第一話ーセラフィナの言語学ー
この世界に生まれてから1年半が経った。首も座り這い回ることもできるようになった。残念ながらまだ立つのは少し難しい、足の筋肉が足りないのだ。
残念といえばもう一つ残念なことがある。それは、離乳食がまずいことである。いや、味だけなら良いのだ、それなりに美味しいと言っても良い。ただ、歯ごたえが欲しいのだ。とはいえ、まだ歯が生えそろわない私に歯ごたえがあるものなど食べられるはずもない。
「リガロー、ご飯でちゅよー。」
そういえばこの世界の言葉を覚えた、毎日のように両親が話しかけてくれるおかげで少しづつニュアンスがわかっていくのだ。
「あい!おかたま!」
かわい子ぶってるつもりは全くないのだ。舌の筋肉が足りずどうしてもこんな喋り方になってしまうのだ。しかし、両親は天才だなんだと騒ぎ立てた。
まぁ、一歳の子供がこんな返しをしたら私だってびっくりする。同時に抱きしめる、頑張って大人と同じ言葉を使う頑張ってる子供なんて可愛い盛りである。実際それは自分のことなので全くもって可愛いだなどと思えない。なんとも勿体無いことである。
「うふふ、本当にリガロはおしゃべりが上手ね。」
にしても、我が母は子煩悩である。ことあるごとに緩みきった笑顔を私に向けるのだ。全く、これが母でなければ私に気があるのではないかと勘違いしてしまう。
そう、一つ言っておかねばならない。我が母なのだがとんでもない美人である。白金色の長い髪、真紅の瞳、白磁の肌、プロポーションも抜群ときた。まるで芸術品である。これを射止めた我が父は同じ男として妬ましくもあり、また我が父として誇らしくもある。
「リガローパパのことは呼んでくれないのか?」
父は優しそうな顔をしたかなりの美男子である。父はジョーン、母はレイダと言う名前だちなみにファミリーネームはとても長いので略してアルソードと言うことが多い。
ちなみに二度も貴族になったことがあり現在没落中である。とはいえ、二人ともトップクラスの冒険者だ。父が魔術師で、母が剣士だそうだ。普通は逆だと思う。
ちなみに父は魔術が使えない間合いでは拳闘士になる。どんな組み合わせだ。
「パパたま!呼んれやるから椅子に乗せろれす!」
親子なんだそろそろ気の置けない中になるべきである。だから私は冗談を言う。
「レイダ!リガロが冗談を言うようになったぞ!」
「嘘!?やはり天才ね……。」
しまった、一歳の子供は冗談なんて言えないはずだ。
「じょうらん言う子は嫌いれすか?」
必殺子供の武器。効果、大人は骨抜きになる。
「そんなわけないだろー!大好きだぞー!」
「そんなことで嫌いになるわけないじゃない。愛してるに決まってるわ!」
ほら、骨抜きになった。本当に大人はちょろい。そして、子供は怖い……。
私は、すっかりメロメロの父に椅子に乗せてもらって家族三人で食事を始める。
「リガロ、美味しい?」
正直に答えると歯ごたえが恋しいが、ここは子供流甘えんぼ術で行こう。
「美味しいれす!でも、かあたまやとうたまの食べてるのも美味しそうれす!」
決まった、指をくわえて瞳を潤ませる。これに殺されない大人は居ない。
「ごめんねぇ!ごめんねぇ!」
「なんで謝るれすか?」
フルコンボだドン。最近は目的もなくメロメロにするのが楽しい。悪い傾向だ、だか辞める気はない。
今思ったのだがこれは、ライトノベルなるもので言う異世界転生系主人公の魅力チートなるものではないだろうか。いや、そんなわけないな、相手は親だしな……。
親が子を可愛がるなど生きていれば腹が減るくらいに当然のことなのだ。
「おかたま、後でお勉強教えてくだたい!」
早い所時も覚えてしまいたい、だから唐突に切り出した。
「もちろんいいわ!なんのお勉強がいいかしら?」
「字を覚えたいれす!」
「そうなの?じゃあいっぱい教えてあげるわね!」
いいものだ、可愛いは武器だこの調子で籠絡してしまいには母の剣術と父の魔法どちらも我が手中に収めるのだ。魔法がいかなるものか、原理を解明したいという研究者の血も騒ぐし武器は有効活用するべきだ。剣術は、憧れだ……。効率を突き詰めた研究をしているとたまに非効率な見た目だけのものにも惑わされたくなるのだ。
食事の後、私は母と一緒に本を読みながら勉強をした。私はこっそり、母に読んでもらった字を日本語で音と一緒にメモしていた。もし見つかったとしたら音のイメージだと言い張るつもりでいる。赤ちゃん語と言うことだ。赤ん坊はたまに大人もびっくりな方法をとったりする。
いくつか本を読んでもらってわかったのだが、この世界はセラフィナと言うらしい。そして、今私たちが住んでいるのがフランベルク王国。国名は王様の苗字だそうだ。現国王は独裁者だと思われていたが、現在あの国王に任せておけは安心だと囁かれる明君になったそうだ。ちなみに、独裁者と呼ばれた時代の政策は今豊かすぎる程の国力をこの国に与えている。この国の貧乏人は、他の国に行くと小金持ち程度になってしまうのだ。馬鹿げた話である。
つまり、かなりいい国なのだこの国は。私はどうやら運がいいらしい。