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第七話 ―セラフィナ根源魔法学―

今回はサイエンス回です

八歳になった。父の話では来年から学校に通えるらしい。この国の教育は9歳から12歳までの6年間で行われ12歳からは様々な仕事にもつけるようになる。ただし軍人は別だ、12歳までの基礎教育を終えたあと15歳までの3年間再び家族と過ごし帰るべき場所を強く印象付ける。その後軍学校への入学を許可され名目上この時から軍人となる。この3年間があると心理的要因から生存率が上がるそうだ。

さて、この話をした動機についてだが学校に入学するとしばらく研究がおろそかになる可能性がある。だから、入学前に研究を進めたいのだ。


さて、現在の話をしておこう。まず私は蔵書塔にいる。ディテクト・ブックという魔法をでっち上げて調べたところこの蔵書塔全体で15万冊と少しの書籍があるうち半分弱を魔導書と仮定しても少なくとも7万冊。胸が踊る。


ここに来た目的はとある魔法を深く知るためだ。リーゼロッテの魔導書に聞いた知識だけでは知識が偏る。もっと多面的な情報を集めるべきである。だからあえて他の文献も当たるのだ。研究においては万能な一冊より特化した書庫の方が重要になる。ちなみに、そのとある魔法とはトゥルービジョンである。私が一番最初に習得した魔法で、全魔法中最低の消費魔力量であるそれを紐解くのだ。


「おっ、リガロ。また勉強か?熱心なのはいいが必要なのか?」


私が、本を探して練り歩いていたところ父が蔵書塔に入ってくる。正直ものすごくいいところに来たと思った。


「必要ですよ。知ることは、自らの可能性を広げることなのです。ところで、トゥルービジョンに関する資料はどのあたりですか?」


この父親、少なくとも七万冊以上の本の位置をどうやら全て把握しているようなのだ。父の強さはきっとその知識量に依存しているのだろう。


「あぁ、それならそこの棚とその隣の棚だ。」


父はそう言って二つの本棚を順番に指差す。一つの棚は本でいっぱいになっているがもう一つはガラガラだ。私はまずいっぱいになっている棚に近寄ってそして驚いた。そこにある本は全て同じ作者のもので、しかも全部同じタイトル、そして全て違う番号が振られている。著作『アラム・グレモル』タイトル『セラフィナの根源魔法学の未完の論文』。そしてそれを指してなぜ父がトゥルービジョンの関連資料だと言ったのか。それを考えると一つの面白い可能性にたどり着く。この本の著者アラム・グレモルは私と同じ方法で魔法の根源つまり魔力についての研究にアプローチした可能性だ。


「ありがとうございます。ところで父様は何をしに此方へ?」

「あぁ、そうだった。あ、いや何ちょっとな……。」


歯切れが悪い、どうやら私には言えないもしくは言いたくないことなのであろう。


「私は今運悪くこの論文に熱中しており父様の存在を忘れてしまいました。」

「まったく、本当にお前は聡い子だな……。ありがとう。」


そう言うと父は蔵書塔の一番上、私に暗に入るなと言った領域へと向かった。きっとそこにあるのは禁断の類の魔法だろう。少し興味はそそられるが今はそれどころではないこの宝の山を、どうにかするのが先決だ。つまりこの膨大な論文だ。


まず第1巻を手にとって開いた。冒頭はこの書き出しで始まる。


『私はこの研究を始めるには遅すぎた。よってこの研究を後世の研究者に託すことにした。未だ見ぬ魔道の研究者よどうかこの研究を完成させてほしい。』


その次のページから一巻をまるまるかけてトゥルーヴィジョンの要素を分解したものが羅列される。2冊目から38冊目まではそれらに付け加えることの出来る可能性のある他の魔法の要素。39冊目から100冊目までが構成要素の組み合わせと効果一覧101冊目から198冊目までがその魔法を使って魔力に対してアプローチした結果である。魔力の物質変換に関しては完全に解析されていると見ていいだろう。ただ、著者は熱、冷気、雷、それから魂に変換するための要素を発見できなかったのだ。


それらを観測した条件をまずは再現しよう。


「わが眼に聡明なる力を。それは小さく、または大きなものを見つける力。それは、見えぬものを暴く力。それは、隠されたものを見通す力。されど、我が瞳はそれに能わず。原初の理を以て根源の渦より顕現せよ我が第三の瞳!」


すごいなこの魔法、トゥルーヴィジョンのくせに上級極限レベルの魔力が必要だ。トゥルーヴィジョンのくせに生意気だ。略してトゥルなまである。


しかし、性能は折り紙付きだ。魔法版電子顕微鏡(倍率無制限)といったところだろう。更に3秒までのフレームレート無制限の録画機能まで付随している、これがあるのになぜ研究が完成しなかったか……。いや、色々この世界の科学は発展してないせいだな。魔法がそれを妨げてる可能性がある。


さて、研究の本題。魔力自体の観察だ。論文によればそれは幾つもの物質の形、おそらくこれは分子配列のことを指しているのだろう。それが、重なり合ってできているらしい。魔力単体で操って体外で制御するのはかなり難しい、だがやってや荒れないことはない。だが、解析と同時進行とかどんなハードモードなのかと嘆きたくなる。とりあえず言ってても仕方がないので魔力の球体を指先に集中させる。確かにとんでもない種類の分子配列が重なり合っている。だが、甘いなアラムよこの先があるのだ。分子より更にミクロの世界、原子の世界そしてそこから更に宇宙に存在する物質の最小単位の世界即ちクラークの世界である。


結論から言おう。魔力とはクラークだ。原子をも構成する極小の物質、それを無数に詰め込んだ物体が魔力だ。つまり、魔力とはそもそも無限の可能性を持った万能物質でありすべての物質の特異点なのだ。だが、それ以外に物質ではない何か別の膜が存在する。それは極小の周期で新同時続けるものと振動静止しているものが存在する。その二つは物質とはなんの関係もない未知のものであると断定しこれを霊子殻と名付けることにしよう。


さて、これを強化版トゥルーヴィジョンで録画しながら炎に変換する。指先にポッと炎を発生させるだけの魔法、これは下級最下位魔法って感じだな。


「えーっと、録画の再生は……再現せよ、停滞し、時を万に一つ進めよ。」


実に一万分の一倍速。わずか3秒が八時間以上まで引き伸ばされる。だが、再生しているときは考えるだけで飛ばせるのだ。どうしてこれを開発できなかった日本の科学者。


さて、問題は変換される一瞬の出来事だ。一瞬と言っても百分の一秒を軽く超えている。この再生速度だと約十秒になる。それだけスローモーションなら何が起きているのかわかるはずだ。


まず、魔力に内包されたクラークが集まり半分が炭素原子を、残り半分が水素原子を構成する。その次に、それが魔力内に用意された分子配列の金型で分子に変換され、最後に振動する霊子殻にぶつかって霊子殻が消失する。熱とは振動なのだ、アラムはそこを分かっていない。空気に触れた水素と炭素は霊子殻の振動に影響された結果高温になっている。つまり、空気に触れた瞬間に燃焼が始まるのだ。だが、燃焼が始まると同時にそれらの原子は崩壊しその場に残ったのは二酸化炭素分子および水分子ではなく酸素原子のみである。このことから、クラークですら私の知るそれと全く違うことが明らかになった。これは似通ったものでありながら違うものなのだ。今はこれをクラーク霊子と呼ぶことにしよう。


「リガロ……まだいたのか?」

「私は研究に夢中で父の存在に気づきません。見せたくないものがあるんですよね?」

「まぁ……な……。」


さて、研究の続きだ。万能物質であるクラークは伝導体にもなれる。それは神経細胞のようなものにもなるのかもしれない。リーゼロッテとの意思伝達がその代表例だ。この魔法にはできれば被検体が欲しいがそれに父を使うのも良い手とは思えない。


だが、抗えるだろうか。この探究心に。いや、それはありえない。つまり、こうだ。


「父様、まだそこにいらっしゃるならこうしませんか? 今日、父様は私の研究を手伝うために来た。その後父様は用事を思い出し禁書の棚に魔法書を取りに行った。」

「お、おぅ……バレてたか……。」

「正直禁書にとても強い興味もわきます、きっとそのうち父様が然るべきと思って許可をくれたときには喜んで読むでしょう。でも、その前に今はこれに対する興味がどうしても拭えないのです。」

「わかった、リガロの言うとおりにする。で、俺は何をすればいい?」

「なにもしないでください、今から魔法をかけます。その魔法に抵抗をしないでほしい、それだけです。」

「それだけ? わかった、じゃあ父さんは被験体だな。シリアルナンバーでも振るか?」

「ではTITI01で。」

「ははは、そのまんまじゃないか。さぁ、やってみてくれ。俺もお前の研究に少し興味がある。」

「じゃあ……受け入れよ、我が思考。それは伝えるべくここにある。」


一時的な一方通行の思考共有魔法だ。これは脳内の記憶回路の一部を一時的にコピーし偽造して相手の記憶回路に外部記憶領域としてつなげる魔法だ。これは、逆に相手の記憶回路をこっちにコピーすることも理論上可能である。難易度もそうは跳ね上がらない。よって、多分また別の魔法として用意してやれば相互通行も可能なはずである。


「被検体TITI01。今そちらにこの魔法に関する私が保有している情報を送りました。」

「おぉ、何だこれ。てか、なんだこの魔法。性能的には超常と同等で消費魔力が上級と同等?」

「いえ、霊魂の領域にまでアクセスできない以上あくまで上級魔法の性能です。」

「はぁ、全くお前のせいでさっき苦労して探した禁書いらなくなっちまったよ。」

「何に使う気だったんですか?」

「あまり言いたくないんだがな、拷問だ。相手を死に追いやることなく永遠に苦痛を与え続ける魔法で魔族を拷問する予定だったんだ。」

「なんとも、度し難い魔法ですね。」


ただ、仕方のないときもあるのはわかっている。人間と魔族と、異なる種族がいるんだ異なる正義がある。どちらか一方が淘汰され、どちらか一方が生き残る。負けた側は凄惨な末路を辿って当然なのだ。地球でもそうだったように、この世界だってそうなのだ。


ただ、この世界には一つだけ救いがある。魔法のせいで科学が進歩していない、少なくとも今のままなら魔法はあくまで個人の兵器。だから、戦争はあくまで剣と魔法の戦争に収まっているのだ。


「そうだな、父さんもこの魔法は嫌いだ。だから、お前が創った魔法にだいぶ救われたよ。どちらにせよ、あまり褒められた使い方じゃないけどな。」

「いえ、お役に立てたなら良かったです。」


そうやって永遠の苦痛を与え続けるくらいなら無理やり情報を抽出したほうがまだましだ。少なくとも、その魔法を掛ける側の心は救われる。こんな魔法だけど、創ってよかったと思っている。

後に、この魔法はリーゼロッテに見つかって更に改良され攻撃に転用することが出来る方法が確立されたが、研究中のメモはすべて隠すことにした。

もうちょっと短く収めようと思ってるんや、ほんとなんや。

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