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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第1章 -冒険者たち-】
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緊急の依頼

【猟兵】

複合職。言葉にするなら狩人寄りの戦士。狩人としての俊敏性と器用さを持ち、戦士の強靭さも備える。感知の技能に優れ、調合も簡単な物なら可能。中衛と前衛を務める。武器は剣、短剣、短弓、防具は軽装。複合職の中でも素質を特に問われる職業で、豊富な技能をいかに使いこなせるかが鍵となるため場合によっては器用貧乏に陥る。狩人としての罠設置、罠感知や木登りの技能、そして弓での狙撃は難しく、戦士ほどの筋力を備えていない。攻撃を避けて戦うことを基本とする。


【術士】

複合職。魔法使い寄りの僧侶。知力が高く、僧侶のように杖に魔力を込めての打撃も可能。僧侶ほどではないが僅かに強靭さを持つ。後衛を務めることが多い。武器は杖、短剣、防具はローブのような布類。非常に多くの魔法を扱えるが、それに見合うだけの魔力を持っていなければ全てを理解しての詠唱は不可能とされる。また、魔法使いよりも僅かに攻撃魔法は弱く、僧侶よりも回復魔法に消費する魔力が多い。

全ての魔法職に言えることではあるが、得意属性は偏るため、効果的な魔物とそうでない魔物の差は大きいことと、一部の一般的な魔法も使えないこともある。

アベリアの場合は五大属性の内、水と火を得意とするが木属性、そしてその中に分けられる風属性が不得手。“軽やか(エアリィ)”は風に属するが、昔の経験から、「絶対に習得する」と言って三ヶ月掛けて習得した風属性の魔法の中でも初歩の魔法。


「初めてのクエストはいかがでしたか?」

「どうにかこうにか、ってところですよ。村に手助けをしてくれる射手の冒険者が居まして、協力出来たからこそ達成出来たんだと思います」

「殊勝な意見ですね」

「今日は採掘業の給料が入って、クエストの報酬も貰えて、ようやく生活面での不安が払拭できたってところでしょうか」

「そんなに困窮していらっしゃったんですか」

 リスティは心を込めていない言葉をアレウスにぶつけて来る。

「志望者のテストを異界でやるって事前に話があったんで、その準備でお金を結構、使ってしまいましたから」

「資料にある通り、事前準備に関しての評価が高かったのはそのためですね」

 リスティは資料を手に取り、読みながら答える。

「そうだ。僕たちって冒険者の職業としてはなにになるんですか?」


「あなたは『猟兵』、アベリアさんは『術士』と伺っておりますが」


「猟兵?」

「複合職ですね。人によってはどっちつかず、器用貧乏、広く浅い技能しか取れない無能なんて呼ばれ方もしますが、それはただの才能を持たない者たちの(ひが)みです。技能は持てるのなら持てるだけあった方が良い。魔法も使えるなら使えるだけあった方が良い。これは常識です。まぁ、それらの数値を上げる場合は少しばかり相談して頂きたいとは思っておりますが」

「技能の数値って上がるんですね」

「酷使すればするほど上がります。普通に使っていたら、あんまり上がりませんね。ギルド側は技能の数値の上昇には一定の限界があり、広く浅く技能を持っていると、その上限は早く訪れるという見解を持っています。なので、持っておきたいだけの技能、高めて行きたい技能は考えて下さい。とは言え、冒険者の多くは技能のことを考えて戦ってはいませんね。そんなことを考えるよりも冒険者としての使命を全うする方が先ということです」

 淡々と質問にリスティは答える。


「そーなんですよー、もう二日が経つのに連絡が無くて、ギルドにも訪れないなんておかしくないですかー?」


 奥のテーブルで担当者同士がなにやら話をしている。リスティは「失礼します」と席を立って、その担当者たちのテーブルへと向かう。

「なんだろう……なんか目の色を変えていた気がするけど」


 ほんの少し担当者と話をしたのち、話題を出した担当者の首根っこを掴むようにしてリスティが戻って来る。


「どうかしたんですか?」

「ちょっと待っていて下さい」

 アレウスをそう制し、リスティがテーブルに広げた地図を連れて来た担当者に見せる。

「担当となったのなら、技能であなたにはどこに居るか分かるはずです。地図を見れば一発で分かるはずです。どうですか? 分かりますか?」

「ええっと……おかしいな。見えません……どこにも」

「担当している冒険者を感知することは? 生きていることをなんとなく感じ取れると思いますが」

「……駄目です。全く引っ掛かりません。なにか異常でも起きているんでしょうか?」


「異常では無く問題が起きています」

 リスティは用紙を取り出し、羽ペンにインクを浸し、サラサラと文章を記して行く。


「緊急の依頼を設けます! 条件は中級から中堅に入り掛け、又は中堅冒険者以上! 依頼内容は初級冒険者の救出! 私たちの技能において、二日も居場所を感知できない初級冒険者が一名判明致しました。恐らくは“異界に堕ちています”。速やかに異界の穴へと向かい、救助して頂きたい!!」


「初級冒険者……?」

 リスティが作り出した依頼書にアレウスはチラッと目線を通す。

「ニィナリィ……テイルズ、ワース……!!」

 席を立ち、アレウスはリスティから依頼書を奪うようにして手に取る。

「落ち着いて下さい。あなた方に出来ることはなにもありません」

「……ニィナは知り合いです。ガルム退治のクエストも、彼女が居たから達成できました」

「承知しています。ですが今は感情よりも、状況を優先して下さい」

「生憎、そんなことは出来ません」

「あなたにクエストの発行は出来ません。中堅冒険者の方でなければ、異界の調査は務まらない」


 そんな、前提はどうだって良い。アレウスにしてみれば、そんなことは些末なことでしかないのだ。自身の命を賭してでも、信じたい者を助け出したい。異界という恐怖の世界から一刻も早く、救出しなければならない。


 でなければ、ニィナは助からない。そんな気がするのだ。


「僕が行きます」

「ですから、あなたにクエストは発行できません」

「だったら、ギルドを通さずに個人的に行かせて頂きます」

 リスティが止めようと手を掴んで来たが、それを振り解く。

「死にますよ?」

「僕が異界で死ぬのだとしても、それは僕自身の責任です。けれど、ニィナは好奇心があるからと、腕に自信があるからと、そんな理由で異界に一人で堕ちるような奴じゃない。そもそも、誰が望んで一人で異界に堕ちるって言うんですか?!」

 そう、あんなにも異界はもう懲り懲りだと言っていたニィナが自分から異界に出向くなど、あり得ないのだ。だから何者かの手によって堕とされた。


 六年前、アレウスを堕とした奴らのようにニィナもまた、同じ目に遭った。だとしたら、助けに行かなければならない。アレウスの時は居場所を特定するのに五年を要していた。けれど今回はすぐに分かった。だが食料も碌に持たずに二日が経過しているとしたら既にかなりの衰弱状態にある。


「待って下さい、アレウリス・ノールード」

「僕は僕が守りたい者を守ります」

「ですから、」


「私が名前を貸そう」


「……テストの時の」

「そうだね、あれ以来だ。久し振りと言っておこう」

 冒険者はリスティに近寄り、依頼書を手に取る。

「私の名前を記し、クエストを発行するんだ。そうすれば、この依頼書の条件は通るだろう?」

「ルーファス・アームルダッド様……名前を、貸すだけですか?」


「そうだ。私も忙しい身だ。そろそろ上級冒険者へと至りそうなこの時に、またも初級冒険者の面倒を見なければならないというのは御免被る。しかし、ここに有望な若者が、有望な冒険者が居る」

 冒険者――ルーファスはアレウスを指差す。

「君が本物か、それとも偽りか。それをこの一件で見定めさせてもらう。もしも本物であるのなら私は君が求めることに応じよう。余程の無茶でない限りはね。パーティに同行させてもらいたいだとか、中堅冒険者をパーティに入れたいだとか、そのような話なら平気で断らせてもらう」


「……その名前、憶えておきますよ。異界から帰って来た時に、堂々と呼んで、堂々と要求を通すために」

「その意気だ。さぁ、担当者? クエストを発行するんだ」

「しかし、彼はあまりにも未熟……異界での死は、永遠の死でもある」

「承知の上で、この者は行くのだよ。目を見れば分かる。この者は覚悟をして進む。そこに一つも迷いはない」


「仕方がありません」

 リスティは苦渋の決断とばかりに声を漏らす。

「ルーファス・アームルダッドの名をここに記し、クエストを発行致します」

 やるべきことは決まった。アレウスはルーファスに頭を下げたのち、急いでギルドを出ようとする。

「待って下さい」

「なんですか、急いでいるんですけど?」

「事態は急を要しています。特例でギルドの転移魔法を使い、ニィナリィ・テイルズワースが住まう村へと飛びます。アベリア・アナリーゼを連れて、ここへ戻って来て下さい」

「分かりました」

「ただし、今回の異界調査は私も同行します」

「へ?」

「これに応じられないのであれば、転移魔法を使わせることは出来ません」

「……いわゆる無茶をしないかの監視役として来ると言うことですね?」


「その通りです。しかし、同時にもう一つ……私も、ギルドで仕事をする前は冒険者でしたから」

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