表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/33

第三話 ―レイダの剣術指南―

 六歳になった、ほぼさぼらず毎日できるだけ多く魔法を使っているせいで総魔力が百桁を超えた。正直、やりすぎたと思っている。だが反省はしていない。


 さて、六歳といえばそろそろ健全な男子たるもの過激な運動がしたくなるお年頃である。そろそろ剣を教えてと頼んでも断られない年頃だと思うのだ。危険だからだとかそういう理由でも素振りくらいは見てもらえるお年頃だと思うのだ。さて、まずはそれを盤石にするためにもそのために役立つ魔法をリーゼロッテの魔導書先生に教えてもらうのだ。


「と言うわけで先生!剣のお稽古に役立つ魔法を教えてください!」

『あるよん、通称尻もち剣っていう訓練用魔法が。』


 訂正、剣の稽古は危険度0でした。なんでも、その魔法を適当なものにかけることでぶつかった時に無条件に尻餅をつくようにする魔法らしい。木刀とか、真剣とかでもその魔法は効果を表すようで訓練用の最強魔法だ。


 ちなみに、魔法をかけるには多少の時間が必要な上に膨大な魔力が必要。さらに効果時間はきっちり六時間らしい。御都合主義な魔法である。ただし、この魔法の解除がとてつもなく簡単で魔法を一度でも使ったことがある人間なら誰でもできるのが玉に瑕である。

 というわけで、適当に土と水と神秘の三属性混合魔法である木属性魔法で木刀を作って魔法をかけて母レイダに突撃だ。


「母様! 剣を教えてください!」


 私は満面の笑みで母に木刀を見せる。だが、母は困ったような顔をした。


「ごめんなさいリガロ、母さんその形の剣は得意じゃないの。」


 オーソドックスな直剣だったのだがお好みでないらしい。


「じゃあ母様はどんな剣がいいですか?」


 好みじゃないなら好みに合わせてやればいい。なんせ魔法まで含めて五分で作れるのだ。


「そうね、レイピアって分かるかしら?」


 イメージぴったりないいセンスだ。美人が使う剣といえばレイピア、何故気付かなかったのか。


「こんなんですか?」


 木のレイピアは強度が不安だったので土と火と水の三属性混合魔法である金属魔法で作り上げる。ちなみにこれはかなり魔力が必要な魔法らしい。魔力量を増やしすぎてもはや雀の涙である。


「そうそう、これこれ!」


 しかし、どうせ美人に使わせるなら意匠の凝ったレイピアがいい。


「ちょっと待ってください。」


 私はそう言って部屋に戻り色々とレイピアを魔改造する。柄には装飾を施し、アームガードは風と羽をイメージしたデザインのものを取り付ける。鍔は妖精の羽をイメージして完成だ。どこに出しても恥ずかしくない最高の剣の出来上がりだ。ちなみに、自分のレイピアは適当に作った。


「母様! できました!」


 今度こそ満面の笑みで母に剣を渡す。


「え? えぇ? あなたがこれ作ったの? あの短時間で?」

「そうですよ! 父様の教えてくれた魔法でちょちょいのちょいです!」

「そうなのね……。びっくりしちゃった!」


 するだろうな、六歳児かこんなもの持ってきたら私だって驚く。なんせ、デザインだけならかなりハイクオリティだと思うし作りもしっかりしている。


「母様、道具も揃いました! これで教えてくれますね?」

「残念、まだ揃ってないのよ。だから、先に庭に出てて。母さん、武器庫から籠手持ってくるから。」

「わかりました!」


 言われた通り、私は庭で待っていた。すると母はすぐ来て、私に籠手を渡してくれた。渡された籠手は左手用のみで、関節部分がやたら頑丈に出来ている。かなり特殊な籠手だろう。


「さて、お稽古を始めます。母さんの剣は少し特殊だけどそれなりに強いのよ。」

「楽しみです!」

「じゃあまず全力で打ち込んでみなさい。口で話すより、見て、試して、それからあった教え方を考えたげる。」

「じゃあ遠慮なく行きますよ。」


 そう言って私は母に向かって突きを放った。突進と、全身のバネの力と腕力全てを乗せた渾身の一撃だ。自分で言うのもなんだが上出来だと思った。


 だが、母はそれを難なく弾くと私の突進の勢いを領して最大威力の刺突をお見舞いする。

 と、見せかけて剣が私に触れる寸前に剣を捨てて私を抱きしめた。


「んー! いい突き! 理論は完璧、だけどまだ体がついて行ってないわね。」

「簡単に弾かれてしまいました……。」

「当たり前、お母さんこれでも強いんだから。」


 少し複雑だ、簡単に弾かれてしまったしその上こっちの特徴まで見抜かれてしまった。かなり余裕があったのだろう。


「さて、じゃあさっき母さんがやったように弾いて見せて。まずは何も考えずにやって見せて。」

「はい!」


 そろそろ「あい!」も卒業だ、さすがにこの歳でそれは恥ずかしい。


「行くよー!」


 そんなことを考えると母は私に向かって突きを放ってきた。だが、予想してたのよりゆっくりだ。きっと手加減してくれてるのだろう。


 剣の軌道を見て、その先に置くつもりで籠手を置く。しかし、母の剣は途中で急に方向を変え外側からえぐりこむように肩を射抜く軌道になった。予測では心臓だったのだが大きく外れたせいで弾くことはものすごく困難になる。だが、出来ないことはないと思い身体強化の魔法を詠唱破棄で唱えて軌道に追いつく。


 それでも甘かったのだ、母の剣は宙を舞い拳が私の体にそっと触れる。強い、なんてもんじゃない。化け物だ。なぜなら母が無造作に投げ放ったと思った剣は今母の左手にあり、右手は私を打てるぞとばかりに添えられて、剣を取った左手まで攻撃の構えをしている。


「何がいけなかったかわかった?」

「全然わかりません。」


 正直一撃の攻防の密度が高すぎて理解がさっぱりわからない。一秒にも満たない時間で三度の攻防があり、母はさらに余力を残している。


「じゃあ、ちょっとアドバイス。もうちょっと早く根元で母さんの手を弾いてみて?」

「あ、なるほど。」


 そして、教えるのがとてもうまい。どういう意味か一連の攻防を経験したからこそわかった。攻防の時間を短くしてしまうのだ。


 振り始めてから振り終わるまでどうしても時間がかかる。だから、振り始めてから当たるまでが攻防なのだ。それをこっちで勝手に途中で止めてしまうと相手には不都合なのだ。つまり、振り始めを弾く。


「二回目、行くよー!」

「はい!」


 さっきと同じゆっくりめの刺突が向かってくる。だから母が突こうとしたところを弾きかえす。今度は成功だ、だが早めに弾く分必要な反射神経が半端ではなかった。


「出来たね、上手だよ。だけどもう一つだけすぐに上手くなる方法があるの。」


 そんな甘い言葉には釣られない……。


「教えてください。」


 甘い言葉には勝てなかったよ……。


「今度は剣じゃなくて母さん全体をみて。そしたらきっと殺しが見える。」

「殺し?」

「殺しは、そうね攻撃する意思みたいなもの。殺気とか、気迫とかが一気に変質する瞬間でわかる?」

「なんとなく……。」

「そう、こんなものなんとなくでしかわからないから理解もなんとなくでいいわ。やってみて。」

「はい!」


 母の突きを受けるのは三度目だ。今回は、母全体を見て突きが来るタイミングを探る。

 すると、これまでは腕しか見てなかったからわからなかったがまず足が動くのだ。次に、体がねじれて力を貯める。肩が動いてしっかり照準を定める。最後に足が内にしまって力を解放する準備をして一気に、自動的にそれが突きへと収束する。


 こうしてみると、隙が少なく出が早いはずの刺剣なのにもかかわらずのろい攻撃に見える。弾くのは簡単だ、足がしまった時に手を軽く弾く。それだけで、力の指向性が崩れ体制が崩れるのだ。もちろん、成功した。ものすごく簡単に思えた。


「どう?」

「すごく簡単でした……。」

「でしょ?実はこの技は相手の剣じゃなくて相手を見る技なの。」

「わかりやすくやってくれたんじゃないですか?」


 母はニヤリと笑った。この笑いは何度か見ている、何かを披露したい時の顔だ。


「母さんの本気の突き見たい?」


 だが、毎度見てみたい気持ちがもともとあるものを見せようとしてくるものだからたちが悪い。


「見たいです。」


 正直すごく見てみたいのだ。


「じゃあ、これ投げて。」


 母が私に渡したのは一枚の葉っぱだった。きっと落ちる間に突きを当てるのだろう。それだけでもかなりの難易度だが、この化け物がそれで終わる気がしない。


「はい。」


 言われるがまま、一枚の葉っぱを空中に投げた。


 次の瞬間、ヒュンと風を切り裂く音だけが一度聞こえた。その後、母は何もせず葉っぱが落ちるのをただ見ていた。どう見ても、構えすらしていない。


 不審に思い、私は落ちた葉っぱを見た。正五角形の頂点の場所、そしてその中央に穴が空いてるのだ。母は構えすらいないのではない構えも突きも何も見えなかったのだ。音すら重なるほどの一瞬の連撃で母は一瞬の間に剣を抜いて葉っぱ六度ついて剣をしまった。化け物すら生易しい強さだ。


「ね? 強いでしょ?」


 開いた口がふさがらないとはこのことである。強すぎるのだ。

 さらに、実戦ではこの超音速の突きに加え極限まで研ぎ澄まされたパリィもあるのだ。この母親と戦う相手が本当に気の毒に思えて仕方がない。


「いずれ、これを弾けるようになってもらいます!」


 気の毒な人は私だった。これを弾けるとかどんな化け物なのだろうか。

 それにしても、父がこれと同格な魔術師だとしたら父の本気も恐ろしい。なんて夫婦だ、この夫婦と出会ったらたとえ龍だって可哀想な扱いを受けるに決まっている。


「断言します。無理です。」

「残念ながらできるようになります。リガロは筋がいいの。」


 化け物に目をつけられました、とても怖いです。その化け物とは母親です、逃げ場がありません。つまり、詰みです。


 その後毎日剣の稽古をしてもらったが、母は私が反応できるギリギリで私が根をあげるまで突きを放ってくる。だが、失敗することが極めて少ないのだ。調子に乗ると失敗させられて、真面目にやると成功させてくれる。教えるのまでうまいのだからどんな完璧超人なのだろうか。


 だが、母に欠点があることを私は知っている。少々ドジなところだ。だが、それすらも魅力の範疇だ。息子じゃなかったら信者になるだろう。これは母親じゃなくて戦女神だ。

主人公両親のチートっぷりがやべぇ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ