その75 消化試合(発見)
じゃあとりあえず月を隠すところからだな。雲を発生させて隠せばいいだろう。
雲の発生の原理はシンプル。圧力と温度と物質の状態を表したグラ(名前は忘れた)を見れば一目瞭然なんだが、温度が高ければ高いほど同じ空間内に存在できる気体分子の数が増える。つまり、ぎりぎりまで気体になってる状態の水(飽和状態の水蒸気)を冷やしてやれば気体でいられなくなった水蒸気が水となって現れる。
それがいっぱい集まったのが雲だ。
つまりこの漁村は常に水浸しだから空気中の水蒸気は常に飽和してると考えられる。よって理論上はこの漁村の空気を冷やしてやれば雲が発生することになる。だがまあ、現実はそんなに簡単じゃない。
過冷却という現象は知っているだろうか。水を0°C以下に冷やしても氷にならないアレだ。多分気体→液体でも同じことが起こった気がする。はっきりとは覚えてないけど。まあ大事なことは、ここの空気を冷やしたところでうまく雲ができないかもしれないという事だ。
ここで大事になって来るのが凝結核だ。簡単に言うと空気中に浮かんでる塵。何もない空間に水蒸気があったとして、それを冷やしても、冷えるだけで液体にはなってくれないかもしれない。でも、過冷却状態の水をかき混ぜたら氷になるように、きっかけを与えれば状態変化してくれる。
気体の場合、そのきっかけが凝結核と呼ばれる細かい塵だというだけだ。本来なら凝結核なんて気にしなくていいんだけどここはさっきから雨が降ってるからな。もともとあった凝結核はもう流されてしまってるだろう。
てなわけで今いる小屋の家具を全部かき集めて、燃やす。これでできた灰が凝結核だ。
その灰を風魔法で上空に打ち上げる。ここでもたつくとせっかく打ち上げた灰がまた雨に流されて落ちてくるから、ここからはスピード勝負だ。
灰が上がったら上空の空気をかき混ぜて灰を拡散させる。今度は炎魔法を利用してぐぐっと冷やしていく。炎で冷やすのも変な話かもしれないが、炎魔法の本質は温度の操作、別に加熱するだけが炎魔法じゃない。と、いうことをセレネ様に教えてもらっててよかったわ~。
そうそう、今更だけど大変なことに気づいたわ。俺、ごく自然に月を隠そうとしてただろ?てことは逆にいうと月はずっと出ていた。でも、俺たちが来たことによって再び雨が降り始めた。おかしいだろ?
改めて月を見てみる。俺が雲を新たに展開したことで月自体は隠れてるが、微かに月の光が漏れててそこに月があるのがわかる。で、その月のさらに上にこの雨を降らしてる雲がある。
普通に考えて雲が月の上に展開するのはありえない。つまり、これはまだ予想に過ぎないが、この月は誰かが作ったもので、この漁村でのすべての出来事は人為的なものだ。最初から月が沈まなくなったんじゃなくて誰かが上空をすべて覆い隠した状態で月に似せた巨大な球を浮かべた、といったところか。ほかの可能性も考えられるが、確実だと言えるものは一つもないな。
まあ、わからんことをぐだぐだと考えてもしょうがない。漁村消し飛ばし計画を進めようではないか。




