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異世界で壊す異界のロジック  作者: 夢暮 求
【第1章 -冒険者たち-】
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パーティとして回す

【喉元】

 全ての生物における急所の一つ。アレウスは筋力の能力値が足りず魔物の頭部をかち割れないため、二足歩行の生物を前にした場合はここを狙いに行く。その際、真っ直ぐに突き立てれば首の骨に邪魔されてしまうので、やや斜めに突き刺している。他にも急所はあるが、アレウスは過去の経験から胸部と喉元の二ヶ所を優先してしまいがちな傾向にある。


『どんなに強い奴だって、そこを突くだけで死ぬんだよ』


「なぁ~アリス~もう無理だってぇ~」

「口を動かす暇があるんならちゃんと運べ。こっちは前衛一人だ。一々、返事をしてられない」

 戦士二人を後衛に、中衛として神官を二名、射手を一名。そして、アベリア。なので前衛はアレウス一人が受け持つ。一界層は二界層とは打って変わって木々に満ち溢れている。ただし、侵入できる範囲が限られている。見えるのに通れない道、登れない木々が点在しておりほぼ一本道だ。


 この構造には憶えがあった。アレウスの見立てなら、通路と広場の繰り返しとなる。なので、前方はアレウス一人で偵察し、後方を死体を運ぶ二人の戦士に守ってもらう。バックアタックによる陣形、隊列の乱れがあったとしても必ず前衛を務められる者が魔物と接敵できる形だ。中衛で矢と魔法を惜しげもなく使って欲しいところだが、穴の位置が把握出来ていない以上、やはり節約が基本となる。


「ゴブリン……? いや、狗鬼か」

「だからその呼び方は分かりにくい」

 先ほど見た化け物染みた顔ではなく、狗の顔をした毛むくじゃらの生物。ただし二足で活動し、手にはゴブリンと同じように石の短剣を握り締めている。

「コボルトだ。こっちに寄って来ないか見張っていてくれ」

 アベリアに言い直すように言われたので仕方無く言い直し、しかし指示だけは出して、アレウスはタスキ掛けしていた荷物をその場に置いて、短弓に矢をつがえる。


「弓で先制する。ここからだと何匹だ?」

「四匹で一グループ……八匹だから、二グループ」

 女が今にも矢を放とうとしていたところをアレウスが慌てて手でやめさせる。

「どうして?」

「広場が思ったよりも狭い。釣りが失敗して両方反応したら一気に八匹やって来る」

 女の射手と協力し、まず二匹に傷を負わせれば残り二匹が先に通路へと入って来るだろうと考えたが、これでは八匹を一挙に相手にする。

「好機を窺うしかない。グループが分かれたところで、一匹だけを集中して狙う」


「どれを狙うの?」

「一匹が動けば、きっと残りの三匹はそれに付き添って動く。だから、その最初に動く一匹がグループのリーダーだ。それを射って、深手を負わせたところでグループを混乱させる。矢で狙われた方に三匹がやって来る。そこを叩く」

「分かった」

 観察を続けて、コボルトのリーダーをまず見抜く。指差して狙うコボルトを決め、互いに矢をつがえて、弦を引き絞る。

「神官は下がれ。俺たちが中衛に移る。ほら、行くぞ」

 後ろの男が神官を下がらせ、アレウスをからかい続けていた男と合わせて中衛に入る。バックアタックに対して弱くなってしまうが、これから前方のコボルトと戦うのなら、回復魔法を唱えられる神官を可能な限り後ろへと下げるのは悪くない判断なので、なにも言い返さない。


「そっちのタイミングに合わせるわ」

「弓の腕はそんなに無いから助かる」

 呼吸を整え、大きく息を吸って、止める。そして矢を放った。それを追うように女の矢もまた放たれる。一匹のコボルトの右目を一本が貫き、もう一本は右腕に突き刺さる。

「射手の冒険者を目指すだけのことはある」

 息を吐いて、自身の腕では絶対に命中させられなかった右目を射抜いた女を褒める。


「来るわ。私は戦士より後ろ、神官と魔法使いよりも前の位置で射続ければ良いのね?」

「味方を射抜いたりしなければそれで良い」

「それは私を馬鹿にし過ぎ」

 射手の女が引いたので、アレウスは剣を抜く。三匹のコボルトが一斉に通路へと侵入して来る。釣りは成功した。だから、次に移行する。


「“火の玉、踊れ”」

「“火球よ、進め”」

 アベリアと魔法使いの詠唱によって生じた複数の火球が、アレウスだけを捉えて突き進んで来ていたコボルトの顔面へと着弾し、大きく燃え上がる。残った火球も残り二匹へと命中し、着実なダメージを与える。


 顔を焼かれたコボルトが状況を把握する前にアレウスの剣が喉を貫く。ゴブリンの頭はかち割れなかった。ならコボルトも同等に、脳天から一刀両断には出来ないだろう。だからと言って、上半身のどこを狙うかは非常に難しい。同胞の骨か、それとも別の魔物の骨かは分からないがそれを加工して作られた骨鎧をゴブリンもコボルトも身に纏っていたからだ。

 となると、ほぼ確定で息の根を止められる部分は喉元しかない。だから今回も喉元を狙い、そしてそのまま息の根を止めた。引き抜いている最中に二本の矢が駆け抜けて、残りの二匹の足に突き刺さる。


「押し込むけど、広場に出る前に倒したい」

「任せろ」

 戦士の男が前進し、アレウスと共に剣を振るってコボルトを追い立てつつ、広場に出る直前で一つの剣は喉元を、もう一つの剣はコボルトの腹部を貫いた。骨鎧も貫通する筋力にアレウスは目を見張った。

「これぐらいはしなきゃ、戦士としてはやって行けないだろう?」

「なら、これが正しい釣りの仕方だ。覚えて欲しい」

 コボルトのグループを一つ潰し、もう一つのグループは未だその事実に気付けていない。これで、戦闘回数は増えるが一回の休憩を挟める。怪我をしたのなら回復魔法やポーションを使うことだって出来る。


「ああ、今度から気を付ける。それじゃ、後ろに戻る。バックアタックは気にしなきゃならないからな」

 八人での脱出は、手数は多いがその分だけパーティ内の行動一つ一つに混乱が生じやすい。だからこそ事前に話した通りのこと以外は極力控える。もしも動くのだとしても、完全に優位に立っていると判断出来てから。戦士の男も、射手の女も、しっかりとそれを理解し、行き過ぎた動きにはならなかった。アベリアと魔法使いのタイミングも良かった。神官は後ろを見ていたのだから、決して手を抜いていたとは言い切れない。


「ホント、口だけなんだな……お前は」

 一人だけ、戦士であるのに神官よりも更に安全なところで動けないままの男にアレウスは毒を吐く。

「トラウマが大きいのよ。動けなくても仕方が無いわ」

「異界で『仕方が無い』は通用しない」

「私たち、異界に堕ちたのはこれが初めてよ? もう少し、感情は共有して分かり合っていくべきだと思うわ」

 射手の女は喰って掛かって来るが、アレウスは耳を傾けない。

「ちょっと、聞いているの?」


「外じゃ、私たちよりもあなたたちの方が理屈を知っていて、戦い方も磨かれているのかも知れない」

 アベリアが女の言葉を止める。

「けれど、異界のことは私たちの方が分かっている。『仕方が無い』で、命は失われる。『トラウマ』だから動けないんじゃ、死ぬだけ。あんまりアレウスを責めたりしないで。あれでも、必死に全員での脱出を考えているから」


「……協調性、本当にあなたたちは欠けているわ。でも、今のは良い感じだった。そうね、イヤミな奴に指示を出されるんだとしても、そいつの指示が正しいことが証明されたなら一時的なパーティであっても、それがちゃんと回るように従うわ。嫌いだからって独断して死ぬのは、私だって嫌だもの。けれど、脱出してからパーティを改めて組もうとは考えないわ」

「僕も、君を含めた全員と組もうとなんて考えちゃいない」

 アベリアがアレウスの頭を杖で小突く。

「今のは良いだろ、別に」

「ギスギスし出したら良い流れが止まっちゃう。止まる前にもう一組のコボルト退治」

「分かったよ……」

 どんなに言い草が乱暴であっても、アベリアの前ではアレウスさえ黙る。射手の女のツラツラと述べられる愚痴に対し、「男なんてそんなもんだ」と戦士の男が宥めていた。

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