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キミと僕  作者: 中山ゆう
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俺が小学校の時に出会った、親友の話しをしてもいいかな?


親友と言っても、俺たちは世間一般的に言う「親友」とは少し違うかな……まぁ、そこはいいか。


よくテレビとか本とかで、「この人に出会って僕の人生は変わった!」みたいなのあるでしょ?


簡単に言えばそういう話しなんだけれど、


いや、アイツに出会ってから自分が変わったのかどうか、って聞かれるとなんか違う気がするなぁ。


でも、アイツがずっとそばにいてくれたから俺は今こうして現実を生きられていると思うから、


アイツが俺の人生を変えたんだろうなぁ。


えっ?考えをまとめてから話せって?


何が言いたいか分からない?


そうだよなぁ、自分でもどう言えばいいか混乱しているよ。


いや、でも、この話は、どうしても聞いて欲しい話しなんだ。


時間?そうだな、分かったよ。


じゃぁ、文章にして送るから時間がある時にちゃんと読んでくれればいいや。


ん?読みやすい文章で送れって?


ああ、わかったよ!小説家みたいに、状況を事細かに書けばいいだろ


いや、小説なんて書いたことないよ。


ん~どうかなぁ~多分出来ると思うけど…


まーまー、メールが来るのを楽しみに待ってなって。


ああ、おやすみ。





ーーyou've got mailーー


ーー題名 「キミは僕」ーー


僕がこの村に引っ越してきたのは12歳の時、

両親の離婚で都会から母親の地元であるこの田舎の村に住むことが決まった。


両親が離婚する時のことははっきりと覚えていて、

僕は泣きもせず、じっと両親の決断し終わった結末を母親から聞き、ただ一言「わかった」と答えていた。


何に対しての「わかった」なのか自分自身もうまく説明できなかったけれど、

家族が離れて暮らすことに対してではなく、

これからの自分の未来に対して「わかった」と言った。


昨日までごくごく普通の家族だと思っていたのに…


知らないところで、話しは進んでいて、僕が当事者になった時にはすでに蚊帳の外だった。


今まで家族だと思っていたこの場所は、全てが嘘だらけだったんだ。

僕の中にあった家族は、父親の中にも、母親の中にもなかった。


2人はいつから僕に嘘をついていたのだろう

僕はなぜ知らされなかったのだろう


ねぇ、僕は、、僕には嘘をついてもいいってどうして思ったの?


僕は両親の嘘が許せなかった。 


こんなでたらめな家族はいらない。

自分の事は自分で育てる。


自分の未来など分かるはずもない僕が、自分の未来に希望を持つ方法は、「わかった」と答えることしか、この時の僕にはなかった。


本当は、母親に言いたいことは沢山あったと思う。

頭の奥に突如生まれたモヤモヤとした影を言葉に出来る程、大人になれていない僕。


父親と離れ離れになる事は嫌だったけれど、両親が決めた事に対して子供が駄々をこねてみても現実を変えられないことは十分、理解している僕。



母親は「わかった」と答えた僕を見て、

離婚することに僕がすんなり納得してくれていると思い、若干の戸惑いを見せながらも、ほっとしている様子だった。


「やっぱりお母さんは僕のことを理解していない…」


母親であっても我が子の思いを理解するのは難しいということはなんとなくわかる。

でも、やっぱり寂しい。


「お前は孤独だ。」と、実の母親から言われてしまったような気分になり、ただただ悲しいこの気持ちはどうしようもないのだと自分に言い聞かせながら、誰もいない心の中で声も出さずに、ひっそり泣くことしか出来なかった。



その時、初めて「キミ」が僕の前に現れた。


気づいた時には、僕より少し背が低い男の子が、恥じらうことなく地団駄を踏み、涙を流しながら母親に何かを大声で訴えていた。

そんな状況に、母親は男の子がいることすら気づいていない。ましてや、声は全く届いていない様子だ。


男の子は気づいてもらえないことが悔しいのか、さらに声を荒げて訴え続ける。


なぜか僕は、目の前で起こっているこの光景をすごく遠くから客観的に見ていた。

必死に訴えるキミと、キミに気付かない母親。。。


これは、僕のことなのかもしれない。

分かって欲しい僕と、分からない母親。。。


いつの間にか、僕の気持ちがキミの気持ちと重なり、僕は涙を流していた。


どんなに伝えても母親が自分に気づいてくれないことがわかると彼は興奮が頂点に達したのか、今度は僕のところに駆け寄ってきて、


「お前はなんで伝えないんだよ!」


とさっきまで涙でくしゃくしゃにしていた顔を鬼の形相に変えて僕に迫ってきた。



そんなキミに僕は心の奥底にある精一杯の「ありがとう」を泣きながら言うことしかできなかった。



僕は本当に感謝していた。

キミが僕の本当を知っている。

僕もキミの本当を知っている。

それだけで十分。


そう伝えると、キミはいなくなってしまった。


僕はキミがいなくなった後も、声を押し殺すように泣き続けた。

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