ダンジョン一層目:草原地帯
デカいスライムに追い掛け回されてなんだか幸先不安な感じ。
でも、なぜかフーカは心の中に楽しいという感情が芽生えていた。
退屈していた日常から抜け出せたのか?よくわからないが
とりあえず、明日は遺跡に入る。そう心に決めて瞳を閉じた。
♦ダンジョン一層目:草原地帯♦ 改稿回数 1 ☆
「フーカさん!起きるっすよ!
朝っすよ、朝!うーんいい気持ちっすねー!」
秋葉の声が聞こえて来た。朝からうるさいわね。
そう思いながら目をこする。
「う、うーん……もう朝……?」
昨日は、遺跡に突入するという高揚感とスライムに
襲われた不安でなかなか寝つけなかっただけに。
まだまだかなり眠い。もう少し寝かせてよ。
そう思っていたのだが、秋葉の言葉にカチンときた。
「だらしないっすねぇ……早く起きるっすよ!」
秋葉、あんたは気絶していてそれはそれはいい気持ちで眠れただろう。
あ、イライラとあきれからだんだんと目が覚めてきた。
仕方がない。起きるか。
そう思い私は少し頭がくらくらになりながらなんとか起きた。
「……あんたの能天気さ、かなりうらやましいわ……」
「うん?なんかいったっすか?おいっちにー!さんしー!」
「……」
皮肉の一つでも言ったつもりだったのだけど、もういいや。顔洗って目を覚まそう。
私はあくびをした後、家から飲料水と別に持ってきた水で顔を洗う。
「ふぅ……なんとか目が覚めたわ……」
そのまま、たき火を起こすべく昨日集めておいた枝で火を起こす。もちろんエレメントでだ。
でも、秋葉に見つかると説明がめんどくさいのでこっそりと火をつけることにしよう。
こういうときにも使えるなんてなかなかに便利だな。
火をつけしばらく休んでいると、朝の運動が終わったのか秋葉が近寄ってきた。
「そういえば、フーカさんはこの後どうするんっすか?
さっさとこんなところ離れた方が良いっすよ!」
どうやら秋葉はすぐにでもここから離れたいらしい。
「え、いや、私は私遺跡に入っていこうと思ってるんだけど……」
「っへ!?な、何言ってるんすか!?
私のせいとはいえ昨日あんな化け物に襲われたんすよ!?
遺跡の中は危険に決まってるっス!絶対ダメっす!」
「あ、しまった……!」
私は小声でそう呟く。
まだ寝ぼけていたみたい……言わなくてもいいことを喋ってしまった……
秋葉の言う通り危険なことは私も重々承知だ。
しかし願い事が一つかなえてもらえるとなると話は別。
それにフレイも元の世界に帰りたいだろう。
だから、どうしてもダンジョンの最下層に行かなきゃいけない。
でも、どう相手に伝えても作り話にしか聞こえない内容だ。
いきなり精霊の王様を拾いました!とか伝えた所で笑われるか変な目で見られるのは間違いない。
……秋葉には少し悪い気がするが、適当な理由で誤魔化しながら伝えるしかないな。
「……私がダンジョンに潜る理由それは…………!ロマンよ!」
「っへ……?」
「こう見えて私、実はトレジャーハンターなの。
あの遺跡には何かあるに違いないわ。
トレジャーハンターとしての感が私に囁くのよ!」
「お宝っすか!?」
秋葉は思ったよりも食いついてくる。このまま押し切れるか……!?
「……でも何でそのことを私に言うんっすか?私なんかに言わないで独り占めすればいいのに?」
秋葉はそういうと目を細めて見つめてきた。
ううむ……鋭い。こういうことに敏感だから調査団に入れたのだろうか?
いや、そんなことよりも、今はこの場を凌がないと面倒くさい事になる。
「そ、それは、今までの経験からだけど持ち帰れないほどのお宝が眠っているからよ。
一人二人ライバルが増えた所で関係ないもの」
「な、なるほど……」
その適当な理由を聞いた秋葉は目を輝かせ始める。どうやら信じてくれたようだ。
しかし、今度はいささか信じすぎてしまっているように見えた。
これは嘘なのだ。
彼女は調査員なので多少無理をする場面も心得ているはずだ。
となればこのまま遺跡に突っ込んでいくかもしれない。
少し話を濁しておくことにしよう。
「でも、私の勘ってよく外れるのよね……今まで当たったことの方が少ないわ」
「そ、そうなんすか……」
その言葉に秋葉は一旦落ち込むものの気を持ち直したように言う。
「でも、あのモンスターといい、何かお宝を守っている可能性は十分にあるっす!
うおぉぉぉー!調査隊員としての気合がはいるっす!」
と完全に自分の世界に入ってしまった。
何とか遺跡に入る理由は誤魔化せたものの、これでは濁した意味がない。
さて、どうしたものか。
すると、その話が耳に入ったのかフレイが聞いてくる。
「なんだ?お宝とは?」
「あ、フレイ……ちょっと話を合わせようとしたら予想外に食いついてきちゃって……」
「ふーん?もしかしてお宝とはお前たちの言う金銀財宝ってやつか?それなら大量にあるぞ」
……!?
私は耳を疑う。お宝があるの!?この遺跡に!?しかも大量にある?!
「フレイ!?それって私が見つけたらもらっちゃったりしていいの!?」
「ああいいぞ。正直な所、邪魔で仕方がないんだ。私は大自然の精霊だ!
それなのに皆が私に奉納してくるもの言えばゴテゴテした装飾品やら……
金銀財宝など邪魔なものでしかない。
あんなものでよかったら貰ってくれてかまわないぞ!」
思わず心が飛び跳ねた。これがロマンか!
そう思っていると、秋葉が私に声をかけてくる。
「それじゃあ、私は一旦街に戻ってほかの皆と合流するっす!」
どうやら秋葉は一旦街に帰ってほかの調査団員と合流するらしい。
このまま遺跡に入っていかなくて本当に良かった。と安堵し秋葉に言う。
「秋葉、準備は怠らないようにね?」
「わかったっす!あ、そうだ。今度会うときは飯でもおごるっす!スライムの件っス!」
と言って秋葉探検帽を深くかぶり直し街へ走っていったのだった。
……騒がしい奴がいなくなると急にさみしくなる。
秋葉はトラブルメーカーだったが嫌いにはなれない奴だった。
今度何かおごってくれるらしい。今から少し楽しみだ。
私は秋葉を見送り改めて気合を入れ直す。
「さて!ダンジョンの中に入るわよ!フレイ!」
「私が頼んでおいてなんだが……あぶないぞ?」
「あら?そういうのはもう言いっこなしよ!お願いの件、絶対忘れないでね!」
「……ああ、わかった!ありがとう!」
フレイはそういうと小さな牙を光らせながらニコリと笑った。
そして、私たちは気持ちを切り替えてダンジョンへ入っていった。
*
私たちはダンジョンの入口から入り階段を下りていく。
すると不思議なことに奥の方から風が吹いてきた。
もっと埃臭い物かと思っていたけど……驚いたことに空気もきれいで息もしやすい。
「思ったよりも埃臭くないのね?」
「ふむ……これだけの規模だと中はとても広いだろう。気を付けていくぞ」
薄暗い長い階段を一段一段おりていく。
階段の半分を過ぎた当たりだろうか、視界が一気に開ける。
すると目の前に信じられない光景が広がっていた。
眼前に広がるのは空と草原地帯、そして森だ。
「フレイ!?これってどういうこと!?私たち地下に来たはずよね!?」
「むむむ……これは……!?」
フレイは驚愕する。
「信じられない!?だって空も太陽もあるわ!?」
フレイの遺跡は確かにダンジョンと呼ぶような状態となっていたのだが、
まさかこんな形になっているとは思わなかった。
昔みた古い本ではもっと埃っぽくなんだかじめじめして陰気くさい感じだったけど、
全然そんなことはない。すがすがしい程に大自然を成していた。
「ど、どういうことかしら?フレイ、何かわからないの?自分の遺跡なんでしょ?」
フレイは考えるそぶりをしながら答えた。
「…………。
まだ、憶測でしかないが、どうやら私は世界を作ってしまったのかもしれん……
私のエネルギーはもともと自然の力だ。
それが、暴走してすべて遺跡に流れ込んだためにこのようになったのかも……」
私はフレイの話を聞いて違和感を感じる。
いつもと違い全くと言っていいほど自信がない様子なのだ。
「なんか先から話を聞いているけど、すごく自信なさげね?」
「う、うむ……なにせこんなことは私も初めてでな……違う可能性も大いにある」
「そういう事ね。
…………。
ところで思ったんだけどこれだけしっかり自然があったら獣とかもいるかしら?」
「さすがにそんなことはないと思いたいが……。
しかし、用心に越したことはないな。
我にも何が起こるかわからん」
私は混乱する思考を振り払いフレイに提案する。
「とりあえず先に進んでみない?もし本当に獣が出てきても、
火のエレメントで追っ払えるはずだし!獣は火が怖いっていうし?」
「……ふむ、まあ行ってみるか!」
私たちは先ほど目視した森の方へ向かってみることにする。
森の方へ向かいながら歩いていると、見たこともない花や、植物を発見する。
正直な所、ただ歩いているだけでもかなり楽しい。
「見たことない物ばかりね」
「そうだな、この花はなんて名前なんだろうか?」
フレイは生えている草の中から一つの花を見つけ私に聞いてきた。
「すごくきれいだけど、見たことない花ね……
適当に名前でもつけちゃう?」
「む……?なんて言う名前にするんだ?」
フレイに聞かれて私は考え込んでしまう。
もしかしたら私が命名した花がそのまま図鑑に載ってしまうかもしれない。
そう考えると、意外と責任のあることのように思えてしまう。
そんなことを考えながらフレイに答えた。
「えーと……そうだ!スズナリ草とかどうかしら?」
「おお、なかなかいいんじゃないか?どれ、一輪もらっていくとしよう。」
フレイは一輪だけ花を摘むと私のカバンに差し込む
そんな話をしながら森の方へ歩いて行く。
ふと前から疑問に思っていることを思い出してフレイに尋ねる。
「ねえ、フレイ?前から思ってたんだけど。なんでフレイは私と話せるのかしら?
フレイが私たち人間の言葉を発してるのってなんか不思議よね?」
「む、フーカそれは違うぞ?」
「え、どういうこと?」
「フーカには人間の言葉で聞こえていると思うが、
大気中のエーテルによって翻訳変換されているんだ。
これは魔法の一種でな。エーテルで音の波長を加工するという高等魔法だな。
フーカにはその魔法がかかっているみたいだが、身に覚えはないのか?」
「え、そうなの?全く身に覚えがないけど?」
「ふーむ……おそらくだが、子供のころにかけられた魔法なのではないか?」
「そ、そういえば子供の時、
お母さんに外国の人と話したいとかお願いしたら
何か魔法をかけてもらったことがあったかしら……?」
「ふむ、なるほど……しかしすごいな……
尊敬してしまうぞ。
エーテルの操作系はかなり難しいというのに。」
うーん?……そんなに難しい魔法だったっけ?記憶があいまいだけど
なんかこう……すごくあっさりかけてくれた気がする……。
思い出せない。まあ、どうでもいいか!忘れるってことはどうでもいいことよね!
そう思って歩いているとフレイが急に止まったことに気が付く。
「どうしたの?」
「……あれはなんだろうか?」
フレイが不思議そうに何かを見つめていた。
どうやら何かを見つけたようだ。
「えっ?どこ?」
「森の方だ、よく見てくれ」
私は目を凝らしてその影をよく見てみる。
「あ、あれは……イノシシ……?
間違いないわ、もう片方は……スライムみたい。
なんだか入口で戦った奴よりかなり小さいけど」
「うーむ、スライムはどうでもいいが……まさか本当に獣までいるとは……」
フレイはかなりショックを受けている。
「でも、ここからかなり離れているし、襲われることはないわ。
進みましょう?進んでいるうちにどっかいっちゃうわよ。」
「う、うむ……そうだな。」
私たちはまた森に向かい歩を進める。
そしてそのまましばらく歩き森の前に到着した。
「ほら、どっか行っちゃったみたいじゃない。よかったよかった。」
「ふむ、そのようだな。足跡を見るにあいつらはもう森の奥に行ったようだし、
追いつかないように進めば合う事もないだろう。助かったな。
それでだ、とりあえず森の前まで来てみたが……本当に森に入るのか??」
「たぶん大丈夫よ!それにエレメントでどうにかなるでしょ!」
「うーん……エレメントはそんなに万能な物ではないのだが……」
「じゃあ、ほかのところから探してみる?あっちの山とか」
「……いや、どこに行っても危険なのは変わりないか……」
「それじゃあ、ここから行きましょう!決定ね!」
そんな言い合いをしていると森の方から何か聞こえたような気がした。
「タスケテー!」
「ん?フレイ、今なんか言った?」
「む、何もしゃべっていないが?」
おかしい、確かに声が聞こえた気がしたと思ったんだけどな。
私はすぐに耳を傾ける。
「ウォワァァァァ!」
やはりなにか声が聞こえる。私は急いで体制を整える。
すると振り向きざまに視界に飛び込んできたのは赤色のスライムだった。
「オイ!そこの!助けてくれぇ!」
……なんだかデジャビュを感じる。
赤いスライムはピギーピギー騒ぎながらこちらに走ってくる。
……なんでこう巻き込まれるのだろうか……私は頭を抱える。
私はスライムを追っている何かに視線を向ける。
するとと大きな影が見える。
どうやら赤いスライムがさっきいじめていたイノシシのようだった。
スライムを助ける訳ではないがこのままでは私も巻き込まれてしまう。
私はおもむろにエレメントをつかみイノシシの前へ投げつける。
「エレメントスロー!(弱)」
エレメントはイノシシの方へ飛んでいき眼前で小さく爆発した。
するとイノシシは素っ頓狂な声をあげて森の方へ逃げて行ったのである。
「ふう…イノシシで助かったわ……」
そう安堵していると赤いスライムが近づいてくる。
「タスカッタゼありがとう!
あいつにまたがって移動するところまではよかったんだが!
振り落とされてしまってな!」
突然、スライムが流暢に話しかけてきたのだ。
言葉の意味がわかるのは魔法のせいだというのは解った。それはいい。
だが、そもそものところモンスターは話すことができるのだろうか?
そう疑問に思いフレイに尋ねる。
「フレイ?なんか普通に喋ってるけど?そもそもモンスターって話せるのかしら?」
フレイも驚きの表情だ。まさに信じられないという顔をしている。
「いや、スライムは話すどころか本能でしか行動をしないはずなんだが?何が起こってるんだ!?」
私たちが驚いていると赤いスライムが怒り出す。
「オイオイオイオイ!さっきから聞いてるとかなり失礼だなお前ら!
まあ、助けてもらったから多少は大目に見るがよ!
俺は普通のスライムとは違うんだ。まあハナセル時点でわかるよな?」
やはり、このスライムかなり知性がある……とりあえず怒っているみたいだし誤っておこう。
「えーと……ごめんなさい!まさかスライムがしゃべるなんて思ってなかったの……」
「マア、わかってくれればいいよ。
確かにスライムがしゃべるなんて意味わからんよな、自分でもそう思うし
……ある日突然話せるようになったんだハハハ!で、あんた何しに来たんだ?」
いやにこのスライムフランクだな。とりあえず、悪い奴じゃないみたいだ。
「いや、あの……なんとなく来ただけというか……」
「フーン?てっきり俺たちの街に来たのかと思ったんだが、違うのか」
私はスライムが何気なしに言ったその言葉を聞いて耳を疑う。
確かに今街と言った気がする。私は確認の意を込めてフレイに尋ねる。
「フレイ!なんか街って聞こえた気がしたんだけど……?」
「ああ、確かに今、街と言っていたな……」
モンスターが”街に来たのかと思った”と言ったのはつまり、モンスターの街があるということ?
……すごい面白そう!好奇心がうずいてくる。
「街があるって言ったわね?私その街に行ってみたんだけど
……案内してもらえないかしら、スライムさん?」
「オウ、いいぜ!ここからは少し遠いけどな!
そのかわりと言っちゃなんだが護衛を頼むよ。
実はいうと先のイノシシでブルっちまって、護衛がほしかったんだ!
あの火を出す奴でどうにかしてくれると助かるんだが?
さすがにイノシシに乗るのはもう御免だからな」
そこでフレイがひそひそ声で割り込んできた。
「おい、フーカ。大丈夫なのかこいつ……。信頼できるのか?」
私も囁くようにフレイに答える。
「たぶん大丈夫よ、この子ちゃんとしたスライムみたいだし!
それに、本当に護衛がほしいだけみたい。メリットが無いもの。」
「ふむ、なるほど……それじゃあ、ついて行ってみるか」
私はフレイを説得しスライムの後をついて行くことにした。
どこから進んでいいかもわからないのだ。とりあえずの目標ができただけ助かった。
「それじゃあ!俺についてきてくれ!」
赤いスライムはポヨン!と飛び跳ねると森へ入っていく。
私たちはその後に続いてモンスターの街へ向かうのだった。
次回は書きなおしが入るので少し3日ほどかかります。