tmp.30 裸の王様
無人島生活も一月に差し掛かり、ルルが野生児化してフェレがボクを狙う視線が危険領域に入り込んだ頃。やっとクラリスさんとコリンズさん、そして妙に落ち込んでいる葛西さんが報告を持って島を訪れました。
「……いつの間にか随分とバカップルぶりが上がったわねあんたたち」
「これも全て悪い妖怪から身を守るためなのですよ……」
白いビキニ姿で、ご主人さまの膝に座っているボクを見たクラリスさんが開口一番に失礼なことを言い放ちました。ボクだって好きでこんな状態で居るわけじゃありません、ご主人さまの傍に居ないと近くの泉に住み着いた水棲妖怪が、ピラニアのごとくボクの下半身を狙ってくるのです。
「私にはその悪い妖怪に食われる直前に見えるんだけど」
「気の、せい、です」
随分とウィットに富んだ受け答えが出来るようになりましたね、クラリスさん。お尻を撫でようとする変態野郎様の手を両手を使って阻止しながら、愛想笑いを振りまきます。
「まぁいいわ……それでベルマ子爵の件だけど」
やっと本題に入ったみたいです。
「刑罰が決まったのか?」
「トンマ男爵には出来るだけ重罰を与えてほしいのです」
ボクとご主人さまの期待を込めた視線を受けたクラリスさんはしかし深い深いため息を吐きました。
「喜びなさい、無罪放免よ」
「だろうなぁ」
「……ほわっつ?」
え、おかしいですよね。何で無罪放免なんですかね……奴隷の違法取引は結構重罪です、貴族でも破ればそれなりに厳しく罰せられます。どうせ軽い罰で済むんだろうなとは思ってましたけど、全くお咎めなしとは……可能性としては証拠不十分?
「……証拠も全部揃えて、
根回しも全てして国王へ持って行ったわ、
その結果がはい、これ」
投げ渡されたのは、何なら見覚えのあるマークが入った封筒……これ確かボクたちの住んでいるフォーリッツ王国のマークですよね。
「『奴隷誘拐犯キサラギ・シュウヤへ告ぐ、
上記の者、誘拐せしめたエルフを正当なる所有者である国王へと速やかに返還せよ。』
……つまり、ソラ目当てに国王がでしゃばって来たってことか?」
「そういうことね、私達にも捕縛命令が出てるわ、
素直に従えばよし、抵抗すれば……と言いたいところだけど、
まぁ軽く戦った後で適当に逃げて頂戴、あたしはまだ死にたくないのよ」
「シュウヤ君、こんなことになって本当にすまない……」
「ソラちゃんも、シュウヤも本当に悪かった、俺が不甲斐ないばかりに……」
「いや、マコトは関係ないよ、悪いのはあの貴族どもだ」
「ごめん……」
――――はっ!? おっと現実逃避してました。これはあれですかね、あのオーク系男子であるブタバラ伯爵からボクの話を聞いた国王のハゲがボクのふけば飛ぶような貞操を狙ってきてるってことですかね。これがモテ期って奴でしょうか、今ボクは最高に波が来ているようです、モテモテな逆ハーレムも夢じゃありません。
構成員は変態、死神、貧乏神、邪神、キワモノ系乙女ゲーもびっくりのラインナップです。つらい。
「そういう訳だから、適当に戦って負けたら帰るから、準備できたら声かけて」
絶望するボクを他所にRPGのボスキャラみたいな事を言って洞窟を去ったクラリスさん達を見送った後、大丈夫なのかとご主人さまを見上げます。
「心配いらない、お前は俺が守るからな」
「わかりました、十分わかりましたから!!」
勢いで押し倒そうとしてくるご主人さまを押しのけます、ボクもそろそろ脱出の準備を始めたほうがいいかもしれません、もたもたしてると色んな意味の危険が襲ってきそうです。
◇
召集を受けて集まったハーレムメンバーに事情を説明し、相談した結果。拠点を放棄して大陸の北部にあるという未開拓の空白地帯へ逃れる事へ決まりました。無人島を快適空間に出来るならあの辺を開拓するのもよさそうだと思ったのが理由です。ゆっくりとお風呂だって入りたいですしね……住み慣れた家を放棄するのは残念ですが、ご主人さまが書状を確認した時点で遠隔で家を自壊させる魔法を発動させたので戻っても瓦礫の山みたいですが。
因みに肉食魚もついて来ることが決まりました。ご主人さまの奴隷でもないのに図々しいですねこの子。
「わたし、ソラを孕ませるの諦めてないから」
そこは諦めましょうよ。何ですかこれ、自分を神棚に祀る勢いで行った上から目線の罰が当たったんですか? 神様は赤信号を無視したくらいで落雷で人を殺すのですか? この世界の神ならやりそうで怖いですね、ふぁっきんごっど。
「取り敢えず十人くらいは俺の子を産んでもらう予定だから、その後でな」
所で変態幼女趣味は一体ボクに何人産ませる気なんですかね。取り敢えずで十人ってボクを一体何だと思ってるんですか、産む機械ですか? まぁ一人くらいは産んでやっても構わないのですが、そこの魚の発言は全力で拒否しやがれこんちくしょうなのです。
「わかった、それまで待つね」
わかったじゃねぇのですのこの海豚モドキが! 活造りにしますよ、オーストラリアなんかこわかねぇのデス!!
「あれ、先輩を取り合って修羅場るかと思ってたのに、ちょっと意外?」
ルルがそんな普通の感想を漏らします、そうですよね、おかしいですよね、ボクは二人が牽制しあって安全地帯が生まれる事を期待していたんです、でもね、実際出来上がったのはですね?
「おなじソラを愛するもの同士、敵対は愚かだと思うの」
「そういうことだな、潰し合いよりも協力しあおうと話したんだ」
この紳士協定な訳ですよ。神様はそんなにボクの事が嫌いなんですかね、嫌いなんですよね、知ってます。安心して下さいボクも大っ嫌いなので、絶対ぶちころしてやる!!
「それで、準備は出来たかしら」
神に対する復讐の炎を燃やし、ご主人さまにチェーンソーの再現計画を持ちかけようとした時、いつの間に来ていたのかクラリスさんが声をかけてきました。どうやら待ちわびたみたいです、せっかちですね。
「あぁ、取り敢えずは今日中に脱出して北の方へ向かうよ」
「そう、協力は出来ないけど気をつけてね」
「どうか元気で」
「クラリス達も元気でね」
「お二人ともお幸せに」
「ありがとう、あなた達も元気で」
これから戦うとは思えないほど和気あいあいと別れを済ませている間、葛西さんは俯いたままでした。彼は一体どうしたんでしょうか。
「なぁ……俺も着いていったらダメか?」
む……?
「……いや、俺は構わないが」
ご主人さまに肩を抱き寄せられます……あれ、ボクいつの間にご主人さまの隣に?
「男の人には嫉妬するんだよね、先輩って」
「女相手なら勝つ自信があるんじゃない?
だから逆に男友達だと構ってもらえなくなりそうで不安とか」
ひそひそ話のつもりでもハッキリ聞こえてるんですが、そこの牛猫コンビ……後でお仕置きなのですよ。別にヤキモチなんて焼いてません、ちょっと気に入らないだけです。
「行く当てもないし、それなりに強いつもりだったけど、
いざという時に役に立てなかった……。
だから、その侘びに少しでもシュウヤ達の手助けしたいんだ。
頼む、邪魔はしないから」
「だってさ、いいかソラ?」
「……しょうがないのです」
彼も色々考えていたみたいです、正直気に入らないですが、特別に許してあげましょう。
「さて、じゃあそろそろ始めましょうか、派手な船出の演出をね」
話がまとまると、クラリスさんが杖を片手に炎を巻き起こします。結構ガチでやるんですね、慌てて奴隷達の方へと移動し、安全地帯へと隠れます。こっそりと顔を出したボク達の視線を受けながら魔法によるちゃんばらを始めたご主人さま達。
その結果、島の三分の一が焦土と化したのは……まぁ忘れることにしましょう。
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【0】----◇【0】----◇【0】
[◇TOTAL HIT}----◇【0】----◇【0】----◇【0】
---------------------------------------------------
[◇TOTAL-EXP}--◆【674】--◆【243】--◆【265】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv55]HP672/772 MP1380/1380[正常]
[ソラ][Lv15]HP22/50 MP420/420[疲労]
[ルル][Lv47]HP602/602 MP32/32[正常]
[ユリア][Lv31]HP1040/1040 MP60/60[正常]
[フェレ][Lv14]HP35/35 MP330/330[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>33
[MAX HIT]>>33
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【一言】
「やることがないと結局アレに行き着くのですよ……嘆かわしい」
「男の人ってそんなもんですよ、先輩。それに先輩は人のこと言えないでしょ」
「(何だかんだ言って一日の三分の一はご主人さまと行動してますからね、お嬢様)」