tmp.41 そして季節は過ぎていく
技術者の教育や知識の伝播、生活用品の普及が終わった頃、ついに隠れ里に冬がやってきました。この地域は流石に北の大地と呼ばれるだけあって、冬季は少々長く雪も相当すごいことになるそうです。といっても今年はご主人さまの活躍もあって冬を越すのに蓄えは十分、春にはベイビーラッシュが来るかもしれないとかなんとか。
まぁ雪で外に出られない日々、夫婦が一つ屋根の下ですることなんて一つだろうとリアラさんが怨嗟をにじませた声で酒瓶を抱きしめながら語っていたので、きっとそんな空気が漂っていたのでしょう。あれはクリスマスの繁華街を手をつないで歩くカップルを眺める、実家に帰る度に「良い人いないの?」「アンタも良い年なんだから」と母親にチクチクされている20代後半の独身女性かっこ彼氏募集中かっことじのような瞳でした。
ここ暫くは余裕がなかったために子供を作ろうという夫婦はいなかったようなので、実に数年どころか数十年ぶりに訪れたこの機会、冬が深いほど彼等が熱く燃え上がるのは必定とも言えるようでした。
◇
「いらっしゃい」
「よろしくお願いします!」
やさぐれエルフが今夜あたりから雪が降るだろうと吐き捨てるように言った天気予報のせいか、クリスさんが離れへとお泊りにきてました。ただし大荷物……明らかに数ヶ月単位で泊まる気満々な装備をひっさげて。
ボク達の拠点である本邸は一階にリビング、大浴場、ダイニングキッチン、応接室。工房、二階に主人の寝室、書斎、ボク達の部屋が四つに客間が二つとかなり大きなお屋敷です。対して葛西さんの希望で作られた離れは一階建ての3LDKくらいで、一般的なマンションってこんな感じ? っていう間取りのお部屋です。
そして離れと言っても徒歩数分どころか目と鼻の先で、何故か道沿いに設置されている街灯と暖炉石……魔力を込めると熱を発生させる石を設置されているため、冬でも行き来できるようになっています。ある意味では隠れ里の内部よりも往来が簡単です。
最もクリスの方は顔に家から出る気ほとんどありません! と書いてありますけどね。冬が開けた時に葛西さんがミイラになっていないことを祈ります。春に産まれるであろう彼の子供のためにも頑張ってもらいたいものです。
「ソラちゃんもよろしく……ってどうしたの?」
恋人の荷物を持って離れへと置きにいった葛西さんを見送り、クリスが目ざとくボクを見ながら話しかけてきました。因みに今は腰に湿布を貼りつけてソファーでうつ伏せになっています。
「気にしないで下さい、反逆の代償です」
「旦那様のスープに大量のセキトウを入れてさっきまでお仕置きされてたんですよ」
「あー……」
「ユリアは余計なこと言わないでほしいのです!!」
セキトウっていうのは、言ってしまえば赤いワサビです。港町で大量に手に入ったので気軽に使えたんですよね。火を噴く勢いでのたうちまわるご主人さまを見れたのまでは良かったのですが、逃げそびれて捕まって、泣いて謝って卑猥な言葉まで叫ぶはめになったのは誤算でした。
今回に限っては正当な報復行為なのです、だってあいつら、またボクを除け者にして刺身と味噌汁で炊きたて御飯を食べていたのです! しかもその理由が昨晩のお勤めで力尽きて朝起きてこなかったとかいうふざけたものでした、絶対に許されないのですよ。今日の分も含めて必ず倍返しにしてやるのです。
ただ貴重な食べ物で遊ぶべきではなかったとボクも思います。なので次はもっとうまくやるつもりなのです。
「そういえばそのシュウヤさんは?」
「旦那様なら工房で何か作るとか言ってましたけど」
「あー、じゃあ後で改めて挨拶に行きますね、邪魔したら悪いですし」
ボクを散々いたぶったご主人さまは素材を抱えて工房へと篭ってます。冬の間は趣味に時間を費やすそうなので、魔道具でも作っているのでしょう。……趣味の中にボクを虐めることが入っていないことを祈ります。
「わかりました、お伝えしておきますね。
今日は海の幸を使ったヨセナベをやる予定ですから、お二人ともよかった」
「わぁ! 是非是非!」
チートなアイテムボックスのおかげで新鮮な魚介類も食べられます。島の生活で大量に狩猟しておいた甲斐があるというものですね。寄せ鍋もパーティ料理の一種として認知されつつあります。
「クリス、荷物運び終わったぞー」
使われる魚の種類を耳をピコピコさせながら聞いていたクリスでしたが、全て聞き終える前に葛西さんが荷物を置き終わって戻ってきました。
「あ、マコトさん……それじゃあ一度部屋に行きますね、
ユリアさんもソラちゃんもまた後で!」
「はい、また後で」
「新生活楽しんでらーなのですよー」
今回に限っては食い気より色気みたいで、にっこり笑ったクリスが葛西さんと腕を組みながら本邸を後にしました。クリスが幸せそうで何よりなのです、葛西さんは世の中の猫耳美少女を嫁にしたいという叶わぬ夢を抱く青少年達に爆発の呪いでもかけられるがいいのです。
◇
まだちょっと力の入らない脚を引きずって工房の方に顔を出してみると、ご主人さまは見事に作業中のようでした。気配を出したまま近づいて背中から肩に顎を乗せて覗きこんでみると、四足のテーブルらしきものの天板に一心不乱に何かを刻んでいるようです。
「何作ってるのですかー?」
「ん、いいものだ」
背中に伸し掛かりながら聞いてみると、ご主人さまは作業の手を止めずに視線だけをこちらに向けて答えました。いいもの……といっても見た目からまるわかりなのですけどね、ボクも中身は日本人ですので。
「コタツですか?」
「……正解」
一瞬の動作で身体をひねったご主人さまに腰を抱き寄せられて、膝の上に乗せられました。こんなことして作業はいいのですか作業は。
「寒くなるとどうしても人肌恋しくなるからなぁ、
故郷を懐かしんでコタツで肩を寄せ合うのもいいかと思って」
「そうですね、是非ルルやユリアと肩を並べてあげてください」
いい加減ボクの貧相な身体を弄るのはやめて、豊満なあのメスどもを好きなだけ愛でれば良いと思うのですよ。というかなんで執拗にお腹を撫でるんですかねこの人は。
「なぁ、ソラ」
「何ですか?」
両手でお腹を触る腕を引き剥がそうとしていると、何か真剣な感情を乗せてご主人さまは言いました。
「お前ちょっと太った?」
「――な、ん」
い、いきなり何を言い出すのですか、思わず口ごもってしまいました。
「いや、今朝も気になってたんだが、なんかこの辺がな……」
「ちょ、やめてください、もまないで!?」
ぷにゅぷにゅと服の上から人のお腹を遠慮無くもんでくるご主人さまを殴りたい衝動に駆られますが、ボクが体重を気にしてるように取られるのも癪なのです。
「まぁ今くらいなら抱き心地がいいからむしろ嬉しいんだが、
…………これ以上太ったらダイエットだな」
「ひっ!?」
不穏な響きを感じました、この冬の間中、外に出ることは叶いません。となれば変態野郎の考える運動なんて一つだけ……。何としてでも回避しなければ!
「だ、大丈夫です、自力で痩せます!」
「本当か?」
「本当です!」
だからお腹を揉むのはやめて下さい! あとどさくさにまぎれてお尻を触らないでください! ともかく体重を減らす手段を考えないといけません、といってもルームランナーの類は無いですし、フェレの部屋のプールは運動目的で泳ぐには小さすぎます。
「で、どうやって体重減らすつもりなんだ?」
「と、とりあえずユリアに頼んで減量メニューと……、
あ、さ、サウナとかどうです? お風呂の横に作るの!」
「サウナか、意外と悪くないかもしれん」
よし、意識が逸れたのです。素早くご主人さまの腕の中から脱出して工房を後にします。サウナはボクも入りたいですし、作ってくれたらめっけものでしょう。とりあえずは暫く体重に気をつけた生活を送らないといけませんね。
はぁ、気が重いのです。
◇
ユリアにダイエットの事を伝えたところ、夕飯の席で彼女は良い笑顔を浮かべて、いつもより鍋の具を多目によそってくれました。
ボク、何か彼女に嫌われる事したんでしょうか……。
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【24】----◇【0】----◇【0】
[◇TOTAL HIT}----◇【24】----◇【0】----◇【0】
---------------------------------------------------
[◇TOTAL-EXP}--◆【920】--◆【360】--◆【380】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv95]HP2086/2086 MP3133/3133[正常]
[ソラ][Lv22]HP10/63 MP1012/1012[疲労]
[ルル][Lv65]HP952/952 MP40/40[正常]
[ユリア][Lv51]HP1860/1860 MP92/92[正常]
[フェレ][Lv33]HP210/210 MP732/732[正常]
[マコト][Lv66]HP1733/1733 MP187/187[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>34
[MAX HIT]>>34
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【一言】
耳「ごはんが、ごはんが美味しくて止まらないのです」
牛「さぁ、たんと召し上がってくださいねお嬢様」