tmp.29 歌姫さんいらっしゃい
一週間が経ちました。あの後ボクとフェレを回収したご主人さまは、立ちはだかる豚野郎と警備兵を爆発魔法でもろとも吹き飛ばして華麗に街を脱出しました。その後は用意されていた小舟に乗っかり、沖にある無人島で悠々自適の逃亡生活を営んでいました。
ご主人さまの行動ですが、やはりボクの予想通り岩陰で誘拐しようとしているごろつき共を発見、取り敢えず助けようとしたのですが発動直前だった転移魔法に巻き込まれて一緒に屋敷へ、そこで豚野郎に誰何され攻撃を受けそうになったので適当に兵を蹴散らしたのですが、一瞬の隙を突かれて奴の転移魔法で近くの山へ飛ばされてしまったのだとか。
慌てて街へ向かっていたのですが、ボクの反応がユリアと一瞬で遠くまで離れた事で危機を察知、あまり使いたくなかった魔法まで使ってここまで戻ってきたのだとか。その後はユリアや他のメンバーを回収してボクの救出へ出向き、後一歩で間に合わなかったと。
フェレはちょっと人見知りが発動して、拠点に選んだ洞窟近くの泉で普段は過ごしています。ご主人さまは魔法の副作用で全身が酷い筋肉痛らしく、まる二日ほど動けない状態でしたが、あっという間に回復し今では元気です。
呑気に夜這いしてくるレベルなので全快と言っても過言では無いと思います。
そんなわけで、海辺のバカンスがあらびっくり、無人島サバイバルに変化したまま後始末をしてくれているというクラリスさんからの連絡を待っているのでした。
◇
今日もまた無人島の朝が来ます、まぁ無人島といっても相変わらずご主人さまの力で快適空間なのですけどね、本当にただのバカンス気分です。寝ているご主人さまを起こさないようにゆっくりと身体を持ち上げて離れます。
岩を削りだされたキッチンから良い匂いがしてくるので、ユリアはもう起きて食事の支度をしているのでしょう。ルルはご主人さまの腕枕でまだ夢の中、顔を洗うついでにフェレに挨拶をしてきましょうか。
そうそう。フェレですが、ボクの身体を張った説得の甲斐あって無事にファミリー入りが認められました。スク水だとかブルマだとか着させられた挙句に色々と屈辱を味わう羽目になりましたが、今となっては些細な事です……くすん。
そんな苦労を経て仲間に入れる事が出来た彼女は、思ったよりルルと相性が良かったみたいでして、短い間にいろいろ話したり相談したりして大分打ち解けたみたいです。そのおかげでユリアやご主人さまにもさほど抵抗なく馴染みつつあるようで、一安心ですね。
薄手のガウンとタオルを二つ、後は手ぬぐいを持って朝もやに霞む泉の畔へしゃがみこむと、持ってきた手ぬぐいを水で濡らして下半身を綺麗にします。冷たい水が心地よいです。水音を聞きつけたのか、澄んだ歌声が泉の周囲に流れ始めます。
フェレは歌うのが好きで、しかも聞いてもらえるのはもっと好きらしく、朝皆が起きだしてから朝食までの時間は大抵こうやって洞窟の側で一人歌を口ずさんでいるのです。人力目覚ましですね。
「フェレ、そろそろごはんですよー」
「うん!」
身体を綺麗にし終えると、一言声をかけます。岩の向こうから返事と共に何かが水に落ちる音が聞こえます。しばらくすると水面が盛り上がり、フェレが顔を出しました。片方のガウンとタオルを渡して、彼女が自ら上がる手伝いをします。
こう見えて彼女、やっぱり哺乳類のようです。ご主人さまが意外に詳しく、サイレンは非常に希少ですが稀に発見例もあるみたいでした、女性ばかりで美しい歌声で繁殖相手を水辺に呼び寄せ、水中に引きずり込んでから無理矢理生存戦略を行うそうです。
何というか凄い妖怪チックな存在ですが、基本的に身を守る以外で人を殺したりはしないおとなしい種族な上に、歌声は魔除けの力もあるとかで船乗りにとっては幸運の象徴なのだとか。
その話を聞いた時にご主人さまに水の中に引きずり込まれないように気をつけないといけませんねーと冗談めかして言っておいたのですが、何故か「気をつけるのはお前だ」と真顔で返されたのは記憶に新しいです。
「何ですか?」
「……ううん、なんでもないの」
なんだかじーっとボクを見ていたフェレに問いかけると、ちょっと頬を赤く染めてうつむきました。凄いあざとい仕草です、これが女子力ですかね……ボクには欠片もないものなので解りませんが。
「ねぇ、ソラ」
「はい?」
いつの間にか手を差し出してきたので、握ってゆっくりと洞窟へ戻っている途中。フェレがなんだか妙に熱っぽい視線を向けながら聞いてきました。
「あの、ね、わたしたち、親友だよね?」
……なんだかゾクっとしました。今朝はちょっと肌寒いみたいですね、早めに戻らないといけません。というかいつの間に友達から親友にランクアップしたのか、永遠の謎です。まるで……そう、まるでコリンズさんの話をしている時のクラリスさんのような瞳の彼女から目を背けて、洞窟をまっすぐと見つめます。
「……は、はい」
「えへへ、うれしい」
極力目を合わせないように頷けば、フェレは満足そうに微笑みます。そしてその笑顔を見たボクは――考えることをやめました。
◇
無人島生活も十日目、まだクラリスさんからの連絡はありません。どうやら手間取っているようですね、無事に戻れるといいのですけど……まぁご主人さまと一緒ならどこへ行こうが安定のチートでなんとでもなるのでしょうけど。食料も買い込んで保管してあるものが大量にあるので、あと半年くらいは余裕で籠城できますし、みんなも長めの休暇と洒落込むことにしたみたいです。
そんなご主人さまはハウジングに夢中で、洞窟内はどんどん快適空間へと変貌していっています。ルルは釣りに目覚めたみたいで、ご主人さまに作ってもらった釣り竿で海岸へ魚を捕りにいくのが日課になり、ユリアは魚料理の研究に余念がなく、フェレはご主人さまやボクから地球産の歌を仕入れては嬉々として歌っています。
ボクは基本的には家事をこなしているのですが、最近ちょっと怖いことがあります。廊下を四つん這いで床を拭いている時にお尻に強烈な視線を感じて、ご主人さまかと思って振り向くとフェレがよだれを垂らしそうな顔でじっと見ている……というのが結構な頻度で起こっているのです。
妙にベタベタ手を握ろうとしてきたり、スキンシップを図ろうとしてきたりと妙な気配は感じていたのですが、まさかのまさか、狙われているのはボクだったみたいです。取り敢えず水辺には近寄らないように注意してはいますけど、ボクは無事に陸地に戻ることが出来るのか、それだけが気がかりです。
というか一体ボクのどこに彼女は惹かれたのか……。
「ねぇ、フェレ?」
「なぁに?」
今日も雑巾がけの最中、背後に気配を感じたので話しかけてみるとあっさり返答がきました。
「何でボクなんですか? あのとき庇ったから?」
もしかしてあの時庇ったのが功を奏したのか、意外とちょろいんさんだったのかと思って聞いてみると、彼女はきょとんとした後、小さく首を横に振ります。
「ん、はじめて出来た友達が嬉しかったのはほんとう、
かばってくれて嬉しかったし、好きになったのもそう」
でも、と彼女は区切ります。
「わたしがソラのこと、すきになったのね、歌声だよ、
優しくて、あったかい歌声……これも一目ぼれ? なのかな」
思い返すのは、ボクとご主人さまが異郷の出であることを知ったフェレとルルが故郷の歌を聞かせてほしいとねだった時のこと。あれはここに来て四日目くらいでしたか、恥ずかしがるご主人さまに変わってボクが知っている、一般受けしそうなアニソンやポップスをいくつか歌ったのです。
一生懸命歌いはしたのですが、彼女と比べるのもおこがましいほど音程もバラバラで下手っぴな歌。それを気に入られたというのは嬉しいような恥ずかしいような。
「あの歌をね、聞いた瞬間思ったの……」
どこかうっとりとした様子で彼女が語り出します。
「この子に、わたしの赤ちゃんを産んでほしいって」
「うん……えっ?」
い、一体どこから突っ込めばいいのかわからないのですが。
「あの、フェレって実は男の子とかじゃないですよね」
もしそうだとしたら、ご主人さまに頼んで隔離してもらうしか無いのですが。
「? ううん、ソラとおんなじ女の子だよ」
慎重に言葉を選んで続けます。
「ボクの赤ちゃんがほしい、じゃなくて、ボクに赤ちゃんを産ませたい、なんですか?」
「うん、なんかね、ソラはね、そっちのほうが似合うとおもったから」
「おまえはいったいなにをいってるんだ」
だ、だめです……ボクにはこの子が理解出来ません。取り敢えず絶対に水辺に近づいてはいけないと、ボクは心のノートに強く刻むのでした。
【RESULT】
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◆-------------★【ソラ】--★【ルル】--★【ユリア】
[◇MAX COMBO}--◇【3】----◇【2】----◇【2】
[◇TOTAL HIT}----◇【4】----◇【4】----◇【5】
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[◇TOTAL-EXP}--◆【531】--◆【190】--◆【187】
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【パーティー】
[シュウヤ][Lv55]HP672/772 MP1380/1380[正常]
[ソラ][Lv15]HP22/50 MP420/420[疲労]
[ルル][Lv47]HP602/602 MP32/32[正常]
[ユリア][Lv31]HP1040/1040 MP60/60[正常]
[フェレ][Lv14]HP35/35 MP330/330[正常]
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【レコード】
[MAX COMBO]>>33
[MAX HIT]>>33
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【一言】
「魚釣りおもしろい!」
「料理楽しい!」
「そらちゃんちゅっちゅ」
「たすけてごしゅじんさま」




