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黒姫の魔導書  作者: てんてん
第4章 似たもの同士の大行進
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第05話 贈り物

 数日が経ち、レネは魔法具の仕様を決め、見積りをお願いするためにダイル商会まで来ていた。予定が無い限りすぐに通されるので、さすがに特別扱いされているとは感じていた。だからといって調子に乗れば見捨てられるとも思っているので、その辺りはいつも気を付けている。


 いつも通りシャンティナは座っているレネの後ろに控えているが、以前とは違い今のシャンティナはそのうち居なくなっても気が付かないのではと思えるほど気配が希薄であった。そのためどちらも気にせずに会話することができていた。


「なるほど、そうなりますと真銀もしくは神鋼金製にしなければなりませんな。魔力結晶などでは衝撃で割れるかもしれません」


 説明を聞いて仕様を確認したダイルは、腹に一物を抱えているような笑みを見せる。知らない者なら『嘘をつくな』と思ってしまう表情であり、本当に一物抱える者は勝手に疑い自滅していくのだ。もちろんダイルは己の特徴を利用することにためらいはないが、今回は何もしていない。


『うーむ、予想通りだが高くなりそうだな。しかし、いつもながらの悪徳商人ぶりだ。見習わねば』


 杜人は見えないので遠慮なく笑っているが、レネは頬が引きつらないように我慢しながら微笑んでいる。レネに対しては誠実であり、実際世話になっているので疑いはしないが、それはそれ、これはこれである。


「こほん、材質については詳しくないのでお任せします。ただ、支払うのは騎士見習いの方達なので、高すぎる場合は製作を見合わせるかもしれません」


 誤魔化すために咳払いをし、レネは見積りだけになるかもしれないと正直に話す。黙っていても良いことだが、手間を掛けさせるので言っておこうと考えたのだ。


 貧乏から不正が横行しても困るので、騎士見習いには普通に生活しても少し貯金できる程度の給金が支払われている。といってもいつも贅沢できるほどではないので、支払える額もそんなに多くはないのだ。


 話を聞いたダイルはぐふふと笑って頭を軽く叩いた。


「これは一本取られましたな。それではできるだけ金額を抑えることができるように、色々考えてみましょう」


「えっと、ありがとうございます」


 レネは意味が分からなかったが、良いことなので微笑みながら礼を言う。そこに杜人がによによとした笑いを浮かべて漂ってくる。


『ちなみに先程の言葉には、高ければ買わないから安くしろと言ったのと同じ意味が含まれている。さすがレネ様。まさか言外に値引きを求めるとは……。雄々しく成長なされましたな。うぷぷ』


 それを聞いたレネは笑みを硬直させ、次にそんな意図は無かったのにと顔を赤らめて俯いた。その変化をしっかりと観察していたダイルは、面白そうに肩を揺らす。


「言葉とは難しいものですな。分かっておりますので安心してください」


「……ありがとうございます」


 もちろんダイルは最初から分かっていて、わざとそうとらえた発言をして見えない助言者がまだいるかを確かめたのだ。そしてレネの変化からまだいると確信した。


「そういえば、レネ様は今どの階層を探索しているのでしょう」


「もうすぐ第四十階層に到達します」


 レネは少しだけ自慢げに言う。第三十階層到達が一人前という基準であり、それを超えて更に深い階層に行くには個人の資質が必要なので、魔導書頼りであろうとも決して恥じることではないのだ。


「それは素晴らしいですな。これからもご入り用なことがありましたら、遠慮なく申し付けください」


「ありがとうございます」


『うむうむ、もっと褒めてやってほしい』


 褒められたレネははにかみながら礼を言う。杜人はそんなレネを実に良いとじっくり愛でていた。他人との交流があまり無いレネは面と向かって褒められることがあまり無い。そのためこうして褒められることが多くなれば、レネも多少は外に意識を向けるだろうと思っている。


 からかい気味の言動も、気持ちが内向きにならないようにとの配慮である。だからいつも最後にはわざと捕まるようにしている。やり方はともかく、杜人はきちんとレネのことを一番に考えているのだ。


 ダイルは現在の実力も申し分ないことを確認したので、解決につながるかもしれないちょっとした情報を与えることにした。


「さて話は変わりますが、レネ様は迷宮で硝子天馬を見たことがあると思います。それが居る階層には探索者が多い理由をご存知ですか?」


「確か、得られる硝子がそれなりに需要があるからなはずです。ただ、売れる値段の割に人が多すぎるような気はします」


 レネは魔物についての資料も読んでいるので、思い出しながら答える。透明な硝子は色々な用途に使用できるので、駆け出しを過ぎた辺りの探索者の収入源になっているのだ。魔法を受けると何も残さずに消滅するので、魔法使いが行くと嫌な顔をされる階層でもある。


 ダイルはその通りと頷いて続きを話す。


「実は、稀に手の平にのる大きさの硝子天馬が出現することがあるのです。これが好事家の間で高値で取引されているのですよ。普通のものと異なりすぐに逃げてしまうので捕まえるのは容易ではありませんが、手に入れることができればひと財産になるでしょうな。ですから、その夢に憑りつかれた者がいつまでも居るため、他の階層より多くなっているのです」


 基本的に魔物は階層を移動しないが、できないわけではない。そのため捕らえる道具や持ち出し許可などの準備さえすれば、外に連れ出すことも可能なのだ。


「そうなのですか」


『面白いな』


 書物には書かれない裏事情を聞いてレネは楽しそうに微笑み、杜人も一攫千金の夢に挑む者達を思い描いて心を躍らせる。


「そして近頃は捕らえることができた者が居ないので、取引価格も高騰しています。もし見かけて捕らえることができましたら、ぜひ私共へよろしくお願いいたします」


 そう言ってダイルは深々と頭を下げた。


「え、はい。そのときはよろしくお願いします」


『ありがたいことだな』


 一攫千金より階層を進めたほうが魔導書の力が増し結果的に資金も増えるので、もうその階層に行く予定のないレネは戸惑いながらも頭を下げた。そして杜人はダイルの厚意に感謝し、まだ分かっていないレネに後で教えることにしたのだった。





 寮に帰る道すがら、レネは先程の話題はなんだったのかと首を捻る。


「うーん、どうして今頃なんだろう。もう進んだほうが儲かるって分かるよね?」


 いくら高額で取引されていようと、手に入れるのに時間がかかるようでは地道に進んだほうが効率が良いと分かる。それに魔法書購入のために資金を集めているといっても、この話で集めるのは何か違うとレネの感覚が訴えていた。だから自分のために動く気にはならなかった。


 不思議そうに聞かれたため、杜人は待っていましたとばかりに話し始めた。


『簡単なことだ。その希少な硝子天馬を、騎士見習い達を連れて捕まえれば良いと教えてくれたんだ。迷宮に組んで入れば分け前は均等分けが基本だから、レネが捕まえても資金を与える言い訳に使える』


「……そっか、言い訳ができれば納得できるしさせられる。毎回は駄目だけれど一度なら、だね?」


 おんぶに抱っこ、金銭の貸し借りや与えるだけではレネも納得できないし、真面目なノバルト達も受け取らない可能性がある。だが、一度だけ共闘して得たものならば目を瞑れる。そのための形式を整える手段をダイルは教えてくれたのだと気が付いた。


『その通り。こういう言い訳は意外と大切なものだ。特に相手の面子を立てる場合は、尚更気を付けないと騒動になるかもしれない。真っ直ぐで正しい選択が正解ではないことは結構あるものだからな。今回の助言もこうすれば良いとは言わなかっただろう? 言えばレネの不明を指摘することになって角が立つ。なにしろレネを怒らせるとどうなるか分からないからな。噂とは本当に恐ろしいものだな。ふふふふふ』


「うむぅ」


 レネは感心して聞いていたのだが、最後のからかいを聞いて杜人を捕まえるために手を振り回す。だが杜人は笑いながら器用に避けて捕まらない。レネも本気で捕まえようとはしていなかったので、そのうち諦めてそっぽをむいた。


 学院に流れる噂の最新版では、『殲滅の黒姫』を怒らせて生き残ったものは居ないということになっていた。もちろん出所は騎士学校でやらかした一件である。


「ふんだ、ばか」


『お褒め頂き光栄に存じます』


 頬を膨らませるレネを愛でながら、杜人はダイルのことを思い返す。


『これは俺の存在に気が付いているな。……まぁ、大丈夫だろうが対策は考えるか』


「ん? なに?」


 呟きを聞いたレネが首を傾げて聞き返してくるが、杜人はなんでもないと笑顔で手を振る。すべて教えることが優しさではないと知っている杜人は、見えないところで努力をするのであった。






 そんな会話をしながら商店が軒を並べる通りを歩いていると、珍しく通りの一角に人が集まっていた。


「何だろう?」


『何だろうな?』


 レネと杜人は揃って首を傾げ、迷わずそちらに足を運んだ。この辺りの思考はとても似ている二人である。後ろに居るシャンティナもそれに続くが、リボンは期待に揺れていた。


 近くによると、なにやら怒鳴り声が聞こえてきたので、楽しい催しではないことは理解した。


「喧嘩かな? ……うーん、見えない」


『見てくるから少し待て。……げ』


 小柄なレネでは人だかりの中を見ることができず、杜人が飛び越えて確認に行った。そしてそこでは、探索者達に挟まれて騎士見習いであるセラルとミアシュが品が良い普段着で背中合わせに立っていた。そして今は互いに睨み合いを続けているが、一触即発の状況となっていると判断した。


 そのため杜人は、これはまずいと大急ぎでレネの元に戻り状況を説明する。


「ど、どどどうしよう……」


『少し待て。状況が良く分からないが悠長もしていられない……、良し。レネ、都度指示を出すから、それを反復してくれ。顔は笑顔で固定。星天の杖を持て。話すときは意図的にゆっくりとしてくれ。良いな? 動揺を見せるな。常に顔を上げていること。最初はどうしたのですかと聞いてくれ』


 杜人は急いで考えをまとめるとレネに星天の杖を持たせ、端末石を操作して周囲に浮かべる。レネも杜人が何をしようとしているのかを察して汗をかき始めるが、悠長にしている時間はないので唾を飲み込んで覚悟を決めた。


 そして杜人は端末石を点滅させて目立つように周囲を巡らせる。気付いた群集達は何事かと後ろを振り向き、緊張して僅かに威圧が漏れているレネに気が付くと表情を固まらせて脇に避けた。レネはできた道を緊張しながら歩いていき、あっさりと睨み合いが続いていた現場に到着する。


 不自然な群衆の動きは当然当事者達も気が付いていたため、自然に注目を向ける。そして現れたレネを見て、全員が無意識に身体を硬直させた。


「どうしたのですか?」


「はっ! 休暇中私用で赴いた際、店と探索者が争う現場を発見、仲裁しているところです!」


 周囲を威圧する雰囲気を放っているレネにセラルとミアシュはすぐさま右手を左の肩口に当て、セラルが状況を説明した。


『仲裁? ふむ……何故仲裁に入ったのに囲まれて睨まれていたのですか、だな』


 レネはそのまま繰り返すが、見事な棒読みである。しかし、幸いなことに威圧のおかげで平坦な声は感情を抑えているように響き、恐ろしさを増幅していた。そのためセラルとミアシュは背中に汗をかき始め、探索者達も動けずにいた。


「私達を愚弄する発言があったためです」


「分かりました。それで間違いありませんか?」


「あ、ああ」


 レネは頷くと今度は探索者達に話しかける。背筋に冷たいものを感じている探索者達は反論せずにぎこちなく頷いた。


 探索者達からすれば突然現れたレネに威圧されたものの、萎縮するほどではなかった。しかし、セラルが迷わず敬礼をしたため、レネが二人に命令を出せる立場に居ると判断できた。そして何より星天の杖を持つレネの姿はとても有名であり、ひと目で誰なのか分かった。そのため我を張るまではしなかった。


『ふむ、思わぬところで二つ名が役に立ったな』


 杜人は端末石を動かして当事者を囲むように配置し、魔法陣を展開する。このままなら説得で大丈夫そうだったが、頭に血が上っている者が居たり、感情で争っていたりした場合は治めきれないので、穏便に済ませるための準備である。


 レネは役に立たなくても良いと思いながらも、言われたことを実行する。


「分かりました。幸い休暇中のことですし、言い間違いは誰にでもあることです。決して愚弄するつもりはなかった。双方の勘違い。そうですね?」


 棒読みだが、展開された魔法陣と無言の圧力によって誰もが『それで治めるから手打ちにしろ』という声を聞いた。そのため互いに見つめ合うと、ぎこちなくだが頭を下げた。


「か、勘違いさせて申し訳ない」


「いいえ、こちらこそ短気を起こして申し訳ありません」


「それではこれでよろしいですね。それとこれは休暇中の部下が迷惑をかけた詫びです」


 終わったところでレネは鞄から精製した小さな魔力結晶を取り出して、探索者の代表と商店の店主に渡した。名目は詫びだが、これ以上争うなという意味を持っていることは明白である。そのため渡されたどちらも愛想笑いを浮かべていた。この程度でも一日分の稼ぎには相当するので、強制的に治められた不満より喜びが勝る。


 ちなみにレネは臨時の上司ではあるが、ここまで責任を取る必要はない立場である。しかし、門外漢が口を挟んだと思われては後で困ったことが発生するかもしれないし、勘違いするのは勝手なのであえて立場を表明した。


 人の目があるので、どちらが悪いかをうやむやにして面目を潰さず、目に見える利益をすぐさま与える。後で恨まれないためにと考えた方法がこれであった。


『良いな。撤収しよう』


 杜人は魔法陣を消去し、端末石を星天の杖に貼り付けた。そしてレネは注目を浴びながら、セラルとミアシュを連れてその場を後にしたのだった。






「それで、どうしてあんなことになったの?」


「実は……」


 視線が切れたところで歩きながら事情を聞いたわけだが、あんまりな事情にレネは頭痛がしてきて、杜人は頭を抱えていた。


「美形だからとか、佳い女をはべらしてとか……。言われても困るよね?」


「ええ、まあ……」


「困ります」


 怒りの矛先がそれた理由が、仲裁に入ったセラルの顔であり、傍に美人のミアシュが居たことであった。さすがにこれでは回避のしようがない。せいぜい最初から関わらないか短気を起こさないように我慢する程度である。そしてセラルとミアシュはからめ手が使える性格ではなく、愚弄には反発する性格である。要するに交渉役には向かない性格なのだ。


『正しいことが必ず通るわけではないから難しいところだな。かといって悪いと言うわけでもなく、一定数は居ないと世の中が腐ってしまう。本当に難しいな』


 杜人は争う原因になったセラルとミアシュの性格を悪いとは思わない。堅物が居ない社会は容易に変質し、人は楽なほうに流れやすいためいずれ根元まで腐ると思っている。


 そしてこういう人は指揮官には向かないが、それを支える副官としては能力を発揮する。なぜならば、言われたことを実直にこなすからである。だから否定することは、少なくとも杜人はしない。


「休暇中だから正式な報告はしなくて良いと思うけれど、一応騎士学校には口頭で報告しておいてね」


「分かりました。今日はありがとうございました」


「ありがとうございました」


 レネも分かるので特に注意は行わず、簡単な指示だけで終わらせた。そして別れた後、大きくため息をついて肩を落とした。


「そんなに怖かったかなぁ……」


『気にするな。人は雰囲気に簡単に飲み込まれるものだからな。そのために端末石を使ったんだ』


 杜人は場に満ちた緊張感を自分が作り上げたことにする。決してレネが無意識に威圧していたとは言わない。そのためレネは小さく頷くとそれもそうだと納得した。


「それにしても、本当に大変だよね……」


『まあな、大変だよな……』


 生まれ持った資質に難癖を付けられてはどうにもならないと、レネと杜人は揃ってため息をついたのだった。






 最近のレネは、午前中に臨時司書の仕事や迷宮にて資金稼ぎを行い、午後に騎士学校に赴いて教官として働いている。


 魔法学院の講義にほぼ出ていないレネは毎日のように顔を出しているので、教官としてはとても熱心と騎士学校の関係者から高く評価されていた。


 おかげで四人が寝込んでも、鎧がへこんでいても、嫌味や文句を言われずに済んだ。ちなみにレネに役立たずを押し付けた人は、放置すると白い目で見られることになるため、逆に便宜を図らなければならなくなっていたりする。


 そんな裏事情は知らないのでレネの行動は変わらず、昼に魔法の術式を教え、夜には観察及び計測した結果を杜人と話し合い、良い案がないか考えていた。


「うーん……。無理そうだね」


『そうだな。これは無理だな』


 レネと杜人が見ている資料は、瞑想を始めてからの魔力を感知する能力の変化を書いたものである。そしてそこには見事に全員上昇していないことを示す結果が並んでいた。


「やっぱり魔法具を使ったほうが良いかなぁ」


 見積りをお願いしてはいるが、まだ金額は出ていない。しかし、放置してこのままの現状が続くのならば、教えられた方法を使って資金を強引に作り改善したほうが良いかもと考え始めていた。


 術式による魔法を使うことができないと分かった時点でレネの責任は無くなっているのだが、真面目な彼らに対して『無理でした。後は知りません』とはしたくないのだ。せめて騎士として胸を張って戦えるようにはしてあげたいと思っていた。


 杜人はそんなお人好しなレネを否定しない。むしろそれで良いと思っている。それはいつかレネの力になる。そう確信していた。そのため杜人も真剣に対策を考える。


『それは最後の手段とするとして、とりあえず試せるものは試してみないか? もしかしたら適性があるものが見つかるかもしれない。原初魔法に似たものなら可能性は一緒だと思う』


「そうなると騎士だから……、武技関連かな? けれど、あれも能動的に魔力を動かして使うものだよ。過去の事例でも不感体質の人はほとんど使えなかったみたいだし」


 それを聞いた杜人は座卓を歩きながら顎に手を当てて考える。レネは黙ってそれを見ていた。


『武技は使おうと意識してから魔力を練り上げ発動させる。だから能動的に使う魔法に分類される。これで合っているか?』


「合っているよ」


 発動形態が違うだけで、根源は今の魔法と変わらないのだ。杜人は頷くと次に移る。


『武術の達人は修練を繰り返すことによって、意識しなくても条件が合えば身体がその通りに動くという。ならば、武技の発動原理を逆転させることはできないだろうか。つまり、発動するための条件を先に作り、その条件が揃ったときに自動で発動する感じにだが。そうすれば魔力を感知できなくても使えないか?』


「んー? 有効なのは分かるけれど、まずどうやって武技を身体に刷り込むの?」


 肉体の動きだけならば修練で刷り込めるが、そこに魔力を運用した武技を憶えさせるには、最初に意識して使い肉体に刷り込まなくてはならない。魔法具を使えば可能だが、それでは代替手段とは言えない。


『……駄目か』


「駄目だねぇ」


 そのままどちらも悩み始める。そんなところに飲み物を持ったジンレイが現れ、座卓に置く。


「武技は魔法のような現象を武器や肉体にまとわせたいという遊び心から偶然生まれたものです。つまり、こうありたいという強い思いが大切になります。今は効率化されているので修練もそれに準じていますが、元々は効率など考えずに想像のみで繰り返し修練を行いました。それなら可能ではないでしょうか」


 ジンレイは一礼してそのまま退く。元が古い存在なので、効率化されたために失われた修練法もジンレイは知っているのだ。それを聞いたレネと杜人は顔を見合わせると、なるほどと手を叩いた。


「そうか、特定条件で特定の想像をしながら修練すれば、そのうち意識しなくても想像するようになるね。それが結びつくかは分からないけれど、やる価値はあると思う」


『そうだな。それなら金をかけずに済むかもしれないな。良し、条件や想像するものを考えてみようか』


 行き詰まった思考が解放された勢いのまま、レネと杜人は笑顔で案を出していく。それをジンレイは少し離れたところから暖かい瞳で見守っていた。


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