モンスターの街へ!
遺跡に入るとそこはどういう訳か大自然が広がっていた。
空も、太陽もある。良くわからない。
だけども、とりあえず進んでみることに。そして森の前へたどり着く。
すると森からイノシシに追われた赤いスライムが飛び出てきた。
仕方なく助けてあげるとスライムがモンスターの街があると言い出す。
フーカ達は、面白そうなので赤いスライムを護衛しながら街へ向かう事にした。
♦モンスターの街へ!♦改稿回数 1 ☆
私たちはスライムについて行く。
街は森の中腹にあるとのことだ。モンスターの街はどんなものなのか
今から想像が膨らむ。
「オウ!足元悪いから気をつけな!」
「ええ!心配ありがとう!でもそんなに足場は悪くないわよ?」
「ソウカ?俺は歩くたびに視界が揺れるんだがな!」
スライムは文句を言いながらも案内をしてくれる。
私の体感した限りでは、それなりに通りやすい道のはずなのだが……
おそらくスライムは体(?)しかないので
どんな道でも視界が揺れ、足元(?)がおぼつかないのだろうか……
そんなことを考えて後をついて行く。
「そうだ、いつまでも”スライム”じゃああれよね。
スライムさんは名前とかあるのかしら?」
「オオ!そうだ!俺としたことが名乗り忘れてたぜ、俺はスランって言うんだ。
かっこいいだろ?あんたの名前は?」
「私はフーカっていうの、普段は風水師を生業にしているわ」
「ホウ!風水師かそいつは珍しいな!どうだ?もうかってるのか?」
「えっ、風水師がわかるの?」
「マアナ!なんだ?ここらへんじゃ結構メジャーなんだが?
……すごい儲かってるんだろ?」
スランはそう尋ねてきた。
どうやらこの地下世界の職業には風水師がメジャーな職業として広まっているらしい。
だが、おそらく私の風水師とスランが思っている風水師は違う物だろう。
地上の職業が地下にある訳がない。
説明するのも面倒なので話を合わせておくことにする。
「……あんまり、というか普通に暮らすので精一杯よ……」
「ソ…そうか!悪いことを聞いたな!忘れてくれ!ハハ!」
そんな会話をしながら
森をしばらく進むと川の音が聞こえてくる。
「フレイ!水の音が聞こえるわ……?もしかして近くに川でも流れているのかしら?」
「ふむ、それは都合がいいな、飲み水の確保はこれできたようなものじゃないか!」
フレイは私のそう答える。
「そうね、まさかこれだけ広いと思って無かったら
水が足りなくなるんじゃないかって心配してたのよ……」
するとフレイとの会話が聞こえたらしくスランが不思議そうにこっちを見てくる。
「ム?あんた今誰と話してたんだ?フレイってだれだ?」
私はスランにフレイの事を説明するのが億劫だったので適当に話をそらすことにする。
「あ、いや!なんでもないわ!独り言よ!
……ところで水の音が聞こえるけど近くに川でもあるのかしら?」
「ヒトリゴトにしてはずいぶん大声だったが……まあ、いいか。
確かに川はあるぞ、ステラ川っていうんだ。
ここらでは一番大きい川でな、街まで続いているぞ。
水もおいしいし、涼しいから夏場にちょうどいいんだなぁこれが。
なんなら、川辺でも歩いて行こうか?その方が迷わないしな」
「ええ、その方が歩きやすそうだしお願いするわ。先から枝をよけるのがつらくて」
私たちはスランの提案で川辺を歩いていくことにする。
川は非常にきれいだ。
ひょっとすると地上よりきれいかも?
そう思いながら川辺を歩いて行く。
太陽が真上に上る頃、そのくらいの時間を歩いたが一向に街に着く気配がない。
私はまだつかないのかと思いあとどのくらいの距離かスランに聞いてみることにする。
「ねえ?街まであとどのくらいなのかしら?」
「ソウダナ、今ちょうど半分ぐらいのところまで来たぞ」
「うーん、まだ半分もあるのね」
別に急いでいるわけではないのだ。少しぐらい景色を堪能してもいいかもしれない。
そう思い私はスランに提案する。
「スランさん、別に急いでいるわけじゃないからここらで少し休憩しない?
私、小腹がすいてきちゃったんだけど」
「ム?まあ今日はいい天気だしわかった!
それじゃあちょっとそこらで座る用の手ごろな岩でも探してくるよ」
そういってスランは椅子用の岩を探しにどこかに行ってしまう。
私はその間にフレイにひとつ頼みごとをしてみることにする。
正直な所、フレイが周りに見えないことに窮屈さを感じてきたのだ。
どうにか魔法は解けないか聞いてみよう。
「ふー……フレイ、あなたが周りに見えないから話合わせるのすごい疲れるわ!
その魔法解除できないのかしら」
「魔法は解くことはできるんだが……。
複雑な魔法で掛け直すのに3年はかかるんだ。
……多少面倒と思うが頼むよ」
「ぐぬぬ……仕方無いわね……はあ……」
そんな相談をしていると遠くからスランが叫ぶ声が聞こえてくる。
「オーイ、いい場所見つけたぞー!こっちで休む事にしようぜー!」
どうやら、いい場所を見つけたらしいので呼びに来たらしい。
「わかったー今行くわー!フレイ行くわよ!」
私たちはスランのいる方へ向かう。
スランが休憩場所として見つけてくれたところは確かに良いところだった。
椅子に丁度いい手ごろな岩もあり、おあつらえ向きにテーブルのような平べったい岩盤がある。
「あら、なかなかいいじゃない!それじゃあここで休みましょ!」
私はリュックから食材を取り出す。ライ麦パンとコーンスープ缶を開ける。
保存が利く食べ物を持ってきたので少し味気ないがしょうがないのである。
「うん、まあまあね!」
「フーン、スープとパンか……味気ないな!ハハ!」
私はムッとしてスランに言い返す。
「別にいいでしょ!私はこれでも満足よ!
保存がきくものを持ってこないと旅はできないんだから!」
「スマンスマン!そこまで怒ると思ってなかった。
俺のような小さいスライムは食べなくていいもんだから、
うらやましく思っちゃったんだよ。許してくれ!」
「……ふーん、わかったわ」
スランが言ったことが本当ならばそれはちょっとさみしい事だと思う。
私は食べることが大好きだからよけいにそう思ったのだ。だから許すことにした。
だがしかし、味気ないと言われるともっとおいしい物を食べたくなってくるのが人情という物だ。
こうなったら、街に着いたら絶対においしいものを食べてやる!
私はもくもくとコーンスープとパンとおなかに詰め込み立ち上がる。
「さて、そろそろ街に向かいますか!」
「ナニ、今休んだばっかりじゃないか?もう少し休んだらどうだ?」
「ええ、そうしたいけど街でやりたいことができたの」
「フーン?まあそういうことなら少し急ぐとするか」
私たちは休息を終えまた街へ足を進める。
道中、場所が川という事もあり水を飲みに来た野生動物が出ないか
スランはひやひやしていたが特にそんなこともなく街に着くことができた。
そこで私は驚く。
[……これは、思ったよりも大きい街ね……」
街にはモンスターが地上の人間のように往来している。
建物もかなり変わっているが文化を感じられる程度にはきちんとしていたのである。
「ハーやっと着いた!ありがとよ、お嬢ちゃん!
街に着いたし案内はここまででいいよな?
俺は酒場にいるから、なんかあったら尋ねろよ!」
「こっちこそ、街まで案内してくれてありがと!スラン!」
「あ、そうだ、すっかり忘れてたわ。
一応護衛っていう話だったな。これやるよ!お礼だ!」
そういってスランは体を震わしどこからともなくお礼の品らしきものを取り出す。
「……あんたそれどこから出したの?」
なんだか触りたくなかったのだが……
スランがどうしてもというのでそれをもらう。
「これは何なの?何か少しべっとりしてる気がする……」
スランが答える。
「シツレイなやつだな。それは鐘だよ!あると何かと便利だから持っておけって!
店で買ったんだけど俺には使えなかったんだよね!ほいじゃ、ありがとなー!」
そういってスランは街の奥へ行ってしまった。
「あっちょっと!……いっちゃった」
これって道具……?”使えなかった”とか言っていたからそうなのだろう。
もう少し詳しく話してくれれば色々助かったのだが……
取り合えずアクセサリーとして腰につけておくことにする。
鐘は手から離れるとチリンと音を立てる。
「おお、似合ってるじゃないか。」
「えへへ、そう?」
お世辞とわかっていてもうれしいな。
「それじゃあ、街に着いたことだし、どうしようか?とりあえずこの街の情報がほしいわね」
「そうだな。どこか人の集まる場所を探さないか?
それとこの街の食べ物事情にも気を配った方がいいかもしれん。
なにせここは魔物の街だ。そもそも私たちが食べれる物のがあるのかすら怪しいぞ。」
私はフレイに言われて気が付く。
そう、ここは魔物の街。町に着けばすぐにおいしい物を食べようと思っていたのだが、
まず、食べれるものがあるのかが怪しいのだ。
私は、がっくりと肩を落とす。
「……あ、それもそうだけど……もしかしてお金も使えないよね。」
「ああ、ふむ……確かに。
人間同士の国ならまだしもここじゃ確かに使えないか」
今現在、手持ちにあるのは地上のお金。この町で使えるとは限らない。
というか十中八九使えない。街と聞いて来てみたがこれでは全く意味がないのである。
「どうしよう……」
どうしようか悩んでいると後ろからいきなり声をかけられる。
「おう、嬢ちゃんたち!どうした!辛気臭い顔して!ガハハハハ!」
「……だれ!?」
私は大きな笑い声に驚きつつもその笑い声のする方へ顔を向ける。
すると目の前には白っぽい銀髪の筋肉質な中年ぐらいの大男がいた。
「おおっと!驚かせてすまねぇ!俺はドラグって者なんだが!
あまりに辛気臭い顔してるからつい話しかけちまったよ!ガハハハハ!」
「え……といや…そのー……お金が無くて……」
「そういうことかい!サイフでも落としたのか?
ウーム……そうだ、そういう事情なら酒場に行ってみるといい。」
「酒場?」
「おう、そうだ。小洒落た飯どころなんだが、そこに掲示板があってだな?
そこによく仕事が掲載されてるんだよ。」
「仕事?え、私この街に来たばかりなんだけど、外から来た人でも仕事ができるの?」
「ああ、当然お嬢ちゃんでも仕事自体はできるぞ。解決さえできれば誰でもいいらしいからな。
だが、とんでもなく難しいのも入ってるからそれだけは気をつけろよ。
そうだな……簡単な物だと街はずれに行って薬草を詰んでくるってやつだな。
ほかにもこの街で困ってる事とかも載っているから解決してあげると
おこづかいとかもらえるんじゃねーか?」
「な、なるほど……」
最初はあまりの威圧感に誘拐とかそういうのかと思ってしまったが、
どうやら悪い人ではなさそうだ。
「あ、ありがとう……!とりあえず行ってみるわ!」
「おう!酒場はあっちにあるからな!じゃあな!ガハハ!」
ドラグは大声で笑いながら街の入口へ向かっていった。
「あの男、見た目によらず良い奴だったな……。
で、フーカ?とりあえず酒場にいってみるか?」
「そうね、この街の情報とかもほしいし、人の集まるところによるつもりだったから好都合だわ。」
私たちはお金を稼ぐためドラグの言う酒場の方へ向かう事にした。
しばらくドラグに言われた道を歩くとと確かに小洒落た店が見えてくる。
「さっそく中に入るわよフレイ!」
そう答えて意を決し、酒場に入る。
するとすぐにおいしそうな匂いとおしゃれな音楽が流れてきた。
「へえ……確かになかなかいい雰囲気のお店じゃない」
そう呟くと酒場に入るとマスターらしき人が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ、ただいまランチの時間です。お安くなっておりますよ。
今日のおすすめメニューは子羊のソテーとなっております」
メニューを聞く限りでは意外と普通のメニューだ。
周りの人が食べている料理を見てもまず私たちが食べても大丈夫だろうと思える。
どうやら先ほどの不安は杞憂だったようだ。これでまずは一安心。
心置きなくお金を稼げるという物である。
せっかく頑張ってお金を手に入れても食べれないなら意味がないのだ。
「掲示板とやらを見に来たんだけど?どこにあるのかしら?」
「ああ、クエストボードのことですか?それならあちらの方にあります」
「なるほど!ありがとう!」
私はマスターにお礼を言い掲示板、もといクエストボードの方へ行く。
クエストボードを見ると確かにドラグの言った通り簡単な物から曲者な仕事が
たくさん貼り付けられてあった。
文字に関してはフレイが翻訳魔法を使ってくれたので何とか読める程度になった。
「薬草の採取……5ぺリン、キノコの採取……10ペリン、
このペリンって言うのがお金の事みたいね……
でもいまいち価値がわからないわ……
とりあえずこの数字が大きい奴でも受けようかしら?」
そう思い私はこのペリンとやらが多くもらえる仕事を受けることにする。
「えーと、依頼内容は?
グレートスライムを倒して肉を採取してくる。
なに、グレートスライムって?」
すると後ろのハンターらしき人が私たちに声をかけてきた。
「ん?お嬢ちゃん、そいつを受けるのか?やめとけ、マジな話死ぬぜ?
そいつはただのスライムじゃねぇ、おそろしい回復力、スライムとは思えない体躯、
それなのに素早いと来たもんだ。
俺も何度か戦ったことがあるがなかなか手ごわい奴だぞ。」
「へーそんな強いやつなんですね……」
「ああ、それに最近めっきりあらわれなくてな。
倒そうにも倒せないというのが現状だ。
できることなら早めに探してやりたいところなんだがな。
なんでもその依頼主は娘の病気を治すためにグレートスライムの肉で薬をつくるんだとさ」
「ふーん……大変ね……その依頼主。その娘の病気早く直せるといいわね」
「へへ!そうだな……!まあその話は置いておいてだ。
このクエストは難しいぞ、初心者には絶対クリアできん!だからあきらめな!」
とハンターが言い切る。あきらめて次のやつでも探そうかな?
と思っているとフレイが答える。
「おっと?こいつはもしかして?私たちが地上で倒した奴にそっくりじゃないか?」
「えー?まさかそんな?…………こいつだ……!」
私は何度も張り紙の絵と記憶を確認するが間違いなくコイツだ。
「でもクエストの内容はお肉の納品よ?あいつ消し飛んだじゃない?」
私がそういうとフレイがしぶしぶその質問に答えた。
「フーカ……白状すると、
我々精霊はモンスターを食べて栄養を補給しなければならない時があるのだ。
それは魔力の補給をするときだ。
モンスターには魔力がたくさん含まれていて特に魔力の高いスライムが最高でな!
……だからこっそりリュックに入れておいたのだが……
気味悪がるだろうし黙っていたのだ。
だから、納品は半分だけで頼む!私も食べたいのだ!お願いだ!」
とフレイが答える。
「えっ……あれ食べるの……?
まあ、フレイが食べるなら別にいいけど……私は嫌かな……」
衝撃的な事をさらりと告白されたが、今は置いておくことにする。
なんと、フレイが私のリュックの中にスライムの肉を忍ばせていたと白状したのだ。
つまりこれは、クエストの完了ってこと……?
とりあえずマスターに報告してみることにする。
「ねえ、マスター?このクエストなんだけど?」
「おや、このクエストは、あなたには難しいと思いますが?受けるのですか?」
「というより、もう納品したいんだけどいいかしら?」
マスターは目を丸くして小さく驚く。
「なるほど、では納品物を私にお見せください。本当に本物か確かめねばなりませんからね」
私はマスターにグレートスライムの肉を半分渡す。
「ふむ!……これは!?どうやら……本物の様ですな……!」
それを聞いていたハンターも驚いて飛んでくる
「なに!?うそだろ!?……マジかよ……
た、確かにこの色、艶!完璧にグレートスライムだ!
あんた実は結構デキる奴だったのかよ!人が悪いぜ!ハハハ!」
「それでは、こちらが報酬です。お納めください。」
「ありがとう、また来るわ!」
私はマスターからお金を受け取り酒場を出た。
なんだか、うまく事が運んでお金が手に入ることができた。
ということでまずは腹ごしらえよ!腹が減ってはなんとやらよね!
うーん……この店で食べてもいいけどせっかくだから街の食べ物も
色々見てみたいし、今回は探索もかねて外で食べようかしら。
どんなおいしいものがあるか探してみたいし!
そう思いフレイへと声をかけた。
「なんだかいっぱいお金もらっちゃった!
よーし、これでおいしい物でも食べに行きましょ!フレイ!」
「ふーむ、しかしこの街に美味しい店はあるのか?」
「あ、うーん、確かに……どうしましょ?
あ、でもダメならこの店で食べればいいし。少し探索して見ない?」
「ふむ……なるほどな。では、それでいいならそうするか」
そうフレイと話し合っていると遠くの方から大男がのしのしと歩いて来た。
あの影はドラグだ。
「おう!あんたら!どうだ?なんかいい仕事見つかったか?」
「ええ……なんだかしらないけどお金が手に入ったわ」
「おお!そいつはよかった!」
ドラグはまるで自分の事のように喜んでくれた。
やっぱり見た目は怖いが悪い奴ではないみたいね。
「ところで私たち、ここらで何かおいしい物を食べようと思ってるんだけど
いいとこ知らないかしら?この街にきたばかりで全くわからないのよね……」
「ほう!なら俺の店に来い!俺は料理人なんだ!ガッハッハ!」
驚いたことに目の前のドラグは料理人だという。
これは教えてもらった恩もあるし是非いかねば!
「え、本当!?そりゃじゃあ行かせてもらうわ!」
「おう、ありがとよ!俺の店はこっちだついて来い!」
こうして私たちはドラグの店に向かったのだ。
*
カランカラン。
ドラグがドアを開けて入る。
「おう!ここが俺の店だ!まあ適当に座っとけ!」
私は料理人の男に言われるがまま適当に座る。
外見は古風な木造の家だったが、中に入るときちんとしたレストランだったのだ。
隠れ家的という奴なのだろう。
「へー外と違って中はしっかりしているのね?」
「ああ、これは娘の提案なんだ。
なんでも隠れ家的にした方が良いっていうから大工に頼んでやってもらったんだ」
「へ、娘さん!?ドラグさんあなた結婚してるの!?」
驚いたことにこのドラグ、結婚してしかも子持ちだというのだ。
「俺が結婚してちゃ悪いかい?そんなことより、早く料理を選びな!」
ドラグは笑いながら照れている。
「それもそうね……それじゃあこのスーラーまんっての頼もうかしら?」
「おお?そいつは俺の自信作でな!めちゃくちゃうまいぞ!
一日に何十個も食べたくなるぐらいにな!」
とドラグは言う。そこまで言うのだからきっとおいしいに違いない、
そう思うとわくわくが止まらなくなる。
「よしまってろ!今作ってやる!」
ドラグは私の注文を受けて料理を作る準備をする。
「ここの店の売りはな……客の目の前で調理するところなんだ!」
そういってドラグは料理する。
まず、ドラグが取り出したのは青色のぷにぷにした物体。
…………!?
「ちょ、ちょっと!?ドラグ!?
それってもしかしなくてもスライムよね!?」
「そうだが?怪しい食材は一切入ってない!
安心しろ街の奴を取って食ってるわけじゃない!ガハハッ!」
いやいやいや、そういう問題ではない!
私は止めるために立ちあがってドラグに声をかける。
「ちょっとドラグさん!それはいくらなんでもスライムは食べられないわよ!」
しかし、ドラグは料理を続行する、
「大丈夫だから座ってろ!危ないぞ?ハァッ!!!!」
ドラグは急に大声を出すと突如、背中から炎がメラメラと燃え上がったのだ。
そして直後、強烈な光を発したのである。
「なになになに!?」
光を喰らい目が霞んでしまう
時間がたちだんだん目が慣れてくると……
カウンターに料理が並んでいたのだ。
「……はぁ!?いつの間に作ったの!?」
信じられないことに目の前には揚げたてのまんじゅう(スライム)が並んでいたのである。
目がくらんでからほんの数秒で料理ができるものだろうか?
いったい何をしたんだろう?
「さあ!アツアツの内に食ってくれよ!」
「え、これ食べるの……!?」
見た目こそ悪くはないがスライムを使った料理なのだ。
最悪である。お金を手に入れたまではよかったが料理人だと聞いてやってきた店がまさか
ゲテモノ料理屋だったとは思わなかったのだ。
正直今にでも逃げ出したい気分だ。
「おお、これはうまそうだな!フーカ!食べないなら私にくれないか!?」
とフレイは嬉しそうに尻尾を振りながら言う。
正直全部食べてくれても構わない。
そう思ってフレイに譲ろうとするとさえぎるようにドラグが話しかけてきた。
「おう!あんたの分も今作ってやるからまってろよ!ガハハハ!」
私はそのドラグの言葉に違和感を覚えた。
決して食べたくないから気がついたという訳では無いけど。
今ドラグは二人といったような気がした……フレイは見えないはずなのに?
ドラグはもしかしてフレイが見えている?
「あのドラグさん?なんていいました?」
「ん?だからあんたの隣りにいる赤い奴の分をだな……?なんかおかしいか?」
「え?どういうこと……?フレイ?あなた今、魔法解いてる?」
「いや?全然?解いてはいないが……?」フレイは首を横に振る。
「ドラグさん、実はこの隣にいる子、普通の人には見えないはずなんだけど……」
「うん?何の話だ?お前らずっと最初から一緒だっただろ?」
ドラグは不思議そうな顔をしてこっちを見る。
「う、うーんどう説明したら……ドラグさん、少し話が長くなるけどいいかしら?」
そう言いかけた所でドラグに口を挟まれた。
「おっと!長くなるんだったら食べながらで頼むぜ!
せっかく作ったのにもったいないからな!この料理はアツアツがうまいんだ!」
どうやらこの男、ぜひとも私の口にスライムを入れたいらしい。
いいところで話を切ってくるわね。
そう思っているとフレイにも急かされた。
今にもよだれをこぼしそうになりながら私の肩に手を置く。
「そうだぞフーカ!そんなことどうでもいいではないか!
こんなにおいしそうなのに!早く食べて私に感想を聞かせてくれないか!?」
「ええ……食べるの……?」
二人がこちらの顔を覗いてくる。
フレイは食べたそうに、ドラグは自信満々な顔で見てくる。
私はそんなドラグの顔色をうかがう。
すごいキラキラした眼差しで食べるところを今か今かと待っているようである。
ドラグから目を離し、改めてスーラーまんを観察すると、
一切の手抜きを感じられない料理であることがわかる。かなりの自信作のようだ。
匂いもかなり香ばしく表面はこんがりきつね色に揚がっており、
私のおなかと食欲を刺激してくる。
「うーん……」
ここまでおいしそうな物が目の前にあるのに。
ゲテモノ料理と言うだけで食べないというのはもったいないのではないか?
私の頭にそういう考えがよぎる。
「フーカ!食べてみろって!これは絶対うまいぞ!」
フレイが興奮気味に言う。
そのフレイの一言で私も覚悟を決める。
「わ、わかったわよ……」
私はスーラーまんを口に運ぶ。
パリッ!グニッ!モチっ!
スーラーまんは奇妙な音をたてる。
表面は揚がっていてサクサクとしていて生地部分となるスライムは
ブニブニというよりはグニグニしている。
また中の肉餡から汁がジュワリと溢れ出し、味も味噌のような風味で
いくらでも食べられそうだった。
「これは……!おいしい!?」
「だろう!?うまいだろう!?
……だが、今の嬢ちゃんみたいに街のみんなも気味悪がって食べてくれないんだよ!」
「え、ちょっと!私みたいにってどういう事よ!」
「ガッハッハ!すまんすまん!」
この男、私が気味悪がっているのを見透かしていたのである。
そしてわざと食べるように仕向けたのだ。
普通、客にそこまでするか!?というかこの男は私を客だと思っているのだろうか!?
……そんなことを考えたが、また一口食べてみるとそんなことはどこかへ消えてしまった。
「それで?先の話の続きを聞きたいんだが?
この赤いのが普通の人に見えないってどういうことだ?」
とドラグは話を持ち出す。
「ああ……うーんと、どこから話せばいいかしら……?
ドラグさん、精霊って知ってるかしら?」
「ああ、知ってるよ。自然の化身だろ?この街にもそういう奴がいるからわかるぞ」
なるほど、この街にも精霊がいるのか。
……ああそういえば、数こそ少なかったけど、
酒場に向かった時にフレイに似た容姿の住民を見た気がする。
「それじゃあ魔法は?」
「まあ、耳にしたことはある。よく町の堅物どもがよく使っているな。
何もないところから火とか色々出す奴だろう?」
なんだかかなりおおざっぱだけど一応精霊や魔法の事も知っているみたいだ。
このまま説明しても大丈夫そうね。
「そう!それなら話が速いわ!実はフレイは精霊の王様なの!」
そうドラグに伝えた。
少しばかり沈黙し手が止まるドラグ。
だがすぐに持ち直したようで大きくおどろいた。
「なに?!王様!?」
ドラグはスーラーまんにかぶりつくフレイを見ながら目を丸くしている。
まあ、そうなるわよね。
そう思いながら私はフレイの説明を続けた。
「それで、まあ、色々訳あってフレイが倒れている所を助けたんだけど、
フレイには魔法がかかっているのよ。他人に見つからなくなる魔法がね。」
少し納得したといった表情をしたドラグはそのまま尋ねてきた。
「ふーむ、しかしなんでまたそんな変な魔法をかけているんだ?」
ドラグは不思議そうな顔をして尋ねてくる。
その質問にフレイが答える。
「……以前いた所は私の姿を見ると騒ぎになるような所だったのだ」
その言葉を聞いたドラグは察したような表情となった。
「ふむ、そういうことか、まあ難しいことは正直わからんが事情は解った。
しかし……その魔法とやらを解いたらどうだ?
先も言ったがここにはあんたのお仲間もいるんだぜ?
それに、ここは色んな種族のモンスターが住んでるからな。
驚く人はまずいないだろう。」
「だが……魔法をかけ直すのには時間がかかってだな……」
「またかけ直せばいいじゃないか。王様とあろうものがみみっちいぜ!
それにその魔法がかかったままだと、結局は他人を介してじゃないと何もできねぇ。
せっかく街に来てくれたんだ。自分自身で楽しみたいとは思わねぇのか?」
「む、ふうむ……みみっちい……か。
…………。
わかった。あとで魔法を解いておくことにしよう。」
フレイは納得してうなずいている。
「ほらよ!王様の分だ!待たせた分、大量に作ってやったぞ!」
とドラグはフレイにも大量のスーラーまんを作ってくれた。
「フレイで構わんぞ!貴様の豪快さ、気に入ったわ!アッハッハ!」
「ありがとよ!さあ、沢山食ってくれ!ガッハッハッハ!
今日は特別な日だからな!サービスしてやるぜ!」
とドラグは上機嫌だ。
ちょっと上機嫌すぎる気もするけど。なんだか気になってきたわ。
そう思ってドラグに尋ねた。
「話は変わるけどなんか嫌に上機嫌ね?
何かいいことでもあったのかしら?」
わたしはドラグに質問する。
するとドラグは意味ありげな表情で私に静かに話してくれた。
「実は……娘が病気なんだが……その特効薬に使われる材料が見つからなくてな……
体こそ元気なんだが、もうあと4年も生きられないらしい……
なんでもこれから徐々に細胞の崩壊が始まるとか医者に言われたんだ。」
「え!病気なの!?って、あと4年!?」
「ああ……だがな!俺はあきらめなかった!娘のためを思い!
モンスターを狩り!薬となる材料をようやく突き止めたんだ!
そして、ダメもとで酒場に出してた依頼がついさっき完了したって言われてよ!
やっと薬の材料が手に入ったんだ!」
「よかったじゃない!その薬で治るんでしょ?」
「ああ……本当によかったぜ!このグレートスライムの肉!
こいつでやっと娘の病気を治せるんだ!」
涙ながらに話すドラグを横目に私はふと思いだした。
「ん?グレートスライム?あれ?もしかして?……
私たちが完了した依頼ってドラグが出してたのかしら?」
「何!?そいつはどういう事だ!?
あのグレートスライムは強いランクの魔物だぞ!?
あんたらが倒したっていうのか!?」
「ええ……私たち以外に納品した人がいなければだけど?
そうだ、まだリュックに半分ほど入ってるはず」
私はリュックからグレートスライムの肉を取り出してドラグに見せる。
「これは!?まさか本当に!?ありがとう!あんたらは娘の恩人だ!
腹いっぱい食ってくれ!なんなら寝床も用意してやるぜ!」
「いいの!?じゃあ遠慮なく泊まらせてもらうわ!」
こうして私たちはドラグの家に泊ることになった。
ドラグはよく笑う。ガッハッハ!
スーラーマン食べてみたいなぁ……