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フレイを助けろ

水の槍を使ってフーカは何か思いついたよう。

果たしてフレイは無事なのか?干からびてない?


♦フレイを助けろ♦


村に帰ってさっそく母さんと合流する。

水の槍を母に見せると目の色が変わった。


「あ、あんた……なんてもの見つけてるのよ……」

なるほど……フレイじゃなくてもわかるとんでもない代物らしい。


「こ、これ……精霊界のアーティファクト。深海の三又槍

これはね、エレメント溜まりを開放するための槍。

エレメントってたまに局所的にエレメントが偏ってしまうことがあるの。要は詰まるって話ね

で、この槍を使ってエレメント溜まりを元に戻してあげるってわけ。」

そう、母はどや顔で答える。


「なるほど……それで切れた空間から水がでるのか……」

思わずそう呟いて納得する。

だが、今の本題はそこではない。その空間を割く能力が問題なのだ。

危やくそのまま納得しかけた頭をぶんぶんと横に振り、母さんへ尋ねる。


「……でさ、この空間を切る能力でなんとかフレイを助けられないかしら?

私考えたんだけど、空間を切るってことは異次元にもつなげられそうじゃない?

母さんの魔法と一緒に組み合わせてなんとかできないかしら?」


そう答えると、母はにやりと笑う。

「あんた、天才!?さすが私の娘ね!

確かに空間に切れ目を入れるという能力を使って直接フレイちゃんのいる空間へつなげることはできるわ!」


「本当!?」

やった!狙った通りだわ!これで霊界に行かなくても済むし

フレイを助け出すことができそう!


「そうと解ったらこうしちゃいられないわ。さっそく向かいましょう!」


「わかった!場所はこっちよ!例のフレイちゃんが閉じ込められた所!ついてきて!」

そういって母は私たちを先導する。

私たちはそのあとをついて行き皆フレイの眠る場所へと急いだ。


………

……


「ついたわ……ここよ」


あの爆発が起きた中心地だ、何もかもバリアで守られた場所以外はすべてまる焼け。

もう少しで自分がこうなるところだったという事を認識すると

ヒヤリとしたものが背中を走った。


「ここ、やけに空間の斥力が高くなってる。ここね」

そういって母は私を手招きする。


「さて、フーカ。さっさと助け出しましょう。水の槍、出して頂戴。」


「言われなくても!」

ミラから水の槍を預かり、構える。


構えて、母へ合図を送ると

魔法陣が展開された。


「今から行うのはエンチャントの儀式。その槍に異空のエンチャントを授けましょう。

古から伝わる名もなき精霊たちよ。今一度、我に力を貸したもう!」

その呪文と共にギンッ!っと音が鳴り響く。


その瞬間、深海の三又槍が黄金のオーラをまとった。

「今よ!振って!」


「ええい!」

言われるがまま全力で槍を振るう。

するとシュルリと空間が避けて

ボトッっと鈍い音がした。


黄金のオーラが晴れると同時に

何かが空間から落ちてきた。


赤いドラゴンのような体。

そこには、すごくしなびた彼の姿があった。


「……!!ふ、フレイっ!」

フ、フレイだ!思わず涙が出そうになる。

しかし、すぐに不安な気持ちで押しつぶされそうになった。


「しっかりして!フレイ!」

必死に声をかける。何せほぼ一週間何も飲まず食わずなのだ。

嫌な予感が脳裏に張り付くが必死にその考えを振り払い声をかける。


「んっぐっ……」

フレイが苦しそうに顔をしかめる。

よかったまだ生きてる!


「フレイ!」

抱き上げてそう叫びかけると、

フレイは小さな手で私の頬を触った。


「み、水をくれ……頼む……」

かすれた声でフレイが言う。


「ま、まってて!」

フレイを優しく寝かせて

いそいで、リュックから取り出してフレイの口へと近づける。

少しづつ、口の淵から流し込んで様子を見る。


「んぐっ……んぐっ……ゲホッ……!」

少しせき込むとフレイが答えた。


「た、助かったよ……あと少しで精霊の干物になるところだった……」


やめて、下手な冗談は……今は胸に刺さる。

「……何言ってるのよっ……馬鹿っ!」

そういいつつ抱き上げて、抱きしめる。


生きている。

フレイは生きている。嘘じゃない。

そう実感すると急に慌てていたはずの心が

うれしいのか悲しいのかほっとしたのか。

色々な感情が混ざり合った。


「泣くな……私は生きているぞ」

フレイはそういうと安心したのか瞼を閉じた。


ルシが言った。

「おい、急いで帰ろう。こいつに何か食わせてやらねぇとまずいぞ」


「そうね。急いでミィケちゃんの家に運ばないと」

体を預けてくるフレイをしっかり抱きかかえて

私たちはミィケの家へと向かった。



*



ミィケの家につき、フレイを布団に寝かせてさっそく起こす。

早く何か食べてもらいたいけど、今は断食の後みたいなものだ。

何かゆったりしたものを食べさせないと。


「フレイ、起きて。とりあえずこれを食べて力をつけて」

そういって私は非常食の豆の水煮の缶詰を開けて手渡す。


弱弱しくも、すぐさま手に取り、豆の水煮をぱくぱくと食べ始めるフレイ。

最初こそはゆっくりと食べていたが、食べ進めていくうちにどんどんスピードが上がっていき

あっという間に一缶食べきってしまった。


その様子を見て、先ほどの感傷はどこへやら。

あっけにとられて目を見張る。そして逆に心配になってきた。

食べっぷりが良すぎる。胃がびっくりして戻したりしないのだろうか。

「フレイ、ちょっとゆっくり食べなさいよ。断食上がりみたいなものでしょ。

胃がびっくりしちゃうわよ」


「むぐむぐむぐ……」

声を漏らしながら一心不乱に食べるフレイ。

ニュッと手を差し出された。おかわりの意味らしい。


「……はい、もう一缶」

ゆっくり食べてほしいのだけど。お腹すいてるだろうし……

そう思うと自然と食べ物を手渡してしまうのだった。


「はぐはぐはぐ……」

息継ぎをしながら一気に食べ進めるフレイ。


手渡した一缶が半分ほど瞬く間に消えてしまう。

さすがにちょっと止めよう。体に悪すぎる。そう思った矢先だ。

フレイからは驚きの言葉が返ってきた。

「……すまないがもっとがっつりしたものが食べたい」


口を拭いながらそう答えるフレイ。

何を言ってるんだ。がっつりした物って食べでもしたら

お腹壊すのは目に見える。この勢いで食べてるのも注意したいぐらいなのに。


「だ、だめよ!お腹壊しちゃうわよ!」

そうフレイに答える。


だが、フレイは懇願するような形で答えてきた。

「水を飲んだら、だいぶ楽になった……だから頼む」

フレイは残りの煮豆も口に詰めながらそう言った。


「でも……」


「精霊はお腹が強い。本当だ!信じてくれ!」


私はそんなフレイを見てふと思い出した。出会った時のことだ。

少し懐かしい気持ちに駆られてしまった。

しょうがないという気持ちになってしまったのでフレイのお願いを聞いてあげよう。

「ふふっ……わかった。でももし、お腹壊してもしらないからね」


「かまわん!頼む!」

にこやかにそういうフレイ。

そんな彼を見ると安心した。


よし、そうと決まればたらふく食べさせてあげるわよ……!

気合を入れて立ち上がる。

「わかったわ!でもちょっと待ってて!すぐにおいしい料理を食べさせてあげる!」


せっかくならおいしい新作料理を食べさせてあげよう。

ギーズポグのラーメン……。

ちょっと時間がかかるけど、あれを食べてもらいたい。


そう思うと体に活力がみなぎった。

「ルシさん!今ギーズポグの位置は?」


そうルシに答えると

ルシがすべてを察したようにニヤリとわらう。

そして花の向く方角を指をさした。

「ふん……なるほどな!いいぜ、手伝ってやるよ。

……あっちの方にいるようだ。」


今度こそギーズポグをやっつけてラーメンにして見せる!

そう意気込んだ所、不思議なことに気が付いた。

あの時、ギーズポグを追いかけていた方向とは全く違う方向を指していたのだ。


尋ねようとしたところ、ルシがその話を補うように説明してくれた。

「あいつら、一度襲われたら森全体を移動して回るんだ。そしてその日のうちに元の場所へ戻る。

すると匂いが森中に残る。すると奴らの群れがどこにいるのかが分からなくなるからな。

今その流れで、近くまで来てるんだろう。今がチャンスだ」


「なるほど……それならなおさら今しかないわ!

ミラちゃん!ルシさん!ミィケちゃん!ついてきて!

ギーズポグを倒したいの!お願い!」


「言われなくてもそうしますよ!早速狩りに行きましょう!」

ミラがすっくと立ちあがる。


「はい!ルシさん案内お願いします!」

ミィケがルシにお願いしながら立ち上がる。


「……まかせておけ!いくぞ!」

そういって立ち上がったルシは一目散に花の向く方向へと走り出した。

私たちも一緒について行った。


………

……


ギーズポグと接触した森へ着くと

本当にこちらに来ていたようで丁度走り去ろうとしている

ギーズポグの群れを見つけることができた。


群れがこちらに気が付いたのか少しづつ距離を取るように体を森の方へ向け始める。

このまま逃がすわけない。まずは動揺させる!


エレメントを片手に取り出してスペルを叫ぶ。

狩りの始まりだ!

「いくわよ!エレメントスロー!」


エレメントが群れの中心地をめがけて勢いよく飛んでいき火が起きる。

ギーズポグ達には火は効かないが驚かせるには十分だったみたいだ。

撹乱は大成功。


「ブゴッ!ブゴブゴッ!」

ギーズポグの群れが慌てふためき、

群れの一部が散り散りに逃げる。

そのうちの一匹が逃げ遅れたのか慌てふためいて

オロオロしていたのでそいつに狙いを定めた。

体が一番小さくて遅いやつだ。


本当はもう少し大きい個体を選びたいだけど贅沢は言ってられない。


狙いを定めた一匹に

エレメントスローでけん制。

目の前に落とすように投げつけ少しづつ逃げ場をなくしていく。


その間にみんながうまく立ち回ってくれたようで

狙いを定めた一匹を囲むように陣取ることができた。

「良し……まずは囲めたな。あとは奴の鼻を3回たたく!」

ルシはそういうと飛び出した。


ギーズポグが頭をルシに向けて突き上げるような体勢を取るが、

手慣れたようにその突き上げ攻撃を横へかわし、奴の鼻へパンチを一発入れた。


「ブブギィ!」

悲鳴とともに

ギーズポグが苦しそうにもがく。


すると、瞬く間にギーズポグの体表が赤くなっていった。

怒りで血が集まっているのかとも思ったけどちょっと違う。

どうやら怒ると体毛の色が変わるみたい。


そこでミラが飛び出してギーズポグを押さえつけた。

ぶんぶんと頭を振るうギーズポグに振り回されそうになりながら

ミラがなんとか押さえつける。

「今です!あと2発!」


「……うん!」

精霊のハンドベルをならし、火のハンマーを取り出す。

そして勢いよくスイングして一発。

爆炎とともに、ギーズポグの鼻へと直撃した。


「ブ、ブッギィ……」


「あと一発……!」

そう思ったの次の瞬間。ギーズポグが地面へドサリと倒れる。


「え、どうして……?」

すぐにそんな考えが頭をよぎる。

そして納得した。火のハンマーは打撃と爆風で二回攻撃になっているのか。

ある意味、こいつの特攻武器ってことか。

……まあ、なんにせよやったわ!


ちょっとだけあっけなく倒せたことに驚いたが

早く倒せるならそれに越したことはない。そう思うことにして

心のもやもやを拭い去る。


「お、おお!やったじゃねぇか!

よし、待ってろ!今下処理してやる!」

テンションが上がりまくっているルシが腰袋から

長めのロープとナイフを取り出す。


ロープで足をしっかり縛り、暴れないように固定してから

長いナイフで心臓を貫いた。


その後、手早く皮をはぎ取る。

こうなると皮は日光に当たっても燃えないようになるらしい。


もういらなくなったが当初の目的である脂を少し頂いて

下準備の再スタート。


ルシが手慣れた手つきで内臓やら何やらを処理して

あっという間にギーズポグが見慣れたお肉の姿へ変わる。


その、艶やかで脂ののった、お肉にハーブを数種類塗り込む。

あとは日向にギーズポグを移動させればいいとのことだ。

皆で手伝って気絶しているギーズポグを移動させる。

そして、地面に大きな葉っぱを敷いてそこにお肉を並べた。


時を置いて1時間。あたりにはハーブの香りと

お肉の香ばしい脂ののった香りが漂い、食欲を刺激する。

余分な脂もじゅわりと染み出していてそれが肉の表面を彩り、

煌びやかに飾り立てる。


ルシが鼻をひくひくさせて呟いた。

「できたな……」

そういうと綺麗な布を取り出して丁寧にお肉をくるんで担いだ。


「今から煮るとなるとどのぐらいかかるんでしょうか」

ミラが料理人らしいことを気にしてルシに尋ねる。


「ざっと3時間か……そこらだな。この肉は身もやわらかいからすぐに出汁が出る。」


「なるほど……意外と手早いですね」

納得したかのようにミラが頷く。

同時に何かを思いついたらしい。ポンと手を叩いて

独り言のように納得した。

「そうだ!パパから圧力鍋を借りたらもっと時短できるかもしれないですね!」


「圧力……?なんだそりゃ?」

ルシが不思議そうに頭をかしげる。


「お肉に圧力をかけてもっとお肉を柔らかく煮込む調理器具です!

たぶん、それで作れば1時間もかからず煮込めるかと!」


「ほう……そいつはいいな。あの病人に早く食べさせたい奴が居るみたいだし。

今回はそれでさくっと作っちまうか」

ルシも納得する。


「それじゃあ、すぐに戻って料理開始ね!」

そう意気込んで家へと戻った。


………

……


ミィケの家に戻るとフレイがふよふよと近づいてきた。

「フ、フーカ!なんだかものすごくいい匂いがするぞ!」


なるほど、どうやらギーズポグのお肉を嗅ぎつけたらしい。

確かにこの匂いは強烈でとてもおなかがすく匂いだものね。


「ごめん、もうちょっと待って」

そうフレイに答えるが、やっぱり待てないようで少しだけ切り分けて

フレイにお肉を渡した。


「……!!これは……しっかりとしていながらホロホロと崩れる繊維質のお肉から、

噛めば噛むほど脂がトロリとあふれてきて……口の中で溶けて混ざり合って病み付きになりそうだ」

頬を持ち上げるようにして顔に手を当てるフレイを見て、

今からラーメンを食べさせたときの光景が目に浮かぶ。


「これ以上はダメよ。今からもっとおいしくするんだから」


「これ以上に……だと……!?いかん、それはいかんぞフーカ!」

そういうフレイの尻尾がぶんぶんと振り回される。


「楽しみにしててよね!」

そう伝えて、皆でキッチンの方へと向かう。


するとそこには腕を組んで頭を捻る大男が居た。

「おう、帰ってきたか。悪いが少し台所を借りてるぞ」


「あれ……?ドラグさん!」

なぜかドラグが居た。手元にあるのはスライム麺。


「お前らがくるの、ちょっと遅かったから新しい使い道を考えてたんだよ」

そういうドラグが目を泳がす。

いろいろ試行錯誤した形跡が見られたのだが、なんというか全部失敗に終わったみたい。


お疲れ様。そう一言かけて

私は圧力鍋が無いかドラグに尋ねる。

ちょっと今急いでるから、対応が雑なのはごめんと言いたいところ。


「圧力鍋……?うーむ、まあ、あるにはあるが?ほれっ」

そういってドラグはどこからか圧力鍋を持ってきた。

何であるのよ……借りようと思ってたんだけども。

そう心の中で突っ込むのだが、はたと気が付いた。

というかよく見れば台所がほぼドラグカスタムとなっていることに。


「な、なんだか、ずいぶん台所が様変わりしたような……」

そう呟くとドラグの目が泳いだ。


「……ちょーっと使いづらかったから改造しただけだ!ガッハッハ!」

そう笑ってごまかす。

そうだったわ。

この人、大工も行けたんだ。

リフォームぐらいちょちょいのチョイだわ。


苦笑いを浮かべつつ。圧力鍋を受け取り

早速スープ作りへ。


「ルシさん。監修お願いね。」

そう、ルシへ伝えるとまんざらでもなさそうに

ルシが答えた。


「まだ、作るとは言ってねぇんだがな。」

そう、ゲイルの奴が乱入したせいで話が流れていたのだ。

でも、気にしない。


「あら?そうだったかしら」

そうとぼけてルシの言うとおりに

お肉と骨を分離してから鍋へと投入。


「よし、後は水を入れて煮だたせればいいのかしら?」


「いや、まだだ。香草を忘れちゃいけないぜ。」

そういってルシが

ざっくり切った匂いが良いキノコや

台所にあった長ネギのような植物。

ドラグが持ってきたケーパを突っ込んでいく。


「さて、後は煮だして灰汁をとるんだ」

火力を調整しながらぐつぐつと煮込んでいく。


煮だってくると言われた通り灰汁が出て来たので

ちょっとずつ丁寧に取り払い、お湯が沸騰したころに蓋をしめて

鍋に圧力をかけた。


後は一時間待つだけ、その間に

せっかくなのでドラグの創作料理を見せてもらおうかな。

失敗してるようだけどね。


「ドラグさん。ところで創作料理、失敗みたいだけど

どういうの作ったの?」


「む、うむ……ラーメンという料理から発想を得て

麺に餡をかけてみたんだが、どうもおいしくないんだ」

そういってドラグが黄金色の餡をかけたスライム麺の皿を手渡してくる。


こ、これは……なるほどね。

でもまずは確かめないと。

フォークでひと巻して麺を口へと運ぶ。


「……ふーん。しょっぱい味付けなのね。」

間違いない。これ、麺を揚げればあんかけ焼きそばになる。

そう確信して麺を飲み込んだ。


「……ふーんってなんだ?ずいぶん思わせぶりだな。」

ドラグが心配そうにこっちを見ている。


「いや、良くここまでできるなって思ってね。ドラグさん。

これ、麺を揚げると最高においしいわよ!今度やってみてよ!」


「何、揚げる……?……!!なるほどな!ありがとうよ!」

どうやらドラグもピンと来たらしい。

やった。これでまた海の家で出せるレシピが増えたわね。


その後もドラグの新作を食べたりして話し合い、気が付けば

一時間なんてすぐに過ぎてしまった。


ルシに肩をたたかれて、スープができたことを知らされる。

いけない、ついつい話に夢中になってしまった。

圧力鍋の圧を開放して、スープを漉す作業に入る。


ざるを用意して少しづつスープと具を分けていく。

すると、あの時食べたルシのスープと同じような

白く濁った濃いこってりとしたスープが出来上がった。


「ドラグさん!これに麺をお願い!」


「ガハハ!合点!」

そういってドラグが発光。一瞬で麺が茹で上がり

器へと並べられている。


これにはルシもミィケも目を丸くした。

そんな二人を尻目に、出来上がったスープを

器に注いでいく。ギーズポグの切り身を数枚並べて

刻みケーパをこれでもかと投入。

ホクネールで辛みとニンニクの香りを足して……完成だ。


すぐにフレイのところへ持っていく。

早く、食べてもらいたい。


「フレイ!できたわよ!」

フォークと一緒に

フレイの前へとゆっくりおいた。


「こ、これは……?な、なんていい香りなんだ……!

もう我慢できん!」

目の前に置かれた瞬間すかさずフォークを握るフレイ。

相当熱いはずだけど、勢いよくずるずると食べ始める。


「こ、この麺……もちもちして独特の触感……

この濃すぎるとも思えるスープと良く合う……

スープもコッテリとしていながらした全体に広がるトロリとした

脂の甘味とうま味。体に染み渡るようだ……!

それに、この刻んであるケーパのザクザク感。

コッテリしているスープを飽きさせない!!

この辛い調味料の辛みと香りもラーメン全体を引き立てている。

旨い……!うますぎるっ!!」


一時も絶えることなくズゾゾと麺をすする音が響き、

ごくごくとアツアツのスープを一滴残らず飲み干した。


「もう一杯だ!もう一杯くれ!」

そういうフレイ。


しかし、そこでドラグが口をはさんだ。

「ふむ……食べさせてやりたいところだが……

いいことを思いついた、少し待ってくれないか」

ドラグはそういうとふらりと家を出ていった。


「……?パパ、一体どうしたんでしょう?」

ミラが不思議そうに首をかしげる。


「まあドラグさんが待ってろって言ったんだし待ってましょう。

フレイもいいわよね」


「う、うむ……まあ、仕方があるまい」

フレイも少し不満げだが了承する。


そこで、何やら少しだけ空気の抜けた風船のような気分になった。

緊張の糸がほぐれたというかそんな感じ。


そんな中、フレイが私に尋ねてきた。

「……ところで、フーカ」


「ん?なあに?」


「私が閉じ込められている間に何かあったか。教えてくれないか」


空気が凍り付く。ラーメンで温まった雰囲気が一瞬で冷めきった。

まだこの雰囲気を楽しんでいたかった。

そう心から思ったのだが、フレイの真剣な顔を見て悟る。

彼も同じ気持ちだということに。

目を背けられないから。今のタイミングでしか聞くことができないから。

そんな複雑な感情を読み取った気がした。


「わかったわ。」

一つため息をして、私はフレイに事の顛末を話すことにした。

フレイが謎のドロドロに飲み込まれていったこと。

あの後あたりが焦土になったこと。全てをフレイにつたえる。


「……やってしまったか」

フレイが顔をゆがめる。


「この件は我の力不足だ。フーカは気に病む必要はない」

そうフレイは言うが、アイデアも実行に移したのも私。


「それは違うわ……私とフレイよ。」

そう答える。


それ以上フレイは何も言わなかったが、

わかったよと言わん顔をしてこちらを見た。


………

……


そんな息も詰まる雰囲気にのまれた中。

突如クリスタルで拡散された声が村に響いた。

ドラグの声だ。


「あー村のみんな。聞こえるか。今、海の家ミィケで新しい新作料理が出るんだが、

食べたい奴はいないか?今から試食会を開くぜ。どんな料理だろうと思って悩んでいる暇があったら

来た方がいいぞ!これが滅茶苦茶旨いんだ。いいか、もう一度言うぞ。滅茶苦茶だ。

毎日食べたいと思うぐらいに旨い!そんな新作を食べたい奴はいないか?

今から100食限定で選考試食会を開く。食べたい奴は急いで集まってくれ!」

と、村に声が響く。


「こ、これは宣伝?」

唐突な宣伝文句に面をくらう。

ちょっと宣伝が雑だけど伝えることはきちんと伝えられているドラグさんらしい宣伝。


するとミラが察したかのように立ち上がる。

「……!なるほど!これは忙しくなりそうです!」

さっきまでのしんみりしていた雰囲気はどこへやら。走って台所へ向かっていった。


「えっ……ミラちゃん……?ど、どういう……あっ!!」

最初は混乱していたが、そこで私もすべてを察した。

つまるところ、これは海の家ミィケを巻き返す最大のチャンス。


「はぁ……ありがたいんだけど……ちょっとぐらい休ませてよ……」

ため息を吐いて苦笑しながら立ち上がる。


ひと段落にはまだ早い。

フレイも助けた。後はミィケの店の立て直しだ。

そう思うと、体は疲れているはずなのに不思議と体が動く。


「ミィケちゃん。いえ、皆!あとちょっと頑張るわよ!」

そう掛け声を掛けて急いでギズポグラーメン試食会の準備を始めるのだった。


少しだけお休みする感じですが、次回事件が起きます。

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