そして、ダンジョンへ
フレイと一緒に街に向かったフーカ達。
帰れなくなったフレイの気を紛らわせようと街で遊ぶことになったのだが
途中、フレイが元の世界へ帰るための遺跡が突如出現。
しかし、帰るためにはだれかに手伝ってもらわないといけないらしい。
願い事をかなえてあげるとフレイに言われ、
フーカは面白そうだという事でフレイが元の世界へ帰るのを手伝う事にした。
♦そして、ダンジョンへ♦ 改稿回数 3 ☆
「食料よし!寝袋よし!
着替えよし!スキレットよし!
歯ブラシセットよーし!私の枕よーし!パジャマよーし!」
私が遺跡に潜る準備を終え荷物の最終確認をしていると後ろから
呆れたようにフレイが話しかけてくる。
「おーい、フーカ……さすがにそれは持って行き過ぎではないか?
途中で歩けなくなるのが目に見えるんだが」
確かにこの量、男の人でもつらいかもしれない。
だが、それは買い物に行った時のリュックの話なのだ。
「ふふんっ、フレイ!よく聞きなさい!
私が今荷物を詰め込んでいるこのリュックは特別性でね?
いくらでも入る鞄で重くならないのよ!」
「なに、それは本当か!?
一体どういうことなんだフーカ、そんなリュック私もほしいくらいなんだが。」
とフレイは目を丸くして、私のリュックを持ち上げてみる。
「おお、これは……。
明らかに中に入っているものの重さではないな……一体どういう事なんだ……?」
フレイは少し考えこんだあと、ふとなにか思い出したような素振りで私に言う。
「……ん?だが、私を助けてくれた時の帰りは重い重いとぼやいてなかったか?
なぜあの時は普通のリュックを使ってたんだ?」
「うっ……気が付いてしまったか」
私は少し都合が悪くなりながらもフレイに説明する。
「……実は、あの時は完全に忘れてて……
ついさっき倉庫に隠してたのを思い出して引っ張りだしてきたってわけ。
私ね、子供の時にもらったものをよく倉庫に隠してたのよね……
お宝だ!とか言っちゃったりしてね?」
「ふむ、そういうことか。しかし便利な物だな……」
「不思議かしら?これはどこにでもある一般魔法よ。
火をおこしたり、何もないところから水を出したり……
難易度で言うとそのぐらいと変わらないわ。
違うところは、これはお母さんからもらった物で、
ほかの物よりすごく丈夫ってとこかしら?」
「ふーむ……そうなのか、私もほしいな……。
そうだ、フーカは魔法は使えるのか?」
「あーうーん……使えてたら普通のリュックなんて使ってないわよ。
使える魔法と言えば……。
そうね、シケっているマッチの火が一発で付く確率が上がる魔法とか?……」
「な、なんだそれは……」
「つまり、魔法はほぼ使えないってことよ……残念だけどね。
だからリュック作ってと言われても私は作れないわ。
裁縫も微妙だし。あきらめてちょうだい」
「う、うむ…………」
フレイはかなり残念そうな顔をしてリュックを見つめている。
そんなフレイを後目に私は黙々と準備を進め、旅の支度を整える。
「これと、これをいれて
……よし!これで準備オッケーっね!
それじゃあ、遺跡最下層への旅の始まりよ!」
私たちはリュックを背負い、玄関をでる。
「あっ、そうだ掛札もかけておかないと。
えーと……しばらく留守にします……っと」
「ふむ?フーカ一人で暮らしているのではないのか?」
「たまにお母さんが遊びに来るのよ。だからこうやって書いておかないとね」
家から出てしばらく歩き、いつもの草原へ着く。
いつもと違うのは草原が遺跡になっていたことだ。
以前まで見渡す限り草原だったのだが、半分以上遺跡に変わってしまっていた。
「はぁ……大きいわね……」
そこで私は、フレイの様子が少しおかしいことに気が付いた。
なんだか頭を抱えて考え込んでいる。
「どうしたの?フレイ?」
「いや……なんだか遺跡が大きすぎるんだが?どういうことだろうか?」
「私に聞かれてもわからないわよ……この大きさでフレイが作ったんじゃないの?」
「うーむ……いや?そんなはずは……」
とフレイはまた頭を抱え始める。
その話を聞くとさすがに私も嫌な予感がしてくるというものだ。
なぜこんなに大きく遺跡ができてしまったのだろう……?
ふと、フレイと出会った時のことを思い出す。
そういえば暴れて時空の狭間から抜け出したと言っていた気がする……
「フレイ、もう一回確認だけどあんた時空の狭間から出るときに暴れたのよね?
どんなふうに暴れたの?」
「うん?なんだ突然……?
前も言ったが、精霊の力をつかって脱出しようして大暴れしたんだ。
もう自分でも何が何だかわからないぐらいにな」
「もしかしてなんだけど……
そのエネルギーの行き先ってもしかしてこの遺跡だったんじゃないかしら……」
私の言葉を聞きフレイは、ハッとした顔をすると急に青ざめた様子で一言つぶやく。
「………。もしかしたら……まずいことになったかもしれん……」
一体何がまずいのだろう?
そう思っていると遠くから叫び声が聞こえてきた。
「う……うぁぁぁ!バケモノッ……!」
化け物!?いったい何事!?
私は素っ頓狂な声のする方へ視線を向ける。
すると向こうから声の主であろう誰かが息を切らして走ってきている。
どうやら調査団の様な人影が、息を切らしてこちらに走って来ているみたいだ。
そして、なにやら大きく丸いゼリー状の物体に追いかけられている。
「た……!助けてくれっス!……そこの人!」
調査団員は助けを求めながら必死にこっちに向かって来ている。
あれ………?向かって来ている……?
冗談じゃない!このままじゃあ巻き込まれてしまう!
「ちょっ、ちょっとこっちに来ないで!私も巻き込まれちゃうじゃない!」
しかし、逃げるだけで精一杯になっている団員の頭には私の注意など入ってこなかったらしく、
私たちは見事に巻き込まれバケモノに追いかけられる状況へなってしまった。
「ちょっとあんたなんでこっちに来るのよ!というかあれはなんなの!?」
「わかんないッスよ!というか誰でもいいから助けてくれッス!お願いっス!
まだこんなところで死にたくないっス!」
団員は泣き叫ぶ。
「巻き込んでおいてそれはないでしょ!?あんたどうにかしなさいよ!」
「ひぃ!無理ッス!お助けー!」
「一体あの追いかけてくるゼリーは何なの!?
めちゃくちゃ速いし!というか遺跡になんでこんな化け物がいるのよ!?
フレイ!聞いてないわよ!遺跡にこんな化け物がいる事!」
私はフレイに問い詰める。
するとフレイは申し訳なさそうな顔で私に説明してきた。
「フーカ、すまない!やはり嫌な予感が当たってしまった!
私の精霊エネルギーが遺跡に取り込まれたみたいで
遺跡がダンジョン化してしまったらしい!」
しかし、追われているときにそんな説明をされても頭に入ってこない。
「そ、そんなこと今はどうでもいいわよ!早く逃げないと!」
しかし、私を巻き込んだ調査隊員の体力がもはや限界の様子だ。
このまま逃げてもほぼ確実に捕まってしまう。
どうにかできないか考えながら走るが考えがまとまらない。
すると突然フレイが立ち止まりゼリーの方へ向いた。
「えっ!?フレイ何してるの早く逃げなさい!」
「いや、逃げるのはやめだ!フーカ!今からあいつを倒す!今すぐ伏せろ!」
「へっ!?伏せる!?」
「良いから早くしろ!」
どういう事かわからないがフレイにしたがって力任せに団員をねじ伏せ地面に倒れこんだ。
「伏せたな!?よし、撃つぞ!エレメンタルバースト!」
その叫び声と同時にフレイのいる方向から光が発せられる。
そして、爆発音と爆風が襲ってきた。
「なになになに!?爆発!?」
私は起き上がり恐る恐る後ろを見る。
するとそこにはモロモロになって崩れて飛び散ったモンスターの姿があった。
だがしかし、その姿を見てフレイは驚愕しながら私に素早く指示をしてくる。
「む、核をつぶせなかったか!?
フーカ、まだあいつは死んではいない!早く今のうちにどこかに隠れるんだ!」
「え……えぇ!?わ、わかったわ!隊員さん、早く隠れるわよ……ちょっと返事しなさいよ?」
私は先ほど一緒に倒れこんだ隊員を見る。
すると見事に気絶していた。
「あれ!?気絶してるわ!?…………しょうがないわ、急いで運ばないと!」
私は岩陰に気絶している調査隊員を引きずって運ぶ。
岩陰に隠れ少し落ち着いた頃、私はフレイに化け物について聞いてみる。
「それで、あのバケモノなんなの?」
「あれは……スライムという化け物だな。
普通は食事を必要としないのだが、奴はどうみても肉食だな……
あいつらは体の一部が崩れるぐらいじゃすぐに自己再生して回復してしまうんだ。
倒すには核をつぶさなきゃいけないんだが……先の攻撃で半分しか削れなかったんだ。
おそらくすぐに復活してしまうはずだ。」
「え、ええ!?あの状態から!?それじゃあ、早く止めを刺さないと!」
「うむ……そうしたい所だが……しばらくは先の攻撃も使えないのだ……」
フレイはうなだれながらそう答えた。
「え……どういうこと?」
「力を溜めるのに時間がかかるんだ……しかも使えば使うだけ力を溜める時間が伸びてしまう
力を蓄えるのはすごく大変なんだ。本当は一発で仕留めるつもりで放ったんだが……」
「それじゃあ、倒すのが無理なら今のうちに逃げましょうよ!」
「ああそうだな。だがその前にそこで倒れてる隊員を介抱しよう。幸い奴も動けん。」
そう言うとフレイは岩陰からスライムの方を覗き込む。
「私が様子を見ておくからそいつを介抱してくれないか」
「ええ、わかったわ」
私は、気絶している隊員を起こすために肩をたたいて声をかける。
巻き込まれたこともあるし少し強めに叩いておく。
「ちょっと、大丈夫?起きなさい!」
「う、ん……?っは!?ここは天国っすか!?」
「バカ言わないで!まだ生きてるわよ!全く……」
「あなた名前は?なんであんなのに追いかけられてたのよ?
すっかり巻き込まれちゃったんだけど……!」
私は不満と怒りが混じった顔で隊員の方へ顔を向け威圧してみた。
私の問いに隊員は萎縮しながらと自己紹介を始める。
「私は凩 秋葉って言うっす……巻きこんじまってすまねぇっす……」
「はあ……怒ってるけど、そこまでじゃないわ。
私だってあんなのに追いかけられたら訳が分からなくなって同じことしちゃうかもしれないし
……許してあげるわ」
秋葉は相当怒られると思っていたらしく、胸をなでおろしている。
「あ、ありがとうっす!」
「でも、なんであんなのに追いかけられてるのかはあとできっちり話してもらうけどね」
「うっ……わかったっす」
「よし、それじゃあここから逃げるわよ!フレイ様子はどう?」
私がフレイに声を掛けると秋葉が不思議そうに尋ねてきた。
「ん?フレイって誰っすか?」
「あっなんでもないわ。気にしないで」
「うん……?わ、わかったっす」
秋葉は怪訝な顔で返事をする。
あぶないあぶない。フレイは私以外には見えないのよね。
気を付けないと……
「大丈夫だ、フーカ!今なら逃げれるぞ!」
「わかったわ、ありがとう」
私は小声で素振りを見せないようにフレイに声を掛ける。
そしてもう一度確認するふりをして秋葉に声をかけた。
「よし、大丈夫みたいね。今すぐ逃げましょう!秋葉!急いで!」
私は秋葉に声をかける。
だが、そこで秋葉が慌てた声で叫んだ。
「あれ?……な、ないっす!?あれ!?あれあれ!?」
「ど、どうしたの秋葉?早く逃げるわよ!」
「い、遺跡のサンプルがないっす!?ヤバイッス!!」
秋葉は顔面蒼白になってしまっている。
「そ、そんなのどうでもいいじゃない!今は逃げた方がいいわ!早く!」
しかし、秋葉はそのサンプルをあきらめず、探そうとする。
「い、嫌っす!あの光る石は絶対に価値のある貴重な物っす!」
嫌だと強情を張る秋葉を説得していると
どういう訳かフレイも急に騒ぎ出した。
「何!?光る石だと……!?」
そういうとフレイの顔は真っ青になる。
「え、フレイまでどうしたの?」
私はこっそりフレイに尋ねる。
「……フーカ、秋葉に聞いてみてくれないか?
その石はもしかして太陽の形をしていなかったか?とな」
「え、ええ?……わかったわ。」
不思議に思いつつ私はに秋葉に尋ねてみた。
「秋葉、もしかしてその石って太陽の形をしてなかったかしら?」
その言葉を聞いた秋葉は驚いた様子で私にこたえる。
「そ、そうっす!遺跡の入口付近に隠し通路があって、
そこ入っていったら大事そうに置いてあったんすよ……
お願いっす!一緒に探してくれっす!」
秋葉は私にしがみつきながら懇願してくる。
もうかまってられない。早く逃げないといけないのに。
「嫌よ!離して!」
私は秋葉を振り払おうとするが、なかなか離れない。
仕方ない少し強引にでも引きはがそう。そう思った時だ。
「ぬ、ぐぐぐ……なんてことをしてくれたんだ!こいつ!?もう我慢ならん!」
フレイはそういうと、秋葉の頭を後頭部から一発殴った。
「あだぁっ!?ぐっふ……」
それを受けた秋葉はまた見事に気絶してしまう。
まるでどこかの暗殺拳の様な手際の良さだ。
って感心してる場合じゃない。フレイをなだめないと!
「ど、どうしたのフレイ!?」
フレイをなだめようとするが、なにやらフレイの様子がおかしい。
フレイは怒っていたかと思うと今度は急に沈んで今にも泣きだしそうになったのだ。
「まずい、フーカ……帰れなくなったもしれん……」
「っへ!?どういうこと!?いきなりすぎてわからないんだけど!?」
フレイは涙目になりながら私に説明する。
「帰還の儀式にその石が必要なのだ!
それがないと遺跡の最深部にいっても儀式ができない……
だから帰れない!ぐぬぬ……こやつ……末代まで呪ってやろうか……」
「ちょっと!呪うって……!?落ち着いて!」
私は興奮するフレイをどうにかなだめる。
「フレイ、落ち着いて、探せばいいのよ!手伝ってあげるから!
多分逃げた時に落としたのね……どこかに転がってないかしら……?」
私は辺りを見渡して石を探した。
するとそれは意外にも簡単に見つけることができた。
「ん!?え!?もしかしてあれじゃない!?」
「見つかったのか!?」
確かに石は見つかった……けども……スライムの体内じゃない。
「なんで体内にあるのよ!?」
私は驚きはしたけども、すぐになんとなく察しはついた。
恐らく、秋葉が逃げる時に落としたものをそのまま取り込んでしまったのだろう。
本当トラブルメーカーだな……。
「な、なに!?ああ、本当だ!?」
それにしても、先の爆発音、ものすごかったけど……石が割れてたりしないかしら?
「い、石は大丈夫なの?」
「だ、大丈夫だ……あれは私の攻撃でもビクともしないぐらい固いからな……」
「そ、そうなの?それならいいけど……。
それで、どうしよう?……今の内に取りに行く?」
「まて、いっただろう?奴はまだ生きているんだ。そのまま捕食されてしまうぞ………
くそ!スライムはどんどん回復していくし……どうすればいいんだ……!」
そういう言うとフレイはしばらく黙りこんだ後、私の方をみて答える。
「すまん、フーカどうしてもあの石を取り返したい。手伝ってくれないか……!」
「え、う、ううん……」
あのスライムから石を取り戻すということは襲われる危険があるのだ。
怖い。でも、ここで断ると願いごとをかなえてもらえなくなってしまう。
……いや、大丈夫よ。今はスライムも手負いだし!もう一度フレイ攻撃を当てれば
今度こそ倒せるはず。
「……わかった。やってみる」
「すまない、フーカ!ありがとう!」
「それで、私が思うにさっきのの……エレメンタルバーストって言ってたっけ?
よく見えなかったけど、あの威力なら次当てれば絶対倒せると思うの。
でも、問題はどうやって時間を稼ぐかなのよね……」
「それについてなんだが……フーカが時間稼ぎをしてくれないか?」
「はぁ!?ちょ、ちょっと!無理よ、無理!!
もっと別な方法にするべきよ!罠とかの方がまだ時間が稼げるに決まってるわ!」
私はフレイに反論する。だがフレイは、大丈夫と言わんばかりに私をなだめ話を続ける。
「まあ、おちつけ!確かに今のままだとただ死ぬだけだ
だから、私がフーカの力を引き出してあげよう」
「力を引き出すってどういう事よ……」
「まあ、少し付き合ってくれ。」
フレイはそういうと私に向かって手を突き出す。
そして何かを詠唱するとフレイの手が少し光ったのだ。
すると私の体の奥の方から妙に暖かい感じが沸いてくる。
「フレイ?いったい何をしたの……?なんだか少し体が暖かいかも……?」
「よし、これでフーカはエレメントに触れる力を手に入れたはずだ!」
「そ、そうなの……?そのエレメントっていうのがなんだかよくわからないけど」
困惑する私をよそにフレイは説明を続ける。
「まあ、こういうのはやってみた方が理解が速い。フーカ手を前に突き出してみるんだ。」
「……こ、こうかしら?」
私は言われるがままに手を前に突出してみる。
すると手の方に違和感を感じた。
なんだか手に暖かい物を感じる。
そう思うと、次第に手の方から生き物のようにうごめく何かの感触を感じた。
「なにこれ!?なんか変な感じ!?」
「よし、それじゃあそいつをつかんでみろ。フーカ」
「えっ!?これつかんで大丈夫なやつなの!?」
「大丈夫だから、早く!」
「う、うん……!」
私はフレイに言われたとおりにつかんでみる。
すると今まで感触しかわからなかった力の塊が、
握りこぶし程度の光の玉になって私の手に握られていた。
「おお!一発で成功したか!さすがだ!」
「……何これ?」
「そいつがエレメントだ。ふむ、見た所、火のエレメントのようだな……
どうやらフーカは火のエレメントに適正があるらしいな。
よし、それじゃあそいつを少し遠くに投げてみろ」
「こうかしら?えいっ!」
私はフレイが言う通りエレメントを少し遠くに投げてみる。
すると、着弾した場所で小さく発火したのだ。
「!?……火が起こったわ!?」
「よし、なかなかうまいじゃないか!
そうだな……あとはスペル(技名)を叫べばいい。」
「……?スペル?」
「ああ、言霊の力で威力が格段に上がるんだ。
だがスペルは特に考えなくていい。
その時になれば自然と思い付くはずだ。」
興奮が冷めないままその説明を聞いて私は少しづつ
フレイのやりたいことを理解した。
「ふ、ふーん……………ああ、そういうことね。
なんとなくやりたいことがわかってきたかも」
どうやらフレイは私にこの力を使って時間稼ぎをしてもらう予定らしい。
今のスライムは回復しているとはいえ手負いの状態だ。
確かにこれならスライムから時間を稼げるかもしれない。
正直な所まだ怖いけど、願いごとを聞いてもらうためだ。
「わかったやってみる。」
私がそういった時。スライムがいる方角から何重にも声が重なった、
喉の奥で痰が絡んだような様な叫び声が聞こえてくる。
「ピギガァァァァァァ!」
「ううむ、もう回復してしまったか……なんてタフな奴だ……」
フレイはそういうと見つからないように岩陰から顔を出しスライムを確認する。
「ッチ……さっそく私たちの事を探しているようだ。このまま隠れてもいいが、
今見つかると逃げ切れるかどうか……」
フレイは足元に転がっている秋葉を見てそう呟く。
「フーカ、すまないが、さっそく時間を稼いでくれ!頼んだぞ!」
「わかったわ!任せて!」
私はそういうと岩陰から勢いよく飛び出す。
そして、スライムが秋葉の方に行かないように位置を調整してから石を投げつけた。
「こっちよ!スライム!」
石は見事にスライムに当たる。
スライムはグルリとこちらを向き叫びながら突進してくる。
よし、誘導は上手くいったみたいね。
次に私は向かってくるスライムに教えてもらった攻撃を試すことにする。
先程言われた事を思い出しながら、どうにかエレメントをつかむ。成功だ。
いきなり本番でうまくいくか不安だったけど意外と簡単だ。
練習の時よりもずっと調子が良いかも。
すると今度はスペルと思わしき単語が頭に思い浮かんでくる。
私はスペルを叫びエレメントを投げつけた。
「えーと……そうだ!エレメントを……つかむ、そして!投げる!エレメントスロー!」
すると普通に投げつけた時とは違い、
エレメントの力が何倍にも増すのがわかった。
しかも、それは敵へ自ら飛んでいった。
それはスライムへ直撃し、あたった所から爆発が起こる。
どうやら結構なダメージが入ったらしくスライムの動きが鈍くなった。
「やった!当たったわ!」
しかし喜んだのもつかの間、スライムは体を真っ赤にしながら
「ピギィィィィィィィ!」は雄叫びをあげ勢いよく突っ込んでくる。
スライムの周りの草木は萎れ、
スライムの下になった石も徐々に丸みを帯びてくるのが
目に見えてわかった。
「ひぃっ!?よく見ると色々溶けてる!?逃げなきゃ!」
「か、隠れるところは無いかしら……!」
あわてて回りを見渡してみるが、隠れられそうなところは一つもない。
や、やばい!これじゃあ、怒らせただけじゃない!
私はすぐに走りだす。
「ど、どうしよう……なんとかして足止めするしか……そ、そうだ!」
そこで、完全に思いつきなのだけども両手でエレメントをつかんでみることにした。
もしかしたら片手でつかむより大きい奴をつかめるかもと思ったからだ。
さっそく私は両手でエレメントをつかんでみる。
すると先ほどのエレメントよりも大きいエレメントがつかめた。
さらにここから、どうやればいいかわからないけど力を溜めてみることにする。
……とりあえず握っているエレメントに力を込めてみよう。
しかし、全く変化はない。やっぱりだめかも。
そうしている間にもスライムは迫ってくる。
しかも体力が回復しているらしく徐々に早くなってきている。
「追いつかれちゃう!早く何とかしないと……!」
それじゃあ、エレメント同士をくっつけると粘土みたいにまとまって大きくなるかも。
そう思い右手で大きいエレメントを持ち、左手で小さいエレメントつかむ。
そしてその二つ勢いよくぶつけるようにしてくっつける。
ぐにゅりといった感触がしたと思うと
エレメントが大きくなった。
成功だ!しかも大きさは先ほど両手でつかんだエレメントよりも何倍も大きい。
す、少し大きすぎるかな……抱えないとダメなぐらいになっちゃった……
でも、これだけ大きければ威力も絶大だよね!
私は立ち止まりスライムの方を振り向く。
そしてエレメントの端をしっかり握って振り回す。
するとそこで、スペルが浮かんで来た。よし!ダメ押しで叫びながら投げつけてやる!
「よーし!食らいなさい!ジオメント!」
私の手から離れたそれはきれいにスライムへ向かっていきそのまま直撃する。
するとスライムを中心に火球になり地面を抉り取りながら爆発した。
その勢いは熱気がこちらにも伝わってくるほどだ。
「あわわ……なんかとんでもない攻撃になっちゃったかも……」
私は唖然としてその攻撃を見守る。
すぐにその火はシュンとマッチの終わりの様に消えた。
するとそこには大きな穴にすっぽりとはまったスライムがいた。
「……!?は、はまってる……?」
スライムはその穴にみっちりと詰まってしまったらしく
全く動こうとはしない。いや、動けないみたいだ。
「か、勝ったのかしら……!やったわ!」
さっそくフレイに報告しないと!私だけでも勝てたじゃない!
そう思いフレイのところに戻ることにした。
その時、急にミシミシと音を立ててあたりが揺れ始めた。
「な、なな何!?……もしかして!?」
私はすぐにスライムが原因だとわかりを慌ててスライムの方を見る。
「えっ……うそっ!?」
なんだかスライムが徐々に、大きくなっているような……?
いや!どんどん大きくなってる!?
私は唖然としてスライムを見る。
その間にもぐんぐんと大きくなっていき、
気が付くと見上げるほどの大きさになってしまった。
「お、おおきくなっちゃった……」
私はそう呟きながらスライムを見上げる。
するとそこで、スライムがズズリと動き出す。
スライムは大きくなった体をひねりうまいこと回転をはじめ、
転がりながら私の方へ突っ込んできた。
「えっうそ……冗談でしょ……!?」
私はその場から全力で逃げ出す。
今度は先ほどまでと違いスライムの方がわずかながらに早い。
だんだんと距離の差を縮められていくのが解るのが余計恐怖を掻き立てる。
「ひぃいい!?ちょっと!?転がるの反則よ!?」
私は涙目になりながらエレメントをつかみ投げつける。
だが、当たりはしたが、その攻撃の多くは回転の力と
スライムのぶよぶよした体によって弾かれてしまった。
「うそ!?!全部弾かれた!?ど、どうしよう……ええい!もう一回!」
私はあきらめずに、がむしゃらにエレメントを投げつける。
すると投げつけたエレメントがたまたまスライムの下に潜り込み、そこで爆発した。
その爆発の後、何やらスライムの回転が急に鈍くなり。スピードが落ちたように思える。
「も、もしかして遅くなった……?」
私は試しにもう一度スライムの手前に落ちるようにエレメントを投げつける。
今度はしっかりとスライムの真下に潜り込み爆発した。
やっぱりスピードが少し落ちたみたい。間違いないわ。
「やっぱり、遅くなった!よーし、これならいけるかも!」
その時、急に私の目の前が傾いた。
「えっ……?」
何が起こったのかわからないまま
地面を滑るように私の体は地面に倒れこむ。
私はすぐに状況を察した。
最悪だ、スライムに追い掛け回されているうちに出来上がった丸石を踏んづけたらしい。
早く、立ち上がらないと……
そう思い立ち上がろうとする。
すると足に痛みが走った。
「い、いった……ど、どうしよう、足が痛くて動かせない……!」
走った疲れと足の痛みが私の不安を加速させる。
私はギュッと目を閉じて叫んだ。
「フレイ!助けて!」
直後、フレイ居る方から叫び声が聞こえてきた。
「間に合った!消しとべっ!エレメンタルバースト!」
キラキラと光る光線がスライムの方へ勢いよく放たれる。
そして、スライムに直撃し辺りに肉片を飛び散らせながら、間一髪でスライムの核を消し去った。
「大丈夫か!フーカ!」
フレイは慌てふためきながらこちらに急いで飛んできた。
「し、死んじゃうかと思ったわ……」
「本当にすまない……」
「謝るのはいいわよ……それよりも今日は疲れたわ……
ここら辺で今日はキャンプでもしようかしら……さすがに、家に帰る気力もないし……
でも、まだ今の化け物みたいなのが近くにいるのかしら……?」
「ふむ、ちょっとまってろフーカ。
……今、気配を探ったが大丈夫みたいだ。どうやらあの一体だけみたいだな……」
「ほ、本当?」
「ああ、間違いない。」
「た、助かった……でもさすがに遺跡から離れたいわ。どこかいい所は……
そうだ、あのフレイを見つけた木の下がいいじゃない!雨が降ってきても大丈夫だし。
そうしましょう!」
「そうだな、そうしよう。……私も疲れてしまったよ。
そうだ、そこの岩陰で伸びてる奴も運ばんとな」
「そ、そうね、すっかり忘れていたわ……」
秋葉を介抱するために私たちは急いでキャンプの準備をする事にしよう。
スライムに襲われてかなり疲れてしまったけど、今は動いていたい気分だ。
私は焚き木を集めながら心を落ち着ける。
「よし、たき火用の木はこのぐらいでいいか……
すまないがフーカ、一旦、石を回収してきていいか?」
「ええ、私は秋葉を運んでおくわ」
「すまない、頼むよ」
フレイはそういうと石を回収するためにスライムの方へ向っていった。
その間に気絶している秋葉をブナの木の下へ運ぶことにしよう。
そう思い秋葉を運ぶ。
「ふう……今日はなんて一日なのかしら。スライムに追い掛け回されるし……
でも、なんでかしら……?こんなにつらい目にあったっていうのに……
楽しいって思っちゃってる……」
退屈な日常から抜け出せたから?
それとも、今日がひどすぎたから頭が錯覚しているのかな?
それとも……これから面白い事が始まる予感がするから?
……なんだかよくわからない。こんな気分初めてかも
「明日はどんなことが起こるのかしら?」
そう呟く。
明日は絶対、遺跡の中へ入ってみよう。
そう、心に決めて私は瞳を閉じた。
ダンジョンへといったのにダンジョンはいってないじゃん!って突っ込みは無しで!