tmp.34 秘境のなかで
全く、股間蹴られたくらいでぎゃーぎゃー言わないでほしいのです。ちょっと息ができなくなったり内蔵がねじれたような気分になるだけじゃないですか、最初の時にボクが味わった激痛に比べれば大したこと無いのですよ、けっ!
「反省が足りないようだな?」
「ごめんなさいはんせいしてますだからゆるしてください」
心のなかで悪態をついていると、にっこり笑ったご主人さまに"身体を離され"そうになって、慌ててすがりついて謝ります。不本意ですがこれ以外にボクが生き残る手段はありません……。
◇
昨日はちょっとしたお茶目でご主人さまの股間を蹴りあげて膝を付かせてみたら、ガチギレされました。そのせいでボクは今、ご主人さまと接触していないとすんごい事になる魔法具を付けられているのです。
付けられたこの黒皮の犬用みたいな首輪が判定を行っているみたいで、身体の一部でもご主人さまと触れていないとトンでも無いことになってしまうのです。どのくらいトンでもない事になるかというと、昼間に魔法具を付けられて、放置されてから夜中に迎えに来てくれるまでの間の記憶が飛び飛びって言えばわかって頂けるでしょうか。
気絶しては叩き起こされての一サイクルを何度繰り返したのか、数えるのもイヤです。所々で何だかとても綺麗な場所に居たような記憶が混じってるのがなお怖いのです。
まぁ許してもらう条件がこれを三日間付け続けることなので、しょうがないのですが。お陰でこうやってご主人さまにべったりとくっついていないといけなくなってしまっていたのでした。
「それで、煙が見えたって?」
「あぁ、そうなんだ」
大人しくご主人さまの膝の上でパンを啄んでいると、葛西さんが気になる事を言いました。昨日ボクが罰ゲームでご主人さまにひっついてる間にルルとちょっと広い範囲の探索に出ていたみたいです。
その結果、ここから東にずっと行った所に煙のようなものが出ているのを見つけた、と。何かの集落がある可能性があるみたいでした。
「一応俺とマコト、ルルで見に行ってみるか?」
「あぁ、シュウヤが来てくれるなら助かる」
ぎょっとして顔をあげます、そんな距離まで探索に行くとなれば不測の事態を考えて一日は見るべきでしょう。となるとボクはあの状態を一日ずっと……いや死にます、こんどこそ記憶に残っているあの綺麗な場所へ身も心も旅立ってしまいます。
一瞬こちらを見たご主人さまの口元が、ニヤリと歪みました。……なるほど、よく解りました、そういうことですか、そういうことなんですねこの野郎。
「……ご主人さま、ボクも行きたいのです」
「ん? でも何があるか解らないからな……」
白々しいのです、ボクを連れて行こうとしてる時点でとっくに目星がついてるんでしょうが! でも我慢、我慢なのです。ボクは大人だから我慢できるのです。
「だ……だいすきなごしゅじんさまとはなれたくないのデスー」
「全く、ソラは甘えん坊だな……しょうがない、連れて行こう」
マジで天罰が当たって欲しいのですよこの野郎。事情を知らない葛西さんやユリアにまで生暖かい目を向けられてしまったではないですか。ルルだけが唯一何となく察して苦笑しているのが救いですね。
「わーい、ごしゅじんさま、やっぱりだいすきなのデスゥ」
半分自棄になりながら首元に抱きついて歯を食いしばって至近距離でご主人さまを睨みます。変態野郎はプレッシャーなんてどこ吹く風とばかりにボクの頭を撫でながら、実にいい笑顔をしていました。
ちくしょうめ!
◇
朝食を済ませた後、ユリアとフェレにお留守番を任せて煙の見えた場所へ向かいます。ボクはご主人さまに抱えられながらですが、自分で歩くより遥かに速いので快適ですね。
四人で一列になり、体感で一時間ほどかけて森を進むと確かに離れた空に幾筋かの煙が立ち上っているのが見えました。煙があがっている場所の感覚は一定であり何やら人工的なものを感じます。
「……一旦ここで止まろう」
ご主人さまの合図で全員が足を止めま……ちょ、ま!? 指示を出したご主人さまがボクを降ろそうとしてきたのでいやいやと首を振りながら縋り付きます。ルルだけならともかくここには葛西さんもいるのです、お願いだから勘弁して下さい。
「手つないでれば大丈夫だから、な?」
「うううぅぅ……」
何故か頭を撫でて説得されました。いや、何で甘えん坊な女の子を窘めてる図になってるんですか、これに関して言えば悪いの完全にご主人さまですよ、離れてほしいなら早くこれを外してください。
「……しょうがない、ちょっとこっちへ」
「あれ、シュウヤ様?」
ボクの視線による訴えが通じたのか、ご主人さまがボクの肩を押して森の奥へ連れて行こうとします。
「ちょっと"説得"してくる、すぐに戻るよ」
「は、はぁ……出来るだけ早く戻ってくださいね?」
「ほんと好きだなぁ……」
完全に疑ってる顔ですね、不服ですがすぐに戻ったことで汚名を被るのはご主人さまなので問題ありません。予定より早く解放されて嬉しくて仕方ないのです。
あまり大きく距離を取らず、ご主人さまが立ち止まります。
「そこの樹に手ついて」
「は、はい……」
言われたとおりに目の前にあった樹に手をついて、ご主人さまにお尻を突き出します。流石にそういう事をするつもりはないのか、ご主人さまは背後からボクのつけていた首輪に指を触れて外してくれました。ボクが何をやってもビクともしなかったのに、魔法具ってのは理不尽ですね。
「動くなよ、きつかったらこれ噛んでろ」
「ふぁい……」
言われたとおり、渡されたハンカチを口に含み、ぎゅっと目をつむります。それからご主人さまの手がゆっくりとボクのスカートをまくりあげました。出来るだけ早く済んでほしいのです……。
◇
「ひゅー……ひゅっ、ひゅー……」
"無事に"着けられていた拷問道具を取り外してもらったボクの背中をご主人さまが撫でてくれます、かかった時間は二分にも満たないはずですが、体力の消耗具合が半端ないです。
「大丈夫か?」
「ら、らいじょぶじゃ、ないのれす……」
おかげで探索開始前に一人戦闘不能ですよ、いやもともと戦力外ですけど、お荷物増えるだけなんですから家で外して置いて行ってくれればよかったのに。
「どうせ、はずしゅなら、いえで、やってくれれば……」
そんな想いを口に出してしまうと、ご主人さまが一瞬きょとんとしたあと、あからさまに顔を背けました。なんですかねそのリアクションは。
「……連れてきてから気付いた」
「ぐるるる……」
……これは噛み付いても許される気がします。唸りながら歯を剥きだして威嚇します。
「噛み付いたらまた着けるぞ?」
「きゃうん」
いえ、ボク考えなおしました、やっぱり暴力はダメです。ははは。
「さて、戻る……前に、そこにいるのは誰だ?」
「ふぁ!?」
突然ご主人さまが茂みの一つを睨んでボクを抱き寄せました。何事かと同じ場所を見ると確かに茂みが微妙に揺れています。今は風が吹いてないので生き物がいる証拠ですね。
「出てこないなら攻撃する」
ご主人さまが手のひらに火の球を浮かべながらいうと、まるで動揺したように茂みが揺れました。そしてさほど間をおかず影が飛び出してきました。
「ま、まって、待って下さい!」
影の正体は、敵意はないと両手を前に出して真っ赤な顔をした金髪の猫耳少女でした。……これってもしかして、見られてました?
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【3】----◇【0】----◇【0】
[◇TOTAL HIT}----◇【3】----◇【0】----◇【0】
---------------------------------------------------
[◇TOTAL-EXP}--◆【775】--◆【265】--◆【289】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv77]HP1262/1432 MP2230/2530[正常]
[ソラ][Lv19]HP22/60 MP733/733[正常?]
[ルル][Lv54]HP735/735 MP36/36[正常]
[ユリア][Lv44]HP1540/1540 MP88/88[正常]
[フェレ][Lv28]HP182/182 MP530/530[正常]
[マコト][Lv42]HP1020/1090 MP133/152[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>34
[MAX HIT]>>34
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【一言】
「もう女の子とか十分じゃないですかねぇ」