tmp.32 ここをキャンプ地とする
探索の結果、他に良い立地もなく湖の畔が一番生活に適している事が判明したため、無事にここに家を建てることが決まりました。ご主人さまは土魔法を使って家の土台を作ったり、建築資材を作ったりして、葛西さんはご主人さまの作った資材でうちの肉食魚用の生簀を作る作業についています。
魔法だけでなく肉体労働も合わさって体力を使い果たしているためか、最近はご主人さまも大人しいもので、ボクも安心して家造りに関する作業を行えていました。といっても粘土を捏ねて食器を作ったり、ルル達と一緒に住宅予定地の周辺に畑を作ったりとか、そんな感じですが。
食料も資材もご主人さまの備蓄がたんまりあるとはいえ、無尽蔵ではありません。仕入れのアテもないので可能な限りは自給自足出来るようにしたいですからね。みんな頑張ってます。
◇
作業の休憩時間、手にこびりついた粘土を洗い落としてお昼ごはんを食べに大分形になってきている家の前へ向かうと、木剣を持ったご主人さまと葛西さんが睨み合っていました。
野外テーブルに乗っている自分の分のサンドイッチを手に取ると、観戦の構えを取って居る女性陣の方へ行き、ユリアの隣に座ります。
「何やってるのですか?」
「手合わせだそうです」
ベーコンの挟まったサンドイッチを食べていたユリアが答えます。反対側にぴとっと寄り添ってくる海豚モドキを意識的に無視しつつ、視線を真剣な顔で立ち会う男たちに向けます。
戦いの火蓋はボクたちが見守る中、静かに切って落とされました。
葛西さんが突然土煙を上げて掻き消えると、木剣同士がぶつかり合う音がしました。音の大きさから察するに本気っぽいですね。ぶっちゃけボクには全然見えませんでした。
ですがご主人さまは涼しい顔で剣を受けきると、横に流して体ごとすり抜けます。魔法は使っていないみたいですが、やっぱり強いですね。剣閃の軌道を目で追いかけるのがやっとの斬撃をまるで風にそよぐ柳のように受け流して……おや?
葛西さんの呼吸の隙をついてご主人さまが距離を取りました。一見すると間合いを測ったようにも見えますけど、心なしか表情が硬いです。一方で葛西さんはまだまだ余裕そうな顔……ははん、さては余裕そうに見えて反撃をさせて貰えてないだけですねこれは。
ご主人さまは魔法タイプ、魔法に関しては狂ってるレベルの強さですけど、単純な肉弾戦では葛西さんに軍配が上がるようです。暴風のような連撃を受けて防戦一方になるご主人さまでしたが、やがて上段から打ち込む体勢を取った葛西さんの行動に気を取られて、柄を蹴り上げられて剣を飛ばされてしまいました。
「そこまで! 勝者、マコトさん!」
ルルが葛西さんの勝利を宣言します。おぉ、ご主人さまの悔しそうな顔とか初めて見ました。チートだからって無双してるから悔しいんですね、ざまぁみさらせなのです、けらけら。そうだ、折角だからからかってあげましょう。
「随分腕を上げたな、もう剣じゃ敵わないか」
「俺だってサボってた訳じゃないからな、
でも魔法使われたら勝ち目なくなるんだよなぁ……」
和気藹々と喋っているご主人さまの背後から、木剣を持って近づきます。
「ご主人さまってクールに振る舞ってるくせに案外剣は強くないんですねぇ」
「…………」
ご主人さまに睨まれましたが無視無視なのです。連日の建築作業で体力的にボクに手を出せない事は明白です、しかもここには地下室もありません、相手に武器がない以上怖いものなんてねぇのですよ。
「これでも一応剣道初段なのですよ、
良かったらひ弱なご主人さまにボクが教えて差し上げましょうか?」
「ソ、ソラちゃん?」
ずいっと葛西さんの間に割り入って、木剣を手で弄びながら挑発的にご主人さまを見ます。不機嫌そうにボクを睨んでいたご主人さまでしたが、ボクの背後を見て不意に表情が呆気にとられた感じになりました、一体……?
釣られて背後を見ても、戸惑っている葛西さんの姿しかありません。
「何ですかその顔は……」
ボクは今凄く怪訝な顔をしていることでしょう、ご主人さまは緩んだ口元を片手で隠しながらボクの頭を撫でてきました、何がしたいんですかねこの変態野郎は。ってちょ、何いきなり抱き上げてるんですか!? あ、木剣落とした!
「いきなりなにする……うきゃ! やめてください、べとべとします、汗臭いです!」
「安心しろ、俺が一番好きなのはソラだからな」
ほんとに何言ってるんですか! 取り敢えず離して下さい汗がべたついてキモチワルイのです! やばいのです、このままだとまた木陰に連れて行かれて……それだけは、それだけは阻止しなければ!
「さて、残念だが今日はこれだけだ」
あ、あれ? 軽く抱きしめられただけで簡単に解放されてしまいました……。ご主人さまはきょとんとしているボクの頭をぽんぽんと撫でてきます。
「俺は水浴びしてくるが、マコトはどうする?」
「あ、俺も行くよ……でも女の子たちとじゃなくていいのか?」
「今こいつの裸見て自制していられる自信がねーんだよ」
何でこんなあっさりと……ってボクは何かんがえてるんですか、これじゃまるで残念に思ってるみたいじゃないですか。違いますこれはホッとしているんです、安堵のあまり気が抜けてしまっただけなのです。
「じゃあ後でな、ソラ」
「い、いってらっしゃいなのです」
笑顔で送り出して女性陣のところへ戻ろうしたところで、不意にご主人さまがボクの耳元に顔を寄せてささやきました。
「落ち着いたら、たくさん可愛がってやるからな」
「ひやああぁ!?」
生暖かい息を吹きかけられながらの言葉に、ぞわわっと鳥肌が立ちました。ほんと自重しないのですねこの変態は。慌ててユリアたちの元へ逃げ帰ると、待ち構えていた二人に思いっきり抱きしめられました。
「お嬢様……独り占めはダメですよ?」
やめて下さい、誤解ですそんなんじゃありません、というか何の話をしてるんですかこのエロ牛は!
「おこぼれでいいので分けてくださいよー」
離して下さい、何なんですかこのエロ娘どもは! ボクを間に入れないで落ち着いた頃に直訴すればいいじゃないですか。
「変態には付き合ってられません!」
「……何の話ですかお嬢様、
私達もご主人さまともっとお話したいって言ってるんですけど?」
「そうそう、先輩ばっかり楽しそうに話しちゃって、
いい加減ジェラシーですよジェラシー。
……あれ、ひょっとして先輩ってばえっちな想像しちゃってました、顔真っ赤ですよ?」
…………や、やられた!? ハメられたのです、これは罠なのです! ボクは彼女たちを侮りすぎていたようですね、まさか思考誘導なんて狡猾な真似をやってくるとはッ!
「う、うわぁぁぁぁぁぁん!!」
「あ」
「逃げた!」
こうなったら部屋に引きこもってやるのです、絶対出ない! テント群の中の自分の部屋(仮)に飛び込むと、ベッドの中に潜り込みました。周りは敵ばかりです、安全地帯なんて無かったのです。頼れる物は自分だけ、戦わなければ生き残れない……!
「おかえり、ソラ」
決意を固めてベッドの中で震えていると、美しい声の持ち主が話しかけてきました。恐る恐るシーツの中から顔を出すと、桃色の髪の可愛らしい少女がまたしても人のテントの中でほんわかとした空気を醸しだしてます。
少女は見るものを癒してくれるような優しげな顔で、獲物を狙う肉食獣の眼光をしてこちらに近づいてくると、震えるボクの頭を撫でながら微笑みました。
「たいへんだったね、でも大丈夫、わたしがなぐさめてあげる!」
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【0】----◇【0】----◇【0】
[◇TOTAL HIT}----◇【0】----◇【0】----◇【0】
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[◇TOTAL-EXP}--◆【738】--◆【265】--◆【289】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv77]HP1212/1432 MP1230/2530[正常]
[ソラ][Lv19]HP45/60 MP733/733[正常]
[ルル][Lv54]HP735/735 MP36/36[正常]
[ユリア][Lv44]HP1540/1540 MP88/88[正常]
[フェレ][Lv28]HP182/182 MP530/530[正常]
[マコト][Lv42]HP724/1090 MP122/152[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>33
[MAX HIT]>>33
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【一言】
「うわぁぁぁん! きらい、みんなきらいなのです!!」
「なんか先輩が幼児みたいな事言い始めましたけど」
「お嬢様、どんどん子供っぽくなってますね」