平穏が戻って
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「帝国での暮らしはどうだ?」
「別に、特になにも変わりなく」
「シンギングリンのギルド長はなにかと厄介だ。気付かれない内に雲隠れするのもありだぞ」
「椅子にふんぞり返っている連合国の連中に比べれば幾分かマシ程度だろ」
「王国が圧を掛けているせいで、そのふんぞり返っている連中どももピリピリしている。おかげで闇市の方は大儲けだがな。どいつもこいつも自衛と言って武器や防具を買いたがる。それも、曰く付きの代物ばかりをな」
「曰く付きの一品など持たせたら宝の持ち腐れだろう?」
「構わないさ。曰くってのは、言葉通り持ち主に影響を与えるからこそ付けられる。奴らに不幸が訪れれば、曰く付きの品物はどれもまた闇市に転がり落ちてくる」
「不幸ばかり……か」
「幸福をもたらす代物はどいつもこいつも抱え込みたがる。だがな、そんなのはただの思い込みだ。逆に言えば、実際に不幸をもたらしたからこそ曰く付きの代物は闇市から抜け出てはくれないわけだ。それを安く仕入れ、高く売る。それの繰り返しさ、ワシのやっていることなんぞな」
「……竜の類か?」
「なにを言っておる?」
「いや、なに……少し似た話を貴様の知らない世界で見たことがあるだけだ」
男はついでとばかりに縄を引っ張り、繋がれていた女が地面を転がる。
「ふんむ、なるほどなるほど……? おやおや、可愛らしい獣人の娘じゃないか」
「拾い物だ。自由に使ってくれて構わないが、キズモノにすれば獣人どもに死ぬまで追いかけ回されるから注意しろ。両目両手両足、そして口に至るまで貴様お得意の道具で呪縛している。解くなよ? 下手をすれば死ぬからな」
「ならば、この者が最も勢力を増しているキングス・ファングの娘にして姫君……上手く調教できれば、その手の変態どもに高く売って稼げるのだが」
「やめておけ、こいつは闇を渡る。手なのか足なのか、それとも目なのか、言霊なのか発動条件が分からない。一つでも解けば、そこから連鎖的に呪縛を外されるだろうな」
「つまらんのう。ちょいと味見もしたいところなんじゃが」
「仕事と私情を重ね合わせれば闇の商売は破綻する。貴様がそう言っていたのを聞いた気がするが?」
「分かっておるよ、政に有用に使わせてもらおう。報酬はどれくらい出せばいい?」
「今回は悪魔も討ち、ついでにそいつとの戦いで興も乗ったからタダでくれてやる。いつものようにどこぞから女子供を誘拐させるような興の乗らないことならばともかくな」
「そちらの仕事はまた依頼することになる。最近の女どもはどうにも扱い辛い。キツめの香を焚くだけで正気を失って、商品価値が落ちてばかりだ。やはり肉体的に強いミーディアムたちを誘拐するのが手っ取り早いが、奴らは惚れれば男と一緒に消える危うさも抱えているもんでな、どうにも商品に向かん。おかげで奴隷商人としての稼ぎは最盛期を越えられん」
「手仕舞いにしてしまえばいいだろうに」
「忘れられんよ、金が懐に驚くほどの勢いで入ってくるあの感覚は。特定の客どもの前で開く競売はたまらんぞ? 女は壇上で震えながら自身に掛けられた金額に怯え、震える。更には商品価値を問われれば服を脱がせて、」
「貴様の趣味の話には付き合わん」
「数年前に、高級娼婦にすれば億を越える金を得られるに違いなかった娘をさらったのだが、逃げられたのが悔やまれるわい。思えばあの頃から奴隷商人としてのワシは斜陽になっておるわ」
「神から、奴隷を扱うのはやめろと言われているのかもな」
「ふん、神などワシは信じておらんわ。このワシが、神を信じて生きられるわけもないのは知っておるだろうに。それにしても、いつまでも仕事以外に興味を示さん男だな。奴隷の女一人でも好き放題して壊すぐらいの狂気を見せてみたらどうだ?
「お断りだ」
「だろうな、貴様はそういう男だ。だから、そのまま『至高』で胡坐を掻いていろ。貴様が『至高』でいるからこそ、そこから入る情報で世界の各地を転々とできるのだからなぁ。それに、もうすぐ……ワシも面白いことを考えておってな」
「現実味を帯びてきたときに聞いてやる」
「それでは、また暗号を乗せた手紙を送らせてもらうぞ。そのときに依頼内容は伝える」
「好きにしろ、563番のテッド・ミラー」
「ああ、これからもよろしく頼むぞ?」
*
つい先日までのことが嘘のようにシンギングリンには平穏が訪れた。犠牲は大きかったが、それでも街一つが救われて、ガルダとの戦争が起こることもない。それでも死んでいった者たちにとっては納得できないことに違いなく、周辺では神官による浄化作業及び『御霊送り』が再び行われている。
「非常に困っている」
「と言うと?」
「一人暮らしをしないと駄目なくらいには、駄目になってしまっている」
「なるほど?」
「僕はこのままだと犯罪者になってしまう」
「十六歳以上で結婚を前提とした交際なら適法だぞ。アベリアさんはあと少しで十六歳になるんじゃないのかい?」
「そういうことじゃない」
「ただ、親の念書がなければ法的にアレウスが危なくなるかもしれないな。帝国では適法でも他国では違法になりかねない」
「だからそういうことじゃない」
ヴェインは明らかに茶化しているのだが、もはやこのやり取りは二人だけの時にはよくあることなのでアレウスには嫌悪感はない。むしろ、心境の変化があったために年上で許嫁もいる彼とのやり取りは重要となってしまった。「もう少しだけ相談に乗ってほしい」と言ったことによりヴェインは大義名分にも似た言質をアレウスから取ったようなものなのだ。
親身であることは確かなのだが、相談する相手を間違えているような気もしないでもない。これならばリスティに相談をした方が、とも思ったが男の問題を女性に話したって最大の理解は得られない。女性の意見をアレウスが最大限譲歩しても、それでも女性にとってそれが最大限の理解とはならないのと同義だ。
「アベリアさんのご両親を探すのは……難しいか」
「いや、だからな?」
「所在が分からないのなら、本人の意思が大事になるわけだからやっぱり適法だよ、アレウス」
「そんな軽いノリで『適法だよ』って言った奴を信じて捕まる馬鹿が世の中には沢山いるんだろうなと思う」
共同生活が難しいわけではない。以前と変わらない生活を今後も続けることは簡単だ。だってそれが毎日続いていたことなのだから。
感情が揺れてしまう。欲望が明らかに抑えられなくなってきている。精神的にまだまだ未熟であることの証拠で、もっと精進しなければならないことは明白だ。
だが、アレウスはここで落ち着いて考える。冷静に、状況を整理してみても『銀髪の可憐で美しい年下の女の子と毎日、同じ家で生活している』のはおかしい。薄々感じてはいたが、跳ね除けるだけの強い意志があった。だが、年頃の男にそれは絶対に駄目なことである。可愛すぎて馬鹿になる。綺麗すぎて逃げ出したくなる。なんでこんな当たり前のことを考えずに生活していたんだと思うくらいには頭が狂っている事実がそこにはある。
「頭の中がもうずっとおかしくて」
「ムラムラしているんだな」
「平常心を保ててはいるけど、いつ手を出すか分からなくて」
「要するにムラムラしているんだな」
「……僕の話を聞いているか?」
「猥談だと思っていたけど……え、いや、冗談だって。殺意を向けないでくれよ、な? 俺だって寄り添おうとしているだけなんだから。君が自粛中に顔を出すのだって、こうして気持ちを吐露してもらうためなんだからさ」
そもそも猥談などこれまでヴェインとしたことなどない。アレウスは殴りたい衝動を寸前で抑え込む。イラッとしてしまうのだが、図星だからこその苛立ちだ。むしろ当ててくれていなければ、自粛中にも来てくれとは言わない。
「この手の話はガラハにはできなさそうだしな」
「いやいや、ガラハも結構……おっと、これは俺たちだけの秘密だった」
「やけに仲が良いよな」
「お互い話すことに抵抗がなくなれば、あとは気が合うかどうかだよ。それに彼は少しだけ温和になったように思う」
「そうなる前から息が合っていたようにも思うけど」
終末個体との戦闘でガラハは人間関係がパーティでの連携に繋がることを学んだ。すぐに態度に出るわけではないが、人のことをちゃんと名前で呼ぶようになったことでヴェインとはより深く絆を結んでいるように見える。
「いつかは三人で娼館巡りをしたいね」
「今言ったこと、エイミーさんに告げ口しておくぞ」
「気が乗ってしまいました、すみません、御免なさい。許してください」
許嫁に頭が上がらないのはどうなのだろうか。アレウスはそっちの方が心配になる。
「もうすぐ、カーネリアンさんへの処罰が発表されるよ」
一通りの話をして満足したのか、ヴェインは溜め息混じりに今日の本題を語り出す。
「知っているよ。だから朝からアベリアは外に出ているんだ」
「ああ、なるほど。それで俺も気兼ねなく話すことができているわけだ」
もしや気付いていなかったのだろうか。いや、それはない。いつも通りヴェインが雰囲気を良くするために気まぐれに言っていることだ。
「処罰はギルドが出すけど……無理だろうな」
無抵抗のカーネリアンを捕縛し連行した。その後は街で起こった犯罪ではなかったためにギルド長を含めた多数の実力のある冒険者たちによって、処罰が決められることになった。それでも、重罰は避けられないだろう。
「この一件で多くの冒険者が死んでしまったからね……申し訳ないけど、なにをどう取り繕っても彼女を救うことは難しいよ」
『身代わりの人形』は高額で、エルフの技術が使われている。シンギングリンで生産もされていないため、“異界化”された中では持っている者と持っていない者とで生存率が大きく振れた。
持っていないから街から出ようとしなかった者もいれば、持たないまま魔物から街を守るために戦った者もいる。そのどちらの選択もアレウスは間違いだとは思わない。あんな唐突に、世界の理が異界の理に変わるなど誰も思うはずがなかったのだから。
「クルタニカさんもどうなることやら」
「事の発端は自身にあると強く主張していたからね。あのままだと街中で言いふらす可能性があったからギルド側も仕方なく捕縛したらしいけど」
そこでヴェインはアレウスを見る。
「それで? 君は彼女たちのためになにをやったんだい?」
「……なんのことだ?」
「俺たちは戦ったガルダのことしか話していない。俺の場合はカーネリアンさんだね。でも、ギルドが重要視しているのは首魁だったラブラ・ド・ライトだ。言いたいことは分かるだろう?」
「首謀者が死亡しているのなら、真実は捻じ曲がる」
口裏を合わせることぐらいなら平気でしていた。それぐらいクルタニカさんには恩義を感じていたし、街を救うために途中から尽力してくれたカーネリアンには感謝しかない。
「そうだ。君はとても優しいから、この一件についてもひょっとしたら虚偽の報告をしてちょっとでも罪を軽くしようとしているんじゃないかと思って」
「それは……無理だ。ギルド長には『審判女神の眷族』が付いている。どう取り繕ったって嘘は見抜かれる。嘘をつけば僕は偽証罪、最悪だと共謀罪になる。そりゃ、考えはしたけれど」
「考えはしたのかい?」
「そりゃ、カーネリアンはロジックを書き換えられていたし、クルタニカさんはそもそもの生い立ちが悲惨だし」
「確かに。だとすれば情状酌量の余地はあるわけだ。街で裁判をするわけじゃないし、ギルドで処罰がくだされるわけだから、それならギルド長の裁量が働きやすい」
「……それでも難しいとさっき言ったじゃないか」
「俺は正直なところ戦っただけだからカーネリアンさんは死刑でも当然かなって思っちゃいるけど、アレウスやニィナさんはどこか擁護している感じだし……書き換えられていたって事実も加味するなら、死刑は重すぎるようなとも思うし……なんだろうな、モヤモヤが晴れないからこうして話しているんだよ」
物事はいつだって思い通りにはならない。そして、同情の仕方も人それぞれだ。アレウスはカーネリアンの事情を僅かだが聞いているためにどうにかならないかと思うが、ヴェインはそこまでの情を抱いていない。ただし、アレウスたちが悪人と断定していないから、自分の判断が正しいものかどうか分からなくなっている。
「僕たちが刑を決めるわけじゃないから、そこまで悩む必要もないんじゃないかな」
カーネリアンの処罰は今日中にどこかで知ることになる。それよりも気にしなければならないのはアイシャのことだろう。
「少年のガルダと戦ったアイシャはどうだ? 間一髪でクラリエが助けに入ったみたいだけど」
「怪我自体は回復魔法でどうとでもなるけど、心まではどうだろう。なにせ、男の俺が言うのすら憚られるような惨い現場だったらしいから」
「ガラハが戦った、えーっと……クォーツはまだガルダの誇りを持っていたらしいな。そのおかげで対等に戦って、勝つことができたって言っていた」
「だからこそ、オニキスだっけ? 彼がやった仕打ちが大きく取り上げられる。異界化については街の人たちは事件や事故さえ起こさないよう家にいるよう心掛けさえすればよかったけど、この件についてはガルダに対して少なからず憎しみを抱く人は増えるだろうね。シンギングリンはあらゆる人種を受け入れる街だったけど、変わっていくかもしれない」
その惨い現場で戦っていたアイシャは心を病みかけている。冒険者を続けられるのかどうかは担当者のシエラによって見定められる。ニィナは「辛いなら辞めるのが一番だし、あたしは気の合う冒険者を担当者と探すだけ。それに、辞めてもアイシャと関係を断たなきゃならないわけじゃないし」と強がりを言っていたが、心のどこかでは辞めてほしくないと思っているに違いない。だが、こればかりは肉体的な問題ではなく精神面の問題であるため、立ち直れるかどうかに全てがかかってしまっている。
「……まぁ、俺は君たちの自粛がいつ解かれるかの方が気掛かりだよ」
「リスティさんはカーネリアンの判決次第って言っていた」
「なんでカーネリアンさんの判決が関わってくるんだい?」
「多分、彼女が僕と同じだから」
「同じ? 君がアベリアさんと共に得た炎のそれと?」
「彼女はクルタニカさんから氷の力を分け与えられたんだ」
「空で未だに咲いている氷の花がその証拠ってわけ……か。そろそろ雪か霰にでもなって降ってくるはずなんだけどね」
「大体、なんで空で氷が維持されているんだろ。普通、重力で落ちてこないか?」
「あれは間違いなく魔力が関係しているよ。空から落ちるという事象すらも凍り付かせているんだとすれば、あの氷の花に触れている周辺の空気は氷にならないまま凍り付いている。なんか表現のしようがないけど、あそこだけ時が止まっているような状態なんだよ……いや、実際に間近で見たわけじゃないから言い切れないけど」
ヴェインは魔法により詳しくなっている。終末個体との戦闘後、入院している間に心境の変化があったのかもしれない。僕とガラハはずっとガルダ討伐のための訓練を続けていたから面会に行けず、その間のことは想像するしかできない。クラリエだってそうだ。どのようにしてオニキスを倒したのか、もっと詳しく聞きたい。それらを知れば、よりパーティの連携が取れるようになる。
無論、アレウスはアベリアと共に『原初の劫火』についても公開することになるだろうが、仲間に手の内を隠すなど誠実性がない。奥の手は全員が知っていて初めて効力を発揮する。知らない手の内を勝手に持たれていたら信用に関わる。
「今年もあと少しで終わりだな」
「まだ一ヶ月ぐらいあるけどね、とはいえ厳冬だったよ。年を越しても寒さはしばらく続くだろうけど」
「処罰が発表されたよ」
他愛のない話を始めたところで、気配消しを解いてクラリエが家に駆け込んでくる。
「それで、どうなった?」
「クルタニカさんは多くの冒険者を巻き込んだ罪で年明けまで謹慎処分。カーネリアンさんは地上でのエーデルシュタイン家を剥奪、その家の『蝋冠』を身に付けることを禁止。そして空へ帰還後、地上で起こったことの虚偽報告をすること」
「え、それだけかい?」
「……これはカーネリアンさんにとって、相応の罰になる」
「その言い方だとアレウスは予想が付くんだ? 俺はさっぱりだけど」
「多分、クルタニカさんを発見後に交渉は決裂。戦闘となってラブラとクォーツとオニキスは戦死したことにするんだ。そしてカーネリアンさんがクルタニカさんにトドメを刺したことにする」
「証拠はどうするの? あたしにはそこまでは分かんない」
「僕はカーネリアンが氷の花を咲かせる前に、その指に『蝋冠』があるのを見たんだ。それはエーデルシュタイン家の物ではなく、カルメン家の『蝋冠』。彼女は地上に降りるとは思わずにラブラに連れてこられたから、エーデルシュタイン家の『蝋冠』は故郷の空に置いてきているはずだ。だからクルタニカさんの死亡証明として『蝋冠』を提示すればいい」
アレウスはギルド長のくだした判決の意味に震える。
「クルタニカさんは死んだことにされるから故郷の空には帰れない。彼女は特徴的な身なりをしているから目を惹きやすいし、翼をもがれた痕があるからそれだけで気付かれてしまいかねない。そして、それは導線となってカーネリアンさんの虚偽報告がバレることに繋がって共に死罪だ。カーネリアンさんは地上でエーデルシュタイン家を名乗れないから他のガルダに真実を語れない。故郷の空で余生を過ごすとしても、虚偽報告がバレたらやっぱり死罪だ。エーデルシュタイン家は彼女の故郷では名家なのかもしれないけど、『エーデルシュタイン家』を知ってはいても『カーネリアン』を知っている可能性は低い。それでも『エーデルシュタイン』を名乗れば地上に彼女の故郷から来ているガルダがいた場合、バレる恐れがあるからそれを断つんだ。僕たちだって、身なりから家名から貴族と推測はできても、その名前まで耳にすることなんてほとんどないし、ましてや他国の貴族の名なんて知るわけがない」
「でも空の上にも『審判女神の眷族』はいるだろう?」
「だから、カーネリアンさんのロジックに書き足すんだ。嘘を真実として語れるように書き足してしまえば、空の上の『審判女神の眷族』は見破れない。起こったことも生死も真実から嘘に変えてしまう。本人は起こった事実を知っているのに、空の上でのみ真実を絶対に語れなくなる」
カーネリアンを死刑にしなかったのは、そもそも彼女は誰一人として殺しておらず、大半はオニキスとラブラの殺人であることと、彼女の故郷の空でエーデルシュタイン家の当主が地上で死刑にされたとなれば、必ずガルダとの間に亀裂が生じるためだ。地上で行われた刑罰は、人種の差別による一方的な殺人だと思われれば、亀裂どころか戦争になったっておかしくない。だから生かした。
「あたしが説明するまでもなかったじゃん。だけどそこで問題があってね」
クラリエがアレウスの手を掴む。
「神官がカーネリアンのロジックを開けないから、リスティからアレウスを連れてこいって言われたんだよねぇ」
「なんで僕が?」
「だって開けないロジックについてはアレウスの方が詳しいじゃん」
リスティはギルド長に言われたわけではなく、心当たりとしてアレウスを呼びたいのだろう。
「僕が行ったところでなにか分かるわけでもないんだけどな」
人前でロジックは開けない。この能力は限られた相手にしか知られていない。それでもリスティが呼ぶのは、ロジックを開く能力を隠しつつ開けないロジックについて心当たりのあることを話せということだ。
しかし、心当たりと言われてもそれは一つしかない。それを語らず、アレウスはクラリエに引っ張られるままに家を出た。




