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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第1章 -冒険者たち-】
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家計のピンチ

【称号】

自身の行動によってロジックに刻まれるもの。称号によっては人種内でも偏見の目で見られる場合も多い。ただし、バレなければ良いという性分で大抵の冒険者は大層な称号と共にイメージとしてはマイナスな称号も持ち合わせていることがほとんどである。

また、ギルドによって特別に与えられる称号もある。こちらはギルド内での呼び名になったり、名前を伏せなければならない場合や、冒険者の間で噂になる際に声に出されることが多い。アレウスの場合は『異端』、アベリアは『泥花』である。


「保存食を全部潰されたのは、ある意味で家計にもダメージだな」

「アレウスが持っていたお肉や干し芋、乾パンも全部、駄目になってしまったし」

「アベリアが持ち帰った保存食が残っているだけ、まだマシか」


 家の中のあらゆる収納棚から食料という食料を運び出し、そして調味料もテーブルの上に並べる。


「採掘業は?」

「順調だよ。でも、給料が入るのは今月末だから……あと一週間ぐらい?」

「一週間をこれだけで……」


「我慢しろよ、アベリア。大喰らいなのは外じゃ悪くないことだけど、一週間を耐え忍ばなきゃ、僕たちは水だけで数日を過ごさなきゃならなくなる」

「分かってる」

 でも顔は分かっていなさそうなので、アレウスは溜め息をつく。


「中堅冒険者に対して、沢山、言いたいことはあったけど……死ななくて良かった」

「うん、本当に良かった」

「……死んでしまった奴も居るけどな」

「あれが最善だった。あれ以上は、まだ私たちには、守り切れない」

「結局、そこだよな。まだまだ経験も、練度も、なにもかもが足りないから守り切れなかった。あんな馬鹿ですら、きっと僕たちよりも先を歩く冒険者は助けて、生かしてみせるに違いないのに」

 力の至らなさに、落ち込むばかりである。


「お邪魔するけど、良いかしら?」

 扉をノックするのが速いか、それとも開けながら喋るが速いか。なんとも言い難い感じで射手の女が借家に入って来る。


「どこで僕たちの居住地を知った?」

「そりゃもうギルドよギルド。あなたたちに一応、感謝を伝えておかなきゃならないなと思ってね。ありがとう、あなたたちのおかげで私はお目こぼしだろうけど、一応は冒険者になれた」

「そう、か」

 まさか感謝されるとは思っていなかったので、アレウスは少し狼狽する。


「ギルドから連絡はもう来ているんでしょう? あなたたちも無事に冒険者になったそうじゃない? なのに、そんなに暗い顔をして……あぁ、食べ物に困っている感じ?」

 見れば分かるようなことを、あたかも空気を読んだかのように言う態度が癪に障る。

「だったら、好都合だったんじゃないかしら。馬に荷車を引かせて、持って来たのよ」

 促されて、二人は借家の外に出る。荷車には新鮮な色とりどりの野菜と、鶏、豚、牛の肉が乗せられていた。

「助けられたなら借りは返さなきゃならない。食べ物を潰されたらしいから、その分は倍にして返す。ウチは実家が酪農をしているから、冒険者になったお祝いが親戚と合わせて物凄い量でね。こんなに全部、食べ切れるわけがないから、腐らせるくらいなら感謝の気持ちとして持って来たってわけ」


 アベリアが射手の女の両手を握り、ブンブンと縦に振り、そして目を爛々と輝かせる。


「そんなに感謝されるとは思っていなかったわ」

「食料事情が解決したんだ。これで一週間は安泰だ。助かった……ええと」

「ニィナリィ・テイルズワースよ。ニィナで良いわ」

「ありがとう、ニィナ」

 アレウスが言おうとしたことをアベリアが先に言う。


「ま、初級冒険者同士、これからも仲良くしましょう。ただ、パーティを組むのは勘弁ね。聞けばあなたたち、『異界渡り』も志望しているんでしょう? 私、異界はもう懲り懲り。と言うか、私には全然、手を出せない世界だって分かった。私にはこの世界を守る仕事の方が向いているのよ。それに、あなたと一緒に組むのはかなり頭のネジがぶっ飛んでいないと無理だもの」


「見ている方角が違うなら、僕たちだって組もうとは思わない。他でしっかりやってくれ」

「ええ、そうね。お互いに、やりたいことをやるのが一番よ。でも、余裕があったらまた何度か立ち寄らせてもらうわ。あなたたち、いつか居なくなっちゃいそうで怖いもの。生存確認ぐらいはさせてよね」

「今日ほどじゃないにせよ、食べ物を持って来てくれたならありがたく歓迎させてもらう」

「ほんっと、呆れるくらい食べ物に困っていたのね……あ、それよりあなた、教会の祝福を受けなかったんだって?」

「受けなかったんじゃない、受けたくなかったんだ」

 なのでアベリアは教会の祝福を受け、異界を除く世界での戦いではこの街に魂は戻り、甦るようになった。その甦る場所も本人の希望次第で神像がある場所なら変更が可能らしいが、そこの辺りは祝福を受けていないアレウスにはあまり分からない。

「どうして?」


「……僕は神官が嫌いだからね。ロジックに触れさせたくなかった。いわゆる『祝福知らず』だよ。冒険者の中に、死に場所を求めてわざと教会の祝福を受けない人が居るらしいけど、僕もそれと同類ってこと」

 実際には、神官にはアレウスのロジックが開けられない。そんなことは事前に分かり切っていたことなので断った。だけど、ニィナにまでそれを伝えては変な勘繰りをされてしまう。冒険者たちの間で噂になっても面倒なので、酔狂な奴という認識をされていた方が丁度良い。


「ふーん、ま、やり方は人それぞれだから私はなんにも言わないわ。でも、死んだらそれまでなんだから、その命、大切にしなさいよ? それじゃ、元気で。荷車は置いておくわ。取りに来るまでに死んでいるなんて勘弁よ?」

 ニィナは馬に跨り、小さく手の平を振ってから手綱を操り、街道を走り去って行った。

「一週間の献立を考えるぞ。今夜、お祝いとして大盤振る舞い出来るかどうかは、そのあと考える」

「うん」


「それにしても……こんな朝早くに来なくても良いのにな」

 欠伸をし、それから背伸びをしてからアレウスは室内に食料を運び始める。


「ギルドから封書が来てる」

 郵便受けを開き、アベリアが一通の封書をアレウスに見せる。

「昨日の分で終わりだと思っていたのに」

 ペーパーナイフで開き、中身を確認する。

「なんて書いてあるの?」

「ギルド担当者が決まったから、冒険者ギルドに行った時はこの人を呼ぶようにって」

 手紙をアベリアに手渡し、食料を運び込む作業を再開する。

「……リスティ―ナ・クリスタリア?」

「どこの誰だかは知らないけど、あんまり僕たちを詮索するような人じゃなければ良いな」


 アベリアに林檎を一つ投げて渡し、アレウスは笑みを零しながらそう言った。

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