0-3 父上様は母上様に頭があがらないらしい
お久しぶりです。エタりそうな勢いで投稿してませんでした。すみません。
と、いうわけで。
ボクは自分を納得させて旅立ちの準備を始めたわけだけれども。(もちろん、父上様から準備金は頂いてきたよ、たっっっぷりとね。)
とりあえず、父上様の根回しがどこまでなのかを確かめるため、母上様の居室に来てみた。
「母上様~、いらっしゃいますか?」
「・・・いますよ、お入りなさい」
母上様の応じる声を合図に、ボクは母上様の居室に入室した。
今日は何の行事もないからか、ゆったりとしたドレスに身を包んだ母上様は朝のティータイムだったようで、ティーカップを手に持ったまま入室したボクに気怠げな視線を向けてきた。
・・・うん、めっちゃ色っぽいです。二十歳間近の子どもがいるとは思えません、母上様。
「珍しいこともあるものですね、いつもならばこの時間帯は研究所に入り浸っているはずですのに」
嫌味にも聞こえるけれども、これが母上様の常なんだよねぇ。
「いやぁ、先程までは研究所にいたんですけどね、父上様に呼び出されまして」
父上様、と言った瞬間、母上様の眉がピクリと動いた。うっわ、父上様とケンカでもしてんのかな?
「あらあら、息子のお仕事の邪魔をするなんて、悪いお父様ね・・・」
背後からズモモモモ・・・って黒いオーラが出てるような感じがするくらいに威圧感が増してるんだけども、いや、本気で・・・父上様、何やったのさ。
でもま、フォローなんてしてあげないけどね~。ふはははは。
「でしょー?ボクだって暇じゃないんですけどねー、なんかー、魔王を倒しに行ってこいとか言われちゃったんです」
バキッ!カチャン!
母上様、握力強いんですね・・・。ティーカップの取っ手がワレテマスヨ?
「あらあらあらあら・・・仕事の邪魔をしたあげく、魔王退治?勇者様すらも魔王復活を止めることに手間取っていたというのに、復活魔法が得意なだけの息子に命じたというの?」
笑顔がとっても怖いです、母上様。そのティーカップの取っ手の成れの果てのように父上様がバッキバキにされなければ良いんだけどねー。ああ見えて、優秀な王様なのは確かだしー。
「そんなに怒らないでくださいよ、母上様。勇者制度の崩壊で、新たな勇者を指名することは出来ないわけですし、選択肢は限られているのはご存知でしょう?」
そう。勇者制度の崩壊っていうのは、書類上のことでも、勇者がブチ切れて辞めちゃったことでもない。
勇者制度とはいわば現象のようなもので、勇者に指名されると、専用の魔法が使えたり、死んだら城へ転送されたり、という能力を授かるのだけど・・・。
元勇者が辞めたあと、国として何もしなかったわけじゃない。新たな勇者候補を探して、指名までこぎつけたのに、その現象が起こらず、勇者神殿の神官共々、父上様や大臣達が真っ青な顔をしていたのを覚えている。
先ほどは腹立ちまぎれに、父上様が勇者を虐めて辞めさせたから崩壊したんだってなじったけれど、実は“プレイヤー”つまり“俺“がいなくなり、“ボク“となってしまったから、勇者制度が崩壊したんじゃないか・・・って思ってる。
ま、原因はわからないけど・・・案外本気で父上様の嫌味のせいで嫌気がさしちゃったからかもしれないよね。“俺”の劣等感をやたら刺激してたみたいだし。
なんて考えてたら、ゆぅらりと母上様が立ち上がる。
「ですが、なにもあなたが行かなくても・・・こうしてはいられませんね。陛下にしっっっかりとお話を伺わなくてはね」
うおお、ヤる気満々です。安らかに眠ってくださいね~父上様。・・・とまぁ、冗談はさておき、一応、母上様をなだめておこうかな。
「まあまあ、ボクだって、いつまでも影の薄い王子でいるわけにもいきませんし、ここらで功績の一つもあげておこうと思ってましたから」
実際に、城下町に降りて尋ねても、王子の名前や容姿をバッチリ答えられる人なんかいないからね。
「あなたがそう言うならば反対はしませんけれど・・・わたくしに黙って決めたこと、陛下には反省していただかなくてはね」
おぉう・・・こりゃ、止まりそうもないや。
「あはは・・・やりすぎちゃダメですよ~?母上様」
「もちろん。何年陛下と夫婦をしていると思っているのです?あの方の弱点などまるっとお見通しなのですよ」
おお~・・・父上様は母上様に一生逆らえないかもしれないね。ま、頑張れ、父上様。