ラーメンと危険な香り
ラーメンを作ったとドラグが宣伝をしたので
ラーメン試食会を開くことになったのだ。
♦ラーメンと危険な香り♦ 改稿1
「はーいっ!皆さん!しっかりならんでくださーい!」
ミラの元気な声が竹を割った時の音の様によく響く。
「ミィケちゃん!そっちお願い!グレンさんもこれ運んで頂戴!」
「おうよ!任せておけ!」
急遽ヘルプで呼んだグレンがラーメンを盆にのせて素早くテーブルへと運んでいく。
「ルシさん!スープは足りる!?」
「今追加で作ってる!任せときな!」
ドラグが号令をかけてからと言うもの。この大盛況。
もちろん最初はパラパラとしか来なかったのだが
お客が旨いと叫んだり、仲間を呼びに行ったりと
あれよあれよという間に店の前が埋まるぐらいに集まったのだ。
ミラに人員整理をお願いしてからは、さらにお客の勢いが良くなった気がする。
ミラちゃんかわいいからそういったところもあるのかな?
たまにそういう目で見る客もいるみたいだけどドラグの熱い視線で大事にはなってないみたい。
これ以上増えても供給が追い付かないけど、あきらめて帰ってもらうなんてもっての他
まだまだ頑張るわよ!
「ねーちゃん!こっちまだー?」
「お、いい胸してるねぇ!」
「おい、こっちもだ!まだまだ食い足りねぇぞ!」
お客の声がこだまするように飛び交う。
皆食べたくて仕方がないのだ。
「はいはいただいまーっ!」
………
……
…
……今セクハラみたいなのが聞こえた気がする。
全くもう!でも、気にしてはいられないわ。
「おおーい!こっちも二つー!」
「フーカ!私にも!」
運んだ先から注文の声が飛んでくる。
本当に忙しいわね!
「フレイ!こっそり注文混ぜてもだめだからね!」
「なんで聞き分けてるんだ!ぬわああー!」
………
……
…
そんなこんなでその忙しさは夜まで続くのだった。
*
「……つ、つかれた……」
そう一言呟くと同時に全身の倦怠感が満タンなった。
ドサリと地面に倒れこむようにしてから星を見るように仰ぎ見た。
少し、休もう。そう思って星へと目をやる。
そう思って夜空を眺めていると
今日の事が嘘のように思えた。
忙しすぎた反動だろうか。なんというかものすごく良い充足感に包まれて、
夢のような出来事だったと思えてしまったのだ。
そんな中、突然目の前が大きな壁に遮られた。
「おう、おつかれ!」
ドラグだ。ドラグにニカリと笑って見下ろしてくる。
「ちょっとドラグさん。いま星を見てたのに」
「ガハハ!そいつはすまねぇな!大方疲れて夢見ここちってところか?
ま、これを見れば目でも覚めるだろ!」
そういって私の目の前にパンパンになった革袋を差し出した。
こ、これは?チャリッっと音がする。
「これ全部リックだ!驚いたぜ一日で稼いだ分だとは思えねぇ!」
ドラグがにんまりと笑ったところで私も飛び起きた。
「う、うそ……!?」
「嘘じゃねぇよ!材料費を抜いても十分にプラスだ!ガーッハッハッハ!」
「お祝いだ!ガッハッハ!俺たちのラーメンを作っておいたぞ!はやく戻って食べようぜ!」
そういってドラグはミィケの家へと戻っていった。
私は体を起こす。
ラーメンを食べて元気を出そう。
最初の販売で大成功だ。これならミィケの今後も心配ないわね。
思わず顔がにやけてしまう。
それにしても、これはしばらくにぎやかな店になりそう。
そう思って立ち上がった所で思い出した。
そう、村長が置いて言った置手紙の事をすっかり忘れていたのだ。
「あ、そういえば村長が何か書置きして行った気がする」
ぼんやりとだけど、そんなことを思い出した。
急いで店の柱の方へ行くとしっかりとメモ書きが張られていた。
うん、忙しくて完全に忘れてた。
「……疲れたし明日でいっか。たぶんもう寝てるよね?」
そう思いなおしミィケの家の方へと向かっていった。
………
……
…
家に帰る途中ふわりとギーズポグの香りがしてきた。
あれほど昼夜にかけて匂いに浸っていたはずなのに
自分が食べる版となると話は別。早く食べたいような気分になってきた。
急いでミィケの家へと走り中に入る。
玄関口を開けた途端。おいしい匂いが溢れ出してきた。
思い出したのはあのルシ達と食べた一杯。
その記憶と一致するようにラーメンのイメージが意識へと入り込む。
「お腹減ったわ……」
今すぐに食べたいと言わんばかりにお腹がぐぅとなった。
私より正直者なお腹だなと我ながら感服する。
そこでミィケがやってきた。
「フーカさんおかえりなさい!もうできてますよ!早く食べましょう!」
そういわれるとミィケが手を引いていつものちゃぶ台のある場所へ連れて行かれた。
真ん中にホクネールの刻んだ小皿がある。
あれを好きな量かけて……一気に麺を啜る。
そう考えるだけでよだれが止まらなくなってしまう。
「さあ、食べようぜ!」
グレンがそう答えた。
「ええ、そのつもりです!さあ、フーカさん座ってください!」
ミラに促されラーメンの前へと座る。
そこで一人立ち尽くすルシに目が留まった。
たぶん、グレンを改めて見たからだろう。
店を回していた時もいくらか、いざこざが起きそうな場面があったし、
ただ、それを上回る忙しさで何も起きなかっただけなんだけど。
でもグレンさんも特に何もなさそうだから
早く座ってほしい
「ルシさんも早く座って座って!」
立ち尽くすルシに促し、みんなでちゃぶ台を囲んだ。
「いただきます!」
私がそういうとみんなラーメンを一口分すくい上げ、ふぅふぅと息をかけてから
一気にすすり上げる。
ルシも最初は遠慮していたが、やはりお腹が減っていたようですぐに食べ始めた。
おいしいと知っているから逆らえなかったといった方が正しい感じだったけど。
いずれにしろ、喧嘩にならずにすんでよかった。
それにしてもあの時食べた物よりも丁寧に仕上げられているからか
おいしさが格段に上がっている。
口の中に滑り込んだとたんにうまみが口の中に広がり、
全身の細胞が活性化するようなそんな感じが体中に駆け巡る。
「はふっ……ずぞぞぞっ」
また一口、すすり上げる。
やはり、まさしく悪魔の食べ物だわ。
すぐにギズポグチャーシューを一口。
「はふりっ」
とろりとした脂身が口中に広がる、
すこし口がくどくなったところで
更にスープを一口頂く。
濃い味ながらもするりと喉の奥に入っていくそれは
口の中の風味を殺すことなく和らげてくれる。
言葉では言い表せないほどの複雑な深みのある味。
それに軽く快感を覚えながらも
手を止めることなく、最後までおいしく食べきった。
あの時と違うのは最後までお腹いっぱいに食べられたこと。
それが、最高の調味料ともなっていた。
「ふぅ……おいしかったわ……」
食べきった器を前でぼんやりと幸福感に浸りながら
私は後ろへ手をついて食休み。
満足だ。本当に。やはりご飯は満たされてこそよね。
ただ、いちはやく食べてしまったので暇になってしまった。
勝手になのだが、一人だけ早く食べ終わってしまった時の気まずい感じがしてくる。
そこで、皆の様子をうかがってみることにした。
実のところ他の人がおいしくものを食べている所を観察するのが好きなのだ。
いい暇つぶしにはなるかな。
そういう事でグレンの方を見た。
あら汁の時はあれほど感激しながら食べていただけに
一番気になったからだ。
案の定グレンは一口すするごとに深い感嘆のため息をしながら
ずずりと麺をすすっている。
「これは、反則だろ……」
一体何が反則なんだろうか。
「このスープもガツンとした味付けで荒波にもまれて塩気が足りなくなった
野郎どもにもうってつけ。それに肉も入っているからパワーも出る。
今日の忙しさがわかった気がするぜ。これなら毎日食べたいぐらいだ」
そういって器を掲げてスープを飲み干した。
「だろう?俺もよく狩りの前に食ってた」
ルシがグレンに答えた。
そこでグレンが何かを許したかのようなそんな雰囲気を携えて
ルシの背中をパシリとたたく。
「これからもっと売れるだろうな。おい、ルシ頑張って色々返していけよ」
その会話を聞いてちょっと考えた。
前から何となくそうではないかと思っていたことに
気が付いたような気がした。
もしかしてルシさんが……そうなのかしら?
その仮説をもとにまた二人の話へと耳を傾ける。
ルシがハッとしながらグレンに答えた。
「おめぇ……すまねぇ」
「まだ、内緒にしといてやる。言うときは自分で言いな」
グレンがそう話を〆る。
少し間が置かれるとミィケが不思議そうにグレンへ尋ねた。
「何の話です?グレンさん?」
「……っは、お子ちゃまにはかんけねー話だわな!ギャハハハ!」
「な、なんですって―!」
地団駄を踏むミィケに対してグレンが煽るように言った。
「お、やるかい?それじゃあ今から釣り勝負でもしようじゃねぇか!」
「いいでしょう、わかりました。望む所ですっ!」
そういうとバタバタと忙しくしながら外へと飛び出していく二人。
よく体力があるわね……そう感心しながら目を戻す。
すると、今度はなにか赤い丸い物が目に留まった。
フレイだ。
そこで思わず言葉を失う。
「ううーむ。食べ過ぎて動けんぞ」
そこにはダルマの様にお腹を膨らませて横になるフレイの姿が目に入った。
「ちょ……フレイ……えぇ……」
ドラグとミラが笑う。
それにつられるようにみんなで笑った。
「やっと一息ついたわね」
そう口から言葉を一つこぼした。
*
次の日。
私たちはすぐに村長の家へと向かうことにした。
そう例のメモの件なのだが、書置きには
「ワシの家で話したいことがある。
場所はここじゃできるだけ信用のできるもの達のみで来てくれ。」
簡素にそう書かれていた。簡易な地図とともに。
信用のできる者と言われても全員信用しているので取りあえずみんなで
ミィケに案内してもらいながら村長の家へと向かう。
そこは村長の家らしからぬ普通の家。というかそこらの家よりも簡素だった。
ちょっと言い方があれだけども町で一番お金がなさそう。
ミィケの家よりもひどい。
「こ、ここが村長の……?」
思わず地図を確認するが確かにあっているらしい。
「相変わらずボロ屋だな」
ルシがそう答える。
「そうなの?元からなのね……もう少し良いところに住んでるものだと思ってた」
「まあ、普通はな。おい中に入るぞ」
グレンが答える。
「っと、まって。ルシさんは村長に合わない方がいいんじゃない?
仲が悪いんでしょ?」
「ん、まあな。犬も食わない程度には」
「だよね……だったら」
そう言いかけた時。ルシが言葉を遮るように答えた。
「だが、村長に顔を合わせて話をしたい。
俺の気が変わらないうちに。
謝りたいんだ。許されなくてもな」
そう答えた。
「……」
内心やめといたほうがいいと思ったのだけども、
そうまで言われると止める訳にもいかない。
なし崩し的に一同で家の中に入る事になった。
すると目に飛び込んできたのは座布団に座ってコックリコックリと眠りこける村長
周りを見ると灯りを取っていたのか蝋燭が小さくなって消えている。
冷え切ったお茶の入ったコップが地面に並んでいて綺麗に座布団も用意されていた。
どうも嫌な予感がする。
「……これってあれよね」
皆で顔を見合わせる。
「これ、村長……昨日からずっと待ってたな……」
気まずい雰囲気になる。
全員のため息が聞こえたような気がした。
「っち、出会い頭が最悪ってやつだなおい」
ルシが村長をゆすり起こす。
「ふにゃ……むにゃ……な、なんじゃ……?」
鼻提灯がパンっとわれると村長が目を覚ます。
「起きたか村長?」
「む、ルシか……」
寝ぼけた声で村長がそう答えた。
そこで、奇妙な間が生まれた。
数十秒ほどの時間の短い間だったが、
気まずい雰囲気が漂い始めたのだ。
「やな予感……」
思わずそう呟く。
その間に村長の眠そうな顔が急速に変わっていく。
「……ルシじゃと……?」
そう呟きが聞こえたと同時に
そうルシが答えると村長の態度が急変した。
いや人が変わったかのように俊敏になり鬼の形相で槍を手に取った。
その瞬間ルシも飛びのいて距離を取る。
「や、やっぱり!?」
目の前で眠りこけていたおじいちゃんが一瞬で
歴戦の猛者のような顔付きになったのを見て後悔した。
やっぱり合わせるべきじゃなかった!
「ルシよ。今さら何をしに来た!」
その返答に答えるようにため息を一つ吐くルシ。
「おいおい、俺のスープをあんなにうまそうに飲んでたじゃねぇか」
ルシがそう言い返すと村長が気まずい顔をして答えた。
「何っ……貴様があのスープを作ったのか……?
っく、なんてものを食べてしまったんじゃ……」
村長はそういってがっくりと視線を落とす。
まさか、ルシが作っているものだと思っていなかったらしい。
当然と言えば当然か。あの喧騒の中だ。私が名前を叫んだところで耳に入ることはないし
ルシは厨房で鍋の前にいたのだからあまり顔を見る機会もすくないものね。
そのまま続けて村長が答えた。
「ええい、あの食べ物は関係ないわい!貴様!なぜここにいる!」
どうやらそれはそれと割り切ったらしい。
すぐに最初の勢いを取り戻した。
あたまをボリボリ掻いて大きく一つため息をする。
そして、覚悟を決めたようにゆっくりと槍の前まで歩いた。
「……何も、ただ、償いに来たんだ」
槍の前につくと槍先をギュウと握った。
その手からは血がポタリと流れた。
一瞬村長の顔がピクリと歪んだように見えた。
それでも二人は目を離さないように睨みつけ続ける。
ゆっくりとドロリとした時間が流れているようだ。
まるで時が止まったかのようなそんな時間だ。
「ル、ルシさん!何してるんです!
や、やめてください!村長もいきなり何て事を!」
そうミィケが叫ぶと村長の顔がゆがむ。
「……ミィケや、ワシはお前のことを思って言っているのじゃ。
こ奴はな……正真正銘のクズ野郎なんじゃ!」
「ああ、だからこうやって謝りに来たんだ、許してくれとは言わない。」
「減らず口を叩きおって!許さんっ!」
このままでは危ない。そう思った矢先
ミィケが村長の足元へとしがみついた。
「ダメです!やめてください!いつもの村長らしくないです!」
「はなせっ……!ミィケ!」
「お願いです、村長……!」
ミィケが懇願する。
「っぐ……」
懇願するミィケに気押されたのか村長の勢いが弱まった。
そこでナイスタイミングとばかりに
ドラグとグレンが割って入り、ルシと村長を引き離す。
「お二人さん。ちょっと落ち着けよな。」
「まったくだ、物騒だぜ」
引きはがされた村長がルシをギロリと睨め付けながら
ゆっくりとグレンの腕を振りほどくと
一度槍をダンッと地面へと突き立てた。
そのまま座布団へと座り無言で槍先についた血をふき取る。
そして、冷めきったお茶を一気飲みした。
「……」
ルシが苦い顔をしながらそのまま村長の方を見続ける。
村長の方はどうやら少し、頭が冷えたらしい。
先ほどの鬼の形相は苦虫を噛んだ程度に収まっていた。
「貴様、皆に感謝する事じゃな」
村長はそう答えるとグレンの方を見る。
「……グレンやちょっとミィケを連れて遊んでてくれないか」
村長が申し訳なさそうにそう答えると
グレンが何かを察したのかしぶしぶと頭を書きながら答えた。
「あいよ」
グレンは村長の近くで座り込んでいるミィケを
小脇に抱えて外へと飛び出した。
「ちょっとグレンさん!なんで私を抱き上げるんです!」
「おめぇが動かねぇって知ってるからな!ギャハハ」
二人が飛び出ていくとあたりが急に静かになる。
次に村長が目配せをしつつ答えた。
「すまぬが、他の者も頼む。
この者とルシ以外はみんな出て行ってくれないかの」
そう答える村長にドラグのキツイ視線が向けられる、
槍を向けられたばかりだったので、警戒してくれているらしい。
そりゃそうだ私だってまだ少し怖い。
村長が優しくこたえる。
「何もせん約束する。先はワシも少々頭に血が上りすぎていた。頼む。」
そう答えて深々と頭を下げた。
その行為には先ほどの怒りや殺気は全く感じられない。
誠意をもって挨拶しているとすぐにわかった。
ドラグが頭を掻きながら答える。
「……っち、やりにくいったらねぇな。わかった。おい行くぞ皆。」
ドラグがそういうとフレイとミラがシブシブ後をついて出て行った。
去り際。ドラグに頑張れよと目で言われた気がした。
皆が去った後、村長が無言で懐からアクセサリを取り出す。
チャラリと鎖が揺れるとさざ波のような音が耳に響く。
この緊張する中、思わずその音に安らぎを感じた。
そのアクセサリを見た途端
ルシの何が起きても驚かないといったような態度が急変したのだ。
「……そ、それは」
「本当であればこのアクセサリをお嬢ちゃんに届けてもらう手筈だったんじゃが、
まさか本人から来るとはの。……これはおぬしが持つべきものじゃ」
「俺が持つべきもの……?そんなわけが無い。俺は……」
そう呟くように答えるルシをよそに、村長が吐き捨てるように答えた。
「ふん、こんなものが村にあるから村が襲われるんじゃ。
とっとと持って行ってくれ」
そう村長が答えると勢いよくルシにアクセサリを投げ渡す。
「さざ波のペンダントじゃ。懐かしかろう」
ルシの顔がゆがむ。
「……ああ。次期村長と一国の姫の結婚のあかしだ」
「ミィケと一緒において行きおって。
おかげでこっちは大変な目にあってるんじゃぞ」
「ああ、すまねぇ」
「口だけじゃなんとでもいえる。
ミィケを捨てたことは許さんぞ」
村長は口をへの字に曲げる。
村長が座れと言わんばかりに睨みつけるが、ルシは座らない。
一呼吸おいてルシが答えた。
「だがこれは俺が持っていくべきではない。
俺がこれを持っていけば奴と取引するチャンスがなくなるぞ。
もし襲われたら次こそこの村はなくなる」
そういって村長へとアクセサリを投げ返す。
パシリと受け取りながら村長が鼻で笑った。
「お前、ぬるいな。やはり若造か。奴が取引をするような輩に見えるか?
この町を全て残らず更地にしようとした奴が、取引に応じると思うか?」
「……そ、それは」
「いずれにしろ、ここにあると余計にまずいのじゃ。
摩擦で断交したとはいえリューグに迷惑をかける訳にもいかぬ。
それに奴の手に渡れば奴が王になる。王になれば兵を整えて地上を支配しようともせんじゃろう」
沈黙した時間が流れる。
「もう、この村が襲われるのは逃れられぬ運命なのじゃ。
だから今すぐ持って行ってワシの前から消えてくれ」
村長が立ち上がり、近くに来てぐいぐいと私の右手にアクセサリをねじ込んだ。
そのまま家から追い出すように背中を強く押してくる。
「ちょ、ちょっと!」
そのまま逆らう間もなく私たちは家から押し出され
ドアにカギを掛けられてしまった。
「まーた、余計なものを押し付けられたわ……」
思わずそう口からこぼす。
そう思ったのもつかの間すぐにルシがアクセサリを取り上げた。
「そういうなら、俺にくれよ」
ルシは首にペンダントを下げる。
強引に取られたので少しむっとしたが、ルシのつけている姿を見ると
思っていたよりもずっと似合っていたので不満はどこかへと消えた。
「……ふうん。似合ってるじゃない?」
「今言う話か?」
「……やっぱりルシさんってミィケちゃんのお父さんだったんだね
グレンさんがいろいろ知ってるのは仲人だったから?」
「……かんけーねーだろ。……ああ、そうだよ。
だから、まだ言ってくれるな。俺からミィケに伝えるんだ」
「もちろん。秘密にしておくわ」
そう約束する。いつかはルシとフィンネル。
いつかみんなで暮らせるといいわね。
心からそう思った。
「さて、みんなの所に戻ろうぜ」
「ええ、そうね」
そう答える。
だがそこで、急に後ろの方から嫌な視線を感じた気がした。
不安になってすぐに辺りを見渡してみる。
「あれ……?」
「ん?どうした。みんなの所に戻らないのか?」
ルシが不思議そうに尋ねてきた。
「いえ、誰かから見られているような気がしたんだけど」
「ん?……特に何もいないが……。
もしかしてお前の仲間がどこからか覗いてるんじゃないのか?」
「ふーん……?そうかしら?」
そんなことはないと思いたいんだけど。
でもまあ、ありえない話ではない。ドラグさんあたりが心配して
監視してくれていたのかも。そう考えた。
でも、そんな感じの視線じゃない気がしたんだけど。
そうね……あとで聞いてみましょうか。
ちょっとだけ冗談めかしながら聞いて話のタネにでもしよう。
………
……
…
「まあ、いいわ。行きましょルシさん」
ルシの方へ振り向き直す。
その瞬間。嫌な予感が強くなった。
すぐに逃げなければいけないという嫌な感覚。
その直後、後ろの方からどさりと音がした。
「……っ!?」
ドキリとして体が一瞬固まってしまった。
すぐに後ろを振り向こうとするが、その瞬間に私の頭蓋に大きな衝撃が走った。
「ガハッ!?」
「な、なんだ!?グアッ!?」
ルシの叫び声が聞こえた。
気のせいじゃなかった。
まずい!どうしようっ!
大きく脳を揺らされてその場に倒れこむ。
何が起きたかわからないまま意識が混濁する。
目の前に見えるのは同じく倒れこむルシの姿と、周りを取り囲む謎の影。
はっきりわからないが獣のようなにおい。見た目もふさふさしている奴らに
囲まれているの事がわかった。
「だ、だれよ……このっ……」
対抗しようと思ったのだが、思ったより大きいダメージが入ったらしい。
そのまま意識が遠のいていく。
遠くからミラやドラグの声が聞こえる気がする。
助けに来てくれたのかな。
そう思ったところで視界が暗くなった。
………
……
…
「目が覚めたか?」
「こ、ここは?」
ミィケの家だ。あれ?私、夢でもみてた?
そう思ったがズキリと後頭部が痛む。
どうやら夢じゃないみたい。
そうだ思い出した。もさもさの群れに殴られたんだっけ。
「お前、コボルトに囲まれてたんだ。大丈夫か?」
グレンが心配してくれた。
コボルト。なるほど。聞いたことがある。
犬の妖精だったかしら?
でもなんでそんな輩がこんなところに。
「なんで襲われたのかしら……?」
そう答えるとグレンが答えてくれた。
「どうやら誰かから金をもらって動いたらしい」
グレンが指をコボルトに指を指してそう答えた。
「金をもらってって……誰かに雇われてたって事?」
「ああ、尋問したらすぐに吐いたわ」
グレンが得意げにそう答えた。
「じ、尋問?」
ちらりとコボルトを見る。
どんな恐ろしい事をされたのかと持ってみてみれば意外と無傷。
「な、何したの?」
「手足をふんじばって目の前にギーズポグの肉を置いてやるのよ」
「あ、ああ……」
なるほど、滅茶苦茶効きそう。犬の妖精だし。
「でだ、こいつらが言うにはなんでもさざ波のペンダント
ってのを手に入れれて来いって言われたらしい。何か心当たりはあるか?」
そこでハッとした。こいつらの雇い主ってもしかして……
「ペンダント……!!そうよ!ルシさんは!?」
「……残念だがルシは連れていかれたよ。
どうやらお前さんには興味がなかったらしい。
ルシだけ担いで一目散に逃げやがった」
ドラグがそう答えた。
その報告を聞いて私は真っ青になった。
「まずい、ゲイルにさざ波のペンダントが……わたっちゃったわ……!」
「な、なんですかそれ?」
ミラが尋ねてくる。
「奴が欲しがっていたお宝……と言えば伝わるかしら。
リューグって国がどこかにあるんだけど、
その国とつなげるためのお宝らしいの。
あいつ自身が言ってたけど確かあの時。
そう……リューグの支配者になるって言ってたはずよ」
皆の顔が青くなる。
「っち、困ったな……放っておけば今度は奴だけではなく
国を挙げて攻撃してくるはずだ。戦争が起こるぞ。」
フレイが冷静にそう答えた。
「それもそうですが、ルシさんの命も危険かもしれません。
奴の狙いはペンダントなのですから。このままだとどうなるかわかりませんよ!?」
ミラが言う。
「そ、そんな……すぐに助けに行きましょう!」
ミィケが立ち上がって言った。
「だ、だが……その場所がわからないんじゃどうにもならないじゃねぇか」
ドラグが言う。
昨日とは打って変わり意気消沈の空気となった。
そんな中ミラが何かを思い出したかのような声を上げる。
「そうです!ミィケさんのペンダント!
あれでフィンネルさんと連絡を取ってみましょうよ!」
そうだ!確かにその手があったわ!
フィンネルはよくこのあたりに遊びに来ているというし、今ならまだチャンスはあるかも。
そうと決まれば急いで連絡だ。
「ミィケちゃん連絡入れて!走るわよ!」
「はい!」
ミィケの返事を聞いてすぐに家を飛び出す。
私たちはフィンネルに連絡を入れながら、入江の方へと走りだした。
2話に分けようかと思ったけどやっちゃった。
最近お話がうまく書けているか心配になってきたので
出来れば感想を書いていただけると本当に助かります。
私一人では面白いのかがわからないのです。
あのキャラが出てこなくなったのは残念だ。
等、些細なことでもよいので一言頂けると生き返ります。




