tmp.38 まだまだ続くよがーるずとーく
「ソラ、ソラ!」
「……ふあ?」
目を開けると、そこには不機嫌そうなご主人さまの顔がありました。窓の外はすっかり暗くなっています、ボクは一体……うわ、酒くさっ?!
「一体にゃにが……」
「それは俺が聞きたい、どういう状況なんだこれは」
部屋の中を見渡すとリビングでは服が散乱していて、フェレがパンツ一枚のボクに抱きついていて、隣では全裸のリアラさんが酒瓶を抱きしめていびきをかいていました。……これはやばいですかね、ご主人さまの目が痛いのです。
ルルとユリアの目が"また?" "やっぱりビッチ"と声にならない言葉を紡いでいる気がします。
「また?」
「やっぱりビッチ……」
普通に声に出してきやがりました。必死で記憶をたぐります。昨日は確か、酒瓶を担いで襲撃してきた残念ロリババアをあしらっている最中に無理矢理お酒を飲まされて、テンションが上がってまたフェレとデュエットで歌いまくり、熱くなって服を脱いだら、何故かフェレやリアラさんまで裸になって……。
それからフェレやリアラさんの頬にちゅーをして、眠くなってそのままフェレと抱き合って寝たんでした。これは――――
「せ、セーフ?」
「……だと思うか?」
ですよね。
◇
「お前いい加減懲りろよ、酒は飲むな」
「ボクは悪くねぇ! 無理矢理飲ませたリアラさんが悪いんだ!」
「いや確かにそうだが……何だその芸風」
悪くない感じを精一杯アピールしてみました。
「無性に殴りたくなるからやめろ」
逆効果だったみたいです。取り敢えず居住まいを正して正座をしながらご主人さまに向き直ります。因みにリアラさんは早くも二日酔いで頭を抱えてのたうちまわってます。
「独身アラサー女子の家飲みみたいな状況になっててすいませんなのです」
「お前アラサー女子を何だと思ってるんだ……真面目にやれ」
この状況でまじめになんてやってられませんよ。間抜けじゃないですか逆に。
「はぁ、取り敢えずリアラさんは今後禁酒だな」
「にゃんじゃと!? わ、わしの人生の唯一の生きがいを奪うつもりか!?」
突然水を向けられた残念ハイエルフが頭を抱えながら身体を起こしました。
「どんだけ寂しい人生なんですか」
酒だけが生きがいって愛と勇気だけが友達のヒーローより悲惨ですよ貴女。
「こんな美味しい酒を与えておいて奪うとか、
鬼じゃ、悪魔じゃ、悪鬼羅刹の所業じゃ! わしは命懸けで戦うぞ!」
「もうこの人、石でも抱かせて酒の池にしずめませんか?」
なんかもうめんどくせぇのですよこのロリババア。どこまで堕ちるつもりですか、人間堕落するの簡単とは言いましたけどニュートンもびっくりの加速で落下してますよ。酒が悪いのか人が悪いのかという不毛な議論を巻き起こす勢いです。
「発想がヤクザになってるぞ、落ち着け、
そしてリアラさんもちょっと期待するような目をしない」
あ、ほんとだちょっとちらちら見てくる、本当にうぜぇのです。
「いや、酒に溺れるのは酒飲みの夢の一つじゃから……」
恥ずかしそうに目を逸らしました、流石に羞恥心までは失っていなかったようです。でも我が家の中でリアラさん株が大暴落のストップ安です。最初に会った時の凛とした印象は一体どこに行ってしまったのか。大人になるって悲しいことなんですね。
「どっちにせよ最近飲み過ぎだから控えるようにと、
クリス嬢もいたく心配してたんですが?」
「……ふ、ふん、わしは悪くない、酒を大量に持ち込んだお主らが悪いのじゃ!」
ついに開き直りやがりましたよこのロリババア。人はどこまで堕ちていけるのか、心理学のレポートが書けそうです。
「ハイエルフって……」
ユリアは何でボクとリアラさんを交互に見ながらつぶやくんですかね、その視線を意味を問いただすのが凄く怖いんですが。
「まぁ三人の処遇はともかく……まずは部屋、片付けて夕飯にしましょうよ」
ルルの言葉で酒瓶と服が転がっている部屋を見回して、誰もが深いため息を吐きました。
◇
夕飯の後、リアラさんはクリスさんに連行されていき、フェレはルルにお説教される事になり、ボクはご主人さまに連行されて地下室へ行き、数時間にわたるお説教の末に解放されました。ボクはもう奴隷じゃないはずなのに何でこんな目に合ってるのでしょうね。
「すんっ……くすん」
「はいはい、いつまでも泣き真似してないで寝る前にお風呂入っちゃいましょう」
「ガチ泣きです!!」
ユリアもお説教に同席していたのに、あまりにも冷たいのですよ。
「お説教、お仕置きって言っても半分以上いちゃついてただけじゃないですか」
「何をどう見たらそうなるんですか、その眼は節穴ですか!?」
目が腐ってるとしか思えないのです。節穴じゃないというのならその証拠を聞かせて頂きたい。
「本気で嫌がってなかったのは見てれば解りますって」
やっぱり節穴じゃないですか!
「あれ? 二人ともまだお風呂入ってなかったの?」
言い争っているとタオルを肩にかけた、下着姿のルルが牛乳片手にボクたちの休んでいるリビングに入ってきました。その牛乳はたぶんユリアのですね、ボクのは貴重品の回復アイテム扱いですからご主人さまの管理です。
「ちょっと現状の認識を改めてもらおうと思いまして……」
「お嬢様が、いちゃついてることを認めようとしないんです」
だから違うって言ってるのに……。
「まぁそれはいいんですけど、先輩かなり臭うからさっさとお風呂入った方が」
そんな馬鹿なと思い自分の身体の匂いを嗅ぐとこれは、酒とか汗とかアレとかの匂いが混じってこれは確かに……。
「う、うわぁぁぁぁぁん! おぼえてろですー!」
「じゃあ私も行ってきます、ベッドメイクお願いしてもいい?」
「あいよー」
呑気な会話の牛猫を尻目に脱衣所に駆け込むと、洗濯物の籠に衣類を放り込み、つながっている大浴場の扉を勢い良く開けました。
「おぉ、なんじゃお主らも入るのか」
「お、お邪魔してます」
大きな木製の浴槽に浸かっている残念ハイエルフと、金色猫のクリスの姿がありました。何でここに?
「酒の匂い落とすために風呂に入っていけと言われてのう、中々良い物じゃ」
「私も迎えに来た時に、折角だからついでにどうぞって」
「そうですか」
なるほど、まぁ折角こだわって前の家よりも大きくかつ立派なお風呂を造りましたからね、自慢したかったのでしょう。さり気なく二人の体を見ながら入り口付近に流しっぱなしにされているかけ湯を手桶ですくい、身体を流します。
リアラさんには勝利しましたが、クリスが意外な尖兵というか着やせするタイプみたいで大敗でした。年齢的には一五歳だそうですけど、この世界の獣人種ってみんな勝ち組なんですかねぇ……もいでもいいでしょうか。
「あら、リアラさんとクリスも入ってたんですね」
「おぉ、ユリアも来たか……相変わらず凄まじいの」
「…………」
そこに現れたユリアの戦闘力は圧倒的です。最近栄養状態がいいためかますます育っていて、牛乳の産出量も結構なことになってます。クリスも思わず凝視しながら自分と見比べてますね、ちょっと目が怖いです。……自信あったんでしょうか。
「お嬢様、頭洗いますからこっちに」
「わかりました」
ボクにとっては見慣れたもので、ここまで圧倒的だと逆に戦意も湧きません。洗い場で適当な椅子に座ると途中で手を当てて勢いを殺しながらお湯が髪の毛にかけられていきます。
液体石鹸を両手で泡立てて、頭皮を揉みながら毛先をまとめて洗ってもらいます。人に頭を洗ってもらうのって気持ちいいんですよね、男同士だと髪の毛洗いっこなんて絶対にしないですから、こういうのが気軽にやりやすいのは女の子になって数少ない良かったポイントでしょうか。
「ソラちゃん達が奴隷から解放されてもあの人の傍に居る理由、
私、何となくわかった気がする……」
鼻の下までお湯に沈めて、ぶくぶくと泡を立てながらクリスがぼやきました。
「まぁ、上手い飯に酒、風呂にふかふかの寝台……普通は離れられんの」
微妙に遠い目をしている二人、確かに我が家はあちらの集落と比べても圧倒的に良い暮らししてますからね。
「旦那様もお優しい方ですからね、離れる気起きませんよ」
しっかりと毛穴の汚れまで落とされてから、お湯をかけられて泡を流されます。最後にリンスを馴染ませてから小さめの手ぬぐいで髪の毛をまとめて貰い、背中をユリアに流してもらいながら前は自分で洗います。
「あれでもうちょっと淡白でエロくなければ言うことなしですけどね」
「何を言っとるんじゃ、別に他所の女の尻を追っかけまわしとるわけではなかろうに」
「最初は警戒してたけど、ソラちゃん達以外には手出す気ないみたいだしね」
ボクに手を出しまくるのが問題なのですよぅ……。
「……なんじゃ、自慢か?
自分は良い男に愛されすぎて困っちゃうとでもいいたいのか小娘!」
「何ですかその被害妄想」
ばしゃんと水しぶきをあげて、リアラさんが立ち上がります。女の子が全裸で仁王立ちはどうなんですか。
「わしとお主の違いは何なんじゃ! 同じハイエルフ、同じ美貌、同じ体型!
なのに片やイケメンを捕まえていちゃいちゃと、片や貧乏隠れ里で管理職……!
いったい何が違う! わしの古風な言葉遣いがいかんのか!?」
「強いて言うならめんどくさいところじゃないですかね」
少なくともボクはそんなにめんどくさい女じゃないのです。いやそもそも女ですらないのです、当たり前のように女性たちとお風呂に入って平気になってしまっているのは肌色に慣れてしまっているだけなのですよ。
「に、憎い……その余裕に満ちた態度が憎い!」
ついに歯軋りをしながら水面を叩きはじめたリアラさんに生暖かい視線が降り注ぎます。
「……私も彼氏ほしいなぁ」
顔半分湯に沈んだクリスの言葉の裏に、ああはなりたくないという本心が透けて見えるようです。
「だれか気になる人とか居ないんですか?」
交代でユリアの頭と背中を洗っていると、この牛さんは瞳をキランと輝かせて攻めに入りました。女の子は本当にコイバナが好きですね……。
「んー……村の男は彼女持ちかおじさんばっかりだから」
「若くて良い男は競争が激しいんじゃよ」
人口の少ない地域が抱える悲哀ですね……。最後にお湯で石鹸を流して完了です。さっぱりした所で湯船に入ります。ご主人さまいわく一度に六人がまとめて入ることを想定してるため、かなり大きいので四人だと全然余裕です。
「うーん……マコトさんなんてどう?」
押しますねぇ……。
「マコトさんって? ……あぁ、シュウヤさんとたまに一緒にいる?
うーん……悪い人じゃないとは思うけど、人間だし」
どうやら嫌っているわけではないみたいですが、種族の壁は大きいようです。
「じゃあ意外とあり?」
「うーん……難しい所?」
ちゃぷちゃぷと胸部装甲で水面を波立たせながら、新たなる猫牛コンビが見事なまでのガールズトークを繰り広げてます。男だったら視線を外すことは出来ないでしょうねこの光景。
「どいつもこいつも愛だの恋だのに現を抜かしおって……」
そしていくら身体を動かしても手足以外で水面を叩くことが出来ないボクたち負け犬組の代表であるリアラさんは、自分から振ったにも関わらず会話の内容に歯軋りをしていました。
「リアラさんはご主人さまとかどうなんですか?
ロリエルフ大好きですからイけるかもしれませんよ」
「む? うぅむ、シュウヤか……確かに悪くない物件じゃがのう、
些か傍に居る女の子が多すぎるのがのう……」
そこでちらりとボクを見ないでほしいのですが。
「お主は良いのか? わしとシュウヤがそういう関係になっても」
……良い暮らしが出来なくなるのは寂しいですが、恋愛関係は別にいらないのですよ。
「…………別に何の問題もないのですよ?」
「ほう? ではアタックしてみようかの」
ほんとに、何でにやにやしてるんですかねこの残念ハイエルフは。
◇
お風呂を上がってユリア印のスペシャルブレンドフルーツ牛乳を飲みながらリビングへ行くと、ご主人さまが何かの本を読んでいるところでした。一瞬ボクを見たかと思えば、リアラさんがにやりと笑ってご主人さまの所へ行きます。
「のう、シュウヤ?」
「……ん?」
妙な猫撫で声をあげたリアラさんに気付いたご主人さまが顔をあげます。
「ふと思ったんじゃが、
お主はエルフ好きなんじゃよな……そこでわしなんてどうかのう?」
蠱惑的な表情を浮かべて、潤んだ瞳を向けるリアラさん。ご主人さまはそれを見ながらすっと本を閉じて。
「えっ、ごめん無理……」
困惑したような、本当に迷惑そうな顔でぽつりと言いました。なんか凄く素っぽいのです。ていうか無理って、無理って。リアラさんは顔をうつむかせてぷるぷると震えだしてしまいました。いや、まさかあんな素の反応っぽい返しをされるとは流石に予想外です。
「ち……ちくしょおおおおおおおおおお!!」
叫びながら走り去るリアラさんの通り過ぎた後には、きらきら光る雫が飛び散っていました。……あの人ほんと何しに来たんでしょうか。
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【10】----◇【0】----◇【2】
[◇TOTAL HIT}----◇【10】----◇【0】----◇【2】
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[◇TOTAL-EXP}--◆【794】--◆【281】--◆【309】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv80]HP1582/1582 MP2630/2630[正常]
[ソラ][Lv19]HP29/60 MP733/733[正常]
[ルル][Lv56]HP785/785 MP38/38[正常]
[ユリア][Lv45]HP1560/1560 MP89/89[正常]
[フェレ][Lv28]HP182/182 MP530/530[正常]
[マコト][Lv52]HP1391/1391 MP157/157[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>34
[MAX HIT]>>34
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【一言】
耳「哀れなのですよ……」
牛「可哀想に……」