中からエルヴァが現れる。

「『不死人』は死んだら甦るけど、こいつは死ぬ前に何度も回復して……厄介だったな」

 岩で潰し切った少女に向かい、そう吐き捨てる。


「……『巌窟王』」


「まだ息があるのか?」

「もう……死にます」

「なら、なにも言わずに死んでくれ」

「『巌窟王』……前国王は、いつからか土の精霊から愛されなくなり、現国王に王位を譲ったと聞いています…………その異常が出始めたのは(さかのぼ)ってみると、齢六十近くの頃に側室の一人を孕ませた、ときから……それで、前国王は、王位を譲り渡す前にその側室を、処刑して……」

「それが?」

「エルヴァージュ・セルストー……あなたは、『巌窟王』の、側室の、子、では?」

「……面白いことを言うじゃないか。でも、それはお前の妄想だ。僕に王族の血が流れていたら、こんなところにはいない」

「それは……王国は……側室の子に、王位継承権を与えないから……で」

「だから、違うんだよ」

 エルヴァは頭を掻く。

「僕は“天使”に生き方を狂わされたんだ。クールクースの“天使”もそうだけど……僕の場合は……“堕天使”だった。そいつが召喚される場面に出くわすことがなかったなら……そう、なかったなら、僕はきっと……」

 少女の方を見直すと、既に事切れていた。

「潰した時点で、ほぼ力のほとんどは失われていたはずだ。突然の睡魔も『指揮』で大半は叩き起こした。これは、リブラにとって痛手だったんじゃないか? お前の手駒たちは素直に言うことを聞いて熟睡しているぞ」

 なにを思うでもなくエルヴァは少女の死体を通り過ぎて、地面に鈍器を突き立てて自身の領地を獲得する。


「これで誰にも邪魔されずに『指揮』を届かせることができる。こっちに注意を惹き付ければ、アレウスたちがロジックを開いていることにも気付けないだろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ