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第六話 ―リガロ・アルソードの偉業―

 目が覚めたのは夕方頃だった。ほぼ同じタイミングで隣のベッドで寝てた少女と目があった。どうしてくれようこの空気、本気で気まずいぞ……。


「おっ……おはよう……。」


 少女が素っ頓狂な声を上げる。


「ぷっ……あははは。」

「なんで笑うのー!?」

「いや、余りに面白い反応するから……。」


 今のは誰が見ても堪えられないとも思う。あれは笑わざるを得ない。むくれる彼女がとても可愛らしく見えた。そういえば、名前を聞いてないことに気づく。


「君、名前は?あぁ、私はリガロ……。リガロ・アルソードだよ。」


 ほんとの名前は正式にはリガロ・コマンダ・スチュワート・ナイツ・アルソードと言う。覚えなくてはいけないとなるとげんなりする程度には長い名前だ。七代前が騎士で6代前が執事そこから落ちぶれて五代前四代前は平民、そして三代目が将軍。二代前と先代がおつむが弱くて没落そして現当主ジョーンがトップランクの冒険者。この一族の歴史だけで大河ドラマ4クールは出来そうだ。


「アメリアだよ。」


 アメリアが、なんだか聖女的なイメージがある名前だ。聖女アメリア、似合わないだろうか……。

 どちらにせよいい名前なのには間違いない。もう十年もしたら似合うようになるだろう。とはいえ私もまだ七歳、そう、困ったことに七歳なのである。


「よろしくアメリア。」


 そう言って布団から立ち上がる。すると一枚の紙切れが落ちてくる。両親からの置き手紙だった。


『起きたらご飯だからすぐ降りてくるように。あと、食卓でちゃんと報告もするように。母より。』


 よく見るとテーブルの上にまた置き手紙が置いてある。心配性だな我が両親。


『起きたらちゃんと報告するように。あと、飯だそうだ祝いも兼ねて盛大にやるらしいぞ。

 追伸

 お前スゲェな。色々スゲェわ。でも、ちゃんと合意を得るんだぞ。

 あと、子供は後五年は待て。

 父より』


 だそうだ。父が母より情熱的なのが気になる。やっぱり男親だからだろうか。それとも父とは情熱的に考える生き物略してJKなのだろうか。考えててアホらしくなったのでとりあえず食事に行こう。アメリアも連れて行こうそうしよう。


「アメリア、ご飯だってさ。」

「食べていいの?」

「ダメな訳ないさ。ついておいで。」

「うん!」


 あざとい。死ぬほどあざとい。まさかかつての私のように計算尽くじゃないだろうな……。いや、無いな子供だしな……。


「あら、おはようお寝坊さんたち。」

「おぉ、目が覚めたか。飯だ!たらふく食え食いすぎて破裂するまで食え!」


 一つ言いたい、それは無理だ。

 居間に行くとやたら機嫌がいい父と母が居た。そして、テーブルの上を見て目が醒めた。なんだこの豪華な食事は……。


「おはようございます。お祝いですか?」


 私は恐る恐る聞いた。


「もちろん祝いだ!ちなみに主役はお前。」

「私ですか?なぜ?」

「お前も偉業持ち、つまり、レベル4のその先へ行ったんだよ!」


 この世界の冒険者は基本的にレベル4がまでなのが常識だ。ただしたまにそれ以上のレベルに到達する人間がいる。俗に言う偉業持ちだ。


「ちなみに私達も偉業持ちよ。父さんがレベル7、母さんがレベル6。」


 それは驚いた……。

 いや待て、なぜ私がレベル4以上になっているのだろうか。ボーンナイトバーサーカーはレベル3のはず。つまり私はレベル3になるはずなのだ。


「えっと、なんで私が偉業持ちなんですか?」

「あー、まだわかってなかったか。あれはボーンナイトバーサーカーじゃなくてそのロード種。つまりボーンナイトバーサーカーロードだ。レベル5の化け物だよ。」

「えっ?」

「なぁ、お嬢ちゃん。うちの息子が骨のお化け倒すの見ただろ?でかい剣持った怖いやつ。」


 アメリアは首を縦に振った。


「倒したんだろ?リガロ……。」

「はい。」

「じゃあお前はレベル5。化け物の仲間入りだ。後で死体をギルドに持っていくぞ。それと嬢ちゃんも家に送り届けなきゃ。いかんしな……。」

「あ、薬……。」


 アメリアがあの森に入った理由は本当に薬草採取だった。冒険者を雇う金が無い貧しい家は時折自分で森に踏み込むのだ。森で死ぬ多くがそう言った貧しい家のものだ。


「そうか……アメリアちょっと待って……。父様、母様少し用事ができました。その後で良いですか?」

「うん……?何か急ぎの用事か?」

「はい、少し野暮用です。」

「手伝えると思うがどうする?」

「何をするかわかってるんですね?」

「薬の代わりだろ?」

「その通りです。」


 多分、回復魔法に関しての知識は私より父のほうが優れている。なら、手伝ってもらうのが良いだろう。

 なら、後はリーゼロッテの魔導書の助けがあれば時間まで短縮できる。


「ところで父様。魔導書を知りませんか?」

「呼んだ?」


 魔導書が目の前に躍り出てくる。しかも声まで出てる。天変地異の前触れだろうか……。


「おっ……あぁ、急に喋ったら驚くよね。今魔力がすごく潤沢でさ。なんか、それっぽい魔法でっち上げたらできたんだ!」


 魔法をでっち上げるのは難しい事じゃ無い。むしろそうしたほうが効率が良いくらいだ。そもそも、既存の魔法は幾つかの魔力に共鳴する言葉を組み合わせてそれに名前をつけて発動しやすくする事によって出来ている。文法と、構成式さえ間違えなければ、魔法として発動を意識している限り魔力が足りれば発動するのだ。しかし、本がそれをやるとは規格外にもほどがある。

 やっぱり宝具だこの魔導書……。


「転移魔法を教えてください。」

「ほいきた。こんな感じでやってみちゃいな!」


 脳の中に転移魔法の情報が流れ込み焼きつく。これはこれでおかしいと思うがいつもの事だから気になら無い。


「じゃあアメリア、君の家の場所をイメージして。できるだけはっきりとね。」


 そう言った私はアメリアの手を握った。どうでも良い事だが女の子の手は柔らかいな。それに細くて小さくて可愛らしい。


「うん!」


 私に手を取られたアメリアは少し戸惑いながらも返事をする。

 私はアメリアとの接触面、つまり手を媒介にイメージを共有する魔法を発動させる。ここは、玄関だろうか……。アメリアの家の場所は……すぐ近くだな。三軒先の家だな。別に転移の必要はないが、ようは練習だ。


「グレーター・テレポーテーション。」


 最上級の転移魔法なのだが、この魔法には面白い特徴がある。それは、魔法を詠唱すると効果範囲内のすべての物体を転移させた場合と同じだけの魔力を確保する。そして、詠唱終了後対象を選択して魔法を発動させる。その際、差分の魔力は戻ってくるのだ。

 しかも、魔力効率のいい子の魔法は魔力さえ十分にあれば発動する超低燃費の転移魔法なのだ。……とリーゼロッテが言っていた。



 テレポートが終わると私達一行はアメリアがイメージした家の玄関の前にいた。テレポート成功だ。はてさて、どんな原理やら。これは何度も反復実験を行って確かめる必要がある。いやぁ、楽しみだ。


「お母さん、ただいま。」


 そう言ってアメリアが家のドアを叩く。


「あぁ、おかえり。随分遅かったね、大丈夫だった?」


 奥から出てきたのはひどくやせ細った女性だった。きっとアメリアの母親だろう。


「これは消耗病、それもかなり進行してる。」


 父が私にそう、耳打ちした。


「おや、誰か連れてるみたいだけど一体誰だい?」

「あぁ、この人達はね……。」


 アメリアと私と父で出来るだけ状況を事細かに説明した。その間にわかったことはまず、アメリアの母親の名前だ。これは、カトレアと言うらしい。次にアメリアの父親はだいぶ前に他界していてそのせいで貧しい暮らしをしているということだ。最後に、カトレアがこの病気にかかったのは一年前で貧乏のせいでろくな治療が受けられなかったらしい。

 ついでにカトレアの病気に対する対処方法を父が教えてくれた。まず、この病気がここまで進行すると決して直せないと前置きされた上での説明だった。


「カトレアさん、でも無効化する方法はあります。この病気の症状は細胞の活動力低下が原因です。だから、今からこいつに細胞活性化魔法をかけてもらいます。」

「分かりました……。それでよくなるのなら……。」


 カトレアはまだ私を信用してくれてはいないようだ。当たり前だ七歳の子供が魔物を倒したと聞いて信じる人間なんてまずいない。


「安心してください、こいつは俺の、大魔道ジョーン・アルソードが誇る最高の弟子で息子でもあります。」


 大魔道とか初耳だ。一体どういう意味があるのだろう。


「だ……大魔道様!?」


 なんか、ものすごい肩書だったみたいだ。カトレアが完全に固まってる。


「大丈夫、リガロは本当にすごいんだから助けてくれるよ。」


 治すのは無理なんだけどなぁ。だけど、一ついいことを思いついた。カトレア、アメリアこの二人が貧乏から脱却できて、それでいてカトレアが消耗病に苦しまなくて済む方法。


「アメリア、魔法をかけたいと思う。だけど、この魔法はそのうち君も覚えなきゃいけない。だから、しっかり見ておいてくれ。」


「え?私でもできるの?」

「あの森で私を助けたあの回復魔法は君が唱えたんだよ。君なら絶対できる、私が保証するよ。」


 そう、できるはずだ中級極限回復呪文を使えたのだ細胞活性化魔法は基本中級以下、上級レベルの細胞活性化魔法を作ることはできなくはないが必要な場面は殆ど無い。ちなみに、上級細胞活性化魔法は一時的にではあるが致命傷から一瞬で復帰するような化物みたいになる魔法になる。


「分かった……。」


 アメリアが頷いたのを確認してから私は詠唱を始めた。ちゃんと詠唱も覚えたほうがいいだろう。


「みなぎれ、汝の力。雌伏のときは終わり立ち上がる時が来た。我が声に呼応し今一度主の力となるがいい。アクティベーション・ボイス!」


 消費が少ないな、これくらいならすぐにアメリアにも使えるようになるだろう。カトレアを見ると肌の色がみるみる良くなっていきハリも戻ってきている。てか、結構美人だなカトレアさん。

 しばらくして、魔法がの光が収まるとカトレアの方から腹の虫がなく音が聞こえた。そう、あの音だ。


「あら、やだ……恥ずかしい。」


 細胞活性化いい魔法だ。これは記憶の中に永久保存版だ。さて、推測を始めよう……。


「カトレアさん、これから家でお祝い事があるんです。よかったら食べていきますか?」

「えっと、ご迷惑では?」

「祝い事は賑やかな方がいいんですよ!」


 まず、魔力だがこれはかなりの万能性を有している。つまり、これによって……。


「リガロ、帰って飯くおうぜ。」


 これによって、温度や湿度など細胞に対する何らかの最適環境が作り上げられている可能性が……。


「おい、リガロ?」

「あ、すみませんちょっと好奇心に負けてました。」

「何考えてたんだ?」

「細胞活性魔法のメカニズムです。」

「いい探究心だ、だけど飯食って頭がよく働くときの方がいい。帰るぞ、転移の準備だ。」


 たしかにそうだ、この父親大好きだ。そのうち、何かのきっかけで一緒に研究してみたい。例えば魔力の元素組成とか色々。

 とりあえず今は言われるがまま転移魔法を唱えた。もちろん魔力も余裕があるしグレーター・テレポーテーションだ。うちに帰るとそこには母レイダがいた。


「おかえりなさい、それで一人増えているようだけど。」

「説明しよう!」


 私は、そう切り出してこれまでの全ての経緯を説明した。治療に関する敬意などそれはもうあることないこと。いや、前言撤回だ流石にないことは言っていない。最近お調子者気味な私だってそんなことするはず無いじゃないか。

 とりあえず、お祝いの宴会は楽しかった。あと、料理がものすごくうまかった。特に汁物、出汁がものすごくよく出ていてむちゃくちゃうまかった。その原料が、ボーンナイトの骨だと聞いて食べるのを嫌がった他の全員が少し気の毒になるほど旨い料理だった。母曰く罰ゲーム用の一品だったそうだが、私にとって逸品だったので完食した。


 しかし、興味深い。長年風や土にさらされて成分が抜けているはずの骨がここまでうまいとは……。これは研究の余地ありだ、一体どんな成分がうまいと思うのか。まずは、成分分析ができる方法の模索だ。

 さて、食べ終わったんなら冒険者ギルドに行かなきゃな。若干骨が足りなくなったこのボーンナイトバーサーカーロードとか言う化物の死体を運んでレベル5証明書を発行してもらわなきゃいけない。あと、なんか武器とか防具とか作れるかもしれないしな。

 となれば、これだ。


「グレーター・テレポーテーション。」


 もはや、グータレーテレポーテーションである、私はコレのお陰でかなりぐーたれることが出来る。しかし、いちいち全身を転移させるのも面倒だな。よし、第一目標テレポーテーションの研究。第二目標成分分析の方法の模索。第三目標消耗病の研究だ。消耗病が不治の病とか言われると涎が出そうなほど好奇心が湧く。


「うおっ、ジョーンさん!?……にリガロと誰だ?そのお嬢ちゃんは?」


 いきなりテレポートするもんだからギルマスもといニコラスが驚いている。


「何度でも説明しよう!」


 私は、ここまでの経緯をすべて話した。今日この話何回するんだろうか。


「んで、このお嬢ちゃんがリガロ坊っちゃんがボーンナイトバーサーカーロードを倒すところを見たんだな。」

「うん!」

「とりあえずジョーンさん、あんたがここに持ってきたってことはディテクト・ライもかけて検証済だろ?」

「あぁ、もちろんだ。」


 いつかけられたんだろう。ディテクト・ライ、嘘を検出……つまり嘘発見器か、何でもありだな魔法。


「わかった、じゃあ坊っちゃんもレベル5だな。」

「坊っちゃんはやめてください。これまで通りでいいですよ。」

「でも偉業持ち出しなぁ……。」


 偉業持ちは何かと不便な気もする、今まで通り呼んでくれないのもちょっと寂しい気もする。まだ七歳ここは子供の武器で押し切ろう。


「だめ……ですか?」


 必殺、ぶりっ子のポーズ。私は、ありがたいことにジョーンとレイダのいいところだけ受け継いだ。だからこの攻撃にはアピュアランス(見た目の可愛らしさ)補正がつくのだ。恐れ入ったか。


「だめじゃないぞ! おっちゃんが悪かった!」


 ギルマスも骨抜きである。結構楽しいなこれ。

 アセリアが少し不機嫌そうな顔をしたがそれはキのせいだということにしておく。

本当は前の話とこの話で一話にするつもりだったのが色々と要素が増えに増えて自然さを出すためにこの長さになりました。本当はもっと長く書くべきかもしれませんがまだまだ話の本筋が動き出していないので短めにまとめてみました。

ご要望があれば省略なしで書きます( ̄ー ̄)ニヤリ

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