この世界が仮想現実である事が科学的に証明されたらしい
突然ですが。
こんな妄想をした事、ありますか?
例えば、自分が漫画の主人公だったらなー、とか。
あー、アニメでハレーム主人公になりてー!とか。
ふふふ、こんなところでこんな小説を読むくらいですから、きっと、ありますよね?
おっと、これは『メタ』ってやつだった、失敬。
でも、僕の場合………どちらかと言うと逆だったんです。
誰もが羨む生活をして、自分でも努力をして、生きがいを感じていた人生が、何不自由ない筈の順風満帆な人生が。
僕にとっての、本物の人生が。
誰かに作られた、そんな事を知ってしまったお話です。
あ、ついでに言っておくと、この物語の主人公は僕じゃありません。
僕とは違って『現実の世界に住む』可愛い、可愛い女の子です。
それでは、ようこそ、現実の世界へ。
どこにでも居る。
そんな言葉が大抵の人に当てはまる。
代わりはいる。
そう言われたくは無いけれど。
玉城愛華梨
たまきあかり
私の名前。
よくある名字で、よくある名前で、響きだけならどのくらいの数の同一人物が居るだろうか。
クラスで、難しい方のあかりちゃん、と呼ばれた事もあった。
親が、かぶらないようにってつけてくれた名前らしいけど。
かぶりまくってるよ、お父さんお母さん。
不満はないけれど。
別にない。
どこにでもいる、かわりのいる、ぜんぶ、ふつうのこと。
「あ゛っづいよぉ〜。」
7月。
蝉がミーンミンミンミン。
「小百合が、自分からこんなに暑いのに図書館行こうとか言い出したんだけど。」
「こんなに暑いと思わなくて………アレだよね、クーラーの中に居すぎると、寧ろ寒っ!てなって、現実の外の暑さ忘れるよね、ナメちゃうよね、クーラー怖いぃい!」
「お饅頭じゃないんだから、怖がってもクーラーは出て来ませんよ。」
お馬鹿さん、と持ってた本の角でさゆりのうなだれた後頭部を小突いた。
「痛ぁ!?何で叩いたぁ!?」
「暑いのに蝉より五月蝿いから。」
「そんなに五月蝿い!?ゴガツバエい!?」
「なんで音読み(?)したし。」
「ぶふぁっ!あかりちゃんが『したしキリッ』とは、何?女子高生?女子高生デビュー?」
「お前も私も女子高生だろーが。」
そんなに変だったか、私のしたし。
………したじき。
「ふ、ふふっ。」
「何わろてるん?」
「似非関西弁使うな、関西の人に怒られろ。」
「なんくるないさ〜!」
「今日日ふざけてないと使わないのを使うあたり、もう地元にも謝れお前。」
というか、何で暑いって言いながらこんなに元気なんだこの子は。
私は暑いの本当に苦手だ。
子供の頃から住んでいても慣れない。
生まれも育ちも暑さ耐性には関係ないのか。
寧ろ中学校の修学旅行の冬の長崎の方が息が白くはなっても気持ちよかった気さえする。
寒さ耐性の方があるのではないか私。
蜃気楼が見えるよ、遠くのアスファルトの上に。
あっ、本屋。
「ねぇ、もう、ここで良くない?クーラーあるよ?」
「うーん、一理ある。でも、金欠だからなぁ………本持ち帰れないし。」
「立ち読みで。」
「そ、れ、は、却っ下っ!」
「………。」
何だよ暑さ耐性MAXかよ小百合ちゃん。
ならば私にも考えがある。
「やだやだやだ〜!クーラー!!!クーラーがないと死ぬのー!!!お願いだからクーラーを浴びさせてぇ!!!」
「愛華梨ちゃんが壊れた!」
「壊れたとか不吉なこと言わないで!クーラー、夏、壊れる、の連想ゲームですなわち死!になるんだよ!?」
「駄々っ子かー、いいよいいよ、可愛いよ、もっとやって。」
「引けよ!」
駄目だボケ属性にボケ攻めは効かない。
グラドルの撮影のおっさんと化した(ポーズはともかくとして)小百合には何を言っても聞かない。
「わかった、私が自腹を払うから!買うを本から!さあ、早くこのデカいクーラーの中へ。」
「………愛華梨ちゃんって、本屋をクーラーとしてしか見てないんだね、文学美少女の私は少し悲しいよ。」
意味不明な日本語を喋るのと、君の美少女発言にツッコむ気も起きない程、暑いのが苦手なだけなんだ。
「はぁっ!生き返る!やっぱり人間の文明はこうでないと。」
汗が冷えすぎる気がするけど、そんな事は今はどうでもいい!
「愛華梨ちゃんの!(キャラの)法則が!乱れる!」
「小声でキャラの、って言ってるからなんか語呂ずれてるな。」
「すっごい細かい事にもツッコむ!回復している!」
「よーし、小百合ゼミ、どれがクーラー代だ?札束で買ってやろう。」
「たった6000円で札束と言えちゃうその精神、そこに痺れる憧れる………!」
「おう、適当に使いすぎてファンに刺されるなよ。」
基本気さくだが怒らせたりしたら怖いんだあの作品のファン。
二部主人公が好きと軽い気持ちで言ったら、三部推しが凄かったりするし。
「5800円です。」
高いな!?
レジにて、二千円札を3枚(札束です)握りしめる。
いや、え、本ってそんな高いのあるの、確かに分厚いけど鉄でも入ってるの?武器なの?そもそもこれは文学なのか、文学ってそんなに高いのー!?
「ごめんなさい!やっぱり奢れません。」
「ふ、でしょうねぇ。」
何だその勝ち誇った顔は。
「知らなかったよ、そりゃあ図書館行くよね、文学って高級なんだ。」
「あれは文学じゃなくて、普通にプログラムの本だけど、普段本読まない愛華梨ちゃんにはわからないかぁ〜。」
「ぷ、プログラムって、あれだろ、運動会とかの………。」
し、知ってるし。
「お、おう………いいんだ、愛華梨ちゃんはずっとその愛華梨ちゃんのままで居て!」
という訳で、涼んだらまた図書館への行脚を再開する事になった訳だが、ただ涼むのも暇なので、とりあえず立ち読む事にした。
というか、立ち読みどころか座り読みしてくださいと言わんばかりの椅子があるのは気のせいだろうか。
「閉店まで粘って読んだ事あるよ………!」
超能力者が貴様は。
「そして何でそれも自慢げなんだ。」
「貧乏を生き抜くコツさ!」
「割とボディブローのように心に来るな。」
小百合は割とかなり貧乏だ、親の離婚でさらに拍車がかかったと聞く。
「………今、お母さんと暮らしてるんだっけ?」
「うん!血は繋がってないけどね!」
初めて知った、割と複雑みたいだ。
「よし、やっぱりあの本買おう。」
「ふぇっ!?うそぅ!?高いんだぞ!?知っているのか雷電。」
「それ多分、使い方間違ってるよ………?」
なんかそんな気分になった。
久しぶりに会った、逆に言えば、夏休み以外あまり会わない旧友に、くれてやるものとしてはいいだろう。
「図書館まで歩くのが、面倒になっただけだからな。」
「愛華梨ちゃん!それは、まさかツンデレ!!!」
「ツンデレではないから!」
少し顔が暑いが、クーラーを持ってしても夏の暑さがこせなくなってきているのか。
気を紛らわす為には、本を読むしか無い、本を。
文学はいい、暑さを紛らわしてくれる(かもしれない)人類が生み出し「愛華梨ちゃん、そっちは漫画、だ。」
「活字は読めない宗教なんだ。」
「ガチの悪徳宗教にハマった我が親父の話する?」
「なにそれこわい。」
「あ、ほら、これとかどう?ラノベ!内容は漫画っぽいの多いよ!活字だけど挿絵もあるし。」
「ら、のべ?」
何語?ラテン語?ラしか合ってないけど。
「ライトノベルの略だよ!ライト!軽いよ!軽い気持ちで読んで!………そして、いつの間にか、財布もかるーくなってるって話さ。」
「無理にオチつけようとするな。」
知らない人間に対しての説明として不十分すぎるだろ。
「要は漫画な内容を小説にしたようなもんさ!」
最近は漫画ってよりアニメだね、と更に一言。
え、今微妙にエスパった?
心読まれたわけではないよね、たまにあるんだよ。
「愛華梨ちゃん、大体言いたい事、顔に書かれてるからね、勿論活字で。」
「成程、だから私は鏡を見てもそれに気付けなかったのか。」
活字は読めないからなぁ。
「これとかどう?最近売れてるらしいよ!男子向けっぽいけど。」
「何かめっちゃ可愛い女の子が表紙に沢山いるんだけど、これを男子が買うのか?」
女子向けじゃないの?
「いやー、ほら、最近は百合とか流行ってるし?男の子は女の子を沢山見たくて、男なんか見たくないって層も増えてきてるからねぇ〜。」
「ふーん?男の世界って同性をフィクションでも見たくない程殺伐としてるの………?」
「女子校のお嬢様にはわからないか〜、男は狼だから気をつけないと!だよ、年頃なんだから!」
「年頃とか何となくおばさん臭い。」
「辛辣ッ………!」
効いた、効いたよーと言いながらうずくまっていくが、こいつは人目が気にならないのだろうか、え、私?私は人目を集める変な事なんてしません、駄々っ子?知りません、何の話でございましょうか。
取り敢えず、ラノベ、とかいうライトなやつを手にとってみる。
そこそこ厚みが…………半分くらい絵だと良いな。
適当にパラパラとめくると。
その瞬間、さっきまでの夏の暑さが吹き飛ぶほど。
いや、信じられない事に『その暑さが恋しくなるほど』
異常な寒気に襲われていた。
ここは、本屋?いや、ブラックアウトする。
海で溺れた時に1回なった事がある。
海の突然深くなる段差。
あれの事、なんていうんだっけ。
足を踏み外して、怖くなって。
そして、苦しくて、水を沢山飲み込んで。
意識が消える。
でも、これは違う、海でもない、ましてや意識は遠のくどころか『はっきり』している。
風が吹き抜けていて。
風?
本屋なのに?
雑踏の音が聞こえる。
視界が、瞬きする内に、どんどんクリアになっていく。
「えっ、ここは………………………?」
私の知る、どの街とも違う。
地元にこんな場所はないし、そもそもさっきまで本屋の中だった筈なのに、外だし、外なのに『暑くない』し。
歩いてる人は日本人みたいに見える、けど、なんだか変な色の髪の毛の人が多い。
ピンク、赤、青、あと、あれは茶髪じゃなくて、どちらかと言えば、オレンジ。
歩いてる人も少し変だ。
何か美男美女が多い気がする。
皆もれなくスタイルいい。
程度の差はあれど。
それと、それと、それと………………。
あっちから歩いてくる女の子を私は『知っている』
『ついさっき、見た』
何故ならその子は、絵と実写で少しだけ印象は違うけど、確実に『ラノベの表紙』にいた女の子だ。
背が大きい、女の子なのに男より大きい。
そして美人だ、ショートカットが似合う。
細くて背が高い。
まるで、この世界が彼女を中心にしているみたい。
彼女を見た事で、頭の中で嘘だと思いつつも浮かんできている事がある。
でも、そんな事は『有り得ない』
「あー、醒めろ醒めろ醒めろ!!!夢!夢!夢!小百合!起こしてーーー!!!」
叫んでも夢と自覚しても、一向に醒めない。
そればかりか、寧ろ恐怖ではっきりと皮膚に、空気を、人の流れを、目に見えるもののはっきりとした形を捉えてしまう。
「あっ、ケータイ。」
夢の中で、うん、夢の中で………通じるかはわからないけど。
電波はちゃんと来てる、使える、電話帳もそのままだ。
私は小百合に電話をかける。
呼び出し音も鳴ってる、いける。
「もしもーし!愛華梨ちゃーん?もう、どこ行ってんの!今何処?」
つながった!!!
「あ、あの!小百合!ごめんね!えっと、今、夢のかな?じゃなかった、夢の中?みたいなところで、あっ………えっと、違う、夢の中だとは思うんだけど、街の、ど真ん中というか!!!」
「セイセイセイ………落ち着き給えよ、えっ、外にいるの?一瞬で本屋の3階から?おいおい、愛華梨ちゃん、いくら俺っちがハードボイルドだからって………」
「ふざけないで!今!本当に困ってるんです!!!」
「あっ、はい、ごめんね?愛華梨ちゃん?大丈夫?泣いてない?もしかして、迷子………?」
「うん………いや、ごめん、私こそ………泣いてないから………………うん、多分、迷子………?」
「そっかー、余りここらへん来た事ないもんね………えーっと、あ、位置情報送れる?迎えに行くよ!」
「位置情報、その手があったか、小百合、冴えてる。」
「うおっ、いきなり普通のテンションならないでよ!?びっくりしますごわすよ!?」
「一旦切るね。」
位置情報、その手があった、気が動転してい
「えっ、何処、ここ。」
そこには、日本だけど存在しない地名、住所が沢山あって、そして、明らかに地元ではなかった、海すら越えた場所だった。
「浅草県って、何処。」
誰かが適当にもじってつけた事が丸わかりの、そこは恐らく、東京ではない東京らしき場所だった。
「こんなの送れっていうの………。」
万策尽きた感はあるが、とりあえず小百合には送っておいた。
そして、確信した、少なくともここは私が居た世界ではない。